Element Magic Trinity
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マスター現る!
「わぁ・・・大っきいね」
そう言ってルーシィが建物を見上げる。
そこにはドでかく「FAIRY TAIL」と書かれていた。
「ようこそ、妖精の尻尾へ」
「歓迎するよ」
ハッピーがそう言い、ルーがルーシィの手を引いた。
ここは妖精の尻尾。
フィオーレ東方に位置する商業都市マグノリア唯一の魔導士ギルドだ。
週刊ソーサラーで取り上げられる事もあり、人気があるかは解らないが、とにかく有名なのである。
「ミラちゃーん!こっちビール3つお願い!」
「はいはーい」
そう言って微笑むのは、ギルドの看板娘ミラこと『ミラジェーン』。
たまに週刊ソーサラーでグラビアモデルを務めるほどの美人だ。
「ミラちゃ~ん」
「はいはい、何かしら?」
リーゼントの中年男性『ワカバ』は、ふぅーっと煙を吹くと、3つほどハートを作り出した。
「今度俺とデートしてよぉ」
「あ!ズリィ、抜け駆けすんなよ」
「もぉ・・・」
デートのお誘いに対し、ミラはお盆を持っていない開いている左手を動かす。
「あなた、奥さんいるでしょ?」
「どわーっ!うちの嫁なんかに変身するなよォ!」
「つーかワカバ、ミラにはもうオレがいるっての。手ぇ出すんじゃねぇ」
そう言って会話に入ってきたのは、クリムソンレッドの髪の青年『アルカンジュ』。
服装はモノトーンルックとあまり派手ではないが、雰囲気が煌めいている。
「あ」
ミラが変身を解き、ギルドの扉の方を見る。
「ただいまー!」
「ただー」
「帰ってきたよ~」
怒ったような表情のナツと何も無いかのようなハッピー、相変わらず呑気なルーが扉を開けると同時に叫ぶ。
「ナツ、ハッピー、ルー。おかえりなさい」
「また派手にやらかしたなぁ。ハルジオンの港の件・・・新聞に載・・・て」
「テメェ!火竜の情報、ウソじゃねェかっ!」
「うごっ」
「あら・・・ナツが帰ってくるとさっそくお店が壊れそうね。うふふ」
「壊れてるよー!」
「でも驚いたよ。だって自称イケメンのおじさんだったんだから」
ルーが肩を竦める。
「誰かナツ止めろー!」
「ぎゃふっ」
「てめ・・・ナツ・・・」
「痛て・・・ハッピーが飛んで来た」
「あい」
「ルー!俺の足踏むなっ!」
「てへっ」
ナツを中心に喧嘩が始まっていく。
「すごい・・・あたし本当に、妖精の尻尾に来たんだぁ」
1人感激しているルーシィの右の方から、ドタドタと騒がしい足音が響いてくる。
そっちからやってきたのは黒髪の青年『グレイ』。
「ナツが帰って来たってぇ!?テメェ・・・この間の決着つけんぞ!コラァ」
まぁまぁ顔立ちも整っている方、なのだが・・・。
「グレイ・・・アンタ、なんて格好で出歩いてるのよ」
「はっ!しまった!」
その登場した時の格好がイマイチだ。
なぜか上着やズボンは着ていない状態で、早い話がパンツだけである。
「これだから品の無いここの男共は・・・イヤだわ」
「オオゥ!ナツゥ!勝負せェや!」
「服着てから来いよ」
そう言いながら大樽の酒を樽ごと飲む女性『カナ』。
品の無い、と言っていたはずが、彼女も十分品が無いように見える。
その様子にルーシィは絶句した。
「くだらん」
そんなルーシィの背後から、ナツやグレイよりも大きい男『エルフマン』が現れた。
「昼間っからピーピーギャーギャー、ガキじゃあるまいし・・・漢なら拳で語れ!」
「結局喧嘩なのね・・・」
「「邪魔だ!」」
「しかも玉砕!」
あっさりナツとグレイに殴り飛ばされる。
するとそこにブルーレンズのカラーサングラスの男が現れた。
「ん?騒々しいな」
「あ!『彼氏にしたい魔導士』上位ランカーのロキ!」
「まざって来るね~」
「頑張って~」
(ハイ消えたっ!)
キャッキャッと女性といちゃつくロキを見て、ルーシィは頭からズッコケる。
人間見た目は良くても、中身は解らないものだ。
「な、何よコレ・・・まともな人が1人もいないじゃない・・・」
「ん?大丈夫か?」
「え?」
突然声を掛けられたルーシィが顔を上げると、クリムソンレッドの髪が揺れる。
漆黒のつり目が真っ直ぐにルーシィを見ていた。
しばらく唖然としていたルーシィだが、すぐさま目を見開く。
「あ、アルカンジュさん!」
「ほ~、オレの事知ってんのか。新人?」
「は、はい!ルーシィです」
「ルーシィ、ね。いい名前だな。ミラ、新入りだ」
「あら、本当?」
呼ばれたミラがにこやかにルーシィに歩み寄り、しゃがむ。
「ミ、ミラジェーン!キャ~!本物~!」
憧れだったミラに会えて喜ぶルーシィだったが、すぐさま我に返る。
「ア、アレ止めなくていいんですか!?」
「いつもの事だからぁ」
「放っときゃいいんだ」
「あららら・・・」
「それに・・・」
ミラが何かを言いかけたその時、喧嘩集団の方からビンが飛んできて、ミラの頭にクリーンヒットする。当然だが、ミラはパタッと倒れた。
「キャーっ!ミラジェーンさん!」
「それに・・・楽しいでしょ?」
(怖いですぅー!)
むくっと何事も無かったかのように微笑んでミラが起き上がる。
だが、その額からはだらーっと血が流れていた。
「・・・」
「アルカンジュさん?」
「・・・だ」
「へ?」
そんなミラを見たアルカンジュがぴくぴくと震えている。
「ミラにビン投げつけたの誰だコラァーーーーーーっ!」
「ひーーーーーっ!」
アルカンジュは悪魔と化した。
顔は恐ろしいし、手には何故が空っぽの樽を持っている。
そしてそのまま喧嘩集団に突っ込んでいく。
「おふっ」
「きゃーっ!」
「へっへ~ん」
そこにグレイが飛ばされてきた。
さっきまで穿いていたグレイのパンツをナツが持っている。
という事は・・・。
「あーっ!オレのパンツ!」
「こっち向くなー!」
こうなるわけで。
「お嬢さん。よかったらパンツを貸して・・・」
「貸すかーっ!」
「もー、グレイ。そんな格好で女の子の前にいたら、ティアに叱られちゃうよ」
「ぶごっ」
グレイの顔のど真ん中にルーシィの拳が当たり、ため息をついたルーがグレイに風を圧縮した球体をぶつける。
その大きさはバスケットボールくらい。しかも勢いがあり、当たれば痛いのは確実だ。
「やれやれ・・・デリカシーのない奴は困るよね。ところで君、どこのモデル?」
「何コレ!?」
いつの間にかロキにお姫様抱っこされているルーシィ。
「漢は拳でぇーーーーーっ!」
「邪魔だっての!」
また一発でやられるエルフマン。
「あー、うるさい。落ち着いて酒も飲めないじゃないの」
カナがキレた。
樽を置き、カードを手にする。
「アンタらいい加減に・・・しなさいよ・・・」
ピキィッと輝くカードを持つカナ。
「アッタマきた!」
どこから取ってきたのかタオルを腰に巻き、掌に拳を乗せて構えるグレイ。
「ぬおおおおおおおっ!」
魔法で腕を変形させるエルフマン。
「困った奴等だ・・・」
右手の人差し指にはめた指輪を光らせるロキ。
「誰だか知らねぇが、ミラを傷つけるヤツぁ許さねぇぞ・・・」
触れただけで火傷しそうな熱気を纏うアルカンジュ。
「全く・・・くだらない事やってないで、少しは落ち着こうよ」
掲げた左手から風を発生させるルー。
「かかって来いっ!」
両手に炎を纏うナツ。
「魔法!?」
「これはちょっとマズイわね」
さすがに困ったような表情を見せるミラ。
その時・・・。
「そこまでじゃ。やめんか、バカタレ!」
「でかーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
デカすぎる黒い巨人が現れた。
その一喝で全員の動きが止まり、静寂が訪れる。
「あら・・・いたんですか?マスター」
「マスター!?」
目の前にいる巨人がマスターだと知り、驚愕するルーシィ。
「ちっ」
「フン」
「びっくりしたね~」
「ね~」
「酒」
「ミラ、平気か?」
「ちぇ~」
マスターの一喝で皆それぞれリアクションをする。
顔を背ける者、女の子といちゃつく者、酒を飲む者、ミラを心配する者、つまらなさそうに呟く者。
「だーっはっはっはっ!皆してビビりやがって!この勝負は俺の勝・・・ぴ」
1人調子に乗っていたナツはマスターに踏み潰される。
「む、新入りかね」
「は、はい・・・」
「ふんぬぅぅぅ・・・!」
見慣れない顔に気づいたマスターの言葉にルーシィは怯えながら返事をする。
突然力みだすマスターにルーシィは口をパクパクさせていた。
そしてその瞬間、マスターはどんどん小さくなっていく。
「えぇーーーーーーーーっ!?」
「よろしくネ」
しゅたっと片手を上げるギルドマスター『マカロフ』。
最終的にはマスターはルーシィの膝くらいの背丈になった。
「とう!」
マスターが2階の手摺に飛び乗る。
その際に誤って手摺に頭を打ちつけてしまったが、まぁそれはどうでもいい。
見なかった事にしよう。
ぴくぴくと小さく震えながら2階の手摺の上に立ち上がる。
「ま~たやってくれたのぅ、貴様等。見よ、評議会から送られてきたこの文書の量を」
評議会とは、魔導士ギルドを束ねている機関の事だ。
「まずは・・・グレイ」
「あ?」
「密輸組織を検挙したまではいいが・・・その後街を素っ裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走」
「いや・・・だって裸じゃマズイだろ」
「まずは裸になるなよ」
盛大に溜息をつくマスター。
「エルフマン!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」
「『男は学歴よ』なんて言うから、つい・・・」
マスターはふるふると首を横に振る。
「カナ・アルベローナ。経費と偽って某酒場で飲むこと大樽15個。しかも請求先が評議会」
「バレたか・・・」
「ロキ・・・評議員、レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求が来ておる」
そしてマスターはがっくりと肩を落とした。
「そしてナツ・・・デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒も壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台倒壊。フリージアの教会全焼。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」
そこまででマスターの持っていた文書が終わる。
だが、マスターは大きく溜息をつき、続けた。
「まだこれは優しい方じゃ・・・」
どこが優しいのやら。
マスターは奥からもう1つ、文書を取り出し、叫んだ。
「ルー!」
「ん?」
「アルカ!」
「あ?」
「そして今はいないがティア!お主ら3人についての文書が山の様じゃ!」
今持っている文書はさっきよりも分厚い。
つまり、先ほどのナツやグレイ他大勢の魔導士の問題より、3人の問題の方が多いのだ。
たった3人であれだけの量の文書・・・とルーシィは呆れる。
「まずはルー!」
「ほへ?」
「貴様は森へ魔物退治に行き、森を2つ吹き飛ばす!挙句の果てに近くの村を壊滅させ、辺り一面を更地にする!他13件」
「てへっ」
「てへっ、で済む問題ではない!」
続いてマスターの目線はアルカンジュ・・・アルカに向けられる。
アルカもルーと同じように名前が長いため、アルカの愛称で呼ばれているのだ。
「続いてアルカ!」
「ん?」
「貴様は指名手配中の違法研究をしている科学者の秘密基地ごと炎上させ、ルー同様辺りを更地にする!しかも仕事から帰ってくる途中に別の指名手配犯を見つけ、逮捕したはいいが炎を撒き散らしすぎて街ごと炎上させる!他23件」
「いいじゃん。面白いし」
「よくないわいっ!」
思わずマスターがツッコむ。
そして最後に今日の中で1番大きいため息をつき、文書を読み始めた。
「そしてティア・・・盗賊団員半殺し、違法魔法教団員半殺し、評議会直々闇ギルド潰しでは闇ギルドがあった隣国の街を3つほど壊滅させ、しかも半殺し!挙句の果てにティアに惚れプロポーズしてきた隣国の王子を民衆が見ている前で、得意の冷淡機関銃攻撃でプロポーズを断る!隣国から王子のプライドが傷ついたと損害賠償が請求されておる・・・他75件」
「さっすがティア!」
「相変わらずのヤローだな。面白れぇ」
「笑っとる場合ではない!」
そりゃ、他に75件もあるようじゃ笑ってなどいられないだろう。
「貴様らァ・・・ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞォ・・・」
プルプルと震えるマスターを見て、あの空気クラッシャールーでさえ気まずそうな顔をする。
その様子を見たルーシィはビクッと震えた。
「だが・・・」
ゆっくりとマスターが口を開く。
「評議員などクソくらえじゃ」
そう言って2つの文書を燃やして放り投げ、それをフリスビーを投げられた犬のようにナツが口にくわえる。
「良いか。理を超える力はすべて理より生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内にある『気』と自然界に流れる『気』の波長が合わさり、初めて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂全てを注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いてる目ん玉気にしてたら魔道は進めん。評議員のバカ共を怖れるな」
そう語りながら、マスターはにんっと笑う。
「自分の信じた道を進めェい!それが妖精の尻尾の魔導士じゃ!」
『オォォォォォオオオオオオッ!』
マスターの言葉に全員が声を上げ、先ほどまで喧嘩をしていたのが嘘のように笑い合った。
「じゃあナツが火竜って呼ばれてたのか!?他の街では」
「うん。ナツの魔法にピッタリの別名だよね」
「ナツが火竜ならオイラはネコマンダーでいいかなぁ」
「マンダーって何よ」
ファイアパスタにファイアチキン、ファイアドリングを忙しく食べるナツ。
普通の人間が見たら炎の塊である。
するとそこに随分ご機嫌なルーシィがやってきた。
「ナツー!見てー!妖精の尻尾のマーク入れてもらっちゃったぁ」
「良かったなルイージ」
「おめでとうキャバ嬢」
「ルーシィだし、キャバ嬢じゃないわよっ!」
ルーシィが怒鳴る。
「お前、あんな可愛い娘、どこで見つけてきたんだよ」
「いいなぁ~、うちのチーム入ってくんねぇかなぁ」
「ナツ、どこ行くんだ?」
「仕事だよ。金ねーし」
「僕もついてっていい?」
「おー、いいぞー」
ナツとハッピー、ルーは依頼板の前に立つ。
ここにギルドに頼まれた以来が貼り出される。
討伐系から魔法や呪いを解くモノ、魔法教室の先生など、いろんな依頼が舞い込んでくるのだ。
「どれがいいかな」
「報酬がいいヤツにしようね」
「お!これなんかどうかな。盗賊退治で16万Jだ!」
「面白そう!」
「決まりだね」
仕事も決まり、さっそく仕事を受注しようと思ったその時。
「父ちゃん、まだ帰ってこないの?」
「む」
マスターが自分とあまり背の変わらない少年と話していた。
少年の目には涙が溜まっている。
「くどいぞロメオ。貴様も魔導士の息子なら親父を信じて大人しく家で待っておれ」
「だって・・・三日で戻るって言ったのに・・・もう1週間も帰ってこないんだよ・・・」
「マカオの奴は確かハコベ山の仕事じゃったな」
「そんなに遠くないじゃないかっ!探しに行ってくれよ!心配なんだ!」
「冗談じゃない!貴様のオヤジは魔導士じゃろ!自分のケツもふけねぇ魔導士なんぞ、このギルドにはおらんのじゃあ!帰ってミルクでも飲んでおれい!」
マスターが怒鳴ると、ロメオは怒りと悔しさに震える。
「バカー!」
「おふ」
そしてマスターに顔面パンチをお見舞いすると、泣きながらギルドを出て行った。
「厳しいのね」
「ああは言っても、本当はマスターも心配してるのよ」
ルーシィが気の毒そうに言うと、突然ズシッと轟音が響いた。
ナツが先ほどの依頼書を依頼板に叩きつけて戻していたのだ。
「オイイ!ナツ!リクエストボード壊すなよ」
抗議の声も無視し、ナツとルーは無言でギルドを出ていく。
「マスター・・・ナツとルーの奴、ちょっとヤベェんじゃねぇの?」
「あいつ等・・・マカオを助けに行くつもりだぜ」
「これだからガキはよォ・・・」
「んな事したって、マカオの自尊心が傷つくだけなのに」
そんな言葉を聞いて、マスターはキセルをかぷっと噛んで笑う。
「進むべき道は誰が決める事でもねぇ。放っておけぃ」
それをバーカウンターに座って見ていたルーシィはミラに訊ねるように呟く。
「ど・・・どうしちゃったの?あの2人、急に・・・」
「ナツもルーも、ロメオ君と同じだからね」
「自分と重ねちまったんだろ」
「アルカンジュさん」
「アルカでいいって」
そこにアルカがやってきて、ルーシィの隣に腰掛ける。
アルカにミラは黙って酒の入ったグラスを差し出す。
まだアルカは何も注文していない。会話無しで意思の疎通が出来るという事だろう。
「ナツのお父さんも出て行ったっきりまだ帰ってこないのよ。お父さん・・・って言っても、育ての親なんだけどね。しかもドラゴン」
予想外すぎる言葉にルーシィは文字通りひっくり返る。
「ドラゴン!?ナツってドラゴンに育てられたの!?そんなの信じられる訳・・・」
「ね。小さい時そのドラゴンに森で拾われて、言葉や文化や・・・魔法なんかを教えてもらったんだって」
「だがある日、そのドラゴン・・・火竜イグニールはナツの前から姿を消した。何の前触れもなく、突然に」
「そっか・・・それがイグニール・・・」
「そっ。ナツはいつかイグニールに会える日を楽しみにしてるんだ」
「そーゆートコが可愛いのよねぇ」
「あはは・・・じゃあ、ルーも誰かの帰りを待ってるんですか?帰って来てない人がいるとか?」
ルーシィが何気なく尋ねる。
その質問に、明らかにミラとアルカの顔は曇った。
2人は目線を合わせ、アルカが口を開く。
「ルーは・・・10年前に両親が殺されてんだ」
これまた予想外の言葉に、今度は驚く事も出来ない。
「え?でもそんな風には・・・」
「見えないでしょ?」
「そこがルーの凄いトコなんだよな。どんなに辛い事があってもあの呑気キャラは崩さねぇ」
ルーシィの脳裏にルーが浮かぶ。
まだ会ってそんなに経っていないが、あのルーにそんな過去があるようには見えないし、思えなかった。
「でも、誰が・・・」
「それは知らねぇんだ。アイツ、その話になると上手くはぐらかしちまうし」
「そうなの・・・あ、でも『ティア』は知ってると思うわ」
ルーシィは首を傾げた。
「なんかさっきから『ティア』って名前が出てきますけど・・・何者なんですか?」
「妖精の尻尾最強の女問題児さ」
「ルーはお姉ちゃんみたいにティアを慕ってるの」
「問題児・・・」
ルーシィのイメージは、さっきのマスター並みの大きさの巨人だった。
そんなデカいのをお姉ちゃんのように慕う人間などいるのだろうか・・・。
「ルーにとって、ティアは大きな存在よ。私はその頃まだギルドにいなかったけど・・・話だけ少し聞いた事があるわ」
「まぁ、今は仕事に出ちまってるし、ルーシィがティアに会えるのはもうちょい先だろうな」
その話を聞いたルーシィは何も言えない。
前に置かれたグラスに、氷が入れられていく。
カロン、カラン、と心地よい音が響いた。
「私達は・・・妖精の尻尾の魔導士達は・・・皆・・・皆何かを抱えてる・・・」
「傷や・・・痛みや・・・苦しみや・・・」
「私も・・・」
「え?」
小さく聞こえた言葉を聞き返す。
「ううん。何でもない」
ミラは何事も無かったかのようににっこりと微笑んだ。
そんなミラを見てアルカは少し暗い表情をし、小さく口を開いた。
「・・・オレも・・・」
「え?」
また聞こえた言葉を聞き返す。
「いや、何でもねぇさ。気にすんな」
アルカも何事も無かったかのように笑う。
そんな2人を見て、ルーシィは何とも言えない表情をしていた。
そして、ナツとルー、ハッピーはハコベ山にマカオを探しに行ったのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
こっちは百鬼憑乱の倍以上の文字数になってしまいます・・・肩がこるなぁ。
感想・批評、お待ちしてます。
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