ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
六十八話:スラリンと一緒
腐った死体が起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている!
仲間にしますか?
「……ごめん。無理」
だって、臭うし。
狭い馬車に一緒に乗り込んで旅するとか、本当に、無理です。
腐った死体は、悲しげに去っていった……。
その背中に漂う哀愁……。
「……ヘンリー。私って。……鬼、ですか?」
「……いや。仕方ないだろ、これは。無理だよ、俺だって」
「ですよねー……」
と、罪悪感に折り合いを付けたところで、気を取り直して。
この洞窟にいる仲間モンスター候補は、今の悲しげに去っていった腐った死体の他に、スライムとブラウニー、メタルスライムがいるわけですが。
私の本命は、なんと言ってもスライムです!
だって、可愛いじゃない!
戦力としてはほとんど期待してないけど、マスコットとして!
旅の癒しとして、枠が空いている限り、連れ歩く所存です!
と、愛というか煩悩の赴くままに、次にエンカウントしたスライムを優しく倒してみると。
起き上がりました、スライムが!
たぶん、スラリンが!!
仲間になりたそうに、こちらを見ています!!
「よーし、よし。おいでー。怖くないよー」
野良猫を籠絡しようとするかのように、呼びかけてみます。
人見知りする子供のようにこちらの様子を窺っていたスラリン(仮)が、意を決したように、私の広げた腕の中に飛び込んできます。
「ピキー!」
『なかま、なる!』
わーい、可愛いー!!
……って、今の。
「……スラリン?」
「ピキー!」
『スラリン!』
「……喋れるの?」
「ピキー?」
『しゃべる、なに?』
いや、喋っては無い。
スライムの鳴き声に、意味が感じ取れる!
……これが、心の目か!
本職の、モンスター使いか!
ありがとう、師匠!
本当に、ありがとう!!
もう会えないけれど、草葉の陰から見守っていてください……!
「セクハラじじいに見守らせるとか、不吉なことを考えるな」
やけに細かく読まれた。
「つーか、わかるのか?ソイツの言ってること」
「そうなの!わかるの!すごいね、私!やったね、モンスター使い!」
「ピ!ピキー!」
『わかるの!すごい!』
「スラリン!私は、ドーラだよ!こっちは、ヘンリー」
「ピ、ピキー!ピキー!」
『ドーラ!ヘンリー!なかま!』
「よくできましたー」
「ピキー!」
『できた!』
盛り上がる私とスラリンを、ヘンリーが微妙な顔で見ています。
「……俺だけ、わかんねえのか」
「今のとこ、雰囲気でわかるようなことしか言ってないから!単語で喋るレベルだし!必要そうなら、ちゃんと通訳するし!」
「……そうか」
私のフォローにも、まだヘンリーは微妙な顔のままですが。
これ以上は、どうしようも無い。
「さて、それじゃあリレミトしようか!スラリンが死んじゃったら困るしね!」
最初は馬車で、大事に育てないとね!
スラリンを大事に抱っこしてリレミトを使い、そのままスラリンを抱いて宿に向かいます。
家にも行きたいけど泊まるわけでは無い以上、先に荷物を置いてきたいので。
ヘンリーが、また微妙な顔でスラリンを見ています。
「……ずっと、抱いてるのか?」
「うん!」
「……過保護、過ぎねえか?」
「いいじゃない!だってレベル1だもの!」
「そんなに、しっかり抱えなくても……。……オスじゃねえのか?それ」
「え?性別?不明じゃ無かった?ゲームでは」
「そうだけどよ……。わかんねえだろ」
「うん、わかんないから、気にしても仕方ないよね」
「……」
「スラリン!一緒にお風呂入ろうね!」
「ピキー!」
「な……!」
「スライムは、客室に泊まれるから!一緒に、寝ようね!」
「ピキー!」
「……おい!……待て!」
「なに?」
「ピ?」
「風呂なら、俺が入れる!寝るのも、俺が」
「えー?やだよ、私のスラリンなのに」
「だけど……!」
「スラリンだって、私がいいよねー?」
「ピキー!」
「ほら」
「わかんねえよ!」
「だから、私がいいって。ドーラ、大好き!だって!!」
「なっ!!ダメだろ、それ!!」
「嬉しいなー!服従じゃ無いんだ!良かった、本職になって!」
「ダメだって!!ダメだ!!」
「ダメだよ、スラリンは渡さない!!」
いくら、スラリンが可愛いからって!
加入早々、取り上げようだなんてとんでもない!
散々堪能したあとでスラリンがいいって言うなら、ちょっとくらい貸してやらんでも無いが!
その後も食い下がるヘンリーを受け流しつつ、宿に着き。
「お帰りドーラちゃん、ヘンリーさん!二部屋!!準備してあるよ!!」
有無を言わさず別室を言い渡され。
「ありがとうございます。スライムが仲間になったんですけど、いいですか?私と同じベッドでいいんで」
「だか」
「おお、ドーラちゃんはモンスター使いなのかい。勿論いいとも!なんなら、別にベッドも用意するけど?」
「たの」
「大丈夫です!ありがとうございます!」
なんか割り込んでこようとするヘンリーを華麗に無視し、部屋に入ってスラリンをキレイキレイしてベッドに下ろします。
鎧を脱いだり荷物の整理をしたりしてるうちに、スラリンがうとうとし始めます。
「スラリン、疲れてるね。これから出かけるけど、お留守番してる?」
「ピキー……」
『ドーラ……まってる……』
「そっか。じゃあ、そのまま寝ててね」
スラリンと荷物を置いて、部屋を出ると。
とても不機嫌そうなヘンリーが、廊下で待ってました。
「そんな、いつまでも怒ってないでよ」
愛玩魔物の取り合いで負けて拗ねるとか、子供か。
「……怒ってねえよ」
これは、水掛け論の気配ですね。
怒ってる怒ってないの。
そんなグダグダな言い合いを、する気は無い。
「なら、いいけど。これから家に行くけど、ヘンリーも来る?」
当然のように待ってたが、別に誘っては無かったのでね。
「おう。……スライムは、いいのか?」
「うん」
「……そうか」
なんか若干、機嫌が上向いたような。
そんなにスラリンといちゃつかれるのが、嫌か。
譲る気は無いが、目の前で見せ付けるようなのは控えるか。
家に着いて鍵を開けて中に入り、持ち込んだランプに火を灯します。
家具の配置なんかは記憶にあるのと変わり無いけど、キレイに片付いた、片付き過ぎた。
生活感の全く無い空間が、そこにありました。
……本当に、いないんだなあ。
ここにはもう、誰も。
一階をざっと見回し、目的のものが無いのを確認して、二階に上がります。
ヘンリーも、黙って着いてきます。
寝室に入り、ランプの明かりを動かしながら部屋の中を見回してみると。
そこに、私が探していたもの。
ベラからもらった桜の一枝が、あの日のままの姿で。
枯れずに美しい花をつけたままで、そこにありました。
「……あった」
これだけが、変わらないただひとつのもの。
村も、私も、私を取り巻く環境も。
全てが変わってしまったのに、これだけは変わらない。
十年前を、前世をも思い起こさせるこれが、変わらないことが。
どんなに変わっても、私は私なんだと。
どんなに不安定な足場に立っていても、そう思わせてくれる気がする。
「……桜か」
後ろで、ヘンリーが呟きます。
「あるんだな。この世界にも」
「うん。あったんだ」
「……綺麗だな」
「うん。綺麗だね」
「……いつか。見たいな」
そうだね。
とは、言えない。
ずっと先に、ヘンリーを連れて行ってあげることは、きっと出来るけど。
思い描く形が、私とヘンリーでは、きっと違う。
「……行こうか」
「ああ」
桜の一枝を持って立ち上がり、寝室を出て階段を下り、外に出ます。
今度来るときは、みんなを連れて。
という決意を込めて、もう一度室内を見回して。
扉を閉めて鍵も閉め、懐かしい空間から意識も切り離します。
次は外でもうひとつ、いやふたつ。
必要なものを、手に入れないと。
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