ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
六十七話:パパスの手紙
「あの。ヘンリーだけに、話って」
「わかりました。ドーラ、大丈夫だから。待っててくれ」
なぜか村人のみなさんに取り囲まれてお話をされるらしいヘンリーを、庇おうとしたところ。
今度はヘンリーに、言葉を遮られました。
なに、この流れ。
おかしくね?
おかしいよね?
たぶん話題の中心は私なのに、なんで私が蚊帳の外みたいになってるの?
「さ、ドーラちゃん。行きましょう?」
全く納得のいってない私の手を引き、シスターが教会の奥の部屋に誘導します。
……まあ。
村のみなさんの様子を見るに、面白がって外堀埋めるとか、そういうことは間違っても無さそうだし。
なぜかヘンリーもやる気に満ちてるし、吊し上げられる当人のヘンリーがいいって言うんだから、いいか。
奥の部屋に引っ込んで、シスターが淹れてくれたお茶をいただきながら、私の十年のことを話し、村の十年のことを聞き。
「サンチョさんがお国に帰られて、あの家の管理は教会に任されているのよ。私が時々、掃除に入ってはいるのだけど。サンチョさんがいたときのようにはいかなくて、ごめんなさいね」
「とんでもない。お忙しいでしょうに、ありがとうございます」
「中を見るなら、鍵を渡すけれど。泊まるのは、少し難しいかもしれないわね」
「泊まるのは……。誰もいない家に一人で泊まっても、きっと眠れないと思いますから。見るだけにしておきます」
村のみなさんの様子を見るに、ヘンリーと二人で泊まるなんてことは許されなさそうだし。
ヘンリーがいれば眠れるというものでも無いから、どっちにしても泊まろうとは思わないけど。
「そう。そう、ね。それじゃ、これ。旅に出る前には、また預けてね」
「はい」
なんてことを話してるうちに、村のみなさんとヘンリーとのお話も終わったようで。
「アンタの気持ちは、よくわかったよ。頑張れよ!」
「オレは、認めたわけじゃねえからな!ただ、着いてくなら、きっちり守れよ!」
「ケジメは、しっかりつけろよ!くれぐれも、間違いは犯すなよ!」
よくわからない激励のような言葉を口々にヘンリーにかけているみなさんと、力強く応じてるヘンリー。
なんなんだ、一体。
とりあえず、同行は認められたらしいということでいいのか。
「ドーラ。行くか」
「うん」
「おお、行くのじゃな。では、着いてきなされ」
え、もう話通してるの?
通じ合い過ぎだろう、村人と。
洞窟内で使う筏を管理するおじいさんに着いて行き、筏をお借りします。
「パパスさんがここで何をしておったかは、わしも知らぬ。洞窟には今も魔物が出るでな、気を付けて行くのじゃぞ」
筏に乗って、洞窟の中に漕ぎ入れて。
洞窟の中の湖に浮かぶ島に筏を着け、階段を下ります。
村が無事で、ひと安心といったところではありますが。
この洞窟にも仲間モンスター候補は、いるんですが。
パパンの手紙の内容が気になって、やっぱり愛とか服従とか、そんな感じでも無い。
ということで、相変わらず淡々と戦闘をこなして、どんどん先に進みます。
まあ折角なので、アイテムは回収していきますけれども。
仲間が増えれば、お金もかかるし。
マップをそこまで覚えてないから最短距離で進めるわけでも無いので、ついでということで。
洞窟の最深部、地下室のように整えられた場所にたどり着き。
天空の剣と、手紙を発見しました。
逸る気持ちで手紙を手に取り、開いて中を見ます。
『ドーラ。お前がこの手紙を読んでいるということは、何らかの理由で、私はもうお前の側にいないのだろう。
私は、邪悪な手によって拐われた妻のマーサを助けるため、旅をしていた。
私の妻、つまりお前の母には、とても不思議な力があった。
私にはよく分からぬが、その能力は魔界にも通じるものらしい。
恐らく妻はその能力ゆえに、魔界に連れ去られたのであろう。
そして私が調べた限り、魔界に入り、邪悪な手から妻を取りもどせるのは、天空の武器と防具を身につけた勇者。伝説の勇者だけ。
私は世界中を旅して、天空の剣を見つけることができた。
この手紙を書いている現在、未だ伝説の勇者は見つからぬ。
しかし、いずれは天空の武器防具を求め、この村を訪れることもあるかもしれない。
ドーラ。それまで天空の剣を守り、勇者を見極め、間違い無く渡して欲しい。
ドーラ、お前はマーサの子。
そして、女だ。
存在が知られれば妻のように、その身を狙われることもあるかもしれない。
側にいて守れぬことが口惜しいが、どうか、無事に。
ひっそりとでも、幸せに暮らしてくれ。
私は、妻は。
例えこの命尽きようとも、ドーラ、お前の幸せを。
いつも、祈っている。』
目を通し終えた手紙を、黙って閉じます。
どこまでも、本当に。
私がどんなに頑張って鍛えて力を付けても、どこまでも。
パパンにとってはどこまでも私は庇護対象、守るべき娘でしか無いわけか。
…………悔しい。
例え、私では無く娘に対してのことでも、そうまで想ってもらえるのは、きっと幸せなことなんだろうけど。
私は、パパンも、ママンも。
助けたいって、思ってるのに。
この世界に生まれ落ちてすぐから、ずっとそう思ってるのに。
その気持ちは、全く伝わってないんだ。
言ってないんだから、それは当たり前のことかもしれないけれど。
男であれば、こちらから望むまでも無く託されたはずのことを。
私が、女だから。
こちらから望んでも、受け入れてもらえないんだ。
私は、なんで、女なんだろう。
本当に、男だったら、良かったのに。
自分が、女であることが。
本当に、悔しい。
唇を噛み締めて黙り込む私を気遣うように、ヘンリーが声をかけてきます。
「ドーラ。……なんて、書いてあったんだ?」
言いたくない。
「……見せてくれ」
見せたくも、無い。
「頼む」
頼まれても、本当は嫌だけど。
だけど、何の説明もしないで、気まずいまま残りの時間を過ごすのも、嫌だ。
結婚相手としては考えてなくても、十年一緒にいた、戦友なんだから。
こんなことを感情を交えずに口で説明するのは無理なので、黙って手紙を差し出します。
同じく黙って手紙を受け取り、読み終えたヘンリーが顔を上げ、口を開きます。
「……違うんだな。ゲームと」
「うん。違うね。私が、女だからだね」
「……どうするんだ?」
「続けるよ、もちろん。旅を続けて、パパスとマーサを、助ける」
最初から、そう決めてたんだから。
何があっても、そこは変わらない。
そのために、ずっと頑張ってきたんだから。
「そうか。……わかった」
たぶん、着いてきて助けてくれる決意を固め直してるんだろうけど。
でもやっぱり、私はヘンリーを置いていく。
それもずっと、決めてたことだから。
決意も新たに天空の剣に手を伸ばし、持ち上げます。
ただ持ち上げるだけなら、特に抵抗は無いようだけど。
やっぱり、装備はできないんだろうか。
と思って構えてみようとすると、やっぱり重くて、まともに構えは取れなくて。
あまりの重さに、剣を取り落とします。
「こんなところはゲームの通り、か」
もしもゲームと違って、私が伝説の勇者だったら。
大手を振って、助けに行けたのに。
男を女にするなんてどうでもいいイレギュラーを入れるくらいなら、そのくらいの融通を利かせてくれてもいいのに。
ヘンリーが天空の剣を拾い、同じく構えようとします。
「……くっ……」
プルプルしてる。
めっちゃ、プルプルしてる。
……でも、取り落とさない!
なにさ!なんでさ!
こんなところでも、男女差別!?
たぶんまだ、私のほうが力ステも高いよね!?
これは、差別だ!
訴訟も、辞さない!!
まさかコイツが伝説の勇者とか言わないでしょうね、そしたら最後まで連れてかないといけないじゃん、最悪じゃん!!
「……はー。無理か、やっぱ」
とか思ってるうちにヘンリーが天空の剣を下ろして、構えを解きます。
違ったのか、良かった。
男の意地とか、そういうのを無駄に発揮してくれたのか。
冷や冷やさせやがって。
「じゃ、行くか」
「うん。そうだね」
リレミトは使えるけど、諸々の懸案事項の確認も済んだことだし。
折角だから仲間モンスターを狙いつつ、歩いて村に戻るとしますか。
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