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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  六十九話:お酒は大人になってから

「さて。掘るか」

 家の裏の物置から持ち出してきたスコップを手に、目的の場所に向かいます。

「……なにをだ」
「ツボを。奴隷になる予定だったし、村も万一があるかもしれなかったから。間違っても盗られたくないものだけ、埋めて隠しといたの」
「そうか。……俺がやるよ、貸せ」
「え。でも」

 かつて(いかだ)の櫂も任せられなかったレベル1のヘンリー少年とは違って、今やヘンリー青年も、この程度のことは余裕で任せられるほどに逞しくはあるんですが。

 でも、まだ私のが強いしなあ。
 人目も無いし、力仕事は男の役目!なんてテンプレにこだわらなくてもいいのでは。
 ただ女だというだけで、なんでもやってもらって当然!とかそんな考えは微塵も無いので。

 しかしそんなことをはっきりと、言ったら言ったで男のプライドを傷付けそうではある。

 とかまた考えてるうちに、スコップを奪われました。

「ここで、いいのか?」

 もう掘り始めてるヘンリーから、取り返してまで意地を張るような話でも無いか。と諦めて。

「うん。この木の根元。それほど深くは無いはずだけど」

 と、言ってる側からガチッと硬い音がして、掘り当てたようです。

 丁寧に土を取り除き、掘った穴からヘンリーがツボを取り出してくれてます。

 仕事が丁寧だなあ。
 さすが、王子というべきか。
 王子は普通こんな仕事しないっていうか、よく考えたら奴隷でも無くなった王子に何させてるの?私。
 今さらだけど。

「ありがとう」

 済んだことは仕方ないので、土で汚れたヘンリーの手とスコップとツボを、まとめてキレイキレイしてお礼を言います。

 きっちり封をされたツボを開いて、中からビアンカちゃんのリボンと、チートの書を取り出します。

「それ。ビアンカ……さんの、リボンか?」
「うん」

 まだ会ってない以上、ゲームのキャラに対するノリで、呼び捨てにしてもおかしくないところだが。
 ちゃんと、さん付けにするとは!わかってるね!
 呼び捨てなんかしたら、厳しく説教を始めたところでもありますが!

「そっちの本は、なんだ?」
「……チートの書」
「それがそうか!」

 見せる気は無いので、迷うところではあったが。
 変に誤魔化すとかえって気になるだろうし、私が嫌がるのを勝手に見るようなヤツでは無いし。
 いっそ知らせておいたほうが、事故で見られる確率は下がるだろう。

「……見せては」
「あげない」
「……そうか」

 これは誰にも見せずに、次の『私』に!
 受け渡すためだけに、取っておいたものなんだから!

 紙なんだから何度も受け渡してたら劣化しそうなものだが、スカラとフバーハを合体させてさらに工夫を重ねた保存の魔法を定着させて、半永久的に保つものであるそうで。

 『半』永久っていつまでかわからないので、劣化してるようなら書き写して作り直そうかと思ってましたが。
 見た限り、全く変わりありませんね。

 一体、何代の『私』の手を巡ってきて。
 この先、何代の『私』の手を、引き継がれていくんだろう。

 と、少々の感慨に耽りながら、他の人に見咎められでもしないうちにと、さっさと道具袋にしまい込みます。

「さ、用は済んだから。片付けたら宿に戻ろうか」
「ああ。村の人たちが、お前が無事だったお祝いをするから、用が済んだら地下の酒場に来てくれってよ」

 なに?
 それは嬉しいが、なぜ私でなくヘンリーに言うのか。

「先に言ったら気を使わせるから、用が済んでから言ってくれってよ」

 そうですか。
 よく、おわかりで。

「じゃあ、私は荷物を置いてスラリンを連れてくるから。ヘンリー、先に行ってて」
「……いや。俺も、行く」

 どんだけ妬いてるんだ。
 仕方ないから、ちょっとだけ貸してやるか。


 と、いうことで宿の私の部屋に寄り、回収した荷物を置いて、少し休んで元気になったスラリンをヘンリーに抱っこしてもらって。

「スラリン。ヘンリーが、どうしてもって言うから。いいかな?」
「ピキー!」
『だいじょぶ!ヘンリー、なかま!』

 ああ、なんて、良い子。
 ヘンリーはスラリンの無い爪の垢を、無理矢理探し出してでも煎じて飲んだらいい。

「そうだ。お前は着替えて来てくれってよ。娘らしい格好も、見せてくれって」
「ええ?……わかった、じゃあ先に」
「外で待ってる」

 有無を言わせず宣言して、ヘンリーがスラリンを連れて部屋の外に出ます。

 しかし……娘らしい格好か。
 この村の人たちに限って、滅多なことは無いとは思うけど。

 大丈夫かなあ。
 なんか、不安だなあ。


 と思いながらも、積極的に拒否する理由も無いので。
 修道院でもらった物ではなく、店で買った動きやすい女性用の服に着替えて部屋を出ます。

 ヘンリーが私を見て、また目を(みは)り。

「……綺麗ってか……可愛い、な」
「……ありがとう」

 ああ、またそんなに赤くなって。
 嬉しい嬉しくないよりも、もう不安で一杯なんですけど。

「大丈夫だ。俺が、守るから」

 むしろ、あなたのことも不安です。
 危険とか、そういう意味では無いけど。


 などという種々の不安に苛まれつつ、ヘンリーとスラリンと一緒に、宿屋の地下の酒場に向かいます。

 階段を下りて酒場に足を踏み入れると、わっと歓声が上がります。

「ドーラちゃん!思った通り、いや思った以上だよ!可愛いじゃないかい!」
「ほんとに、すっかり綺麗になっちゃって!」
「こんなに可愛いんじゃ、ヘンリーさんも大変だね!」
「さ、こっちだよ!二人とも、座った座った!」

 長い卓の中央付近に設けられた、三つの席に誘導されます。
 スラリンのことは、宿屋のおじさんから伝わってたようで。
 ちゃんと台を乗せて、底上げした席が用意されてますね!
 ありがたいですね!

 スラリンの席は三つの内の一番手前なので、隣に陣取るのかと思いきや。
 スラリンをそこに置いたのち、私を真ん中に誘導して、さっさと自分も座るヘンリー。
 つまり、私がスラリンとヘンリーに挟まれた形になってますが。

 これで、いいのか。
 抱っこで満たされたんだろうか。

「ドーラちゃんも、もう十六だし。お酒も飲むだろう?ヘンリーさんは、いくつだい?」
「十八です」

 そうだったのか。
 特に興味無いから、聞いてなかったから。
 初めて知った。

 なんとなく年上っぽい気はしてたけど、性別が違うから単純に比較できなかったし。
 同年代のまともな知り合いって、他は同性のビアンカちゃんくらいだったから、参考になる比較対象がいなかったんだよね。

 いや、だってさ。
 お互い、中身は大人だし。
 外の年齢が、多少違ったところで。
 結婚するんでもなければ、別に関係無くね?

 と、自分の冷たさに内心で散々言い訳をしていると、私とヘンリーの目の前に置かれた杯に酒が注がれます。

 前世では、お酒は二十歳になってからでしたが。
 こっちだと、法律できっちり決まってるわけでは無いので。
 大人扱いされる十六歳くらいから、大体良さそうな感じでしたね。
 十年前の記憶によれば。

 しかし、この体。
 飲んだことないけど、たぶん弱いよね。
 ゲームで、オラクルベリーの酒場で一杯奢ってもらってクルクルする描写があったじゃない。
 ゲーム通りなら弱いよね、確実に。

 あんまり気は進まないが、試しに飲むならこの村でというのはいい機会な気もする。
 周り全員、保護者みたいなもんだし。

 折角だから、ちょっと飲んでみるか。 
 

 
後書き
 スコップとシャベルは元々同じものを指すのに、日本語では手元で使う小さなものと両手で持って使う大きなものとで言葉が使い分けられている節があり、しかもその区別に地域性があって一定しないとか、なんとかかんとか。
 今回使ったのは、大きいほうです。 
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