ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
六十四話:長い一日の終わりに
「いらっしゃい!馬車は、いらんかね?馬付きで、おおまけにまけて、三百ゴールドだ!」
「ください!ぜひ、ください!」
「おお、即決かい!景気がいいね!じゃあ、外に準備してくるから。ちょっと、待っててな!」
景気よく言い放ち、オラクル屋のオヤジさんが外に出ていきます。
「……変わったオヤジだな」
「そうだね!でも、付き合いやすいかも!」
何がいいって、「ぽっ……」てならないんですよ!一切!
笑顔でもなんでも、関係なし!
これなら何度でも、一人でも!
安心して通えるわ!
「……一人で、来るなよ。オヤジが問題無くても、夜しか開いてねえんだから」
また、読まれた。
「うん、わかった」
ヘンリーが、いる間はね?
変に意地張って逆に迷惑かけるのも悪いから、しないけど。
いずれ、一人旅になった暁には!
その限りでは、無いけれどもね!
なんてことを思いつつ、ホイミスライムが連なった意匠のオラクル屋の暖簾をじっくり眺めていると、オヤジさんが戻ってきました。
「待たせたね!馬車は外に置いてあるよ!それじゃ、また来てくれよな!」
「はい!絶対に、来ます!」
そして常連となって、いずれはあの暖簾もゲットします!
ゲットした馬車を引き連れてオラクル屋を離れ、馬車を預けるために一旦宿に戻り。
「次は、占いババさんだね!」
「行くのか、やっぱり」
「行くよ、そりゃあ!……って、もしかして、嫌なの?」
よく考えたら、夜の町に繰り出して私が絡まれたら、苦労するのはヘンリーなわけで。
私が行きたいんだから行く、で済む話でも無いのか。
……うーん、やっぱり男だったら良かったなあ。
言っても、仕方ないけど。
「やっぱり、やめようか。そう言えばヘンリー、寝てないんだし。眠いよね、もう」
「いいよ。行こう」
「でも」
「行きたいんだろ?」
「そうだけど」
「俺も、別に嫌なわけじゃねえよ。心配なだけで。じゃ、行くぞ」
それ以上の返事を待たず、ヘンリーが私を引っ張って歩き出します。
「って、ちょっとちょっと。ヘンリーさん?」
「なんだよ」
「この手は、なに!」
「暗いんだから、手繋いだくらいじゃ目立たねえだろ」
「だからって、なんで!」
腰を、抱きますか!
「歩きにくいんだろ?肩抱くと」
「こっちだって大して変わらないじゃん!」
「変わらないならいいだろ、別に」
「良くないって!なんていうか、密着度が違う!」
「そのほうがいいだろ」
「どこが!」
恋人のフリにしては、やり過ぎだろう!
「嫌なのか」
「そういう聞き方をされると……っていうか、ヘンリーは平気なの?」
「何がだよ」
「朝は、顔見るだけで真っ赤になってたのに」
耐性を獲得したなら、早すぎる。
と、思ってると。
また、ヘンリーの顔が赤く。
「……」
そして、無言で腰から手を離します。
……忘れてただけかい!
「……ごめん」
「……いや」
折角収まってたのに、思い出させてしまった。
「そうだ、腕を組もう。そうしよう」
「いや、それはそれで」
「腰とか触られてると、落ち着かないの!タルの中のアレを、思い出すから!」
それだったら自分でしがみついてるほうが、かなりマシ!
また思い出したのか顔の赤みが増してますが、不利を悟ったのかヘンリーの反論と抵抗が止みます。
……勝った!
しかし、なんと虚しい勝利であることか……!
なんてこともありつつ、ヘンリーと腕を組んで占いババさんの元に向かい。
「先頭の男は、わしの好みでは無いのう」
と言われてるヘンリーを見て、ニヤニヤし。
「む!お主!なかなかわし好みの、男前……いや、おなごか!惜しいのう、男であればのう……いや!なにも結婚するでなし、関係無いの!よし、占ってやろう!」
とか言われて、さらにニヤニヤし。
探し人は生きてるとかいう、ゲーム通りの占い結果が得られたことに安堵して、宿屋に帰ります。
ヘンリーが元気ならカジノに繰り出して踊り娘さんでも見て、ヘンリーの好みのリサーチでもしておきたいところだが。
さすがに、寝てない人を引っ張り回してまですることでは無い。
「よし!お風呂だ!」
宿の食堂で、軽く夕食も済ませて。
念願の、十年ぶりの!
お風呂ですよ!!
前世のホテルみたいに各部屋にユニットバスが付いてるわけも無く、男と女で別になった大浴場、というか大きさ的に小浴場といった感じではありますが。
ともかく、お風呂はお風呂です!
「じゃ、行ってくるね」
「待て。俺も行く」
「一緒に入るのは無理だよ」
「当たり前だろ!!」
本気で怒られました。
顔真っ赤です。
冗談なのに。
「行き帰りも一人じゃ危ないだろ。俺も入るし、一緒に行くよ」
「そっか。じゃ、行こうか」
えーと、なんだっけ、神田川?
一緒に出ようとか約束する気は無いですが。長湯したい。
「はー……気持ちいいわー……」
女性客が少ないのか、夜はまだまだこれからで、みんな帰ってきてないだけなのか。
それほど大きくは無いとは言え、一人で入るには広すぎるお風呂を独占して、伸び伸びと手足を伸ばし。
ずっと奴隷の服を着たきりで、キレイキレイで清潔にしてたから、そういえば自分の体をちゃんと見るのも十年ぶりか。と思って、しみじみ眺めてみたり。
……うん、大丈夫!
何も、問題無い!
むしろ、完璧!!
浴室には通気孔はあっても窓が無いので、入り口から堂々と侵入でもしてこない限り覗きの心配も無いということで。
すっかり寛いで時間を忘れること、しばし。
いい加減のぼせそうになってきたので、名残惜しいながらもお風呂を上がって、体の手入れをしてドライヤーの魔法(バギを応用した便利魔法)で髪を乾かして。
脱衣場から廊下に出ると、ヘンリーが壁にもたれて、うとうとしてました。
……待っててくれたのか。
そう言えば、『行き帰り』が一人じゃ危ないって、言ってた。
私一人だったから、誰かが入ってこようと思えば入ってこられたし。
それも、見張ってくれてたのかも。
髪が濡れてるし、一応、自分も入りはしたみたいだけど。
私が女だったばっかりに、本当にコイツには苦労かけるなあ。
女が旅するのがここまで大変だなんて、全く考えて無かった。
私が、悪いわけでは無いけれど。
ヘンリーが私の面倒を見る必要なんて、本当は無いんだから。
早く、ラインハットに行って。
早く、自由にしてあげよう。
「……ドーラ。出たのか」
ヘンリーが、目を覚まして声をかけてきました。
「うん」
「じゃ、帰るか」
「うん。そうだね」
「……どうかしたか?」
「ううん。なんでもないよ。髪、濡れたままだと風邪ひくし。部屋に戻ったら、乾かすね」
「ああ、頼む」
先に立って歩き出すヘンリーの腕に掴まりたいような気が、ちょっとだけしたけれど。
今は、誰も見てないし。
恋人のフリも必要無いのでそれはやめて、普通に並んで。
歩いて、部屋に帰りました。
部屋に戻ってヘンリーの髪を魔法で乾かしてると、またヘンリーの顔が赤くなってましたが、もうこれは仕方ないね。
湯上がりの美女に、触れられてるわけだからね。
中身は、残念だけど。
「ヘンリー、もう寝るよね?ラリホー、要る?」
「……頼む」
やはり、無理なのか。
廊下で立ったままうとうとするほど眠くても、それでも普通には眠れないほど、私は強力な美女であるのか。
「よし、行くよ。ラリホー」
ベッドに横になったヘンリーにラリホーをかけると、それはもう効果覿面に。
びっくりするくらいすぐに効いて、ヘンリーが寝息を立て始めます。
「おやすみ、ヘンリー」
返事は当然ありませんが、一日頑張ってくれたことへの感謝と労いも込めて声をかけ、私も横になります。
明日からは、少しずつ。
できるだけ迷惑かけなくしていけるように、頑張ろう。
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