とある星の力を使いし者
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第83話
上条と別れた麻生はすぐに出場する競技場まで走った。
制理に小萌先生と姫神と上条と土御門が来れない事を説明する。
と言っても、上条と土御門が来れない理由をいう訳にもいかないのでその二人の理由は適当に言い、姫神と小萌先生が何かの事件に巻き込まれたことを制理に告げた。
制理は風紀委員や警備員は何をやっているのだ、と怒りを露わにした。
麻生は姫神は無事だという事を説明すると。
「・・・・・分かった。
とりあえずは姫神さんは無事なのね。
私達は目の前の競技に集中しましょう。
怪我でもして姫神さんと同じ病院にでも運ばれたら笑われるからね。
あの馬鹿二人が居ないのは気になるけどそれも後にしましょう。」
制理がそう言うと同時に競技開始の準備が始まる。
クラス全員は持ち場に移動する。
麻生もそれに続いて移動するが、上条がさっき言った事を思い出す。
「お前は・・・それでいいのかよ。」
その言葉を思い出し、自分の頭をかく。
(それでいいか、か。
まぁ、俺は俺の為に戦うだけだ。
俺の為にな。)
午後六時十五分。
一通り競技は終わった。
残りは六時三〇分にはナイトパレードがありそれが終われば、今日の大覇星祭は終了だ。
愛穂から電話があり、一方通行と打ち止めを誘ってナイトパレードを見に行くことになった。
麻生の頭に姫神の顔が過ぎる。
競技が終わってから制理と一緒に姫神が運ばれた病院に向かった。
そこに小萌先生がいて、事情を聞いた。
姫神の傷は麻生が治療したのでほとんど治っていた。
一応、一日二日は入院しなければならないが大丈夫との事。
何でもカエル顔の医者が心配しなくてもいいと言ったらしい。
麻生もその医者の特徴を聞いて大丈夫だろうと考えた。
病室に向かうと姫神はまだ意識を取り戻していない。
医者の話だと、今日の夜には目が覚めるらしい。
麻生は近くの電灯に寄りかかる。
愛穂と一方通行と打ち止めを待っている。
そのまま空を見上げる。
空には星が一つだけ輝いていた。
それを見てため息を吐くと、携帯を取り出し電話を掛ける。
「愛穂か。
少しだけ遅れる。」
「何でじゃん?
もう一方通行と打ち止めは一緒じゃん。」
よく一方通行を連れて来たな、と麻生は愛穂を率直に凄いを思った。
おそらく、打ち止めがだだこねたのだろう、と考える。
麻生は電話を片手に合流地点から離れていく。
「少しだけ確認しないといけない事が出来てな。
それが終わったら合流するよ。」
「分かったじゃん。
だけど、早く終わらして合流するじゃん。」
「ああ、それまであいつらの子守をお願いするよ。」
そう言って、電話を切る。
そして、すぐ目の前にあるビルを見上げる。
窓一つないビル。
麻生は自身にかかっている重力を軽くして、そのままジャンプしてビルの屋上まで飛ぶ。
このビルは学園都市で一番高い。
此処からなら学園都市全体を見渡せるだろう。
弓を創り、麻生は目を瞑った。
此処は第二三学区。
滑走路には三つの陰があった。
一つは上条当麻、一つはステイル=マグヌス、一つはオリアナ=トムソン。
土御門は五〇〇メートル後ろのフェンスにもたれ掛っている。
オリアナの罠に引っ掛かり、手足を火傷してしまい動けなくなった。
魔術を使った影響と一度オリアナに襲撃されそれによって負った怪我が重なり、注意力が散漫になっていた。
さらに「使徒十字」は星座の位置を利用して発動する魔術霊装。
発動時間が大雑把にしか分からなかったので焦っているのも重なって、オリアナの罠に気づかなかった。
上条はステイルに火傷の治療を頼もうとしたがオリアナがそれを許さなかった。
このまま立ちどまっていては動けない土御門に被害が及ぶ。
上条とステイルは二人でオリアナに挑む。
オリアナは単語帳と二人の動きを読み、カウンターを仕掛けるという戦法で二人を追い詰める。
一度は窮地に立たされるが、ステイルと上条に全く噛み合わない連携がオリアナを追い詰めた。
オリアナは相手を動きを読んで、それに合わせてカウンターを仕掛ける。
それはステイルと上条が組んでも変わりはしなかった。
だが、それは二人の連携が噛み合っていたらの話だ。
全く噛み合わない二人は連携がなっていない。
それはオリアナにとって非常に読みづらい事だった。
しかし、オリアナの反撃でステイルは倒れるが、上条の拳と言葉でオリアナを倒す事はできた。
ステイルはオリアナからリドヴィアと「使徒十字」の居場所を聞こうとした時だった。
ステイルの傷はお世辞にも軽いとは言えない。
上条は包帯の代わりになる物を探そうとした時だった。
「心配する必要はないかと。
もうすぐ全てが終わりますので。」
言葉が聞こえた。
女性のものだ。
オリアナよりも、歳は上のように思える声。
上条は周囲を見渡したが誰もいない。
声は、すぐそこで倒れているオリアナの懐から聞こえてきた。
「・・・・通信を、妨害する結界が、途切れたせいだね・・・」
オリアナは上条とステイルとの戦いは始まる前に周りに戦闘音や応援を呼ばれないように通信を妨害する結界を張っていたのだ。
だが、オリアナが気を失ったのでそれが解けたのだ。
そして、その声の主はリドヴィア=ロレンツェッティ 。
オリアナ=トムソンと共に学園都市内部で「使徒十字」を発動させる計画に加担し、街の支配によって科学サイドをまとめて制圧しようと考えている人物。
「間もなくこの「使徒十字」はその効果を発動し、学園都市は我々ローマ正教の都合の良いように改変されるかと。
従って、貴方達がどれほどの傷を負っても関係ないので。
どの道、その傷も含めた学園都市の全てが捻じ曲がる為に。」
その言葉が指すのは、「使徒十字」はオリアナの手ではなくリドヴィアの手にあるという事だ。
「奴の言葉をまともに聞くな、上条当麻。
奴らが「使徒十字」を使おうとしている以上、この近くに必ずリドヴィアと霊装本体があるはずだ。
君の右手なら、あらゆる霊装の機能を一撃で破壊できる。
だから早く行け。
リドヴィアは、この滑走路の近辺に」
「誤解なきように告げておきますが。
「使徒十字」は現在、学園都市にはありませんので。」
「な、に?」
上条は思わず、地面に転がって気を失っているオリアナの方を見た。
そちらから聞こえるリドヴィアの声は、淡々と事実を告げる。
「そちらは学園都市内部「天文台を調べたようですが、そちらは全て我々が誘導した結果に過ぎないので。
どうやら、学園都市の外にある「天文台」にまでは手が回らなかったようですが。」
「使徒十字」は星座の光を集めて発動する霊装だ。
「天文台」は星座の光を集めるのにうってつけと言える。
上条とステイルは、その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「「使徒十字」によって作り出されたローマ教皇領は、最盛期には四万七〇〇〇平方キロメートルの領土を所有していましたので。
およそ二〇〇キロ四方といった所かと。
当然ながら、学園都市の外から放ったとして、余裕で街の全域をカバーできると計算され。」
くそ、とステイルは言葉を吐く。
地面に崩れたままの彼は、それでもまともに手足を動かす事もできず、上条に言った。
「やら、れた。
上条当麻・・・土御門に連絡しろ!
オリアナは、最初から・・・意識を街の中へと集中させるための・・・囮だったんだ!!」
「そう。
彼女の役割は、本件に関わる人員・迎撃戦力の調査と、それら全員の注目を本命とは別の方法へ誘い込む事だったので。
「人払い」や気配を断つ術式も構成できたはずですが。
エサがなくては魚は釣れませんから、敢えて姿をさらし続けましたので。」
修道女の声が続く。
「「使徒十字」は使用には時間がかかりますし、ポイントとなる「天文台」も固定されていますので。
一番懸念すべき問題は、やはり全ての「天文台」を事前にそちらの迎撃要員に押えられてしまう事で。」
リドヴィア=ロレンツェッティは、淡々と事実だけを告げていく。
「我々としては、いかにこれを防ぐかに焦点を当ててきましたので。
そこで、オリアナが学園都市内部で意図的に動きを見せる事により、貴方達迎撃要員の目を全て街の内部へ向けされるという作戦を考えましたから。」
(コイツ・・・・ッ!!)
上条は歯噛みするが、かと言って具体的な対抗策が浮かぶ訳でもない。
「彼女が撃破されてしまったのは残念ですが、それすらも「使徒十字」は都合の良い方向へ改変してくれるかと。
結論を言えば、彼女の敗北は、いくらでも取り返す事のできる些事に過ぎませんので。
学園都市の外から「使徒十字」によって学園都市を丸ごと支配してしまえばそれで形勢逆転、計画通りという事になります。」
リドヴィアの言葉は平淡なままで、それが余計に、上条達が今までやってきた事全てを否定されるような気分にさせられる。
「ちなみに私の位置は貴方達のいる場所からあまりに遠く。
街の外に応援がいた所で、彼らが到着する前に事を終わらせる自信はありますので。」
「くそっ!じゃあどうすりゃ良いんだよ!!」
上条は叫ぶが、その程度で決定的な反撃策が浮かぶはずもない。
絶望的な空気が漂う中、リドヴィア=ロレンツェッティの声だけが周囲に響く。
「我々は貴方達も受け入れます。
学園都市の破壊は行いません。
この大覇星祭というくだらない祭典を、あくまで科学が教会に屈するための素晴らしいデモンストレーションの場にするだけ。
我々は科学という異教を捨てさせたのち、貴方達を愛すべき同胞として抱き締めるのです。」
ステイルはボロボロの身体を動かして、懐から血に濡れたルーンのカードを取り出す。
「君は、土御門を、呼べ。」
ステイルは、喉の奥から声を絞り出しながら言う。
「「占術円陣」だったか。
オリアナの、迎撃術式を逆探知する魔術が、あったはずだ。
それをリドヴィアの通信に応用して、場所を割り出す。
後は、僕の通信術式を使って、外の舞台に任せれば・・・・」
「無駄ですので。
「使徒十字」によって世界が改変するまで、残り一一二秒。
いや、今一〇七秒になりましたか。
ここではっきり言っておきましょう。
チェックメイトです。」
一〇七秒。
それでは、リドヴィアの居場所を探った所で、誰もそこへ向かえない。
それ以前に、傷だらけの土御門をここへ呼ぶまでに時間を使い切ってしまう。
ステイル=マグヌスは息を呑み。
リドヴィア=ロレンツェッティが通信の向こうで笑みを含み。
上条は歯を食いしばって、星空へと変わりつつある紫色の空を眺める。
(何か打開策は・・・・)
諦めてはならない、という気持ちだけが空回りする状況するの中。
(この状況をひっくり返す、最後の最後の切り札はないのか!!)
藁にもすがる想いで上条は思考を働かせようとした時だった。
「あっ、あ~あ~、テステス。
こっちの声はちゃんと届いているか?」
声は突然聞こえた。
それは上条のポケットから聞こえた。
ポケットの中には携帯だけしか入っていない。
上条はそれを取り出すと、携帯の表面に何やら文字が書かれていた。
「当麻、くれぐれもその文字を右手で触れるなよ。
通信が切れてしまうからな。」
この声は麻生恭介だ。
上条は慌てて携帯を左手に持ち替える。
「さて、リドヴィアと言ったか。」
「貴方は誰ですので?」
その場にいない二人の声だけが響き渡る。
「麻生恭介、ただの通りすがりの一般人Aだ。」
リドヴィアはその名前に聞き覚えがあった。
オリアナが唯一、注意するべき人間だと言っていた名前だ。
「今は時間もないし、簡単に言ってやるよ、リドヴィア。」
「何をです。」
リドヴィアはそれでも余裕の態度を崩さなかった。
残り九〇秒。
勝利を確信していたからだ。
「まだ勝負も決まっていないのに勝った気でいるなよ。
残り八〇秒でも逆転できる人間はいるんだぜ。」
「まだ勝負も決まっていないのに勝った気でいるなよ。
残り八〇秒でも逆転できる人間はいるんだぜ。」
麻生は弓を構えていた。
眼を千里眼に変え、ルーンの文字から伝わる通信術式の魔力を逆探知してリドヴィアの位置を特定して、既に麻生の眼にはリドヴィアの姿も突き刺さる「使徒十字」も捉えている。
そして、矢は漆黒の矢。
名前は赤原猟犬。
射手が健在かつ狙い続ける限り、標的を襲い続ける矢である。
元は剣だが矢に変形させている。
その矢に魔力を莫大な注ぎ込む。
この矢に込める魔力が最大なら、約四キロの距離を数秒で到達する速さまで達する。
麻生のいる位置からリドヴィアの所まで数秒くらいで到達する。
そして、狙うのはリドヴィアではなくその前にある「使徒十字」である。
矢を持っている手を放す。
それと同時にリドヴィアのは?、という声が聞こえるのと同時だった。
赤い魔弾が数秒で学園都市領内を飛び越え、リドヴィアのいる「天文台」まで飛んでいく。
赤い魔弾は「使徒十字」の支柱にヒットして粉々に砕け散った。
本来なら四キロを数秒で到達するほどの魔力がこもっていれば巨大な爆発が起こる。
だが、麻生の能力でそうならないように法則などを一時的に変化させたのだ。
「ああ・・・ああああ・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次に聞こえたのはリドヴィアの悲鳴だった。
上条とステイルは何が起こっているのか全く分からない。
「俺が遠距離から狙撃して「使徒十字」を破壊した。」
麻生の言葉を理解するのに数秒かかった。
理解した瞬間、上条は思わず握り拳を作り、ステイルは何か含みのある笑みを浮かべている。
「何故ですか!!」
リドヴィアは訳が分からないのか麻生に問い掛ける。
「当麻達がオリアナを倒した辺りから話を聞かせて貰った。
正直、俺は科学の宗教とはなんとかには興味がない。
お前達の計画にも気がついていたが邪魔する気もなかった。」
「尚の事、何故邪魔したので!!」
「簡単だ。
お前はこの大覇星祭をくだらない祭典だのデモンストレーションなどという表現を口にしたからだ。」
「たったそれだけの事で・・・・」
「どちらにしろ、お前は俺が邪魔しなくても負けていた。
その理由はこれだ。」
麻生がそう言った瞬間、強烈な光が地上から放たれ、夜の闇が一気に拭い去られた。
それは学園都市の至る所に飾り付けてあった、電球やネオンサインやレーザーアートやスポットライトなどありとあらゆる電飾の光だ。
「午後六時三〇分。
ナイトパレードが始まる時間だ。
これだけの光量だ、一七〇〇メートルまでなら余裕で星の光を消す事はできる。
まぁ、俺はそんな不確定要素を信頼するほどお人好しじゃないから、確実な方法を取らせてもらった。」
麻生の言葉は続くが、リドヴィアは何も返してこない。
「お前は制理が運営委員が必死になって考えた大覇星祭をくだらない祭典と言った。
姫神が見たいと言ったナイトパレードなどをデモンストレーションなんていうくだらないローマ正教の為を飾る遊びのように言った。
俺がお前の邪魔をするのには充分な理由だ。」
最後に麻生はこう言った。
「さて、後はどうするかは魔術師に任せる。
お前の生死など、どうでもいいからな。
まぁ、精々鬼ごっこでも楽しむんだな。」
その言葉を最後に麻生からの通信は終わった。
目の前に浮かんでいる魔方陣を消し、一息つく麻生。
その瞬間に携帯が鳴り響く。
出るとそれは愛穂からだった。
「恭介、今どこにいるじゃん?
もうナイトパレード始まってるじゃん。」
「ああ、もうすぐ行くから待ってろ。」
「早くするじゃん。
手のかかる子供が二人もいて大変じゃん。」
愛穂がそう言った瞬間、電話の声が変わる。
「恭介も早く来て来て、ってミサカはミサカはあの人の腕を必死に掴みながら言ってみる。
ああ、もう!!逃げないで、ってミサカはミサカは腕を引っ張りながら言い聞かせてみる。」
「離しやがれ、このクソガキ!!
大体、無理矢理俺を連れてきやがって。
黄泉川も黄泉川で何とか言いやがれェ!!」
「と、こんな感じで手がかかるじゃん。
早く来て欲しいじゃん。」
その声を聞いて麻生は思わず小さく笑みを浮かべてしまった。
すぐに行くと伝え、電話を切る。
そして、窓のないビルから飛び降りる。
彼が守った大覇星祭の最後のイベントに参加する為に。
後書き
大学が始まったので更新が少し遅くなるかもです。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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