戦国異伝
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第百三十七話 虎口を脱しその八
「古くからある家にしても」
「そうでおじゃるな」
「陰陽道の家というでおじゃるが」
「それでもでおじゃるな」
知らないというのだ、二人共。
「はて、安倍家や賀茂家とも違う」
「どういう家なのか」
考えてもそもそも知らないからどうにもならなかった。それでだった。
近衛はいぶかしむ顔でこう山科に言った。
「あの方については置いておきまして」
「ですな」
「右大臣殿をお迎えせねば」
「ご無事を祝って」
金ヶ崎から退いたことはとりあえず置いておいてその無事を祝うことにしていた、都は信長を迎えんと朝廷も幕府も民も動きだしていた。
そのことは信長の耳にも届いていた、彼は都まであと少しというところでそのことを聞いて笑みを浮かべこう言った。
「有り難いわ」
「ですな、まことに」
傍らにいる信行が応える。
「こうして迎えがあることが最も有り難いですな」
「全くじゃ、生き返るわ」
「それで兄上」
信行は兄にこうも言った。
「都に戻られましたら」
「まずは朝廷か」
「そうなります」
「五摂家の方々が中心に宴の用意をしてくれているそうじゃな」
「特に近衛殿が」
「そうか、あの方がか」
「あの方が朝廷で最も兄上のご帰還を喜んでおられます」
信行は彼の名前を出す。
「そのうえで公卿の方々だけでなく帝にもお話をされています」
「帝にもか」
「帝の御前にも参上することになるかと」
「それは少しな」
どうかとだ、ここで信長は微妙な顔になった、そのうえで信行にこう言うのだ。
「負けたからのう」
「ですが帝は兄上のご無事を心から喜んでおられるとのことで」
それでだというのだ。
「是非にと仰いまして」
「それでか」
「兄上に参上して頂きたいとのことです」
「帝がそこまで仰ったのか」
「はい」
「わかった、ではな」
信長も確かな顔で頷く、そう言われてはだった。
「参上させてもらおう」
「はい、それでは」
「帝にそう仰ってもらっては恥ずかしいだと言っておられぬ」
「ですな、恐れ多いことです」
「帝もわしを見て頂いておるわ」
「有り難いことです」
「そして民にもじゃな」
信長は次に彼等のことを話した。
「皆わしを待っておるな」
「そして迎えで賑やかにしようと」
「わしの無事を祝ってじゃな」
「左様です」
「わしは結構怖いと思うがのう」
このことは心当たりがある、信長は法に厳しくそして罪を犯した者は何処までも追い徹底的に処罰する、それが信長なのだ。
だが民達はその信長をなのだ。
「それでもか」
「はい、兄上を慕っております」
「何よりじゃな」
「そうです、都を整えた兄上を心から慕っているのです」
「政をするのは当然のことじゃ」
信長にしてみればそうだ、彼にとって政は当然としてするものだ。
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