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戦国異伝

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第百三十七話 虎口を脱しその七

「我等が思っている以上に」
「ですな、そもそも織田信行に仕掛けた時も」
 その時もだというのだ。
「あの者はすぐに見破りました」
「そうですな、では」
「はい、あの者は尋常ではありませぬ」
 崇伝も言うのだった、遂に。
「学識や資質だけではないですな」
「勘もまた」
 それもだというのだ。
「尋常ではありませぬ」
「今回はしくじりましたな」
「まさか浅井の裏切りを察するとは」
「思えば浅井が裏切ってもその浅井と朝倉の軍勢で織田家十万は倒せませんでしたが」
 合わせて三万だ、確かにこれで織田家の十万に対することは難しい。
「織田信長はより確かに両家を倒す為に今は退いた」
「そして一早く都に入った」
「己さえいればどうにかなるとわかっている故に」
「そして家臣達が必ず兵をまとめて皆帰って来るとわかっているから」
「退きましたか、この度は」
「何という者か」
「どうやらあの者は」
 彼等は信長についてさらに話していく。
「これまで以上にですな」
「ですな、慎重に策を立てていきましょう」
「少なくとも今はしくじりました」
「では次ですな」
「次をどうするか」
「最早浅井と朝倉は使えませぬ」
 彼等には見切りとつけた、実に早く。
 そしてそれと共にだった、二人は次を考えだしていた。
「長老とお話しますか」
「ですな、本願寺や延暦寺から仕掛けるか」
「そうしますか」
「それがよいでしょうか」
 こう話す彼等だった、そしてだった。
 今は別れてそのうえでそれぞれ部屋から消えた、信長のこの帰還は彼等にしても思ってもいなかったことだった。
 信長が帰るという話はすぐに都中に知れ渡った、まずは民が喜びの声をあげる。
「右大臣様はご無事ぞ!」
「うむ、よいことじゃ」
「いや、心配しておったがのう」
「ご無事で何よりじゃ」
「全くじゃ」
 彼等は信じられないといった様子だった、そして自ら信長を迎える用意に入ろうとしていた。
 朝廷もだった、公卿達もまた笑顔で話すのだった。
「いや、生きておられて何よりでおじゃる」
「では戻られたお祝いの用意をしましょうぞ」
「舞楽の用意でおじゃる」
「そして帝にもお知らせして」
「そしてですな」
「帝にも安心してもらいましょう」
 実は帝も信長のことを心配しておられたのだ、それで近衛と山科も二人で話すのだった。
「さて、帝もお喜びでおじゃるな」
「左様でおじゃるな」
 山科は近衛の笑顔での言葉に彼もまた笑顔で応える。
「まことによいことでおじゃる」
「都全体が喜んでいるでおじゃる」
 朝廷だけではない、近衛はこのことを既に知っていた、それで言うのだ。
「よいことでおじゃる」
「ですな、しかし」
「室町殿でおじゃるな」
「はい、あの方と後は」
「あの二人の妖僧でおしゃるな」
 近衛は山科の顔が曇るのを見ながら彼もまたそうした顔になった。
「天海殿、そして崇伝殿」
「それとどうも高田殿も」
 ここで彼の名も出す山科だった。
「あまりお喜びではないでおじゃるな」
「高田殿でおじゃるか」
 彼の名を聞いてだ、近衛は今度は難しい顔で述べた。
「麿はあの御仁をよく知りませぬ」
「麿もでおじゃる」
 それは山科もだった、晴れぬ顔で言う。 
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