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戦国異伝

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第百三十七話 虎口を脱しその六

「それではな」
「朝倉義景殿を管領にされてはどうかと」
「拙僧もそう思います」
「うむ、わかった」
 義昭は二人の問いに確かな声で答えた、それではというのだ。
「ではあの者にしようぞ」
「そうですな、では右大臣殿の報がありましたら」
「その時は」
 二人で話してそしてだった。
 義昭もその時のことを真剣に考える、だがだった。
 その場でだった、義昭達のところに幕臣の一人が入って来た。彼もまた青い服を着ている。
 その彼が笑顔で明るい声でこう義昭に言ったのだ。
「右大臣殿、只今都に向かっておられます」
「何っ!?」
 義昭はその声に瞬時に驚きの声をあげた。
「まさか、それは」
「いえ、間違いありませぬ」
「まことか」
「はい、朽木殿がお守りしそこに信行様と信広様の軍勢が加わりまして」
「速過ぎるのではないか」
 こうも言う義昭だった、顔はまさかという顔で強張り顎が外れそうになっている。
「生きておるにしても」
「金ヶ崎からすぐに馬を飛ばして戻られたとのことです」
「馬鹿な、大将が」
「その様なことを」
 これには天海と崇伝も思わず声をあげた、普段はまるで面の様に顔を変えない彼等にしても今は違っていた。
「軍を率いず逃げるとは」
「有り得ませぬぞ」
「その際のことは知りませぬが」
 家臣は明るい笑みのまま義昭に述べていく。
「ですが右大臣様は間も無く都に戻られます」
「左様か」
「では右大臣様が戻られたら」
「その際はか」
「はい、お迎えの用意をしましょうぞ」
 それをしようというのだ。
「戦の後でお疲れでしょうから」
「そ、そうじゃな」
 義昭は取り乱したまま幕臣の言葉に応える。
「それは」
「ではすぐに」
「わかった、能の用意でもしようぞ」
 義昭はとりあえず体裁を整えた、そうしてだった。
 彼は信長を迎える用意を命じた、そしてその中で。
 天海と崇伝は気難しい顔になって二人だけで話していた、今部屋の中にいるのは二人だけだ。
 その二人がだ、難しい顔で話すことというと。
「織田信長、まさか軍を捨てて退くとは」
「いや、思いも寄りませんでしたな」
「全くです」
 二人は顔を寄せ合ってそのうえで話す。
「金ヶ崎で浅井の裏切りを察してすぐに逃げたのか」
「それは幾ら何でも」
「しかしですぞ」
 天海は強張った顔で崇伝に話す。
「そうでもなければ」
「ここまで速くは都に戻れないと」
「そうです」
 これが天海の見立てだった。
「察してすぐに馬を飛ばして都に戻らないと」
「これだけ速くはですか」
「戻れませぬぞ」
「確かに、では織田信長は」
「恐ろしい者かと」
 天海は崇伝に言った。 
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