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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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宝剣演義・其ノ八

 
前書き
一話あたりの評価の平均点ってどんな計算してるのか知らないけどさー
なんか俺のイメージでは1人でも5点がいると平均が5点になっちゃってるような気がするんだよね。
これはアレか、一番良い部分をピックアップすることで作者のモチベを維持させるシステムか! 

 
その光景を全員が固唾をのんで見守った。誰もが手を貸したいと思い、しかしその手を出しはしない。それは今から羽ばたく一人の少女の妨げになってはいけないという思いからであった。

もどかしいほど緩慢に、しかし確実に少女は手に力を籠め、やがてその体が持ち上がる。

「あ―――」

一瞬、持ち上がった体がふらつき、重心が崩れかける。全員が思わず息を呑んだ。

「―――っと」

しかし、彼女は慌てず騒がず静かに”足を動かして”重心を保った。それは健常者から見れば余りにも危なっかしい動きだったが、確かに―――自分の意志で彼女は足を動かした。

瞬間、見守っていた人たちから弾けるような歓声が上がる。

「きゃー!!生まれたての小鹿よりもしっかりと立ってるわ!!」
「立った!見て下さい立ってますよ自力で!はやてちゃんが立ったぁぁぁぁ!!」
「オメデトー!おめでとう!おめでとさん!コングランチュレーショーン!」
「お見事です!主はやて!!」
「良くわかんねーけどスゲー!ギガスゲー!」

互いに手を取り合って飛び跳ねる主治医の石田先生と金髪騎士シャマルちゃん。動けるようになった理由を知っているためそこまではしゃいでいない苗。事情は良く分からないがとりあえずノリで感動するその他の騎士ちゃんたち。
ちなみにここは海鳴大学病院。無論この後騒ぎ過ぎてはやて以外の全員が(石田先生も含めて)おしかりを受けたのは言うまでもなかった。




~ 宝剣演義 其ノ八 ~




実際の所私には彼女たち守護騎士が本当にはやてちゃんの味方なのか判別できない。理由は簡単、わたしが所謂「原作」をほとんど知らないからだ。とりあえずシャマルがブラックウィドーでシグナムがアシェン・ブレイデルという事以外は全然分からなかった(声優的な意味で)。というわけで・・・

「親に許可貰って暫くこの家に住み着くよ!やったね!」
「まーお」
「え!?ホンマ!?」
「ホンマやて。ほら、守護騎士さんたちはちょっと浮世離れしてるみたいだからサポーターは多い方がいいでしょ?」

突然友達が家に押しかけて「今日からここに住むわ!」と言い出したら普通の人は困る物なのだがはやては逆に嬉しそうだった。何せ今の彼女は家に4人もの人が住み着いた事により、彼女の記憶にある限り最も幸せで貴重な「孤独でない時間」を過ごしているのだ。そこに人生初めての友達も加わるとなれば幸せ指数はさらに上昇してうなぎ上りである。

ちなみに許可の方ははやてちゃんの話を「少々盛って」説明したところ驚くほどあっさり許可が下りた。まぁ小学生のお泊りレベルだから時々家の方にも顔を出すし問題はない。ちなみにザフィーラちゃん用のペットフードとか用意しようかと思ったけど「ぽんずちゃんの分も私が作るで!」と言われてしまった。ペットの餌って手作りで作る物なのか。

「我々の事も考えてわざわざ来たのか?それはまた・・・騎士としては少々情けないが助かる」
「ここまで世話を焼いてくれるとは・・・主よ、良い友をお持ちになりましたな」
「へー、ナエも住むのか・・・守護対象が一人・・・いや、ポンズも含めて一人と一匹増えたな!」
「うふふ、夜天の書の管制人格も表に出てくれば更に増えますね」
「え?もう一人おるん?」

わいわいがやがや。はい、9割9分9里彼らを疑ってない私がいます。なので残り1里を埋めてしまうためにここへ来たのです。決してこの前来た時ごちそうになったはやてちゃんの料理に胃袋を掴まれたわけではないのです。




さて、言い忘れたけど「夜天の書」及び守護騎士(ヴォルケンリッター)が現れてから既に数日が経ってます。ここ数日学校が終わってははやて宅にお邪魔して彼らの様子を見て来たけど、ヴィータちゃんはゲートボールに嵌り、シグナムちゃんは近所の剣道場で剣の鍛錬、シャマルちゃんとザフィーラくんは家ではやてちゃんのお手伝い+リハビリをやってて怪しいところはありません。というかぶっちゃけ・・・

「あーー!てめ、ナエ!剣を投げつけるとか卑怯だぞ!!」
「フフハハハハハハ!!サーベルは投げるもの!!」
「2人とも隙ありや!!ランドールマスター召喚!!」
「・・・ひょいっとな」
「ああ、それ避けられたら落ちる!落っこちる~・・・あう、残機ゼロになってもうた」
「はやてーーー!!チクショウ、はやての騎士としてせめて一太刀!!」

純粋にゲームの遊び相手として普通に好きなので怪しかろうが怪しくなかろうが関係ないのよね。
大ヒットゲーム「大乱戦スマッシュシスターズ」、略してスマシスをみんなでやってる時が至福の時間・・・そのうちなのはちゃん達も誘って8人同時対戦とかもいいかもしれない。ちなみにシャマルちゃんも参加してたけど早々に敗退して夜天の書をいじくりながらいじけてます。

「ぐすっ・・・どうせ私にはゲームの才能ありませんよーだ・・・」
『・・・・・・あー』
「派手な戦闘能力もないしかといって凄いサポートが出来るわけでもないし!」
『・・・・・・うー』
「分かってるのよ!どうせ皆陰では『シャマル=救急箱』とか言ってるんでしょ!!」
『・・・・・・おー』
「ふんだっ!どーせ私は守護騎士でも人気無い方ですよぉ・・・私がヒロインの二次創作とか全然ないし!?」
『・・・・・・えー』
「ああっ!私の話をちゃんと聞いてくれるのは貴方だけですぅ~~!!」
『・・・・・・いー』

独りヒステリックに本に話しかけてると思ったら本を抱きしめ泣き出すという酔っ払い級の奇行。彼女も見てて飽きないなー。ドジだし。ポイズンクッキングの使い手だし。前世の後輩にあんな子いたような気がする。

「シャマルは夜天の書相手に何やっとんのや?」
「自分のドジ加減に絶望して管制人格に愚痴聞かせてんだろ」
「管制人格ちゃんさっきから赤ん坊みたいな言葉しかしゃべってないけど大丈夫なの?」
「んー・・・どうだろ。何かずっとあんな感じだし、はやてが話しかければなんか変わるかもしれん」

そんなこんなで皆の関心はゲームから夜天の書に映っていく。ちょっとふらつきながらも自分の足で立ち上がるはやて。足が動くようになったとはいえ長年使ってなかったその足には筋力と経験が足りない。まぁそれは時間が解決するだろう。


私は彼女の足を治した。彼女の運命を変えた。それは彼女のためのも言えるけれど本質的には私の我儘で無理やり変えられたのだ。管制人格ちゃんがうーうー言ってるのもひょっとしたら私のせいかもしれない。
私はあの力を使った瞬間、彼女の人生を背負ったのだと思う。だから私は彼女の足動いたことによって起こった良い事にも悪い事にも責任を持たなきゃいけない。それが私なりの我儘のけじめ。

(・・・なんて柄にもないこと考えたりして!ま、動くから困ったことになるなんて多分ないよね~♪)

とお気楽に考えつつも、結局責任を忘れられない私はきっと小心者なんだろうなー、と思いつつ、苗も夜天の書との語らいに参加するのであった。


・・・後にその「けじめ」が思わぬ形で彼女の前に現れることになるなど露とも知らずに。




~こっからおまけ



『この子の名前何にしよっか・・・』
『・・・・・・うー』
『そうだなー・・・ギガンティックただいマンボウなんてどうだ!カッコイーだろ!』
『・・・・・・やー』
『あ行以外の言葉喋ったで!一応意識はあるんかいな・・・』
『じゃあ秘湯混浴刑事エバラとかどう?』
『・・・いやー』
『ちょっとずつ意識戻ってきてるぜはやて!もう一息だ!!』
『どうせわたしは・・・いじいじ』


「なんともまぁ可愛い”闇の書”もあったものですね、グレアム”元”提督」
「馬鹿な、何故浸食が引いている!?あれは防御プログラムが破損して主を蝕むはずだ・・・!実際今まであの子は足の麻痺で動けなかったのに・・・」
「そのようですね。貴方の所持品からそういった資料も出てきました」

そこで少年は目の前にいる狼狽した男に視線を降ろす。食い入るようにモニターを見つめるその男は五十路も後半に差しかかろうかという管理局員。その男――ギル・グレアムを見下ろしながら取調官のクルトは淡々と話を続けた。

「ですが資料にあったような主への悪影響は一切現れず、兆候もきれいさっぱり消え去りました」
「何故か、理由を聞いても?」
「見当は付きますがね。取り敢えず奇跡が起きたとでも言っておきます」
「・・・・・・そう、か」

グレアムは取調室の粗末な椅子にもたれかかり、深く思い溜息を吐いた。

使い魔の姉妹が拘束されると同時にグレアム自身の下に出頭命令が下った。管理局の権力と金をつぎ込んだ闇の書封印計画がばれてしまったことを悟ったグレアムは大人しくその出頭命令に従った。その先で待っていたのがこれだ。

嘗て夜天と呼ばれ、先人たちの手によって望まれぬ形に歪められ、自分の部下を含める多くの命を奪ってきた呪われし闇の書。自分がたとえどんなに手を汚してでも葬ると決めた書。長年計画を立て、何度も考え直し可能性を模索した末に、たった一人の少女を生贄に捧げると決めた計画。それが水泡に帰したことを実感させられた。

もうあれは過去と同じ暴走を起こすことはないだろう。これで計画にあったただ一人の犠牲すらない物語のような大団円。だのに、彼の心に広がるのは安堵でも達成感でもなく虚無感だった。あの書に復讐し、未来の悲劇を回避するためだけに費やしてきたあの日々は何だったのか。

「私は、何がしたかったんだろうか・・・10年以上の時を費やして私が見たかったのは・・・何だったのだ?」
「さあ?金も覚悟も時間も立場も費やして6人もの命を殺そうとするろくでなしの心理など、私には砂の一粒ほども理解できません」
「厳しい事を言う・・・君だって選択を迫られたかもしれない」
「迫られませんよ。私にはいつでも一つしか選択肢が見えませんから」

歯に衣着せぬ物言いで何の迷いもなく言い放たれた言葉にグレアムは苦笑するしかなかった。守護騎士と管制人格を人数に入れているこの少年は、きっと途方もない御人好しだ。だが優しいだけでは人を救えない。現実は物語のように上手くいかない。クロノの言葉を借りるなら「世界はいつだってこんなはずじゃないことばかり」だ。

「だからいつかそれを知る時が来る、と言いたげな顔をしています」
「事実だよ。君が管理局という組織にいる限り必ず訪れる」
「だがそれは真実ではない。これから――事実でもなくなる」
「・・・?」

ふっ、と視界が暗くなり、やがてグレアムは自分の真正面にたったクルトがこちらを見降ろしていることに気付いた。その目には先ほどの感情の篭らない目ではなく、むしろ期待と希望にあふれた視線。その目がどうにも自分の矮小さを見せつけられているかのようで、思わず目を逸らした。

「私は己のやったことは全て話したよ。今の私は目的の無くなった抜け殻だ・・・これ以上私に何か用があるのかね?クルト・ルナエッジ上等空士」
「ええ、ありますよ。ギル・グレアム―――

 ―――夢の話をしましょう」




それは正に夢だった。お伽噺のような夢だった。どうしようもない、夢見がちな子供が考えるような夢そのものだった。正に理想主義者(ロマンティスト)戯言(ざれごと)そのもの。実現不可能な妄想。世界を知らない子供の戯言(たわごと)としか言いようがなかった。

だがどうしてか、それを語る彼ならば実現できるような気がして。彼に「お伽噺を現実にするのを手伝え」と言われ、差しのべられた手を見つめて―――

―――私は確かに彼から差しのべられた手を、握り返した。

それは遠い未来に「管理局の狂犬」と呼ばれることになる伝説の部隊、『陸上警備隊第616部隊』の誕生に纏わる小さな切っ掛けの一つとなる。
 
 

 
後書き
クルト君達が主役の妄想ストーリー『陸上警備隊第616部隊』をちょっとだけ書いてみた。多分この続きを書くことはないと思う。だってめんどいし。

本文中にタイトルを入れてみた。スキあらばタイトル。
ここだけの話、この小説は今年中に完結させる予定。 
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