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戦国異伝

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第百三十七話 虎口を脱しその五

「右大臣殿の所在はまだわからぬか」
「はい、まだです」
「生きているか死んでいるかさえも」
「よいのう、しかし死んだのならな」
 どうかとだ、義昭は上機嫌のまま話す。
「余を助ける者をあらたに任じなければな」
「それが誰か、ですか」
「どなたに命じるかですな」
「うむ、誰がよいかのう」
 義昭はうきうきとした感じで二人の僧に述べていく。
「一体な、ふむ」
「どなたにされますか」
 天海が義昭に問う。
「それで」
「武田はどうじゃ」
 まず名を出したのは信玄だった。
「あの者は」
「いや、武田殿は」
 武田の名を聞いた信玄は不意に顔を暗くさせた、そのうえでこう義昭に言う。
「よくないかと」
「何故じゃ?戦も政も出来るし甲斐源氏の嫡流ぞ、代々甲斐の守護でもある」
 血筋も格も充分だというのだ。
「あの者なら管領を任せられるぞ」
「あの御仁は少し」
「止められた方が」
 天海だけでなく崇伝も言うのだった。
「勝手に信濃や駿河も攻めておりますし」
「よくありませぬ」
「ふむ、そうかのう」
 義昭は何故二人が止めるのかわからないまま応えた。
「よくないか」
「はい、上杉殿もです」
「北条殿や毛利殿も」
 彼等もだというのだ。
「伊達殿や島津殿も」
「どの方も資質が合わなかったり野心が強いです」
「幕府にとってはまさに奸臣です」
「ですから」
「上杉は違うのではないかのう」
 確かに北条や毛利、伊達に島津は勝手に領地を拡げていて戦を繰り返している、それで義昭も彼等については頷けた。
 だが謙信はどうか、彼が言うのはこのことだった。
「あれだけ義を愛する者はおらぬのではないか」
「政が得手ではないかと」
 崇伝はあえて表情を消してこう述べた。
「公方様をお助けして天下を治めるだけのものは」
「ないか」
「はい、ですから」
「ふうむ、ではじゃ」
 義昭は腕を組み考えながら今度は彼の名を出した。
「浅井にするか、武田や上杉と比べるとかなり小さな家じゃが」
「小さ過ぎます」
 天海は浅井も駄目だと言う。
「ですから浅井殿もです」
「よくないか、ではじゃ」
 次に出す家はというと。
「織田の下におるが長宗我部や徳川か」
「どちらの方もよくないかと」
 今度は崇伝が言った。
「やはり公方様を助けられませぬ」
「ううむ、そうか。ではどの者がよいか」
「やはり朝倉殿でしょう」
「あの方がよいかと」
 二人は彼等の名を出す。
「右大臣殿を成敗した功績が出来たならば」
「是非管領にされるべきです」
「ふむ、そうか」
 義昭は信頼する彼等の話を聞いて確かな顔で述べた。 
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