遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―もう一つの可能性―
デュエルをした後に唐突に倒れる。そんな闇のデュエルのような症状が、今回俺を襲った症状である。
別の場所から調べていたジムも、様々なことがあった結果剣山とデュエルになり、そのまま倒れてしまったらしい。俺は明日香に、ジムはその場に居合わせた十代に、保健室に運び込まれて何とか一命を取り留めた。
だが、倒れた原因は闇のデュエルと同じように原因不明……強いて言えば俺が味わったように、『全身から体力が抜けたよう』な状態になっていたらしい。俺と剣山、そしてジムは保健室での生活を余儀なくされてしまい、しかもジムと剣山は寝たきりの状態だった。
森の奥に、何か調べられては困るものでも置いてあるのだろうか。オブライエンに聞いても何も言わないらしく、この事件はそのまま監査委員会の調査待ちとなってしまうのだった……
そして少し経ったある日、俺は保健室の生活から脱却することに成功した。まだ保健室にいるジムと剣山には悪いが、これはデュエルで倒れた率の年期の違い、といったところだろうか。
……まあ、明日香とレイの若干過剰な看病のおかげ、なのかも知れないけれど。スタミナが付くお弁当のような物を作って来てくれたものの、その味については……彼女たちの名誉の為にも言わないでおこう。
そして久方ぶりに訪れた自室にて、俺は一枚の手紙を渡されることになった。
差出人はアモンで、文面は……オベリスク・ブルーのパーティー会場での、パーティーへのお誘いだった。謎の失神する事件で暗くなりがちの為、改めて親睦を深めるために、パーティーをしながら皆でデス・デュエルをしよう……というのが、大体の内容だった。
そのパーティーを特に断る理由のなかった俺は、明日香にレイ、そしてマルタンを伴ってアモンのパーティーへと行くことにした。……心配をかけさせてしまった、彼女たちへのお詫びにもなると思って。
『皆様、今回は僕が主催する――』
晩飯を兼ねたバイキングを楽しんでる最中、アモンのスピーチが会場へと響き渡った。社交辞令も兼ねた言葉と、デュエル大会の開催を宣言するのが大体の内容だったが……優勝者に送られるという、黄金のデュエルディスクというのは、果てしなく趣味が悪い。
『――では、心置きなくデュエルを楽しんで言って下さい』
そんな結びの言葉とともに、アモンはそのまま会場から出て行ってしまう。彼自身は参加しないようで、もう一度デュエルしたいと思っていた身としては、それは少し残念だった。
「ねぇ遊矢様、デュエルしようよ!」
「……様は止めろ、レイ」
いつまで経っても言うことを聞かないレイに、若干ため息をつきながら応対する。……もう言われ慣れすぎて、一種の通過儀礼となってしまっているが。
「あの、レイちゃん。僕の新しいデッキ出来たから、僕と……デュエルしてくれないかな?」
以前【機械戦士】のデッキの強化の時、参考になるかと思って手伝ったマルタンのデッキ。デッキの内容はあまり変えず、デッキパワーをそのまま上げたような改造を確かしていた。
「マルっち、新しいデッキ出来たの? ……じゃ、試しにデュエルしてみよ!」
チラリとこちらを見て謝ってから、レイはマルタンとデュエルをしに遠くへ離れていく。このまま座っていても変わらない、と隣の席に座った明日香に声をかけた。
「じゃあ、明日香……」
「あいや待った!」
明日香にデュエルをしようと声をかけた瞬間、妙に時代がかったセリフとともに、場違いなウクレレの音が鳴り響いた。明日香はそれだけで誰が来たのか悟ったのか、ため息をつきながら顔を覆った。
「君たち……この指の先には何が見える?」
「……天井でしょう、吹雪さん」
オベリスク・ブルーとラー・イエローのメンバーに、このパーティーの招待状は送られているのだから、当然のことながら吹雪さんも招待されている。
「フフフ義弟、元気そうで何よりだね。せっかくの機会だ、今日は僕とデュエルしてくれないかい?」
吹雪さんとデュエルが出来るのは、以外と珍しいことだ。吹雪さんが毎日走り回っていたり、追いかけ回されていたり、サーフィンしたりしているのが主な原因で。
「……良いですよ、デュエルしましょうか」
「そうこなくっちゃ。アスリン、君も混ざるかい?」
「……変なことしないように見張っておくわ」
自分の兄が信用出来ない……いや、『必ず何かする』という信頼があるからか、明日香はデュエルをしに行かずに、俺たちのデュエルを眺めることにしたようだ。吹雪さんと皆の前でデュエルをするのは、一昨年の学園祭の【魔法剣士】デッキとのデュエルぶりか。
俺も吹雪さんもデュエルの準備が整い、明日香は俺の背後に控えてデュエルの準備が完了する。
『デュエル!』
遊矢LP4000
吹雪LP4000
吹雪さんほど、何をやってくるか分からないデュエリストはいない。流れを掴んでおきたいので、先攻を望んだものの……俺のデュエルディスクは『後攻』を差した。
「……義弟よ。噂によれば、デッキの強化案に悩んでいるそうだね?」
「……まあ」
何で知っているのだろうか思ったけれど、その相手が吹雪さんだと考えると、何故か知っていることに納得してしまう。まあ、別に隠していることではないから良いのだけれど。
「今回の僕のデッキは、そんな君の力になれるかも知れないと思って作って来た。《マックス・ウォリアー》を召喚!」
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
「……ッ!?」
吹雪さんのフィールドから召喚された、信頼する三つ叉の機械戦士の姿を見て、俺は驚きを露わにする。機械戦士を相手に見ることなど、始めての経験だったからだ。
マックス・ウォリアーを始めとする機械戦士は、十代やヨハンのカードと違って世界に一枚しかないという訳ではなく、ただのコモンカードに過ぎない。だが、使用者がいないという点ならば……彼らの伝説のカードたちと変わらない。
「カードを一枚伏せ、ターンを終了しよう」
『君の力になれるかも知れない』という言葉の真意は解らないものの、間違いなく吹雪さんのデッキは俺と同じ、機械戦士をメインにしたデッキ……
「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」
だったら負けるわけにはいかない。【機械戦士】使いとして、このデュエルにだけは負けられない……!
「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚」
ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600
このデュエルに対する決意を新たにすると、まず召喚されるのは腕甲の機械戦士。マックス・ウォリアーと戦うことになるとは、思ってもみなかっただろうが……
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「僕のターン、ドロー!」
吹雪さんはドローしたカードを見てニヤリと笑うと、そのカードを手札に入れてこちらを向いた。
「僕のデッキは君の読み通り【機械戦士】だ。だけど遊矢くん、君とは違うデッキだ」
いつかの神楽坂のように完璧なコピーデッキではなく、吹雪さんのアレンジも加わっているということだろう。俺は当然そうだろうと思っていたが、吹雪さんは何でわざわざそれを宣言した……?
「これから僕が見せるのは、君が選べるもう一つの可能性だ! 僕はチューナーモンスター《インフルーエンス・ドラゴン》を召喚!」
インフルーエンス・ドラゴン
ATK300
DEF900
吹雪さんがドローしたカードをデュエルディスクにセットすると、そこに現れたのはチューナーモンスターらしい、細身である緑色のドラゴン。……もちろん俺の【機械戦士】に入っているカードではない……!
「ドラゴン族……?」
「インフルーエンス・ドラゴンは、フィールド場のモンスター一体をドラゴン族に出来る! ドラゴン族にしたレベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル3の《インフルーエンス・ドラゴン》をチューニング!」
俺の疑問の声に答えることはなく、吹雪さんは先程とは別人のように真面目に、シンクロ召喚を行おうとする。その合計レベルは7と、俺のデッキで言うならば、シンクロモンスターの選択肢は三つてなる。
だがそれでは、インフルーエンス・ドラゴンの効果で、マックス・ウォリアーをドラゴン族にした説明がつかない。ならば、これからシンクロ召喚されるのも、俺が知らないシンクロモンスター……!
「王者の叫びがこだまする! 勝利の鉄槌よ、大地を砕け! シンクロ召喚! 羽ばたけ、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」
エクスプロード・ウィング・ドラゴン
ATK2400
DEF1600
爆音とともに登場するドラゴンが、俺とガントレット・ウォリアーに対して威嚇をしているかのようにいなないた。エクスプロード・ウィング・ドラゴンが機械戦士であるわけもなく、吹雪さんの本分であるドラゴン族だ。
「僕はさっき言ったね。『これから僕が見せるのは、君が選べるもう一つの可能性だ』と。このデッキはその言葉の通り、【機械戦士】をサポートにドラゴン族を入れたデッキだ。……君が純正の機械戦士で強くなりたいなら、まずはこのデッキを倒してみるんだね」
「吹雪さん……」
俺は【機械戦士】を改造しようとした際に、機械戦士に別のカテゴリーやシリーズカードを投入することを考えた。三沢のライトロードのように、機械戦士のサポートをするためにだ。
しかし俺は、マルタンやヨハンとのデュエル、そして最初のデュエルを思い返すことで……その改造案を取り消した。三沢を責める気もヨハンを褒め称える気も毛頭ないが、この機械戦士はこのままで戦っていこう……と決意した。
そして吹雪さんが今使っているデッキは、俺の改造案をそのまま実行に移したという、機械戦士に別のカテゴリーを入れたデッキ。あのデッキに勝たなくては、俺と機械戦士は成長出来ない……!
「それじゃあ行くよ! エクスプロード・ウィング・ドラゴンでガントレット・ウォリアーに攻撃! キング・ストーム!」
吹雪さんが持っているウクレレの音とともに、真面目な雰囲気からおちゃらけた雰囲気に戻り、エクスプロード・ウィング・ドラゴンに攻撃を命じる。ガントレット・ウォリアーは守備表示だが、あのモンスターの効果は未知数。
「エクスプロード・ウィング・ドラゴンが攻撃力以下のモンスターとバトルする時、相手モンスターを破壊して攻撃力分のダメージを与える。悪いけど、竜の暴風は盾じゃあ防げない」
エクスプロード・ウィング・ドラゴンから放たれる、その攻撃名に恥じぬ暴風はガントレット・ウォリアーを易々と破壊し、俺のライフにまでダメージを与えてくる。
「だが、リバースカード《救急救命》を発動! 効果破壊されたモンスターを特殊召喚する!」
遊矢LP4000→3600
《奇跡の残照》の相互互換カードにより、俺の背後からまたもやガントレット・ウォリアーが守備表示で特殊召喚された。しかし、その身体には未だにダメージが残っていたが。
「僕はターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
俺の前に立ちはだかっている巨大なドラゴン。まずはこのモンスターを突破する……!
「チューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を召喚!」
ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300
吹雪さんの《インフルーエンス・ドラゴン》に対抗してか、ドリル・シンクロンがそのドリルを、いつも以上に回転させながら現れる。
「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、同じくレベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」
当然ながらそのままシンクロ召喚に移行し、ドリル・シンクロンの頭に付いたドリルの回転は、ますます速度を増していく。そしてその速度が臨界を向かえる時、始めてシンクロ召喚が始まるのだった。
「集いし力が、大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」
ドリル・ウォリアー
ATK2400
DEF1600
二体のモンスターが行ったチューニングにより、新たなシンクロモンスター《ドリル・ウォリアー》が、そのドリルを使って地中から現れた。そして腕についた強靭なドリルを、エクスプロード・ウィング・ドラゴンではなく吹雪さんに向ける。
「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることで、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る! バトルだ、ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック! ドリル・シュート!」
「君の守りの相棒と言えば何だい? リバースカード、《くず鉄のかかし》を発動!」
ドリル・ウォリアーが発射したドリルを、吹雪さんの前に現れたくず鉄のかかしが防ぎ、そのままセットされる。ドラゴン族ばかりに気を取られてしまったが、あのデッキは【機械戦士】でもあるのだ。
「メインフェイズ2。手札を一枚捨てることで、ドリル・ウォリアーを除外する。カードを伏せてターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー! ……なるほどね」
吹雪さんはドリル・ウォリアーがいなくなった俺のフィールドと、その後にまだまだある手札を見て薄く笑う。もともと、吹雪さんを相手にして隠せるとは思っていない。
「このままバトルだ、エクスプロード・ウィング・ドラゴンでダイレクトアタック! キング・ストーム!」
「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了する!」
予定通りに手札から巨大化したかかしが現れ、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃を、その身を挺して防いでくれる。ドリル・ウォリアーと速攻のかかしを活かしたこのコンボは、フィールドに現れるドリル・ウォリアーを除去するか、手札に戻る速攻のかかしを処理するしかない筈だ。
三幻魔の時には《デモンズ・チェーン》で防がれてしまったが、今回の吹雪さんは【機械戦士】でどう対応するか。
「そうだね……君の出番だ、《ジャスティス・ブリンガー》!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000
そんな状況でフィールドに召喚されたのは、剣を持つ機械戦士こと《ジャスティス・ブリンガー》。その登場に、俺は自分の見通しが甘かったことを悟った。
今回のデュエルで、吹雪さんが慣れないデッキ故のミス、などということは決してないだろう。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
ドローフェイズ後のスタンバイフェイズ、時空の穴からドリル・ウォリアーが帰還し、その効果を発動する。
「ドリル・ウォリアーが帰還した時、墓地のモンスターを手札に加える」
もちろん手札に加えるモンスターは《速攻のかかし》で、次なるターン以降も、ドリル・ウォリアーと速攻のかかしのコンボで攻めていく……予定であった。
しかし吹雪さんのフィールドにいる《ジャスティス・ブリンガー》は、特殊召喚したモンスターの効果を無効にすることが出来る効果を持つ。あのモンスターがいる限り、ドリル・ウォリアーは攻撃力半分にしてダイレクトアタックも、手札を一枚捨てて除外ゾーンへと行くことも出来ない。
さらに《くず鉄のかかし》ともう一つセットカードも伏せられていて、ジャスティス・ブリンガーの戦闘破壊も出来ないようにしているようだが……
「速攻魔法《サイクロン》! 破壊するのはもちろん《くず鉄のかかし》!」
もう一枚のセットカードも気になるが、《くず鉄のかかし》を破壊出来なくては元も子もない。旋風が《くず鉄のかかし》を吹き飛ばし、ドリル・ウォリアーが攻撃の準備を整えた。
「バトル! ドリル・ウォリアーでジャスティス・ブリンガーに攻撃、ドリル・ランサー!」
披露する機会がさほど無いドリル・ウォリアーの攻撃が、ジャスティス・ブリンガーに襲いかかると、その巨大なドリルがジャスティス・ブリンガーを貫いた。
吹雪LP4000→3300
「……リバースカード、オープン! 《奇跡の残照》! ジャスティス・ブリンガーを蘇生しよう」
確かに破壊はしたものの、光とともにジャスティス・ブリンガーは蘇生する。《くず鉄のかかし》が破壊されても良いように、対策は完璧だったらしい。
……これでは、ドリル・ウォリアーの効果が使えない……!
「……カードを一枚伏せてターンエンド!」
「僕のターン、ドロー!」
俺のフィールドには《ドリル・ウォリアー》とリバースカードが一枚。吹雪さんのフィールドには《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》と《ジャスティス・ブリンガー》。
ライフポイントはほぼ同じで、まだまだ序盤だからか未だに拮抗していた。
「僕は《ロード・シンクロン》を召喚!」
ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800
チューナーモンスターである黄金色のシンクロンが召喚されたが、待てどもシンクロ召喚をする気配はない。
「バトル! エクスプロード・ウィング・ドラゴンで、ドリル・ウォリアーに攻撃! キング・ストーム!」
エクスプロード・ウィング・ドラゴンからの攻撃がドリル・ウォリアーを襲い、俺は一瞬相討ちかと思ったが……エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果の説明を思い返す。自身の攻撃力以下のモンスターを攻撃した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。
ドリル・ウォリアーの攻撃力は2400と、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力以下だ。
「エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果! ドリル・ウォリアーを破壊し、2400ポイントのダメージを与える!」
「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》を発動! 効果ダメージ発生させる効果を無効にし、お互いに一枚ドローする!」
そのダメージを止めたのは皮肉にも、吹雪さんの親友である亮とトレードしていたカード。効果ダメージを無効にするだけでなく、効果の発動自体を無効にする効果のため、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃は止まらない。
ドリル・ウォリアーが、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃を受けながらも、そのドリルで貫こうと接近していく。攻撃力が同じモンスター同士が戦って、結果は例外を除いて一つしかない。
「亮のカードか……懐かしいね。だけど、手札から《突進》を発動! エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力を700アップ!」
「くっ……!」
吹雪さんの手札からのコンバットトリックにより、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力がさらにアップされ、ドリル・ウォリアーは抵抗むなしく破壊されてしまう。
遊矢LP3600→2900
「続いて、ロード・シンクロンでダイレクトアタック!」
「……《速攻のかかし》を発動し、バトルフェイズを終了する!」
ジャスティス・ブリンガーの一撃ぐらいならば、甘んじて受けて《速攻のかかし》を温存するつもりだったが、二体の攻撃を防ぐことは出来ない。
ロード・シンクロンの攻撃を、二回目の出番だろうと《速攻のかかし》は防ぎきり、吹雪さんのバトルフェイズは終了する。
「じゃあ行くよ! レベル4の《ジャスティス・ブリンガー》に、レベル2の《ロード・シンクロン》をチューニング!」
合計レベルは6。機械戦士においては選択肢は二つだが、吹雪さんはドラゴン族をメインに据えている筈だ……新たなドラゴン族シンクロモンスターだろう。
「鎖に縛られし深緑の竜。その力を解放し、敵を拘束せよ! シンクロ召喚! 現れろ、《C・ドラゴン》!」
C・ドラゴン
ATK2500DEF1300
シンクロ召喚されたのはやはりドラゴン族で、鎖を身体中に巻きつけたドラゴンが現れた。確かその効果は、《チェーン》というカテゴリーでなければ、あまり意味がないと記憶していた。
「カードをセットし、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!」
しかしただのバニラ同然だろうと、吹雪さんのフィールドには二体のシンクロモンスターが控えている。それに対してこちらにはモンスターがいないのだから、あまり呑気になっている場合ではない。
「伏せてあった《ロスト・スター・ディセント》を発動! 墓地から《ドリル・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚し、さらに《ターボ・シンクロン》を召喚!」
ターボ・シンクロン
ATK100
DEF300
墓地から光とともに特殊召喚される《ドリル・ウォリアー》と、その隣に現れる緑色のF1カーこと《ターボ・シンクロン》。《ロスト・スター・ディセント》の効果により、ドリル・ウォリアーは守備力が0であるのに守備表示だが、すぐさま次なる機械戦士に繋げられる。
「レベル5になった《ドリル・ウォリアー》に、レベル1の《ターボ・シンクロン》をチューニング!」
《ドリル・ウォリアー》のレベルは、《ロスト・スター・ディセント》の効果で1下がっている。そのデメリット効果を活かして、ターボ・シンクロンは自らを専用チューナーに指定したモンスターをシンクロ召喚する。
「集いし絆が更なる力を紡ぎだす。光さす道となれ! シンクロ召喚! 轟け、《ターボ・ウォリアー》!」
ターボ・ウォリアー
ATK2500
DEF1600
《ターボ・シンクロン》のボディを赤色にし、そのまま巨大化させたような機械戦士である《ターボ・ウォリアー》がシンクロ召喚され、そのエンジンを轟かせる。
「バトル! ターボ・ウォリアーで……」
今まで活かすことは出来なかったが、その効果は『シンクロキラー』とでも言える効果を持っている。吹雪さんのフィールドにいる二体のドラゴンは、どちらも効果の適用範囲内にいるのだが……
《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》と《C・ドラゴン》。どちらを攻撃するか。
「……《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を攻撃! 《アクセル・スラッシュ》!」
選択したのは攻撃力がターボ・ウォリアーと同じC・ドラゴンではなく、効果が強力なことこの上なく、ターボ・ウォリアーでさえも破壊出来るエクスプロード・ウィング・ドラゴン。そしてターボ・ウォリアーの効果は、どちらにせよ問題なく発動する。
「ターボ・ウォリアーがレベル6以上のシンクロモンスターとバトルする時、相手の攻撃力を半分に出来る! ハイレート・パワー!」
「なんだって!?」
エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力を半分にし、ターボ・ウォリアーは赤色の腕を突き刺して爆発させる。派手な爆発が二人を襲うが、ターボ・ウォリアーは問題なくそこから帰還した。
吹雪LP3300→2000
吹雪さんのライフポイントを半分に減じ、ターボ・ウォリアーは俺のフィールドに降り立った。かと言って《C・ドラゴン》はまだ健在と、気が抜ける状況ではない。
「ターンを終了する!」
「僕のターン、ドロー!」
《ターボ・ウォリアー》に対して吹雪さんはどうするか。相討ち覚悟で《C・ドラゴン》に攻撃してくるか、それとも……
「それじゃあ僕も君に習って、次なるモンスターに繋げさせてもらおうかな。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地の《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」
ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800
……更なるシンクロ召喚に繋げてくるか。再び墓地から帰還する《ロード・シンクロン》の姿に、俺はまた新たなシンクロモンスターが現れると覚悟する。
「通常魔法《アームズ・ホール》を発動し、デッキの上から一枚送って装備魔法を手札に加える。僕が手札に加え、そして《C・ドラゴン》に装備するのは《幻惑の巻物》!」
俺も多用する《アームズ・ホール》によってサーチされ、《C・ドラゴン》に巻きついて行くのは、プレイヤーとモンスターを幻惑させる巻物。装備したモンスターの属性を変える、というその効果によってか、《C・ドラゴン》が黒色に染まっていく。
「C・ドラゴンは闇属性とする。レベル6の《C・ドラゴン》と、効果でレベル2になる《ロード・シンクロン》をチューニング!」
通常召喚を犠牲にする《アームズ・ホール》を使ってまで、わざわざ属性を変える《幻惑の巻物》を装備するには、必ずしも理由があるはずだ。そしてその理由を考えた時、俺の脳裏には一体のドラゴンの姿が現れていた。
「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」
ダークエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100
その名の通りの漆黒のドラゴン、《ダークエンド・ドラゴン》がシンクロ召喚され、その嘶きが俺の耳をつんざいた。以前、氷丸とのデュエルでフィニッシャーとなった効果が、俺とターボ・ウォリアーに対して使用される。
「ダークエンド・ドラゴンは攻撃力を500ポイント下げることで、相手モンスターを一体墓地に送る。ダーク・イパヴォレイション!」
ダークエンド・ドラゴンの口から漆黒のブレスが放たれ、ターボ・ウォリアーを飲み込んで墓地に送っていく――と思われたが、それはダークエンド・ドラゴンの前に現れた少女に阻止された。
「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を墓地に送ることで、ダークエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」
羽衣を身に纏った少女がダークエンド・ドラゴンを包み込み、その効果を無効にすることでターボ・ウォリアーを守り抜いた。しかしダークエンド・ドラゴンの攻撃力は、コストにしたためにもう戻りはしない。
「くっ、君にはそれもあったね……カードを一枚伏せてターン終了としよう」
「俺のターン、ドロー!」
残念ながらアタッカークラスのモンスターを引くことは出来なかったが、ターボ・ウォリアーならばダークエンド・ドラゴンを破壊し、更なるダメージを与えることが出来る。
「《ミスティック・バイパー》を召喚し、リリースして一枚ドロー! ……引いたのはレベル1の《チューニング・サポーター》のため、もう一枚ドロー!」
笛を吹く機械戦士の効果によって二枚のドローを果たすが、やはりアタッカーを引くことは出来ない。引いても通常召喚出来ないから無意味なので、諦めてターボ・ウォリアーに攻撃を命じた。
「バトル! ターボ・ウォリアーでダークエンド・ドラゴンに攻撃! アクセル・スラッシュ!」
「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」
しかしその攻撃は届かず、ターボ・ウォリアーの攻撃は時空の穴に吸い込まれていってしまう。
「……カードを二枚伏せ、ターンエンド」
「僕のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚ドロー!」
汎用ドローカードで手札を補充する吹雪さんに対し、こちらはピンチなことこの上なかった。ダークエンド・ドラゴンの墓地に送る効果は、ターボ・ウォリアーで防ぐことは出来ないのだから。
もちろんその為の二枚のリバースカードだが、正直に言ってしまえばただのブラフである。吹雪さんに通用するとは思えないが、やらないよりは遥かにマシだ。
「僕は《手札断札》を発動。お互いに二枚捨てて二枚ドローしようか」
またもや俺が愛用するカードの一種が発動され、お互いに手札交換が行われる。……そしてその手札交換により、二対の旋風が俺のフィールドに舞い上がっていく。
「俺が捨てたのは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を二体守備表示で特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」
『トアアアアッ!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
デッキから旋風とともに守備表示で特殊召喚され、ダークエンド・ドラゴンの前に立ちはだかるマイフェイバリットカード。この二体が来てくれればターボ・ウォリアーが破壊されても、ダークエンド・ドラゴンからダイレクトアタックを受けることはない。
しかし俺は気づいてしまった。――吹雪さんのデュエルディスクの墓地が光って、フィールドにこちらと同じように、二陣の旋風が巻き起こっているということに。
「墓地に送って《リミッター・ブレイク》の効果を発動! 《スピード・ウォリアー》を二体、攻撃表示で特殊召喚する!」
フィールドに合計四体の《スピード・ウォリアー》が特殊召喚され、攻撃表示と守備表示を取るかに別れた。吹雪さんが【機械戦士】を作ったならば、スピード・ウォリアーが入っていない道理はない……!
こちらも吹雪さんも三体のモンスターが並び、吹雪さんの号令でぶつかり合うことは避けられない。
「ダークエンド・ドラゴンの効果を発動! 攻撃力を500ポイント下げ、ターボ・ウォリアーを破壊する! ダーク・イパヴォレイション」
ターボ・ウォリアーは漆黒の闇の中に沈んでいくが、ダークエンド・ドラゴンの攻撃力は1600ポイントにまで落ち込んだ。しかしそれでも、フィールドで最強のステータスを誇っているのだが。
「バトル! スピード・ウォリアーでスピード・ウォリアーを攻撃! ソニック・エッジ!」
終ぞ見ることの出来なかった、スピード・ウォリアー対スピード・ウォリアーが実現したものの、攻撃表示と守備表示では結果は目に見えている。そのステータスも効果も、俺は一番良く知っている自信があると言っても過言ではない。
……そう、守備表示が勝つという結果ならば目に見えている。
「手札から《牙城のガーディアン》を発動し、スピード・ウォリアーの守備力を1500アップ!」
こちらのスピード・ウォリアーは一人ではない。《牙城のガーディアン》に支えられると、敵の回し蹴りを受け止めて逆にソニック・エッジを叩き込んだ。
「なっ……!」
吹雪LP2000→1400
スピード・ウォリアーが弾かれた影響により、吹雪さんのライフポイントに反射ダメージが支払われ、そのライフを半分未満に減少させる。
「……油断したよ。ダークエンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーを攻撃、ダーク・フォッグ!」
《牙城のガーディアン》でスピード・ウォリアーが強化され、ダイレクトアタックを諦めたのか、もう一体のスピード・ウォリアーをダークエンド・ドラゴンで攻撃する。もう一度《牙城のガーディアン》を発動、などということが出来るわけもなく、スピード・ウォリアーは破壊されてしまう。
「カードを二枚伏せてターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
俺のフィールドには守備表示の《スピード・ウォリアー》に、リバースカードが二枚でライフポイントは3600。
対する吹雪さんのフィールドは、ダークエンド・ドラゴンにスピード・ウォリアーが二体に、リバースカードが二枚でライフは1400。
ライフポイントは俺の方が上だが、リバースカード二枚がダークエンド・ドラゴンに対してブラフであるし、フィールドにはスピード・ウォリアーが一体。ボード・アドバンテージは吹雪さんの方が勝っているだろう。
「俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! スピード・ウォリアーを墓地に送ることで、同じレベルのモンスターを特殊召喚する! 現れろ、《ニトロ・シンクロン》!」
ニトロ・シンクロン
ATK500
DEF300
スピード・ウォリアーと入れ違いで特殊召喚されたのは、消火器のような姿をしたチューナーモンスター。一度もフィールドに現れていなかったその姿を見て、吹雪さんは驚愕を露わにした。
「《ニトロ・シンクロン》……何時の間に?」
「最初の《ドリル・ウォリアー》の時に墓地に送っていた。さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動して三体に増殖!」
チューニング・サポーター
ATK100
DEF300
中華鍋を逆に被ったかのような機械が、現れるなり三体に増殖していくと、ニトロ・シンクロンとともにシンクロ召喚の準備をした。
「レベル2となった《チューニング・サポーター二体に、レベル1の《チューニング・サポーター》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」
ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターが舞い上がり、光の輪となってシンクロモンスターを形作っていく。シンクロ召喚するのは、ニトロ・シンクロンを指定する悪魔のような機械戦士。
「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」
ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000
悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。単体でのステータスも頼れるカードであるし、更にシンクロ素材となったモンスターたちのドロー効果も付いてくる。
「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって計四枚ドロー! ……装備魔法《サイクロン・ウィング》をニトロ・ウォリアーに装備し、バトル!」
ニトロ・ウォリアーの背中に二対の翼が装備され、さらにニトロ・ウォリアー自身の効果により、その攻撃力を上昇させる。そして装備された《サイクロン・ウィング》は、攻撃する際に相手の魔法・罠カードを破壊することが出来る。
「ニトロ・ウォリアーでダークエンド・ドラゴンに攻撃し、右のリバースカードを破壊する! ダイナマイト・ナックル!」
吹雪さんの二枚のリバースカードの内、右側の伏せカードに狙いをつけて、《サイクロン・ウィング》から旋風が放たれた。ニトロ・ウォリアーの攻撃も、その旋風に乗ってダークエンド・ドラゴンに向かっていく。
「くっ……チェーンしてリバースカード《強制終了》を発動! スピード・ウォリアーをリリースし、バトルを終了する!」
スピード・ウォリアー一体を代償に、《強制終了》はその効果を活かしてニトロ・ウォリアーの攻撃を止める。しかし《サイクロン・ウィング》の旋風は止まらず、《強制終了》自体は破壊されてしまっていた。
「トドメにならなかったか……ターンエンド」
「参ったなぁ……僕のターン、ドロー!」
吹雪さんは笑みを浮かべてそんなことを言うが、参っているのはこちらの方だ。二枚のリバースカードはあるが、これはダークエンド・ドラゴンに対してはブラフなのに、またもやダークエンド・ドラゴンを破壊できなかったからだ。
しかしそのダークエンド・ドラゴンも、次に効果を使えば攻撃力は1100で守備力は100と、もはや効果を使えなくなるのは幸いか。その程度のステータスならば、戦闘で破壊するのも容易い。
「ダークエンド・ドラゴンの最後の一撃。ニトロ・ウォリアーを破壊せよ、ダーク・イパヴォレイション!」
ダークエンド・ドラゴンの最後の一撃は、しかとニトロ・ウォリアーに届いて墓地に送ったが、ダークエンド・ドラゴンは力を失ったかのようになってしまう。これで吹雪さんのフィールドには、下級モンスタークラスのダークエンド・ドラゴンと、元々下級モンスターのスピード・ウォリアーが一体。
「そして僕は《デブリ・ドラゴン》を召喚!」
デブリ・ドラゴン
ATK1000
DEF2000
俺のデッキホルダーに入っている、もう一つのデッキに投入されている白銀のチューナーモンスター、《デブリ・ドラゴン》。吹雪さんは機械戦士を参考にしたのだから、もう一つのデッキとは関係ないだろう。
「デブリ・ドラゴンが召喚に成功した時、墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚出来る。出でよ、《ドラグニティ-ファランクス》!」
ドラグニティ-ファランクス
ATK500
DEF1100
風属性・ドラゴン族のカテゴリーの一種だったか、ドラグニティと呼ばれるシリーズの一種のチューナーモンスター、《ドラグニティ-ファランクス》。何時の間に墓地に送っていたかと、今度は俺が驚く番だったが、《アームズ・ホール》の時だと納得する。
しかし、チューナーモンスターからチューナーモンスターを特殊召喚しても、シンクロ召喚に使用することは出来ないだろう。非チューナーモンスターはスピード・ウォリアーがいるが、どうやってシンクロ召喚をするのか……?
「さあ行くよ! レベル8の《ダークエンド・ドラゴン》に、レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」
「レ……レベル10!?」
全く想定していなかったレベル10のシンクロ召喚。最初から素材にするつもりだったならば、ダークエンド・ドラゴンの効果多用も理由が付く。
「伝説の海神を倒しし武器の竜。その健在を現世に示し、その嘶きを現世に震わせよ! シンクロ召喚! 《トライデント・ドラギオン》!」
トライデント・ドラギオン
ATK3000
DEF2800
脅威のレベル10シンクロ召喚されたのは、三つの首を持った巨大なドラゴン。《トライデント・ドラギオン》と呼ばれたそのモンスターは、三つの竜の頭からそれぞれ耳をつんざく雄叫びをあげた。
「トライデント・ドラギオンがシンクロ召喚に成功した時、僕のフィールドのカードを二枚まで破壊する。そして破壊した数だけ、攻撃回数を増やすことが出来るのさ!」
《デブリ・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》が、シンクロ召喚された《トライデント・ドラギオン》に吸収されていく。吹雪さんの言う通り、吸収されていった二体は、その効果のコストにされたのだろう。
つまり《トライデント・ドラギオン》の攻撃回数は、その効果によって――
「三回攻撃……!」
「その通りさ! トライデント・ドラギオンでダイレクトアタック! ドラギオン・インパクト!」
《トライデント・ドラギオン》の第一の攻撃が俺に放たれたが、その攻撃を受けてもまだライフポイントは残る。しかし俺は、二枚のリバースカードのうち一枚を発動した。
「リバースカード、オープン! 《ピンポイント・ガード》! 相手の攻撃宣言時、墓地からモンスターを特殊召喚出来る! 守備表示で蘇れ、《ガントレット・ウォリアー》!」
守備の要たる腕甲の機械戦士が守備表示で特殊召喚され、《トライデント・ドラギオン》の攻撃を俺の代わりに受け止める。《ピンポイント・ガード》は、戦闘破壊耐性をガントレット・ウォリアーに与えるため、その一撃を全て受け止め――
「悪いけどこっちもリバースカードだ、《竜の逆鱗》を発動!」
吹雪さんの最後のリバースカードは、ドラゴン族全てに貫通効果を付与する《竜の逆鱗》。トライデント・ドラギオンの一撃がさらにパワーアップし、ガントレット・ウォリアーの守備を貫通する……!
遊矢LP3600→2200
「まだだ、ガントレット・ウォリアーに攻撃! ドラギオン・インパクト!」
戦闘破壊耐性を得ている為に生き残った《ガントレット・ウォリアー》に、トライデント・ドラギオンから第二の攻撃が届く。その一撃は半分程度しか止められず、またもや俺のライフを大きく削った。
「くそっ……!」
遊矢LP2200→800
「これでトドメだ、ドラギオン・インパクト!」
トライデント・ドラギオンによる最後の攻撃がガントレット・ウォリアーに迫り、結果は今までと変わらずに半分しかその威力を減ずることは出来ない。残り半分は俺へと襲いかかり、その身体を炎に包み込む……前に、カードの束が俺を守ってくれていた。
「……伏せてあった《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」
《ダークエンド・ドラゴン》の効果により、フィールドががら空きになっても大丈夫なようにしていたが、そのことが功を労したようだ。
「……まさか三回攻撃を防ぎきるとは、ね。ターンを終了するよ」
「俺のターン……ドロー!」
今までのドラゴン族と比べても、さらに巨大な《トライデント・ドラギオン》が俺を威圧する。あの巨大なドラゴンが、俺が選択しなかった可能性の象徴なのだとすれば――
――俺は【機械戦士】と彼らの手によって仲間になったカードとともに、あの巨大なドラゴンを打ち破ってやる……!
「俺は《ハイパー・シンクロン》を召喚!」
ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF1200
青色のロボットのような姿をしたチューナーモンスター、《ハイパー・シンクロン》が召喚されるや否や、早くもシンクロ召喚の態勢に入った。
「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、レベル4の《ハイパー・シンクロン》をチューニング!」
ハイパー・シンクロンの背中にあるエンジンが響き、胸部にあるパーツが開くと四つの光の球がガントレット・ウォリアーを包み込む。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500
更なるシンクロ召喚が行われたのは黄色のボディを持つラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》の出番であり、その鋼鉄の身体から内部にいるドラゴンが嘶いた。
「今度はその機械竜かい?」
「いや、まだまだ! パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」
俺がデッキから選んだ装備魔法カードは、《団結の力》・魔界の足枷》・《シンクロ・ヒーロー》の三種類で、吹雪さんに裏側で三枚を見せる。
「右のカード、かな」
効果によって手札に加えられたのは、攻撃力を500ポイントアップさせてレベルを1上げる、《シンクロ・ヒーロー》。装備をしてもトライデント・ドラギオンは倒せないが、この装備魔法こそが俺の待ち望んだカードだった。
「パワー・ツール・ドラゴンに《シンクロ・ヒーロー》を装備し、通常魔法《シンクロ・チェンジ》! パワー・ツール・ドラゴンのレベルは8……よって、エクストラデッキの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を特殊召喚する!」
ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400
通常魔法《シンクロ・チェンジ》によって、パワー・ツール・ドラゴンの装甲板と《シンクロ・ヒーロー》が剥がれていき、その内部からドラゴンが姿を現した。シンクロ召喚ではないのでその効果は発動されないが、俺は更なる魔法カードを発動した。
「更に《ミラクルシンクロフュージョン》! ライフ・ストリーム・ドラゴンとスピード・ウォリアー、お前たちの力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」
波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000
俺の手札を全て使い切ったことにより、遂に融合召喚されるこのデッキの切り札《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。俺を守りながらも、槍を構えて巨大な《トライデント・ドラギオン》に立ち向かう姿は、まさしく切り札という姿に相応しい。
「ドラゴエクィテスか……僕の《トライデント・ドラギオン》の攻撃力を超えたね」
「……攻撃力を超えるだけだったら《パワー・ツール・ドラゴン》にも出来たさ。俺がこいつを召喚したのは、このターンで終わらせるためだ!」
この切り札には、このデュエルを終わらせる効果が未だに残っている。吹雪さんのライフポイントは1000ポイント、充分に削りきることが可能だ……!
「ドラゴエクィテスは、墓地のドラゴン族シンクロモンスターを除外することにより、そのモンスターの効果を得る! 吹雪さんの墓地の《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を除外し、その効果を得る!」
「僕のカードを!?」
波動竜騎士 ドラゴエクィテスが、半透明のエクスプロード・ウィング・ドラゴンを除外し、その翼をエクスプロード・ウィング・ドラゴンと同じものとする。付近に爆発を起こしながら、ドラゴエクィテスはトライデント・ドラギオンに向かっていく。
「バトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスでトライデント・ドラギオンに攻撃! エクスプロード・ジャベリン!」
ただ戦闘破壊するだけでは、たかだか吹雪さんのライフポイントを200ポイント削るのみで終わる。だが、ドラゴエクィテスが放った槍はトライデント・ドラギオンを貫いた後、まだまだ止まりはしなかった。
「ドラゴエクィテス以下の攻撃力のモンスターとバトルした時、そのモンスターを破壊して攻撃力分のダメージを与える! ……俺は機械戦士たちと共に進む」
俺の言葉とともに、トライデント・ドラギオンに刺さっていた槍が爆発すると、トライデント・ドラギオンごと吹雪さんのライフポイントを削りきった。
吹雪LP1000→0
「アスリンの前で負けちゃったか、流石は我が義弟だ」
「義弟じゃないですって」
何年間経っても様付けする奴と一緒で、どうにも吹雪さんもその呼び方を変える気は無いらしい。そして、その【機械戦士+ドラゴン族】デッキを作ってくれたことに、感謝の言葉を伝えようとした時――
――襲いかかってくる。
オブライエンとのデュエルの時にも感じた、身体中から全てのエネルギーが吸い取られるような感覚。その感覚に耐えることは出来なかったが、二度目ということもあってか膝を着くぐらいで済ませる。
「遊矢、兄さん!」
デュエルをしていなかった明日香が、膝を着いた俺と倒れた吹雪さんの元に駆け寄るが、俺はそれを制して明日香に右腕を見せた。もちろんそこには、外すことの出来ないデス・ベルトが輝いている。
「……保健室でジムと話した……この現象は、デス・ベルトが原因だと」
先のデス・デュエルで倒れていた俺とジムだったが、保健室でただ寝ている訳ではない。デス・デュエルとデス・ベルトについて、出来うる限りの計算を行っていた。
「……俺は動けない、ジムに知らせてくれ。『思った通りだった』、って」
彼ももう退院していることだろう、黒幕の目を欺くために寝ているフリをしていただけなのだから。そして、保健室でジムが見ている計測器から、このデス・ベルトの集計地点を導き出せる。
ジムとの計画通りに行ったことをほくそ笑むと、俺はしばし意識を失った。
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