クラディールに憑依しました
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彼が行動を開始しました
第十一層タフト
狩を終えてシリカが帰った後、サチが夕食時になっても部屋から降りてこなかった。
暫く待って見たがまったく降りてくる気配が無い。それもその筈、サチはこの時既に宿を抜け出した後だった。
サチが部屋に居ないと気付き、ギルドメンバーのリストからサチの現在位置を確認したが居場所は表示されない。
現在位置が表示されない場合は迷宮区やクエストの最中である可能性が高い。
ケイタ達にサチと連絡が取れない事を告げるとサチが無断で行動した理由で少し言い争いになった。
最終的にはサチに強制してきた片手剣への転向が原因であり、それぞれ感情の行き違いがあった事を話し合い認め合った。
そして直ぐに迷宮区へ向かう話になる。此処で俺の追跡スキルを使えば少し前まで一緒に居たサチを追う事は簡単だ。
しかし、俺の本当のレベルを此処で明かす訳には行かない。話してしまえば彼らは更に俺とサチに依存して何もしなくなるだろう。
「ソロで活動していた時の話だけど、迷宮区以外にも現在位置が表示されない場所に心当たりがある。俺はそこを探りたい」
「わかった。キリトはその心当たりって所を探してくれ、僕達は迷宮区へ行く」
俺は暫く宿に残りメニュー画面からケイタ達の現在位置を表示して迷宮区へと向かう様子を眺めていた。
ギルドメンバーの誰かが俺の行動を疑って戻って来ないか次々とメニュー画面を切り替える
暫く様子を見て引き返せない所まで確認して行動を開始する。追跡スキルを発動させサチの足跡を特定した。
「ようキー坊。サチが行方不明になったそうだナ、アーちゃんが心配してたゾ。詳しい話が聞きたイ」
宿から飛び出そうとした瞬間、俺の出鼻を挫いたのは鼠のアルゴだった。
黒猫団の誰かからアスナにまで連絡が行ったか――――………………。
今アスナ達がサチと接触するのは不味い。片手剣への転向が原因だと知られたら、アスナは強引な引き抜きに出るだろう。
血盟騎士団の副団長様なら、それくらいの力技なんてどうとでもなる。サチはシリカとも仲が良いし反対する理由の方が少ない。
もしもサチが血盟騎士団に入団したら黒猫団はどうなる?
今までリアルで同じ学校に通って居たからこそ、黒猫団は此処までやって来れた。
もう少し、もう少し頑張れば黒猫団はギルドホームを手に入れて、今よりもっと攻略に打ち込むことが出来る筈だ。
サチとアスナを会わせる訳には行かない。
「サチは片手剣の転向で悩んでいた。何も言わず出て行ったのは、それに気付けなかった俺のせいだ。あまり大事にしたくない」
「アーちゃん達の現在地は黒鉄宮に移動していル。アカウントの確認だナ、『大事にしてくれるな』と言って聞くとは思えなイ」
「何とかならないか? お前が追跡スキルの協力をしなければ十万コルは出せるぞ?」
「呼び出して話を付けてやっても良いゾ? キー坊の味方にもなろうカ? 五十万コルでナ」
「高すぎる。二十万コルだ。今黒猫団を崩壊させたくはない」
「オレっちがアーちゃんに嫌われるし四十万コルだナ」
「三十万コル。これ以上は出せない」
黒猫団がギルドホームを買う為に貯め込んだ二十万コルと合わせれば、はじまりの街で立派なギルドホームが買える金額だ。
コレで駄目ならもうアルゴには何も期待できない、情報屋としての付き合いも潮時だな。
「少々足りないガ、他ならぬキー坊の頼みダ、それで手を打とうじゃないカ、転移門のカフェテリアで待ち合わせだナ」
………………
…………
……
リズと一緒に第十一層の転移門を抜けるとアルゴに呼び止められた。
「おーイ、アーちゃん、リズ、こっちダ」
カフェテリアから手を振るアルゴと――――その隣に座る黒い影、キリトだ。
既にクリアされた階層だから人気も少ないが、どこからか妙な視線を感じる。
アルゴ達に近付くと、その視線がキリトとアルゴから向けられている事に気づいた。
何故この二人から? まるで京都の家で親戚達に会った時の様な、気分の悪い感覚が蘇って来る。
デスゲーム開始直後の、はじまりの街で宿屋に篭っていた――――あの焦燥感が。
「取り合えず座ってくレ、現状の確認ダ、アーちゃんから頼ム」
「………………わたし達はシリカちゃんから連絡を受けて黒鉄宮で全員の名前を確認してきたの。
同じ名前の人が何人か居たけど、死亡時刻が数日前から数ヶ月前だったわ、全員無事よ」
「ふム、こっちはアーちゃんから連絡を受けた後でキー坊と連絡を取っタ、そこで――――――」
「そこからは俺が話すよ、サチと連絡が取れなくなったのは今日の狩が終わって解散した後の事だった。
直ぐに月夜の黒猫団メンバーで迷宮区へ探しに行こうって話しになったけど、
俺はフィールドにも連絡が取れなくなる場所があると言って別行動をさせて貰った、そこでアルゴと合流した。
アスナ達が動いてるって知ったのはその時になってからだ。まぁ、もう少し考えれば分かってた筈なんだ。
シリカから連絡が行ってアスナ達が動き出す事ぐらい…………」
嫌な言葉の切り方――――まるでわたし達が邪魔者だと言わんばかりの視線が肌に刺さる。
「…………まるであたし達には手伝って欲しくないみたいな言い方ね」
リズも嫌な空気に気付いたみたいだ。
「悪いがそのとおりだ。暫くサチに会うのは止めて欲しい」
「ちょっとッ!? あんた何様なのッ!? 何であんたにサチと会う許可を取らなきゃならないのよッ!?」
リズが両手で机を叩き、キリトに食って掛かる。
「リズ。ちょっと待って――――――――理由は聞かせて貰えるんでしょうね?」
出来るだけ冷静に、まだ。まだ押えなさい。
「あぁ、理由は月夜の黒猫団は今大事な時期にある。もう少しでギルドホームを手に入れて攻略にも力を入れられる。
サチの片手剣への転向が上手く行ってなかった原因は俺にもある。それでギルド内の雰囲気が悪かったのも事実だ。
けど、サチが居なくなった事で月夜の黒猫団は今、一つになろうとしている。今までに無かった自主性も見せた。
サチが戻って来たら、きっと今よりも、みんなと助け合って行ける。もっと前に進めるかもしれない。
だから、だからこそ――――――サチを月夜の黒猫団から引き抜かれる訳には行かない。手を引いてくれ」
「あんたはッ!! サチがどんな気持ちで黒猫団に残ってるか解ってて言ってるのッ!?」
「………………解っているつもりだ。全部とは言わないけど……同じギルドメンバーとしていつも傍に居た。
だけど、俺は黒猫団と――――サチやケイタ達と一緒に居たい。少しの間だけで良い、サチとは会わないでくれ」
これ以上は時間の無駄ね。
「リズ。もう良いよ…………こんな所で時間を潰すよりも早くサチを探しに行きましょう――――アルゴさん?」
「すまんナ。アーちゃん。急な仕事で一緒に行けなくなっタ」
アルゴさんがチラッとキリトを見た…………そう言う事。
「――――いったいいくら積んだの?」
「三十万コルだナ」
「はぁ!? あんたどんだけ金使ってんのよ!? 転移結晶六個分ッ!?」
「どう言う心算かしら? サチを探すにしても人手は多い方が良い筈よ? 何故わたし達の邪魔をするの?」
「俺とアルゴには追跡スキルがある。サチの足跡を辿れば直ぐにでも見つかるさ」
「…………そう、第十層でアルゴさんが使ってたあのスキル――――だからこんな所で無駄話する余裕があったのね」
「じゃあ、何で言わなかったの? あんたの――――月夜の黒猫団は迷宮区まで行ったんでしょ?」
「彼等のレベルなら第十一層の迷宮区ぐらいソロでも大丈夫だよ」
「……あんたねぇ、いつまでレベルを黙ってるつもりなの? いつか手痛いしっぺ返しを食らうわよ?」
「このままじゃ駄目なのは解ってる。でもそれは今じゃない」
「――――もう良いわ。茶番は此処までよ。キリト君。わたしとデュエルをしましょう。
わたしが勝ったら、今すぐサチの所まで案内して、サチはわたし達血盟騎士団で引き取ります。
あなたが勝ったら、わたし達は手を引くわ」
「血盟騎士団副団長様のお言葉だ、二言は無いよな?」
「もちろんよ」
わたしはキリトとカフェテリアを離れ、転移門広場の中央へと移動した。
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