クラディールに憑依しました
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しあわせになれる場所を探しました
最前線の宿屋にて
「あれ? シリカちゃんからメールだ」
「お? あたしにも来た」
――――――
先程、サチさんの位置情報が出なくなりました。何か知りませんか?
月夜の黒猫団ギルドメンバーリストやフレンドリストからも確認が取れないので、
ケイタさん達は迷宮区を探すそうです。
あたしはクラディールさんと合流したので一緒に探してきます。
連絡の届かない所に行くので遅くなります。
――――――
アスナは直ぐに合流しようと返信を送ったが、既にシリカへの返信は届かなくなっていた。
「――――大変だよ! わたし達も探しに行かなきゃ!」
「いやいや!? それよりシリカと二人っきりってのが不味いでしょ!?
あいつ絶対何かやらかすわよ!?」
「ああ!? ――――でも、サチを探す為だよ、きっと……大丈夫!」
「アスナ…………自分も騙せない嘘は相手を不快にするのよ?」
「けど――――とりあえず、わたし達も探しに行きましょう」
「でも探すって言っても何処を探すのよ? 位置情報が出ない場所って結構あるわよ?」
「先ずは黒鉄宮で生存の確認、アルゴさんにも探して貰おう」
アルゴへメールを送り、アスナとリズは転移門からはじまりの街を目指した。
黒鉄宮にて。
「リズは月夜の黒猫団のメンバーの名前って覚えてる?」
「えっと、ケイタ、ダッカー、…………ササマルに――――」
「テツオだったよね? リズと同じ盾持ちなんだから覚えておかないと」
「あたしは元々攻撃スタイルは片手メイスで盾無しのスピードタイプだったのよ。
シリカやあいつと狩をする様になってから、何と無く装備してるだけよ」
「……シリカちゃんは片手短剣で盾無し、そして軽業スキルを持ってる。
盾を持たせると死にスキルなるし、ピナの事を考えると自由に動けないと危ない。
わたしも盾を装備できるけど、スピードが出なくなるし。
最近はリズが盾を装備してくれるから、安心できるんだよ?」
「――――あたしの考えじゃないわ、あいつよ」
「え?」
「あいつやシリカと狩をする様になってから、あいつ意図的に盾を装備したり外したりしてたの。
スイッチして後ろで回復ポーション飲んでると、HP回復するまで、じっと待ってるでしょ?
するとアスナ達が戦ってる姿が良く見えるのよね。
あいつが盾を装備してる時、
あたしはHPが完全回復するまで、誰からもスイッチで呼ばれないの。
完全回復したらシリカとスイッチして交代してたわ。
けどあいつが両手剣で盾を外してる時、みんなのHPも減るのが早くてさ、
あたしもHPが完全回復しない内にスイッチで交代するの。
狩が終わってさ、盾一枚でこんなに変わる物なんだなって、
そんな事を考えてたら、あいつ盾を差し出してきたのよ。『良かったら使ってみるか?』って。
そこまでされてやっと気付いたのよ、あぁ、意図的だったんだって。
まぁ、最初から『盾を使え』なんて言われたら、あたし意地でも盾なんか装備しなかったわ」
「それで盾を装備してたんだ…………」
「流石に雑魚を相手にしてる時は外してるけどね、
やっぱり安心して回復ポーションを飲む時間が欲しいじゃない?
スイッチを仕掛けるタイミングも増えるしさ」
「そうだね、とても助かってるよ」
「さぁ、さっさと名前を確認して、サチを探しに行きましょう」
「うん、急ごうか」
そこへアルゴから返信が届いた。
キー坊と一緒に第十一層タフトで待っていル。
………………
…………
……
主街区の外れにある水路。
その入り口よりも更に上流の水門にシリカを連れて来た。
「サチは恐らくこの先に居る。だが見つけても声を掛けるな。
誰かが迎えに来るか、サチが自分から帰るまで待つんだ」
「…………どうしてそんな事をするんですか? 一緒に帰れば良いじゃないですか」
「サチが自分の意思で逃げ出してたら、此処で俺達が連れ帰っても――――次は飛び降りるかもしれない」
「……――逃げ出す? 飛び降りる? ……どうしてですか!?」
「少し前に、安全だと言われていた狩場で一人の女性プレイヤーが死んだ。
運悪く一人になった所を大量のリポップに巻き込まれたんだ、他にも狩をしてたプレイヤーも居たが、
あっと言う間だったらしい…………そいつがサチの友達だった。
――――そして次に運悪く死ぬのは自分かもしれないってな。
サチの性格を考えると、そう思ってても不思議じゃないし。
このデスゲームから逃げ出せる場所を探しているのかもしれない」
「…………サチさんはもう充分強いですし、キリトさんだって傍に居ます!
大丈夫だって、ぜったい大丈夫だって言ったら良いじゃないですか!
どうして助けてあげないんですか? どうして励まさないんですか!?」
ぽろぽろと涙を零しながらシリカが訴える。
「シリカ。俺達がサチと会えるのは、週に数回会えるか程度だろ?
サチが立ち直るまで毎日傍に居てやれる訳じゃないんだ。
お前が月夜の黒猫団に入るのか?
お前は自分に憑いて回る噂で、血盟騎士団以外のギルドには門前払いだったんだろ?
今のケイタ達に、お前をその噂から守れるだけの力があるか?
血盟騎士団の後ろ盾が無くなれば、サチまでそう言う目で見られるんじゃないのか?
今のサチを俺達が助けちゃ駄目だ、駄目なんだ。
…………せめてギルドが一緒だったら事務側に回して、シリカと一緒に仕事をさせるんだがな。
サチは月夜の黒猫団のメンバーだ。血盟騎士団である俺達が口を出して良い話じゃない」
「でも……でも、サチさんは友達です!」
「それなら、こっそり話をしておいてくれないか? 月夜の黒猫団を捨てて血盟騎士団に入れってな」
「――――それはッ!?」
シリカは驚き、何も言えずうつむいて、そのまま押し黙った。
「深く考えるな。みんな自分の事だけで精一杯なんだ。
サチの事なんて、他人の事なんて、そうなれたら良いねって程度で良いんだよ。
生きて行くには、本人の目標と努力が必要なんだ。
俺達がサチの事を決めちゃ駄目だ。サチの事はサチ本人が決めなきゃいけないんだ。
サチが選んでサチが決めたら、俺達はそれを助けてやるだけさ」
「…………はい」
暫く待ってみたがシリカの涙は止まりそうに無い。
「なぁ、シリカ。やりたい事があるなら、どうすれば出来るか調べなきゃいけない。
俺達がサチを助ける為には、サチを血盟騎士団に誘う事しかできない。
今俺達に出来る事はそれだけだ。傍に居られないなら手を伸ばせば良い。
後はサチが俺達の手を掴んでくれるのを待つだけだ。
誰だって死にたくない。楽しみたい。幸せになりたい。一度は思う事だ。
サチが俺達の手の中にそれを見つけられるなら、必ず手を取ってくれる。
シリカ、お前は何を思う? 答えを出せるのなら、後は調べて努力して幸せになれ」
暫くするとシリカが涙を拭いて顔を上げた。
「…………あたしの答えはまだ判りません。
でも、いつか見つけたいと思います。あたしが幸せになれる場所。
――――できれば、あたしの好きな人と一緒に」
「そうかい、せいぜい頑張れ。
さて、かなり時間食ったな。奥に行くぞ」
「……………………………………精一杯がスルーされました」
「何か言ったか?」
「な、何でもありません!」
シリカを後ろから抱えて隠蔽スキルと忍び足スキルを発動させた。
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