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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その二十五


第三幕その二十五

「恥ずかしがって私を見ない。キャベツの様に麻が」
「朝じゃないよな」
「ああ」
 皆このことにも気付いた。
「絶対にな」
「麻だと言ったぞ、あれは」
「私の身体を抱き眼差しをぴくぴくとさせ白い犬もて吹きつけるのは」
「犬って」
「ぴくぴくとなんて!?」
 これまた誰にとっても全く意味のわからない言葉であった。どうしてもであった。
「どういうこと!?」
「それって」
「かの肝臓の大樹に実った私の食べていた果物の如き木と馬であった」
「意味がわからない」
「歌になってないな」
「そうだな」
 皆最早何が何なのか理解不能だった。
「歌じゃないな」
「有り得ないな」
「ええ、それもこれもだ」
 ここでやっと歌い終わったベックメッサーは忌々しげに顔を歪ませて言うのだった。
「全部靴屋のせいだ」
「靴屋!?」
「ザックスさんか?」
「その通り。この歌はそもそも私の歌ではない」
 彼はここで言うのだった。
「ここで皆から崇められている靴屋が私にくれたものだ」
「嘘だろ?」
「なあ」
「ザックスさんがそんなことをな」
「だが事実です」
 彼はあくまで主張する。
「この恥知らずが私に押し付け」
「この人が」
 ベックメッサーがザックスを指差すと自然に皆彼を見た。視線が集中する。
「そうだ。おかげで酷い目に遭った、全く」
 最後にこう言うと姿を消した。憤然としてその場を去るのだった。
 だが残された民衆達は違った。怪訝な顔になりそのうえで言い合うのだった。
「ザックスさんが今の歌を作った!?」
「おかしいよな」
「ああ」
 こう口々に言い合うのだった。
「話が通じないっていうかな」
「有り得ないよな」
「どうなっているんだ?」
「ザックスさん」
 民衆達の言葉を受けてマイスタージンガー達も話を交える。
「どういうわけでしょうか」
「そうです」
「あの歌は貴方が?」
 コートナーだけでなくナハティガルやフォーゲルゲザングも話すのだった。
「だとしたら奇怪な」
「どういうことでしょうか」
 オルテルとフォルツも首を傾げる。
「これは一体」
「何事なのか」
「はい」
 ザックスはこれまで一言も話さずただ話を見ているだけであった。しかしここでようやく一同の前に出てそのうえで話をはじめるのだった。
「この歌は私のものではありません」
「ザックスさんのものではない?」
「そうです」
 こう話すのだった。
「この歌は」
「では一体誰が?」
「この歌を」
「書記さんは誤解されているのです」
 ザックスはいぶかしむ彼等に対してまた話す。
「どうしてこういうことになったかは御本人から御聞き下さい」
「歌を貰って覚え間違えたかな」
「まあそういうところじゃないのか?」
「だよな」
 おおむね合っている話であった。
 
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