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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その二十四


第三幕その二十四

「これではだ。とても駄目だ」
「ではちょっと固めます」
「それでいいですか?」
「早くしてくれ」
 こう言って急かすのだった。
「早くだ。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「すぐに」
 こうして徒弟達がすぐに仕事をする。民衆達はその間ベックメッサーを見ながらあれこれと話をするのだった。
「あれ、町の書記さんじゃないか」
「そうだよな」
「ああ、何か普段と違うぞ」
 こう言い合うのだった。
「何ていうかな。姿勢が悪いし」
「それに何か神経質そうだな」
「神経質なのはいつものことだろ?」
 確かにそれもいつも通りであった。彼が神経質なことは町ではかなり有名である。融通が利かなくて口煩い書記として知られているのだ。
「それはな」
「まあそうだけれどな」
「けれど普段以上に」
 彼等の話は続いていく。
「何か今にも倒れそうだしな」
「昨日何かあったのかね?」
「さあ」
「静粛に、静粛に」
 ここで徒弟達があれこれ話をする民衆達に告げた。
「マイスタージンガーが歌われますので」
「お静かに」
 皆この言葉を受けて静かになる。そうしてそのうえでベックメッサーは土手の上に移りそこから歌いはじめる。ところがいきなり。
「私は薔薇色に輝いて」
「薔薇色!?」
「何それ」
 皆それを聴いてまず目を顰めさせた。
「大気は血と匂いに溢れえも知らぬ快さに溶け去っても庭は私をむかつかせ私は誘えり」
「何の歌なんだ、これって」
「しかも旋律もおかしいし」
「ああ、合っていない」
 また顔を見合わせることになった民衆達であった。
「この歌は」
「どうなっているんだ?」
「それにだ」
 マイスタージンガー達も奇妙に思いだした。
「あの書記さんの歌じゃないな」
「恥ある園に私はすまいし、黄金為す実と鉛の汁を」
「やっぱり妙だな」
「何か歌じゃないんじゃないのか?」
「恥さらしなる」
 ベックメッサーはさらに話していく。
「枝につるし私を首つる大樹があり」
「首吊り!?」
「ないだろ、それは」
「なあ」
 皆さらに顔色を変えていく。
「それが告白の歌か!?」
「何か歌詞間違えてるだろ」
「おまけに旋律は相変わらず滅茶苦茶だし」
「しかもこれあの人の歌か!?」
 こんな言葉も出されるのだった。
「もっとやたらと格式ばった歌だったよな」
「そうそう」
「もうあんまり堅苦しいんでどうにもならない程にな」
「そうだよな」
 また皆言い合う。
「だとしたら何であんな歌を?」
「飲み過ぎか?」
「私が恐ろしい奇蹟を語ろう。梯子の上に美しい女性が立っていたが」
 皆がいぶかしむ中でベックメッサーも次第に気付いてきた。
 
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