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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その二十六


第三幕その二十六

「そしてです」
「そして?」
 そんな予測をしながらまたザックスの話を聞くのだった。
「これ程美しく作られた歌を私のものだと言うことはとてもできません」
「おいおい、冗談だろ」
「あの歌が美しいって?」
「有り得ないよな」
「なあ」
 皆また口々に言い合っていく。
「そんなことがな」
「あんな歌がな」
「絶対にない」
 また言い合う彼等であった。しかしザックスはまた言うのだった。
「皆さんに言います」
「わし等に?」
「何て?」
「この歌は美しいのです」
 またこう話すのだった。
「本来とても」
「とても?」
「一見してすぐにわかるようにです」
 このことも話すザックスだった。
「書記さんが歪めたのです。ですが」
「ですが?」
「言葉と曲とがここで皆様の前で正しく歌われれば貴方達の御気に召されることはうけ合いです」
 ザックスはまた話す。
「それが出来る方こそこの歌の作者であり」
「この歌の?」
「その通り。その方こそ」
 彼はさらに話す。
「マイスタージンガーと言われて然るべき人であることを証明することになるでしょう」
「というとだ」
「まさかエヴァちゃんの?」
「だよね」
 民衆達もおおよそ話がわかってきたのだった。
「私は訴えられた故にことを明らかにしなければなりません」
「まあそうだよな」
「そういう形なんだしな」
「その証人たる人を選ばせて下さい」
 高らかな宣言だった。
「私の言葉の正しいことを知っていて証人になれる方」
「その方は!?」
「一体」
「ヴァルター=フォン=シュトルツィング殿」
 皆この名前が出るとはっとした。ザックスの今の言葉と共にヴァルターが民衆の前から進み出てきた。そうしてザックスに挨拶したうえで民衆達にも礼儀正しく精悍な騎士らしい仕草で挨拶をするのだった。
 ザックスはその彼の挨拶を受け。そのうえで静まり返った民衆達に対して話すのだった。
「ではこの方が証明して頂けます」
「その騎士殿がですか」
「その通りです」
 ザックスは今度はマイスター達に対して答えた。
「ですから。今ここで」
「ううむ。そういうことだったか」
「成程な」
 今のザックスの行動には民衆達だけでなくマイスタージンガー達も唸るしかなかった。ベックメッサーは民衆達の中に隠れながら彼を見るだけであった。忌々しげに。
「規則もまた時としてよきことが行われる場合には例外を許します」
「杓子定規じゃないってことだよな」
「それはかえってよくないよな」
「全くだ」
「規則は規則ではないのか?」
 しかしベックメッサーはその中で呟くのだった。
「規則は守られなければならない」
「それはまさに規則の有難みを考えることになるのです」
「そうか、そういう考えもあるな」
「そうだよな」
 民衆達は今のザックスの言葉に笑顔になる。
「それにザックスさんが仰るなら」
「間違いじゃないだろうな」
「そうだな」
 彼等は彼等で納得していく。ザックスはその中でまた話す。
 
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