IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年
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第08話
前書き
今回の話の後半、主に後半の四千文字くらいは重いというか何というか、自分の体験を書いたので見るか見ないかは自分で決めてください。
これからの物語に多少は影響するものの、見なくとも何とかなります。
そして、後書きに、その話を書いた経緯と理由を書こうと思っています。
気になる方は後書きを見てください。
必要な情報は全部前書きに書きます。
えと、次回の更新は土曜か日曜になります。
それでは本編どうぞ。
週明けの月曜日。ここは第二アリーナ。学年別トーナメントを二週間後に控えた今では、放課後のアリーナは練習する生徒で溢れかえっている。何故、みんな躍起になっているかというと『優勝した人が一夏と付き合える』という噂が流れているらしい。それは躍起になるわ、と俊吾さん。そんな中に混じって、二人の影が他のみんなとは違うオーラを出していた。鈴とセシリアである。
「さてと、学年別トーナメントまで2週間ってとこだし訓練しましょうかね」
「あらあら、鈴さん。ご機嫌よう」
全くもって白々しい。
「あら~、セシリアじゃない。どうしたの、こんな場所で?」
「それは鈴さんも一緒でしょう?私は、もちろん学年別トーナメントの練習ですわ」
「奇遇ね、私もなのよ。丁度良いし、久しぶりに模擬戦でもする?」
この二人、俊吾を交えた時に何度か模擬戦をしているが、ここ数日は部活などで予定が噛み合わなく、一緒に訓練もしていないといった状況だった。
「それは名案ですね。私も、鈴さんと久しぶりに手合わせしたかったですし」
二人はISを展開して、上昇しようとする。だが、一発の砲撃によってそれは阻まれた。
「ったく、誰よ。こんな事するの。って、分かりきってたか~。こんなことやるのは一人しかいないもんね」
鈴はそう言いながら、砲撃がきた方向を睨む。そこには予想通りの顔があった。ラウラである。転校初日に一夏の事を引っぱたいたので、一夏ヒロインズは友好的な感情は一切持ち合わせていない。
「っふ、甲龍にブルーティアーズか…………資料で見たほうがまだ強そうだったな」
「確かに、今の私たちでは完全に性能は引き出せていませんね。けれど、それはあなたも一緒ではなくて?」
ブルーティアーズの事を馬鹿にされた割には冷静だったセシリアだが、額に怒りマークが見える。前言撤回させてもらおう。ブチギレている。
「ふん、貴様らと一緒にするな。私は完全に性能を引き出せている」
「へ~、なのにドイツは第三世代機がトライアルなんだ~。私たちはトライアル段階、随分前に終わってるけどね~」
鈴もいつにも増して、皮肉全開である。そして、ラウラも今の一言にイラついたらしく、ピクっと反応した。
「量産機に負けるような奴を代表候補生にするなど、数だけが取り柄の国と古さが取り柄の国はよほど人材不足と見える」
こちらも皮肉全開である。全くもって恐ろしい連中だ。
「…………なんですって」
「…………おほほほ、勢い余って消し炭にしてしまうそうですわ」
完全に怒りモードに突入した二人。これを止められるのは一夏…………は無理であろう。火に油を注ぐだけの存在なのだから。となると、沈静化出来るのは俊吾くらいだろう。今、この場に居合わせないが。
「セシリア、こいつ知らない国にきていきなりいじめられたいそうよ?」
「それはそれは…………この国のマナーを教えて差し上げましょう。鈴さん♪」
変に乗り気のセシリア。他の生徒は避難を始めている。
「っは、所詮1足す1派2にしかならん。くだらん種馬の取り合いをしているメスは相手にすらならんな」
「………………よっぽど殺されたいらしいわね」
「…………………おほほほほほ」
一夏の事を馬鹿にされ、怒りの沸点を通り越した二人は今にも動き出しそうだ。セシリアに至っては、笑い続けている。とても恐ろしい構図である。
「さっさと来たらどうだ?こちらも暇ではないのでな」
「これは勢い余って殺しちゃっても問題ないわよね~。だって、あっちから挑発してるんだもの」
「そうですわね~、消し炭にしてしまえば証拠になりませんしね~」
「「…………よし、殺るか」」
その掛け声(?)で二人はラウラに飛びかかっていった。
◇ ◆ ◇ ◆
同時刻、俊吾は楯無に呼び出され生徒会室に来ていた。楯無にメールで呼び出されたのである。楯無の座っている椅子の机には沢山の資料が置いてある。色々と忙しいみたいだ。
「それで楯無さん、一体何の用事ですか?というか、どうやって俺のアドレス調べたんですか」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなさい。アドレスはちょちょっと調べたのよ」
ちょちょっとで調べられるのか、あんたは……。本当に良く分からんがハイスペックだな、この人。
「じゃあ、本題に入るわね」
仕切り直すように楯無は言った。が、顔が少し厳しい表情になったのであまりいい話題ではないのだろう。
「最近、街の方で不審者が増えてるみたいなの」
「…………はぁ、それで俺にどうしろと?」
「まだ話は終わってないわよ。流石の私でも街に不審者がいるだけで俊吾くんを呼び出さないわよ」
流石にそうだよね。本当にそれだけだったら、無言で帰るところだった。
「その不審者っていうのがどうもIS学園を探ってるみたいなの。しかも、デュノア社の社員みたいなのよね」
俊吾はピクっと反応した。
デュノア社が探っているってことはそういうことだよな……。くそ、早いな。昨日の今日で直ぐに行動するのか……。いや、もしかしたらシャルルが転校してからずっと探っていたのかもしれない。楯無さんだって最近って言ってるわけだし、ここ数日というわけではないな。となると、最初からバレるのを覚悟でシャルルを送り込んだか……。…………こんな事は思いたくないが、最悪の事態ではハニートラップでも使わせるつもりだったんじゃないんだろうか。いや、よそう。今は、目先の問題が先だ。
「デュノア社ですか……。何でまた大企業の人が来てるんですかね」
俊吾はあくまで知らない雰囲気を出す。シャルルの正体を知られるわけには行かない。約束したしな。
「……別に、嘘をつく必要はないんじゃないかしら?私だってシャルルくん、いえシャルル『ちゃん』の正体には気づいてるわよ?」
……何だって?昨日の話を聞かれていた?いや、盗聴器の類はなかったはずだ。簡易的にだが調べたんだ。
「何でって顔をしているわね」
俊吾が考えていると楯無がそう言ってきた。俊吾は完全に動揺が顔に出ていた。
「安心して。盗聴とかそういうのじゃないわ。独自に調べ上げたのよ。実は更識って裏では結構有名なのよ?」
裏って言うと裏社会だろうな…………。あれ、俺凄い人と知り合いなんじゃ…………。
「それで話を戻すけど、多分だけどその内、デュノア社の社長が接触してくるんじゃないかって思ってるの」
「社長自らですか?……って、考えればシャルルは実の息子って設定か。接触してきてもおかしくないってわけですか」
「そういうこと。しかも、仕事の関係で今日本に来ているみたいなの。可能性は大ね」
「俺の役割は社長に警戒、ってところですか」
「そうね。出来る限りシャルルちゃんに着いて安全を確保して欲しいの」
「安全って……そこまで強硬策に出てきますかね」
「最悪の事態も想像して動かないとやってけないわよ。予測できないんだから」
「そうですね……。でも、そこまでしてシャルルを守るって意味はあるんですか?」
「この学園の生徒だから、じゃダメ?この学園の生徒に危険な目にあって欲しくない。それだけなのよ」
そう言う楯無の目は真剣そのもので嘘ではないように俊吾には思われた。嘘でないと分かったら、俊吾に断る理由はない。
「了解です。全力でシャルルをサポートします。だけど、一夏にも協力を求めたほうがいいじゃないですか?」
「それもそうなんだけど、あの子ってこういう事向いてないじゃない?だから、今回は排除したの」
なるほど。確かにあいつは猪突猛進タイプだもんな。敵をブッ叩くとかそういう事の方が向いてるな。
話が終わり一段落したところで、生徒会室に電子音が鳴り響いた。それは携帯の音で、楯無の携帯が鳴っていた。メールだったようで、
「……俊吾くん、至急第二アリーナに向かって」
「……どうしたんですか?」
楯無の声のトーンが下がり、ただ事ではないと悟った俊吾は緊張しながら返事をした。
「鈴ちゃんとセシリアちゃんが転校生のラウラちゃんと模擬戦して、危ない状態になってるの」
そのセリフを聞いた俊吾は楯無に一礼をして、直ぐに第二アリーナに向かった。
◇ ◆ ◇ ◆
「はっ……はっ……はっ……!」
俊吾は第二アリーナまでの道を全力疾走していた。道行く生徒は何事かと俊吾を見るが、俊吾はそんなものは気にならなかった。
このタイミングで、あの転校生かよ!何かしらアクションを起こしてくると思ってたけど、こんなに早いとは。下手をすると、あいつは手加減をしないから命に関わるかもしれない。楯無さんの顔を見る限り、危ない状態になっているのは確かだ。
ものの数分で第二アリーナについた俊吾は、状況を確認する。
観客席は多くの生徒が押しかけ、満席に近い状態だった。通路もかなりの生徒がいてアリーナ内の状況を確認できない。何とか生徒を押しのけ、アリーナ内を見ると、鈴とセシリアが横たわっていた。詳しい状況は分からないが危ない状況なのは理解できた。
アリーナ中央では一夏とラウラが戦っていた。よく見ると、アリーナの防壁に穴があいている。俊吾はそこからアリーナ内に入り、鈴とセシリアを救助しようと思い、そこに駆け出した。
穴の近くには箒とシャルルがいて、どうすればいいか分からなくてあたふたしていた。俊吾は二人に駆け寄った。
「シャルル!二人を避難させるぞ!」
「う、うん!」
俊吾はシャルルを引き連れて、アリーナ内に侵入。そして、二人の元にISを展開して駆けつける。
「鈴さん!大丈夫!?」
「はっ……はっ……はっ…………」
鈴からの返事はなく、意識が朦朧としているのが確認できた。生体バイタルも低下している。俊吾はまずいと思い、セシリアの元に行ったシャルルにアイコンタクトを取る。タイミングを合わせて、同時にアリーナから脱出。観客席に二人を寝かしつけた。
「セシリアさんはどうだ?」
「息はしてるけど、段々呼吸が弱くなってる気がする……」
鈴とセシリアは同じ状況なようで、危険な状態になりつつあることが確認できた。俊吾は応急処置をしようと箒とシャルルに語りかける。
「箒さんは心肺蘇生法を。シャルルはAEDを持って来てくれ」
「だ、だが、私は心肺蘇生法なんてやったことがないぞ」
「とりあえずでいい。心臓マッサージをして人工呼吸。ただそれだけやればいい。あとはシャルルがAEDを持ってくるし、俺も先生を呼んでくる」
「それでいいなら……やろう」
「頼む」
周りを確認すると、シャルルと視線があい、互いに頷く。俊吾は先生を予備に行こうとする。だが、迷いが生じる。
このまま先生を呼びに行っても時間がかかる。シャルルがAEDを持ってくるにも時間がかかる。じゃあ、いっそ先生の元に連れていけばいいんじゃないか?だけど、どうやって二人を運ぶ?男手が二人いれば問題はないが、男は俺しかいない。だけど、モタモタしてると命に関わる状態だ。……………迷っている暇はない。
俊吾は校舎に向けた足を戻し、鈴とセシリアの元に戻る。シャルルはAEDを取りに行こうとしたが、俊吾が戻ったのを不審に思い戻ってくる。
「箒さん。心肺蘇生法はやらなくていい」
「じゃあ、一体どうする?」
「俺が二人を連れて行く」
「どうやって連れて行くんだ?二人を抱えられるのか?」
「抱えられるさ、こうすれば」
俊吾はISを展開した。そして、二人を抱え出入り口に飛ぼうとする。
「俊吾!指定範囲外でのISの使用は処罰の対象になっちゃうよ!」
シャルルはそう言って俊吾を止めた。だが俊吾は
「そんなの承知の上だ」
と言って、医療室のある校舎に向かった。シャルルが何かを言っていたが、俊吾は無視した。
ものの数分で校舎につき、二人を医療室の前の窓に連れて行った。そして、ISを解除して窓を叩く。すると、医療室の担当教師が来た。
「君!今ISを展開していたが、規約違反に―――」
教師はそう言ったが、俊吾の足元にいる二人を見て状況を把握し
「早く二人を中に入れなさい」
と言った。俊吾は二人を窓から医療室に入れた。教師は医療室の中に消えていった。俊吾は一安心したが、先ほどISを敷地外で使用しているのが見られたのか、他の教師が集まってくる。俊吾はこうなることが予想できていたので、驚かない。
「大海君、一緒に来てくれるね?」
集まって来た教師の一人がそう言う。俊吾は何も言わず頷いて、教師に連れられて行った。
◇ ◆ ◇ ◆
場所は医療室、一夏たちは鈴とセシリアの見舞いに来ていた。
「大丈夫か、2人とも?」
一夏は心配そうな声でそう尋ねた。
「ふん、別に大丈夫よ!あんたが助けに入らなくてもあのあと逆転してたのよ!」
「そうですわ!余計なお世話ですのよ!」
一夏の心配をよそに、2人の反論はとても元気なものだった。俊吾が二人を教師に預けたあと、適切な処置が行われ、大事には至らなかった。実際にこれだけ元気なのだ。
二人の台詞を聞いて一夏は安心した。
「何だ、そんな元気なら問題ないな。良かったよ」
アリーナ内で起こっていた一夏とラウラの騒動はあの後、千冬が戦いに乱入し、その場を沈静化させた。打鉄用のブレードを持っての乱入だったため、その場にいた全員が驚いていた。
「あれ?そういえば、俊吾は?」
ふと、鈴がこの場に俊吾がいないことに気づいた。
「そういえばそうですわね。俊吾さんはどちらに?」
セシリアも気になったようでそう言った。だが、誰もその問いに答えない。
「?」
「俊吾は……疲れて先に部屋に戻ったよ」
シャルルがどこか不安そうな表情でそう言った。
「全く、私たちの見舞いくらい来なさいよね」
鈴はその言葉を信じたようでそう言った。一夏はシャルルに抗議の目を向けたが、シャルルはただ困った顔をしただけだった。
この中で俊吾の今の状況を知っているのは一夏、箒、シャルルの三人である。鈴とセシリアはまだ起きてから時間が経ってないので、状況を知らない。自分たちがどのような状況であったかさえ。
「僕も疲れちゃったから、先に部屋に戻るね。二人共、お大事に」
シャルルはそう言って、医療室を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆
同時刻。俊吾は応接室で教師による取り調べを受けていた。
「大海君。君は、ISを指定範囲外で使用した。それに対しての弁明は?」
「ありません」
取り調べが始まって数十分、俊吾は言い訳を一切言わなかった。今回の件は完全に自分に非があるし、これを予想してISを使用したのだから。だから、全てを肯定してきた。
何故、ここまで大掛かりに取り調べを行っているかというと、ISは一機あれば国を滅ぼせるだけの戦力を有していう。だからこそ、国はISをしていないでしか使用できないように制限をした。それを破るとなると、国への反逆行為とみなされ、今の俊吾の様な状態になる。
教師が次の質問事項に移ろうとした時、応接室のドアが開いた。入ってきたのは千冬だった。
「織斑先生、どうしました?」
「この後の取り調べは私が行う。私のクラスの生徒なのでな」
千冬はそう言うと、教師は外に出て行った。千冬は、先ほど教師が座っていた場所に腰を下ろす。
「随分無茶をしたな、大海」
千冬は俊吾を真っ直ぐ見つめそう言った。俊吾はその瞳を受け止め、何も言わない。
「お前のことだから、こうなることは予想できたはずだ。何故、ISを無断使用した?」
俊吾は自分の言い分が言い訳になると思い、何も言わない。
「……オルコットと鳳は無事だ。今、起き上がれるまで回復した」
「!」
良かった……。二人共何ともなくて。生体バイタルが下がっているから、もしかしたらって思ってたけど杞憂だったみたいだ。本当に良かった……。もし、二人が死んでしまったら、俺は…………。
「今回のIS無断使用は二人を医療室に運ぶ為だったのだろう?」
「…………」
「無言は肯定と取るぞ?確かに、緊急事態でのISの使用については黙認している部分もある。今回も黙認できるレベルであるのは確かだ。だが、今回は目撃者が多すぎた。減刑という形になるだろう」
それでも正直ありがたい。こっちは何日か身柄を拘束される覚悟でISを使った。織斑先生が何らかの手回しをしてくれたということなのだろう。
「お前は私が手回ししたと思っているだろうがそれは違うぞ」
心を読まれたらしい。いや、顔に出てたんだろうな。自覚はないが。
「手回ししたのは更識だ」
楯無さんが……。何だか迷惑を掛けてしまった気がしてならない。どうも、ここ最近はそんな気がする。少し気を引き締めなければならないかもしれない。
「正直言って意外だった。お前と更識が知り合っていたとはな」
正直言って俺もあんな人と知り合えるとは思ってなかった。少し調べて分かったが、更識の名は有名なのは有名なのだが、表には殆ど情報が流れてこない。お陰で、更識という家がどんな家系なのか分からずじまいだ。
「おっと、脱線してしまったな。話を戻すが、今回の刑罰は軽くなる。留置所には入らないで済む」
あ、普通なら身柄拘束されるんだね、ISの無断使用は。今回はどうにか刑が軽くはなったけど、今後は多分無理だろうな。気を付けないと。
「それで今回の処罰は反省文だけだ」
「……え、それだけですか?」
「確かに、反省文だけだと思うかもしれないが、10枚書いてもらうからな」
「了解です……」
十枚か……え~と、原稿用紙だろうから一枚400文字。十枚だと4000文字か…………。大変だけど、これで済んだと思わないと。
「では、これで取り調べは終了だ。部屋に戻れ」
千冬はそう言ってソファーを立つ。そして、部屋を出る前に
「ああ、反省文の期限は金曜までだ」
と言って部屋を出ていった。
「…………帰るか」
俊吾はどこか疲れを感じ、早く部屋に戻りたいと思った。席を立ち、部屋の外に出る。すると、廊下にシャルルがいた。
「シャルル?何してるんだ、ここで」
「俊吾を待ってたんだよ。心配になっちゃって」
どこか申し訳なさそうに笑いながらシャルルは言った。
もしかして、取り調べが始まってからずっと外に……?
「あ、僕はついさっき来たところだから大丈夫だよ」
シャルルは俊吾の表情から意図を読み取り、そう言った。
「そっか…………。俺は寮に戻るけど、お前は?」
「僕も寮に戻るよ」
「じゃ、行くか」
俊吾とシャルルは歩きだした。
わざわざ待ってたってことは何か話でもあるのか?まぁ、変に詮索する意味もないし、話し始めるのを待つか。
二人は校舎の外に出て、寮への道へに来ていた。この場所は、緑が多くて生徒の憩いの場所になっている。そのまま少し歩くと、シャルルが口を開いた。
「そういえば、鳳さんとオルコットさん、目を覚ましたよ」
「そっか。良かった……」
織斑先生から先に聞いていたのは黙っておこう。
「…………ねえ、俊吾」
どこか迷うようにシャルルは言った。
「どうした?」
「…………ううん、やっぱり何でもない」
「そうか?言いたいことあったら何でも言えよ」
「分かった」
この時、シャルルは『何で自分を顧みないで二人を助けたの?』と言おうと思っていた。だが、前みたいに濁されると思ってその言葉を飲んだ。いつか、俊吾が自分から言ってくれればいいなと言う願いも一緒に。
その後、二人は雑談をしながら寮の自室に戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆
「は~……………」
俊吾は部屋に着くなり、ベットに横になり目を閉じた。
……あ~、何だろうな。今日は凄く疲れた。取り調べが効いたわけでもないしな……。何でだろ……。というか、理由は決まってるか。鈴さんとセシリアさんが心配で緊張しっぱなしだったもんな。とにかく、二人が無事でよかった…………。あ~、眠くなってきたな。少し寝るか。まだ制服だけどいっか…………。
俊吾はそのまま意識を手放した。
◇ ◆ ◇ ◆
………………ん?何か頭の下が柔らかい。それに、頭を撫でられているような気がする。……………………何だか、凄く心地いい。
いやいやいやいや、おかしいだろ。何で頭の下が柔らかいんだ?俺は枕を下に寝てない。それに、撫でられてるってのもおかしいだろ。
俊吾は目を開ける。そこには
「あ、俊吾くん。やっと起きたわね」
楯無がいた。
「…………いや、別に楯無さんがいて驚くことはないんですが、なんですかこの状況」
俊吾は自分の状況を確認する。楯無に膝枕をされながら、頭を撫でられている。
本当にどんな状況なんだ、これ…………。
「俊吾くんに話があったから部屋に来たんだけど、寝てたから膝枕しちゃった」
どう言う意味ですか?他人が寝てたら膝枕すんのか、あんたは。…………まぁ、いっか。お陰か分からんけど、熟睡できたし。
俊吾は体を起こした。
「理由はともあれ、ありがとございました、楯無さん。お陰で、熟睡できました」
「どういたしまして」
俊吾は、時間を確認する。すると、時計は9時を回っていて、晩飯抜きか……と思っていた。
「あ、夜ご飯だけどおにぎりあるわよ」
楯無は机の上を指差しながら言った。机の上には、おにぎり3個が乗った皿があった。
「なんかすいません。ご飯まで用意してもらって」
「いいのよ。ほら、さっさと食べちゃいなさい」
俊吾はそう言われ、椅子に座っておにぎりを食べる。適度に塩の味がして、ご飯も潰れていない。それでいて、スカスカじゃない。俊吾が思う最高のおにぎりだった。
ものの数分で完食した俊吾は、食べている間に気になったことを聞くことにした。
「あの、楯無さん。何時から部屋にいたんですか?」
「ん~と、大体7時半くらいかな」
じゃあ、部屋に来てすぐ膝枕したって考えると1時間以上していたことか……。足大丈夫なのかな……。
「あ、足なら大丈夫よ?私って痺れにくい体質なの」
俊吾の心の中を見透かしたようにそう言った。そして、足を動かす。本当に足は大丈夫のようだ。
「さて、落ち着いたところで本題に入るわね」
楯無は仕切り直すように言った。
「今日はごめんなさいね。緊急とは言え、俊吾くんに二人を助けるよう言っちゃって。それに、ISだって使わせちゃったし」
楯無はどこか申し訳なさそうに言った。
「取り調べのことに関して謝ってるなら、感謝するのは俺の方ですよ。刑が軽くなるように言ってくれたんですから」
「でも、原因を作ったのは私で……」
「それは違います。ISを使ったのは自分の意思です。取り調べだろうと身柄拘束だろうとされる覚悟で使いました。だから、楯無さんは気にしなくていいです」
俊吾は楯無に反論されないように、一気にそれを言った。その言葉を聞いた楯無は、どこか諦めたように言う。
「……ごめんね。野暮な事を聞いちゃったわね」
そう言って、楯無はどこか迷うようにしていた。そして
「俊吾くんはどうして自分を犠牲にしてまで二人を助けたの?」
と言った。
「……二人は正直言って危険な状況でした。先生を呼びに行って間に合うかわからないくらい。だから、俺がISを使って医療室に運びました」
「…………他には?」
俊吾はその一言に少し動揺した。
「他にって…………他にはありませんよ」
「嘘よ。だって、俊吾くん目が泳いでるもの」
そう言われ、自分が楯無を直視できなくなっているのに気づいた。
「………………確かに、この理由は二の次ですけど」
「けど?」
「…………他の理由は気軽に人に言えるものじゃないです。それに聞いても気分が悪くなるだけですよ」
俊吾はそう言ったが、楯無は全てを見透かしたように言った。
「でも、それは俊吾くんの中では解決してない、でしょ?」
俊吾はそう言われドキッとした。俊吾自身は自分の中で区切りをつけていたつもりだった。だけど、そう言われてドキッとしたということは、区切りがついていないということになる。自分自身が分からなくなる。けれど、それを楯無に悟られないようにする。この人には頼れない。そう思った。
「…………そんなことないですよ。区切りはちゃんとついてますよ。じゃないと、今も満足に生活できませんって」
そうは言ったけど、自分の中に穴が再び空いたような気がする。いや…………この穴は気がつかないようなふりをしていただけか。結局、俺は区切りをつけられないでいるのか……。
そんな俊吾の内心を見透かしているかのように、楯無は言った。
「ねぇ、俊吾くん。私ってそんなに頼りない?それとも、頼れるほど親密な関係になってない?」
そう言われ、俊吾はどうすればいいか分からなくなった。今の一言で、楯無に頼りたいと思った。全てを吐き出したいと。だけど、言いたくない自分もいる。訳が分からない葛藤が心の中で繰り広げられる。
そして、葛藤が続いている中、口が開く。
「俺は…………去年の夏休み………………」
いや、待て。これ以上はダメだ。楯無さんに変に気を遣わせる。ダメだダメだ。
「友達を…………亡くしました」
心の中とは正反対のことを言う。体が正直というのはこういう事なのだろうか。俺は、どこかで縋りたいと思っているのか……。
この言葉を言ったとき、楯無はその言葉を予想していたのか表情は変えなかった。予想していたのか或いは……。
「別に目の前で友達が亡くなったとか……そういうのじゃなかったんです。家で寛いでる時に、電話で友達―――優が事故で死んだって聞いて。その時は、心臓がうるさくて『嘘だ嘘だ』って言い聞かせて……。寝て明日になれば、元通りになるって思ったんです。けど、今思えばそう思ってたってことは、心のどこかで信じてたのかもしれないって思います」
俊吾は感情の歯止めが利かなく、全てを吐露し始めていた。
「それで次の日の朝、新聞見たら優の名前が書いてあって……。もう、何がなんだかわからなくて…………。優が死んだのが8月8日だったんですけど、お盆も近いからって火葬も早くて。クラスの奴で火葬前に顔を見に行ったんですよ。顔はすごく綺麗で、ただ寝ているみたいに感じて……。だけど、布が被っている体の方を見るとグチャグチャなのが見るだけでも分かって……」
涙が出てくる。
「顔を見てもやっぱりどこか信じられなくて、実感が一切湧かなくて……。…………正直言って、今も無いです。その後に予定通りに火葬されて、葬式をやりました。体のない葬式ってやっぱり何となく変で、クラスみんなで線香もあげました。二日やったんですけど、途中で思い出ビデオが流れたんです」
前が見えないくらい、涙が出てきた。
「その時、優との記憶が流れたんです。夏休み入る前に、夏休み中遊ぼうな、とか。もう、中学も終わりで高校でバラバラになるな、とか。高校入ってもみんなで遊ぼうなって。高校卒業したらみんなで旅行行こう、とか。気が早いなって思ったけど、それが楽しみで仕方なかったです。けど、けど、あいつはもういなくて。それを思い出すと、どうしてもやるせないっていうか、悔しいっていうか、悲しいっていうか。もう感情が分からないくらいグチャグチャになって。それでも、実感がなくて。それでも涙が出なくて」
もう、自分が何を話しているのか分からない。涙が出ているのはわかる。あの時は流れなかったのに。今、泣いている理由は何なんだろう。優が送れなかった高校生活を自分が何事もなく過ごしているから?あいつを哀れんでるから?あいつへの同情?そんな事を考えてると、優に対して失礼だろう、俺。でも、ダメだ。感情がグチャグチャになって何を考えてるのか分からない。
いつの間にか、俊吾のそばに楯無が来て、俊吾を抱きしめていた。俊吾はそれに気づかない。
「その後、中学終わるまで普通に過ごしました。けど、心には大きな穴が空いていて、現実を見ると辛くて……。もう、辛くて辛くて……。教室でみんな優の事を思い出して泣いてる奴がいるのに、俺はどこか冷静で、俺って優のなんだったんだろうって思い始めて」
「俊吾くん」
「友達だったはずなのに、親友だったはずなのに、居なくなっても悲しくなくて、悲しいって感情が分からなくなって……。もう、自分が分からなくて……」
「俊吾くん」
「俺って人間は親友の死を悲しんでやれないような人間なのかって思うと、自分が嫌で嫌で……。優がいないのに何事もなく過ごしている自分が嫌で……」
「俊吾くん!」
楯無は俊吾を強く抱きしめた。俊吾はやっと、自分が抱きしめられていることに気づく。そして、その暖かさの中で自分と向き合う。
「俺は……俺は…………もっと優と遊びたかった。高校に行っても帰りに合流して遊びたかった。文化祭とかでお互いの高校に行って、一緒に回ったりしたかった。予定してた卒業旅行もみんな一緒に行きたかった。二十になったらお酒を飲みに行きたかった。それで酔っ払って、朝帰りになったりして。その後、年取っても時々集まって遊びたかった」
俊吾は嗚咽と一緒に感情を吐き出す。
「死ぬまで…………一緒にいたかった……。何で……先に逝っちゃったんだよ……。畜生……。くそっ…………くそっ………………くそっ……………………!」
楯無はさらに強く俊吾を抱きしめた。俊吾は楯無に抱かれながら、涙と一緒に自分の感情を吐き出し続けた。
十数分後。泣き止んだ俊吾は酷い顔になっていた。だが、心はどこか晴れ晴れとしていた。
「楯無さん……ありがとうございました。やっと心のつっかえが取れた気がします」
「ううん。私も無理に言わせたみたいでごめんね。でも、俊吾くんが悩んでるのを知ってて、それをどうにかしたいって思って……それがこんな形になってごめんなさい」
「いえ、こんな形だったけど全部を吐き出せて良かったです。吐き出せなかったら、一生悩んでたと思うし」
「そう…………じゃあ、良かったわ」
優しい顔で楯無は微笑んだ。その微笑みは俊吾の心の中も暖かくした。
「一杯泣いて疲れたでしょう?今日はもう寝なさい」
楯無は俊吾をベットに寝かせる。そして、頭に触れて優しく撫でる。
「おやすみ、俊吾くん」
「…………おやすみなさい」
どこか夢心地でそう言った。ここ一年で一番心地よい眠りにつけたのは、そういうことなのだろう。
後書き
最後の話、友達が亡くなったっていうのは本当です。
今年の8月8日のことです。本編と違うのは俺が高校三年っていうことだけです。あとは全部一緒です。感情とかも全部。
書いた理由を書いていきます。
まず、この小説は気分転換というか、友達が死んだショックを埋めるために書いたものです。
それで主人公の俊吾くんは自分と重ねて書いていました。まぁ、オリ主で書いているので当たり前なのですが。
そして、書いている途中で自分の中で葛藤がありまして『この話を書くか書かないか』で迷ったんです。書いたら、みなさんが変な気分になる。けど、これを書かないと俺じゃない。
結局は書いたわけですが、これを書かないと俊吾くんを主人公として書いていけないような気がしたんです。
自分のこんな感情に付き合わせてすいません。
ですが、やっぱりすっきりしている自分がいます。
高校が始まっても、やっぱり優のことが気になるし、こんな事友達にも言えないし。ずっと、吐き出したかったんです。
どこか文章がおかしかったりしたらすいません。
自分の中では区切りがついたし、もう問題はないです。
書いている途中のセリフ間の地の文は自分の状態でした。変に感じた方、すいません。
あ、実際に違う点は楯無さんのような人はいなかったです、はい。
あと、読者の皆さん。友達を家族を本当に大切にしてください。遊ぶときは全力で悔いのないように。いつ俺のようになるか分からないので、後悔しないで全力でみんなと遊んでください。
と、理由はこんな感じです。最後は、みんなへのメッセージでしたけど。
何か質問のある方はどうぞ。出来る限り答えていこうと思うので。
それでは、また次回。
今回の話を読んでくださった方、ありがとうございます。
心から感謝致します。
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