IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年
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第07話
前書き
第07話まで何事も無く更新できました。
このまま普通に更新できました。
ですが、一話一話でそこまで話が進んでいないような気がするのは俺だけでしょうか。
……………まあ、いいや。
では、今回の話はシャルルの正体がバレます。
どうぞ。
「一夏がオルコットさん達に勝てないのは、単に射撃武器の特性を理解できてないからだよ」
今日は土曜日。シャルルが転校してきて初めての週末である。場所は第三アリーナ。シャルルは一夏の練習に付き合い、俊吾はその様子を見ながら、武器の微調整を行っていた。コンソールを借りてきて、テストをしながら微調整を行う、ということをやっていた。
ちなみに、箒さん、セシリアさん、鈴さんは部活に行っているらしい。何部に入っているかは分からないが。
「う~ん、理解しているつもりなんだけどなぁ」
「いや、現にセシリアさんに勝ててないんだから理解してないんじゃないの?」
俊吾はコンソールを操作しながら言った。
「一夏の後付武装がないんだよね?」
「ああ、拡張領域がないらしい。ワンオフ・アビリティに大半持って行かれて、他の武装が使えないんだ」
「随分特殊なISだよね。まぁ、ワンオフ・アビリティを知れば納得といえば納得だけど」
それは俺も同じだ、シャルル。こいつの零落百夜にどれほど苦しめられたか…………。一夏、初心者の俺に手加減しないんだもん。いや、今は勝てますけどね。最初は負けたけど。
「じゃあ、一夏の一番の弱点である射撃武器の特性を良く知ってもらうか」
「そうだね。だったら、一夏に射撃武器を使ってもらったほうがいいよね?」
「ま、そうだな。習うより慣れろってこった」
「二人共、何を話してるんだ?」
俊吾とシャルルが話していると、一夏がそう聞いてきた。
「一夏に銃系統の武器を使わせるって話」
「だから習うより慣れろってことか……。でも、そんな事出来るのか?」
「使用者がアンロックした場合は使えるよ。許可した人だけだけどね」
シャルルはライフルをコールして一夏に渡した。
「とりあえず、構えてみて」
「こ、こうか?」
一夏がぎこちなく構える。近接武器にしか慣れていないせいか、構えはどこかおかしかった。それを、シャルルが訂正していく。
「肘はもっと引いて……それで持ち方が……そうそう、そんな感じ。じゃ、やってみて」
シャルルは何か操作した。すると、次々と的が出てくる。一夏はその的を銃で売っていく。
点数の結果は40点満点中32点。8割だから合格点と言ったところだろう。
「で、どうだ、感想は?」
俊吾は一夏に近づきながら言った。
「うん、とにかく早いって感想だ」
「それが分かれば十分だ。銃は標準するのが早ければ早いほど有利になる。ある程度上に行けば、早いのが当たり前だ。専用機持ちは当たり前って覚えとけ。それで、早いって感想を持った一夏は遠距離選手にどんな戦法をとるんだ?」
俊吾は一夏を試すように言った。
「う~ん、俺の場合は近接武器オンリーだしなぁ……。俊吾みたいに何本もあれば投げるとか選択肢が増えるけど…………」
一夏は俊吾の問いに悩み、考えていた。そして、少し経ってから口を開いた。
「やっぱり、要所要所に瞬間加速を入れて相手の動揺を上手いこと誘って距離を詰めて、一気に攻撃……って感じかな。距離を取ってても狙撃で落とされるし、それしか方法は思いつかないかな」
「まぁ、及第点ってとこかな。俺がお前だったら、零落百夜一択だな」
「何でだ?」
「零落白夜はシールドエネルギーを消費して発動する。正直言ってリスクしかない。だけど、『バリア無効化攻撃』があるだろ?あれを有効活用しない点はない。要所要所で瞬間加速を使って、相手に接近。最初はわざと掠らせて油断を誘う。そして、完全に油断したところで一発零落白夜を使う。俺ならこうやるな」
「なるほど……。確かに、零落白夜を使って短時間決戦にしないと後々きついか……。よし、俊吾!一回模擬戦やらないか?」
「お前……俺がいった戦法を使う気じゃないだろうな?」
「な、なんでバレたんだ?」
「このタイミングで言われれば分かるだろ…………。まぁやってもいいけど、結果は見えてるんじゃないか?相手の戦法が分かるんだから」
「……今日はやめとく」
一夏は少しショボンとなった。すると、シャルルが俊吾に近づいていく。
「ねぇ、俊吾」
シャルルは俊吾に耳打ちした。
「どうした?」
俊吾もシャルルと同じ声量で話す。
「今、一夏に教えた戦法、まだ一夏には難しくない?」
「そうだな。今の一夏には難しいな」
「じゃあ、何で教えたの?」
「あと少しすれば、一夏は自ら改良を加えてあれを出来るようになっているよ。あいつはセンスの塊だ」
「それは分かるけど……俊吾自身が不利になっちゃわない?そこまで分かってるなら」
「俺が教えなくても、自分で辿り着くだろ、一夏は」
その後、シャルルは俊吾に何かを言おうとしたが、周りの声でそれは消された。
「ねぇ、あれってドイツの第三世代型IS?」
「うそ、本国でもトライアル段階だって聞いてたけど」
カタパルトに理不尽さんがいた。あ、いや、睨まないで!言い直すから!!!
……改めて、カタパルトにボーデビィッヒさんがいた。黒主体の色に赤いラインが入ったIS。特徴は肩に大きなカノンを背負っていることだろう。おそらく、超電磁砲とにたようなものだと俺は思う。
俊吾がラウラのISの分析をしていると、ラウラが声を飛ばしてきた。
『お前も専用機持ちらしいな』
このセリフは一夏に向けてだよね。だったら、俺は黙っておこう。面倒事になりそうだし。
「だったら何だよ」
『私と戦え』
「嫌だね、戦う理由もない」
『お前には無くとも…………こちらにはあるんだ!!!』
そう言うと、ラウラのカノンから弾が発射された。一夏と話している間に、チャージをしていたのだろう。一夏は完全に不意をつかれ、完全に無防備だった。当たるかと思われたが、シャルルがそれに割り込みシールドでカノンの弾を弾いた。
―――ビュオン!!!
……………………あの~、目の前を弾が通行していったんですけど。これ言っちゃいけませんかね?下手したら死ぬところだったんだけど。一夏とシャルルはIS展開してるけど、俺生身なんだよね。さっきまで、武器の微調整しててISにコンソール繋いでたからね。一夏に当たったって死にはしないんだから放置でよくない?逆に俺が死にそうだったんだけど。
そんな事を考えていると、シャルルとラウラが何やら話していた。
「ドイツってのは、随分と血気盛んなんだね。いくらトライアル段階の試験状態でも試射をいきなりするとは思わなかったよ」
「すまないな、こちらも時間がなくてな。良い的があったから、つい撃ってしまったんだ」
「あはは。次からは気をつけてね?」
「善処しよう」
二人共笑っているのに、どこか怖くて周りが何も干渉しなかった。打たれた張本人の一夏でさえビビっていた。
『そこの生徒!何をしている!組と出席番号を言え!』
「……今日の所は戻っておこう。次は覚悟しておけ」
ラウラはそう言って消えていった。
言っちゃダメだけど、今のフラグだよね。一夏に勝負挑んで負けるフラグだよね。俺には関係ないですけど。
「さて、切りがいいし今日はここまでにしようか」
俊吾は心で思っていることとは逆のことを言う。実際、早く帰りたかったというのもあるが、何よりも面倒だった。おそらく、さっきアナウンスした教師が来そうな気がするのだ。
「そうだね。じゃ、戻ろっか」
シャルルがそう言い、二人はそれに従い更衣室に向かった。更衣室に着くと、軽くシャワーを浴びるために服を脱ぐ。
「あ、僕、ちょっと用事があるから先に戻ってるね」
「おう、分かった」
シャルルはそう言って、更衣室を出て行った。
「なぁ、シャルルっていつもあんな感じなのか?」
シャワー室に入り、シャワーを浴びていると俊吾がふとそう言った。
「あんな感じって?」
「先に戻るのかって話だ。何か手馴れてるし」
「手馴れてるって…………まぁ、殆どっていうかいつも先に戻ってるな。それがどうした?」
「いや、練習に付き合うの久しぶりだから聞いてみた。シャルルと一緒にやるの初めてだしな。気になっただけだ」
それから二人は他愛もない話をして寮に戻った。
◇ ◆ ◇ ◆
「ふ~、疲れたなぁ…………。このあとはどうするかなぁ……」
寮に戻った俊吾は、自室で少し寛いでいた。することもなく、ベットに寝転がり、携帯を弄っていた。
「飯食ったあとに、シャワー浴びて端末使って調べ物でもするかな……」
夕食までは時間があるので、携帯を弄りながらダラダラしていた。すると、携帯にメールが来た。
「ん?一夏からか……どうしたんだ?」
内容を確認すると『話があるから部屋に来てくれ。出来るだけ早く』と書いてあった。
「あいつから話なんて珍しいな……。というか、今まで無かったよな」
とにかく行くか、と俊吾は思い部屋をあとにした。
◇ ◆ ◇ ◆
―――コンコン
一夏達の部屋についた俊吾はノックをして返答を待っていた。少しすると、一夏が出てきた。
「……外に誰もいないよな?」
「?ああ、いないけど」
「じゃあ、入ってくれ」
そう言いながら、俊吾の手を引いて半ば強引に部屋に入れた。引っ張られたせいで体勢を崩し、倒れそうになる。
「っとと。一夏、危ないだろ。入れるならもう少し普通に入れてくれ」
「悪い、ちょっと今回のことは誰にもバレたくなかったし」
「それって、どう言う意味だ?」
「まぁ、少し待ってくれ。その話は」
取り敢えず、俊吾は部屋の中を見渡す。すると、そこにはシャルルがいた。
「あれ、シャルルいたんだ……な…………?」
途中で声が消えそうになるが、なんとか言い切った。目の前にいるシャルルに違和感を感じる。それも、背筋がゾワゾワするタイプの違和感。
「お前……本当にシャルルか…………?」
よくシャルルの姿を見ると、今までシャルルにはなかったあるものがあった。胸である。シャルルは男のはずだから、本来無いはずである。
「あはは……僕はちゃんとシャルルだよ」
今の一言と一夏の話があるということから、何個か可能性はあるが自分が直感的に感じたことが正しそうだ。
「…………なるほどな。大体分かったよ。シャルルが何してたのかな」
その一言にシャルルは息を呑む。逆に一夏は何が何だか分からないでいた。
「俊吾……本当にわかったのか?その話をこれからしてもらおうと思ったんだが」
「俺も何となくだから、正しいとは言えないけどな。シャルルが良いって言うなら、俺の予想から話すけど」
シャルルは何も言わず、頷いた。
「まず、シャルルの家はデュノア社だな。デュノア社と言えば、名前を知らない人がいないくらい有名な会社だ。だけど、ここ数年経営不振に陥っている」
「い、いや、俊吾。デュノア社って世界シェア3位の筈だろ?なのに、なんで経営不振なんだ?」
お、流石の一夏でもそれくらいは知ってるか。
「じゃあ、ヒントだ。俺たちが……いや、セシリアさんと鈴さんも含めた俺たちのISは第何世代機だ?」
「第三世代機だな」
「じゃあ、シャルルは?」
「第二世代機だな」
「それから分かることは?」
「…………う~ん」
「………………まぁ、いい。説明を続けるぞ」
俊吾は一夏はやっぱり一夏だったということを確認して続けた。
「デュノア社は第二世代機のラファールをメインとしている。だけど、第三世代機だけはどうしても開発できない。世界では第三世代機の研究が進んでいるのにだ。だからこそ、デュノア社は経営不振に陥り始めた。それで、シャルルが何で『男装』していたかというと」
やはりシャルルは男装の部分に反応した。
「俺たちに接触しやすかったからだ。それで娘のシャルルに男装させてIS学園に送り込んだ。この時期になったのは男の作法と言うかそんな感じの事を教えられてたんだろう。男としての仕草に違和感がなかったしな。で、無事に入学して俺達とも無事に接触できた」
俊吾は少し一息入れ続ける。
「デュノア社としては、部屋割りで俺と一緒になるように言ったんだろうな。と言うか、俺に積極的に接触するように指示した。それがダメだったら一夏に接触して、ISのデータを盗むように言われた。大方そんな感じだろ」
俊吾は一息入れ、机の備え付けの椅子に座った。
「なぁ、俊吾。質問なんだけど」
「ん?どうした?」
「何で俺じゃなくて俊吾に積極的に接触しろって言ったんだ?」
「俺のISの方がラファールに似てるからだよ。拡張領域と後付武装が多い俺の黒天慟の方が参考になりやすいからだ」
「なるほど……」
一夏が納得して、取り敢えず場は収まった。
「それで、シャルル。俺の予想はこんな感じだがどうだ?」
シャルルは少し間を置いてから言った。
「殆ど当たりだよ。流石だね、俊吾」
シャルルは気分を落ち着けるように、深呼吸してから話し始めた。
「違うところは僕がデュノア社の娘じゃなくて愛人の子って所だよ」
一夏と俊吾は息を飲んだ。それを気にすることなくシャルルは続ける。
「僕のお母さんが病気で死んじゃって、誰にも引き取られないからってデュノア社に呼ばれたんだ。そこで、ISの適正審査をして適正が高いからデュノア社の養子っていう形で入ったんだ」
シャルルは少し悲しそうな顔をしながら続ける。
「それでデュノア社の正式な養子になったら、本妻の人に叩かれたんだ。何が起こったか分からなかったけど言われて気づいたよ。僕なんかが歓迎されてる訳がないってね。それで、デュノア社のテストパイロットをやらされたよ。まぁ、あとは俊吾の予想通りだね」
全てを言い終えたシャルルは少し晴れ晴れとした顔をしていた。
「ふぅ~、溜め込んでたこと全部言えてスッキリした。話聞いてくれてありがとうね、二人共」
シャルルは弱々しい笑みを浮かべながらそう言った。
今にも泣きそうな顔をしながら、シャルルは言った。自分のことを弱いと思っている。だけど、そんなことない。全てを受け入れ、全てを溜め込み、全てを背負い、全てと戦ってきたんだ。並大抵の人間に出来るものではない。シャルルは強い。俺なんかよりもよっぽどな。
「多分だけど、僕は本国に呼び戻されるだろうね。こんなことになっちゃったし」
「…………一つだけ、確認させてくれ」
俊吾は呟くように言った。
「どうしたの?」
「シャルルは、本国に、フランスに帰りたいか?」
「帰りたいもなにも、呼び戻されるんだもんそんなの関係な―――」
「建前じゃなくて、シャルルの本心を聞きたいんだ」
「…………僕は」
俊吾の一言に動揺したシャルルだったが、搾り出すように言った。
「……学園にいたいよ。男としての僕だったけど、僕で入れたことには変わりなかったし、何よりとても楽しかった」
「そっか…………それだけ聞ければ十分だ」
さて、ここからは一夏の出番だ。
「いたいならいればいいさ。最低三年間は絶対に学園に入れるんだから」
俊吾と入れ替わるように、一夏が話し始めた。俊吾の意図を感じ取ったのだろう。
「それって、どういう……?」
シャルルは動揺が収まりきってなかったが一夏は続ける。
「特記事項第二十二、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に属さない。本人の同意が無い場合。それらの外的介入は原則として許可されないものとする」
「よ、よく覚えてたね。特記事項なんて五十五個もあるのに」
「俺は博識なんだよ」
ちょっとドヤ顔を混ぜながら一夏がそう言った。ちなみに、俊吾は特記事項は最低限しか覚えていない。二十二に関しては『そんなのあったな~』レベルである。
「ま、そういうことだ。最低三年間は保証される。その間に何をするか考えればいいさ」
シャルルは二人を見て、泣き出しそうな顔で言う。
「ありがとう、二人共……。僕のために…………。すごく嬉しい……」
「お礼は最低限、事が済んでから聞きたいな。な、一夏」
「そうだな。全部とは言わないから、ある程度終わったら聞きたいな」
「うん、分かった」
目の端に溜まっていた涙を拭いながらシャルルは言った。これで少しは落ち着いただろと思ったが、突然ドアがノックされた。
「一夏さん?いらっしゃいますか?」
セシリアだった。時計を確認すると、7時。完全に夕飯時だ。
「ど、どうする?」
「とりあえず、一夏はセシリアさんを迎えろ。あと、話し合わせろよ」
「わ、分かった」
一夏はドアに向かう。その間に俊吾はシャルルの元に駆け寄り
「シャルルは布団の中に入ってくれ。話し合わせてくれよ?」
「分かったよ」
シャルルを布団の中にいれ、俊吾は定位置に戻った。そして、一夏がドアを開く。
「セシリア、一体どうした?」
「夕飯をご一緒にどうかと思いまして。……あら、俊吾さんですか?」
椅子に座っている俊吾に気づいたセシリアはそう言った。俊吾はわざと見つかりやすい場所にいたのだ。
「セシリアさん、こんばんは」
「こんばんは。何故、俊吾さんがこちらに?」
「ああ、それは一夏にシャルルの体調が悪いから手伝ってくれって言われて手伝いに来たんだ」
「あら、それは大変ですね。デュノアさんは大丈夫ですか?」
「一段落付いたし、あとは安静にしていれば大丈夫だと思うよ」
「そうですか。では、早めに部屋を出たほうがいいですわね」
「こっちも一段落付いたし、一夏はセシリアさんと一緒にご飯食べてきたらどうだ?」
「そうだな。そうさせてもらうよ」
「では、一夏さん♪行きましょうか♪♪」
セシリアは一夏の腕をとって部屋の外に連れ出した。そして、そのまま食堂に向かった。
「…………ひとまず、何とかなったか」
「よく咄嗟にあんな嘘思いついたね、俊吾。しかもペラペラと」
体を起こしながらシャルルは言った。
「怪しまれない程度の嘘は得意なんだよ。それで、ご飯はどうする?」
「今風邪って言っちゃったし、食堂にはいけないよね」
「なら、食事持ってくるけどどうする?」
「いいの?そんなこと頼んで」
「自分のと一緒に持ってくるから手間じゃないよ」
「でも、俊吾はゆっくり食べてくればいいのに……」
「俺がゆっくり食べてたらおかしいだろ。シャルルは風邪で俺が看病してるんだから」
「そうだね…………。何かごめんね」
「いいよ、俺が勝手についた嘘だから。それで、何食べたい?」
「う~ん、病人だってことを考慮するとリゾット辺りが丁度良いかな」
「よし、分かった。少し待っててくれ」
俊吾は部屋を出て食堂に向かった。そして、食堂に向っている間に考え事をしていた。
「シャルルが女ね…………俺の女嫌いセンサーも馬鹿にできないな」
誰にも聞こえない程度の声量で俊吾は言った。
今回思ったことがそれだった。シャルルにセンサーが働いたのは、男の娘だからではなかったのだ。正真正銘の女だったのだ。女嫌いセンサー恐るべし……。
「部屋に戻ってからも意識しないようにしよう。意識すると怖いし」
食堂についた俊吾はリゾットとカツ丼をカウンターで頼み、出てくるのを待った。すると、カウンターのおばちゃんが旬後に話しかけてきた。
「今日は二つ頼むなんてどうしたんだい?」
「ん?ああ、もう一個はシャルルの分なんだ。今日はちょっと体調悪いみたいでさ」
「なるほど、だからリゾットなんだね……。薬は大丈夫かい?ないなら用意するけど」
「薬は部屋にあるから大丈夫だよ。心配してくれてありがと、おばちゃん」
「いやいや、ここの生徒は私の娘みたいなもんだしね。あんたらは息子だよ?だから、やっぱり心配になるんだよ」
このおばちゃんもいい人だなぁ……。基本、この学園にいる人はみんないい人だな。女子しかいないけど。
少しの間、世間話をしていると食事が出てきた。
「はい、お待たせ」
「ありがと」
俊吾はトレイに乗った二つの商品を持って、部屋に向かった。
そして、部屋の前に到着。だが、問題に直面する。
「やべ、どうやってドア開けよう……」
部屋の中にいるシャルルを呼ぶにしても、あの格好じゃ危険すぎる。かと言って、他の方法はない。仕方ない、呼ぶか。
そう思い、呼ぼうと思ったらドアが開いた。
「あ、俊吾。丁度良かった。そろそろ来ると思ってたんだ。入って」
「お、おう」
タイミングが良すぎて面食らった俊吾だったが、直ぐに部屋に入りトレイをおいた。
「シャルル、開けてくれたのは嬉しいけど、今の格好を他のやつに見られたら大変だろ」
俊吾がそう言うと、シャルルは自分の体を見て言う。
「む、胸のことを言ってるの?」
「いやまぁ、それもあるけど。一番は気が抜けてるせいか、完全に仕草が女子になってるんだよ」
「あ、確かにそうかも……。ごめん」
「こっちも助かったから別にいいよ。それよりも、早く食おうぜ」
二人は備え付けられている椅子に座り食べ始めた。
「そういえば俊吾。前、一緒に食べた時もカツ丼食べてたけど、カツ丼好きなの?」
「まぁ、好きな部類に入るな。特別好きってわけじゃないけど、今日はカツ丼の気分だったんだ」
「ふふっ、カツ丼の気分って、俊吾も面白いこと言うね」
微笑みながらシャルルは言った。その微笑みに寒気を覚えたが、気にしないでカツ丼を食べ続けた。
少しすると、二人は夕飯を食べ終え寛いでいた。
「そ、そういえばさ」
どこか言いづらそうにシャルルは口を開いた。
「俊吾って女の子苦手なの…………?いやほら、何か一夏と話す時と箒さんたちとで口調違うからさ」
………………今ここでそれを言いますか、シャルルさん。もっとタイミングってものがあったんじゃないですかね。気にしないようにしてたのに、ぶり返さないで貰いたいものですな。
俊吾は内心の動揺を知られないように、言った。
「まぁ、苦手だな」
「理由を聞いてもいいかな?」
「いいけど、そこまでトラウマってほど酷くないからな。ただ、小学生の頃に女子から虐められてただけだよ。それで、女子に苦手意識が芽生えたって感じだ」
「じゃあ、僕と一緒にいるのも辛かったりする?」
「辛くないって言ったら嘘になるけど、意識しないようにすれば問題ない」
最早、意識しないってのも無理があるけどね。何とか口調で誤魔化してるけど。
「戻ってもいいよ?僕なら大丈夫だし」
「今の設定忘れたか?シャルルは風邪引いてる設定なんだから俺がいないとやばいだろ。病人放置して自分に部屋に戻ったら俺の評判悪くなりそうだし。それに、自分で撒いた種だしな」
「何か……ごめん」
「謝るなって。逆に俺が罪悪感を感じるから」
その後二人は、静かに各々の好きなことをやっていたが俊吾は年間スケジュール表を見ながら色々と考えていた。
このままシャルルを匿うのも酷だよな……。いっそ誰かに暴露して協力を仰ぐか?そうなると、人選的には楯無さんしかいないよな。生徒会長だし、色々協力を求められそうだ。取り敢えず、一区切りとしては二週間後の学年別トーナメントか……。というか、学年別トーナメントがあるのを今知ったわ。完全に確認不足だった。
三年間、シャルルの性別を隠しきれるかと言ったらNOだろう。バレてしまい気が緩んでる今の状態では行ったら一ヶ月持つか持たないかってとこだ。いっそ、バラしてもいい気がするが、そうするとシャルルが危険な目に会う確率が上がってしまう。…………どうしたもんか。楯無さんに相談してからかな、このことは。そうと決まれば、シャルルに言わないと。無断でやるのも気が引けるし。
「なぁ、シャルル」
「どうしたの?俊吾」
シャルルはファッション雑誌を読んでいたが、俊吾が話しかけると目線を外し俊吾に向けた。
「正直言って、このままじゃシャルルが女だってバレるのは時間の問題だと思う。だから、協力者をつくろうと思うんだけど」
「協力者って?」
「生徒会長の更識楯無さん。一回見たことだろ?」
ぶっちゃけ、見たのはいい思い出ではない。俊吾の中だけだが。シャルルはどこか悩んでいるようだった。そして、結論が出たらしく口を開く。
「……出来れば協力者は作りたくないかな」
「どうしてだ?」
「理由は、あんまり人に迷惑かけたくないからかな。確かに、俊吾の言うとおりそのうち僕が女だってバレちゃうんだろうね。だけど、待ってくれないか?もう少ししたら区切りを付けるから」
「もう少しってどれくらいだ?」
「大体、学年別トーナメントが終わったあたりかな」
そこらへんは同じこと考えてたか。色々と問題があるのは確かだが、本人の意見を尊重しよう。
「分かった。そこまで待てば、シャルル自身で区切りを付けるんだな?」
「うん」
「じゃあ、それで行こう」
「ありがと、俊吾」
「俺はあくまで共犯者だ。ぶっちゃけ、これがバレたらどうなるか分からんが、協力させてもらうよ」
「そうだね」
ふふっと微笑みながらシャルルは言った。
その笑顔は暖かくて可愛いが背筋がゾクゾクするせいで、全てが台無しになっている。…………俺は何なんだろう。綺麗とか可愛いとか普通に思うんだが、苦手センサーで全てが消え去る。俺は将来、結婚できるんだろうか…………?
しばらく、二人で雑談をしていると一夏が戻ってきた。どこか疲れた様子をしていたが、いつものことなので気にしない。シャルルの今後についての方針を教え、俊吾は部屋に戻った。
「はぁ…………色んな意味で疲れた。この学園来てから、疲れてばっかりだな……」
俊吾は部屋に着くなり、そんな言葉が漏れ出た。そのままベットにダイブし、横になる。
シャルルのことに関しては大して心配はしていない。だが、シャルルを取り巻く環境については心配していた。今の状況がバレて、いつデュノア社が介入してくるかわからない。この学園は国から独立していて、ある種の国家とかしている。だが、介入ができないのは『原則』だ。適当な理由をでっち上げれば介入できるってことだ。
一夏の言った、特記事項二十二も完璧でない。そう思うと、これからは気が抜けない。いつ、シャルルに危険が降りかかるか分からない。あいつら二人は気づいていないだろうから、俺が何とかしないとな。…………毎度ながら、面倒な性格だよ。二人に協力を仰ぐって手もあるのにそれをしない。何でかって?それは最悪の手だ。出来る限り、綺麗に物事を進めたいし、そうなると一人が丁度いい。シャルルの―――友達の為に頑張ろう。
「さて、シャワー浴びて寝るか」
当初の予定と大分変わってしまったが、俊吾はそれもいいかと思いシャワーを浴びた。その後、眠くなるまで時間を潰し、就寝した。
後書き
ここら辺まで読んで、『何だ原作通りにやってるだけじゃないか』と思った方もいると思いますが、もうしばらくは原作に沿って進めます。
途中からはオリジナルストーリーになると思われます。
えと、誤字脱字などがありましたら報告お願いします。
次の更新は水曜日あたりになりそうです。
では、次の更新まで。
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