ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第一幕その三
第一幕その三
「花嫁がその手で花婿に勝利の枝を手渡すのです」
「成程」
ヴァルターはとりあえずエヴァのことはわかった。しかしであった。
「ですが」
「ですが?」
「マイスタージンガーとは何ですか?」
いぶかしむ顔でエヴァとマグダレーネに対して問うのだった。
「それは一体」
「では」
エヴァは今のヴァルターの言葉を聞いて不安な顔になった。
「貴方はマイスタージンガーではないのですか?」
「そして求婚の歌を歌うのですよね」
「はい、審判の前で」
今度はマグダレーネが彼に答えた。
「その通りです」
「その審判は誰ですか?」
「マイスター達です」
「そして花嫁が選ぶのは?」
何もかもがわかっていないヴァルターであった。彼にとっては全く別世界の話であった。
「もう何が何なのか」
「貴方を選びます」
エヴァは我を忘れて言った。
「さもなければ。他の人を」
「あの、お嬢様」
マグダレーネはわかっていたが本人の口から聞いてより驚いてしまった。
「その御言葉は」
「ねえレーネ」
エヴァは怪訝な顔でマグダレーネに言ってきた。彼女が言う前に。
「このこと。何とかして欲しいの」
「はじめて御会いしたのにですか?」
「ずっと前から見ていたから」
ここで聖堂の壁にかけてある絵を見た。それは見事な青年だった。腰に剣を下げ石をその手に持っている。ヴァルターに非常によく似たこの青年はニュルンベルグの守護者とされるダビデだった。
「だから。もう」
「一目惚れですか」
「自分でもまさかと思うけれど」
思い詰めた顔でマグダレーネに答える。
「けれど。もう」
「あのダビデのようにですか」
「そうよ。このデューラーが描いたような」
エヴァはまたそのヴァルターによく似た若々しいダビデを見て述べる。
「この方を」
「困りましたわ。ここは」
マグダレーネは他者の力を借りることにした。そうして彼を呼ぶのだった。
「ねえダーヴィット」
「何だい?」
仲間達と共に聖堂の中で何か席や舞台を作っていた彼はすぐにマグダレーネの言葉に顔を向けてきた。
「何かあったのかい?」
「何をしているの?」
まず尋ねたのはこのことだった。
「ああ、マイスターの人達の言いつけでね。席の準備をしているんだ」
「席?ああ、今日はここで歌うのね」
「そうさ、だからその為にね」
こうマグダレーネに答えるのだった。
「準備をしているんだ」
「そうなの」
「今日は試験だけだけれどね」
このこともマグダレーネに答えた。
「歌の規則に少しも違反せずに歌えると」
「合格なのね」
「そうさ、無事卒業してマイスターさ」
このうえなく明るい声で言うのだった。
「どうだい、いいだろう?」
「それじゃあ」
マグダレーネはダーヴィットの言葉を聞いて明るい顔に戻った。そうしてまた言うのだった。
「騎士様は丁度よいところに来られたのね」
「そうね。じゃあレーネ」
エヴァもまた希望を取り返した顔になってマグダレーネに言う。
「後は」
「ええ。ダーヴィット」
またダーヴィットに声をかけるマグダレーネだった。
「この騎士様のことを御願いしたいのだけれど」
「こちらの方の?」
「いいかしら」
ダーヴィットに目を向けて問う。
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