ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第一幕その四
第一幕その四
「それで」
「それで何のことを?」
「今日の試験のことよ」
そのマイスターになる試験のことであった。
「それをね。この方に教えて欲しいのよ」
「この方にかい」
ここでようやくヴァルターを見るダーヴィットだった。
「また立派な方みたいだね」
「そうよ。とても立派な方だからね」
「ダーヴィットさん、御願い」
エヴァも彼に対して言う。
「この方をマイスターにしてあげて」
「後で美味しいものをあげるから」
「おっ、そりゃいいね」
マグダレーネの今の言葉に目を喜ばせるダーヴィットだった。
「じゃあ。それでね」
「若しこの方がマイスターになれたらもっといいことがあるわよ」
マグダレーネはにこりと笑ってさらに人参をちらつかせた。
「だからね。御願いね」
「わかったよ。じゃあね」
「ええ、くれぐれも御願いね」
「では騎士様」
エヴァはうっとりとした顔でヴァルターを見つつ声をかけた。
「また」
「きっとです」
ヴァルターもまた強い言葉で彼女に応える。
「剣でなく歌で」
「はい、歌で」
「マイスターになります」
彼はここで誓うのだった。
「そして貴女を」
「お待ちしていますわ」
「貴女の為に詩人の聖なる心を」
「ではお嬢様」
「はい。それではまた」
マグダレーネに誘われ聖堂を後にするエヴァだった。ヴァルターとダーヴィットは二人になった。しかしここでダーヴィットの仲間達が彼に対して言うのだった。
「おいダーヴィット」
「何さぼってるんだよ」
こう彼に対して言うのだ。
「審判席造るの手伝ってくれよ」
「早くな」
「僕さっきからずっとやってるじゃないか」
彼はまず顔を顰めさせてから仲間達に対して言い返した。
「少し休ませてくれよ。それに」
「それに?」
「今はちょっと用事があるんだ」
こう彼等に告げた。
「だからそれが終わるまではね」
「まあそれならいいけれどな」
「早く終わらせろよ」
「うん、わかってる」
こうしたやり取りの後でまたヴァルターに顔を戻す。そうしてまずこう叫ぶのだった。
「はじめよ!」
「はじめよ!?」
ヴァルターはこれまで物思いに耽っていた。考えているのはやはりエヴァのことだった。しかしここでこの言葉を聞いて不意にはっとしたのだった。
「何をはじめよと!?」
「まずは記録係がこう叫ぶのです。それから歌います」
「記録係?」
「御存知ありませんか」
「はい」
呆気に取られた顔で答えるヴァルターだった。
「それは一体」
「あの、歌の審判に出られたことは」
「いいえ」
ダーヴィットの問いに首を横に振って答える。
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