ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第二幕その二
第二幕その二
「何を騒いでいるんだ?」
「これは親方」
「また喧嘩でもしているのか?」
「いいえ、酔っ払い連中からからかいを受けているんで」
その酔っ払い達を指差しての言葉だ。見れば彼等は今度はその千鳥足でダンスを踊っている。賑やかに歌いながらそうしているのだ。
「この通りの有様で」
「酔っ払いは相手にするな」
ザックスは今はこう言うだけだった。
「それよりももう遅い」
「はい」
「寝るんだ、早く」
こう弟子に対して言うのだった。
「いいな」
「あっ、もうそんな時間ですか」
「とっくにだ」
「歌の稽古は?」
「今日はない」
右手で制止する動作で告げた言葉だった。
「昼のでしゃばりの罰だ」
「あっ、それですか」
「反省するのだ」
目を少し怒らせて弟子に告げてきた。
「いいな。新しい靴を型にはめて置いてくれたらそれで終わりだ」
「わかりました。それじゃあ」
こうしてダーヴィットは家に戻りマグダレーネも分かれた。ザックスも家の中に入るがそれと入れ替わりにポーグナーとエヴァが家に戻ってきた。どうやら散歩をしていたらしい。
「ザックスさんはおられるかな」
ポーグナーはザックスの家を見て述べた。
「まだ」
「ザックスさんがどうかしたの?」
「うん、ちょっとな」
娘に顔を向けて答える。
「お話したいことがあってな」
「おられるみたいだわ」
エヴァはそのザックスの家を見て父に述べた。
「どうやらね」
「そうなのか」
「窓から灯りが見えるわ」
「確かに」
見れば確かにその通りだった。
「ではやっぱりいるのか」
「では入ろうか。いや」
「いや?」
「やっぱり止めておくか」
口元に手を当てて俯いた顔になって述べるのだった。
「ここは」
「どうかしたの、お父さん」
「わしはやり過ぎたか」
不意にこんなことも言うポーグナーだった。
「幾ら旧習を破ったとしてもそれはあの人のやり方ではなかったか」
「!?」
エヴァは父の言葉の意味がわからず首を傾げた。
「本当にどうしたのかしら」
「意味のないことか」
また言うポーグナーだった。
「やはりこれは」
「どうしたのかしら」
「エヴァ」
ここでようやく娘に顔を向けて問うた。
「御前は何故黙っているのだ?」
「従順な娘は聞かれた時にだけ話すものよ」
エヴァはくすりと笑って父に告げた。
「だから」
「ううむ、確かにな」
ポーグナーは一旦エヴァの言葉に頷いた。
「それはその通りだ」
「それで何なの?」
「まずは聞いてくれ」
言いながら菩提樹の側の石のベンチに座った。そうしてエヴァは父のその隣に座る。そうしてそこから話をはじめるのだった。
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