ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 夜の街の喧騒
ニュルンベルグの街は表通り等主な道以外は全て湾曲したり狭くなったりして入り組んでおりさながら迷路である。ザックスの家もそんな場所にあり前にはポーグナーの立派な家がある。二人の家の間はかなり大きな広場になっており菩提樹が大きく茂っている。ザックスは今その家の前に一人椅子とテーブルを出し座り月明かりを頼りに靴を作っている。俯いて何かを考える顔になっている。
「親方」
その彼に家の扉から出て来たダーヴィットが声をかけてきた。
「ちょっと散歩に行って来ます」
「ああ、すぐに帰るようにな」
「はい」
こう言って彼は家を出て少し離れたところに向かう。そこにはマグダレーネが待っていた。
「誰にも気付かれなかったわよね」
「うん」
しかしこう答えた矢先であった。
「ヨハネ祭、ヨハネ祭」
「明日が楽しみだよ」
ダーヴィットの仲間達の声であった。
「花もリボンも欲しいだけ」
「欲しいだけあの娘にあげよう」
「げっ、まずいな」
「そうね」
二人は彼等の声を聞いて思わず背を縮めさせた。
「まさかここに来るなんて」
「どうしようかしら」
「とりあえずよ」
「うん」
二人は小声で話を続ける。
「あの騎士さんどうなったの?」
「エヴァお嬢ちゃんが見ているあの騎士殿だよね」
「ええ、あの人だけれど」
「ちょっとね」
しかしここで彼は首を横に振るのだった。
「まあ何ていうかね。あれはね」
「どうだったの?」
「駄目だったよ」
難しい顔で答えるダーヴィットだった。
「失敗だったよ」
「歌い損ね?それとも全く駄目だったの?」
マグダレーネは失敗と聞いてさらに彼に問うた。
「どうだったの?そこは」
「それが君に関係あるのかい?」
言いながら今彼女が持っているその籠を見るのだった。
「そこにあるのはその絹の冠かい?」
「駄目よ、見たら」
ダーヴィットが見ているのを見てすぐに引っ込めるマグダレーネだった。自分の後ろに隠す。
「これはあの人の為に作ったから」
「お昼のことだな」
「そうだね」
徒弟達は二人に気付いていた。そうしてその二人をこっそりと見ながら言うのだった。
「けれどダーヴィットはどうかな」
「マグダレーネもまんざらじゃないのわかってるのにな」
「もうちょっと押せばいいのにな」
「全くだ」
「っておい」
ここでダーヴィットもその彼等に気付いた。怒った声で言ってきた。
「何を見てるんだよ、一体」
「いやいや、たまたまだよ」
「通り掛かりでな」
「そうそう」
「一体何時まで遊んでいるんだよ」
彼等の足取りを見ればわかることだった。結構以上に酔っている。ダーヴィットはそれを見て言うのだった。
「全く。今日もそんなに」
「今日は特別だよ」
「なあ」
また彼等は口々に言うのだった。そのふらふらした足取りで。
「明日はお祭だからな」
「年寄りが若い娘さんに求婚し」
ふざけた言葉は続く。
「若い男が年増に言い寄る」
「私が年増ですって!?」
マグダレーネは今の彼等の言葉にむっとした顔になる。
「幾ら何でもその言葉は許せないわよ」
「ははは、例え」
「そう、例えだよ」
マグダレーネのむっとした言葉にもこんな調子であった。
「気にしない気にしない」
「気にしたら駄目だよ」
「そうそう」
「全く。何て調子のいい奴等だ」
「本当に」
「おい、こら」
ここで騒ぎを聞いてかやって来たザックスが後ろから自分の弟子に対して言ってきた。
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