ゲルググSEED DESTINY
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第三十一話 エンジェルダウン
「ラー・カイラム出航!目的地はウィラード隊の旗艦ユーレンベック。ミネルバより先にそこに到達後、エンジェルダウン作戦に参加せよとのことだ!」
グラスゴーがラー・カイラムを指揮して発進させる。ミネルバよりも先に出航し、アークエンジェルを追い込むのだ。そして、ミネルバはルートを迂回してアークエンジェルの逃げ道を塞ぐ。
単純だが効果的な作戦だ。相手に息継ぎをさせる間もなく、攻め続ける。退路をふさがれた状態でのそれは酷く精神的にも物資的にも負担が掛かる。アークエンジェルは単独艦であるため囮を用意しての脱出も難しい。
「フン、クラウ・ハーケンがおらずともこのくらいやって見せるわ!」
クラウはルドルフのギャンのフライトユニットを装備し終えた後、ミネルバの方に乗艦している。ナチュラルの捕虜はこちらに乗艦したままだが、クラウは命令書まで発行して捕虜に危害を加えるなと命令してきている為、面倒だが管理を徹底せざる得なかった。
「良いか!敵は艦一隻とはいえ、前大戦の英雄だったアークエンジェルだ。油断するなよ!」
目的地である北海周辺に辿り着く。味方部隊であるウィラード隊は既に交戦にはいっており、バクゥやガズウート、ディンやグゥルに乗る汎用MSなど多数のMSがアークエンジェルを誘い込んでいる。
「―――とはいえ、それらを相手にしながらもなお、容易くこちらの攻撃を許さぬか……流石と言うべきだな。ウィラード隊に伝えろ。これよりこちらも攻撃を開始するとな。盛大に迎えてやれ」
補充要請で受け入れられた幾人かのパイロットがゲルググG型を、ルドルフは金色のギャンを、アレックはガルバルディαを起動させる。
「全機出撃させろ。やつらを逃がすなよ!」
◇
「艦長、ラー・カイラムからMS隊の発進を確認しました」
ユーレンベック艦長であるウィラードはその様子を見ながらアークエンジェルとの戦いの状況を確認する。
「目標、尚も西へ10―――」
「バビ隊が先行したようですが、殆どが被弾したようです。帰還の許可を求めています」
アークエンジェル所属のフリーダムが次々とMSの武装や戦闘能力を奪い撃退していく。恐るべきはその繊細な操縦技術でこちらのパイロットは誰一人として死んでおらず、フリーダムは逆に被弾一つしていないと言うことだ。
「流石、音に聞こえたフリーダムとアークエンジェルだな。モビルスーツ隊に熱くなるなと言ってやれ。無駄にこちらの被害を大きくさせる必要は無い。グラスゴーのMS隊にぶつけさせろ」
「艦長、追い込みなどという悠長なことをやっているからこちらが追い込まれるのです。ミネルバを待たずとも全軍でかかれば……」
「フッ―――貴様は知らんのだろう?アラスカもヤキン・ドゥーエも」
ウィラードは全軍でかかる様に進言した副官に対して多少馬鹿にしたように返答する。一騎当千などというのは誇張でもなんでもない。ただの事実だ。少なくとも戦争を終わらせるきっかけは少数のエリートなのだとザフトが判断し、一機で様々な事が可能なインパルスなどといったセカンドシリーズが生み出される程度には事実なのである。
「そんな相手にわざわざMSを被弾させる為だけに出す必要などあるまい。アイツ等に関してはグラスゴーの奴が引き受けるだろうさ。こちらは後ろから突く様に牽制していればいい」
説明されて引き下がる副官。それでも多少は納得がいかないのか不満気な様子を隠そうともせずにいる。
「戦いに対する見積もりが甘いのだよ。とはいえ、あれ一機の働きでアークエンジェルを守ったり、戦争が勝てるなどと言うほど甘いものではない。戦争とはそういうものだ」
如何にフリーダムと言えど、同様の戦果を期待して造られ、同じように多大な戦果をあげたミネルバのMS隊が到着すれば彼等とて落とせるはずだ。そう言いながら彼はアークエンジェルを追い込んでいった。
◇
「ハハハ、この華麗な私の攻撃を前に、恐れ戦くが良い!」
ギャンに搭乗しているルドルフはそう高らかに声を上げながらフリーダムと戦っていた。勿論、フリーダムを相手にするのにルドルフ一人では荷が重い。アレックやゲルググG型に乗っている部隊が援護を行う。
『ルドルフ、前に出すぎるな!そいつは格が違うぞ!』
『この二機―――クソッ!?』
ギャンの専用ビームサーベルがフリーダムを攻め続ける。連続で放たれる突きを避けるフリーダム。当然、反撃もするがシールドの防御力や腕の出力が高く、普通ならば衝撃で吹き飛ばされ、そのまま腕を斬られるであろう攻撃を受けてもよろけることすらない。
「近接戦闘でこの僕のギャンに勝てるなどと思わないで貰いたいね」
射撃武装を実弾系にすることによって、格闘戦闘における戦闘力を上昇させているギャンは、こと格闘戦に関しては最高クラスの戦闘力を持っている。
『不味いな……ルドルフ―――下がれ!一旦落ち着くんだ』
とはいえ、いくらギャンの性能が優れていようともパイロットの差や動力が核であるフリーダムを相手にするのは厳しい。現にギャンは攻撃を受けているが、フリーダムは損傷一つしていない。
ゲルググG型が援護射撃を行いルドルフのギャンは納得いかない、と言いつつも距離を取る。ゲルググだけでなく、ウィラード隊の機体からの射撃による弾雨が襲い掛かるが、フリーダムには命中しない。
G型は地上での運用を目的としている為、こういった局地戦での戦闘力は高いがそれでもフリーダムを相手にするのは難しい。ギャンから距離を取る事が出来たフリーダムはそのまま距離を詰められないように機動しながらゲルググを撃ち抜く。
「フン、やるではないか!しかし、そう簡単に私を倒せると思うなよ!」
ギャンのビームサーベルの先端をフリーダムに向けて指差すように構える。しかし、それは迂闊な行為であった。
「なッ!?騎士の決闘に不意打ちだとおォォ―――!」
ビームサーベルの持ち手をフリーダムの正面に構えるということは、シールドは逆の方向―――つまりフリーダムにとってはシールドを後ろに持っている状態になるということである。当然、決闘とは思っていないフリーダムはあっさりと攻撃を仕掛ける。結果、ギャンは頭部を撃ち抜かれる。
『馬鹿が……』
アレックはどうしようもない戦友の馬鹿さ加減に呆れてものも言えないといった風に頭を押さえる。無事な機体は自身の乗っているガルバルディとウィラード部隊の機体位しかいないが、何とかせざる得ないと気を引きしめて攻めかかる。
『落とすのは難しいだろうが、黙って仲間がやられるのを見ているわけにはいかないのでな。獲らせてもらうぞ』
先程のギャンもそうだったが、彼等の機体のコンセプトは特化型であるということだ。ギャンが近接戦での格闘能力が高いように、ガルバルディは機動力や運動性能が極限に高められている。その為、フライトユニットを必要とせず、空戦を行うことが出来るのだが、逆に言ってしまえばそれらの機体はそれに応じた弱点を持っている。
ギャンは射撃武装が貧弱であり、ガルバルディは装甲が薄い為、直撃を受けなくとも戦闘不能になる可能性がある。実際、クラウはスウェンとの戦いの際に腕を失い落下したせいで、彼の搭乗機であったガルバルディβは起動しなくなった。単純に言えばガルバルディは酷く脆い。ガルバルディやギャンは試作機である以上、そういった欠点を持つことは仕方のないこととはいえ、それならば安定した性能を持つ機体の方が良いと思うがそれは我侭というものだろうか。
しかしながら、今ある機体で最大の戦果を発揮する。軍人として、そして武人としてそれは当たり前の事だ。
『そして、この戦いにおいて我々の利点は数だ。いいか、攻撃をまともに食らうな!注意して距離を取っておけばそうそう撃たれる事などない!』
そうは言うものの、機動力でフリーダムを相手に勝るガルバルディ位でしか実践は不可能だろう。バビは重武装によって機動力が下がっている。他の機体もフリーダムに比べれば機動力は殆どが下だ。
一撃離脱を基本に、フリーダムを抑え込み足止めするアレック。彼は緑服でありながら白のカラーで機体を染めることが出来る程の実力者だ。勝とうとするならともかく、フリーダムを相手に足止めすることが出来る程度の実力は十分あるといえた。
ミネルバがじきに到着する。果たしてその時、彼等の運命はどうなるのか。それは運命の女神にしかわからない。
◇
「アークエンジェルの撃墜命令……」
彼等がエンジェルダウン作戦を聞いたのはラー・カイラムが先に出航してしばらくたった後だった。お膳立てをラー・カイラムとユーレンベックが整え、誘い込んだ先でミネルバが止めを刺す。作戦は単純だが、ある意味尤も効率的といえる。
アスランはその指令を受け、セイバーのコックピットで未だに悩んでいた。討ちたくはない。こんな事になって欲しくなかったから呼びかけていたのに、それなのに――――――
『―――その、アンタはこれからどうするつもりなんだ……いや、ですか?』
シンが通信越しに話しかけてくる。彼もアークエンジェルに辛酸を舐めさせられてきたが、アスランの嘗ての戦友が乗っている事は、誰もが知っていることだ。故に、シンとしてもどう言葉を掛けるべきか悩んでいるんだろう。
「無理に敬語を使わなくてもいいぞ、シン―――その言葉に対してだがな、正直言って……迷ってるよ、討つべきなのかってね」
『迷うくらいなら出撃せずにいるか?一機減るのは辛いが、足手纏いが増えても困るからな』
マーレがそう皮肉気に言ってくる。とはいえ、彼なりのやさしさというやつだろう。討ちたくないなら他人に任せても構わないとそう言っているのだ。
「いや、出撃はする。そんな逃げ方は、正直みっともないからな。それに―――この戦いは、俺自身の手で決めるべきなのかもしれない」
思い出されるのは、昔一度だけキラと真剣に殺しあっていた日の事だ。ニコルを殺された恨みを、キラも自分の友人を殺された恨みを―――その互いの憎悪をぶつけ合い、殺しあったあの時。
今回の戦いとて、同じような理由がないとは言えない。デイルを間接的にとはいえ殺したのはキラだ。
「ともかく、逃げることだけはしない。俺は、俺の意思を貫き通すさ」
『そうか、だったらその意思を大事にしろよ。俺は意思がはっきりしない奴は嫌いだからな』
『それってアスランにも当て嵌まるんじゃないですか?』
シンが思わずといった風に突っ込みを入れてしまう。事実、アスランは所属を変えたり、こうやって悩んだりと、シンは彼なりに尊敬しているものの、マーレの言ったことに対してはアスランはマーレの嫌いなタイプに含まれるのではないかと思える。
『あ?何言ってるんだ?俺はコイツの事は嫌いだぞ』
「フフッ、そうだな。俺はマーレに嫌われているぞ」
『え?でも―――えっ!?』
マーレが犬歯を剥き出しにしながら嗤い、アスランも思わず苦笑を零す。その様子はシンからしてみたらどう見ても仲が悪いようには見えず、アスランとマーレが二人して自分をからかっているのではないかと疑ってしまうほどだ。
実際、アスランとマーレはアスランがミネルバに着任した時にマーレが嫌っていると発言している。それをアスランも当然忘れてはいない。しかし、矛盾しているように聞こえるかもしれないが、彼等はマーレがアスランを嫌っていることは理解しているが、決して不仲というわけではないのだ。
そのあたりの機微はルナマリアの好意にも気付かないシンでは理解することは出来なかった。
『そろそろ目的地に着くぞ。出撃の準備をしておけ』
マーレが相変わらずぶっきらぼうにそう言いつつ出撃準備を整える。先行はインパルス、セイバー、マーレ機のゲルググの三機。フリーダムの撃墜、およびアークエンジェルの撃沈、或いは確保が任務内容だ。アスランは全力で確保する気であり、マーレとシンもその意思を尊重するためにギリギリまでは確保に協力すると申し出ている。
当然、逃がすことは作戦の失敗である為、逃がすことだけは出来ない。アスランもその辺りは、納得は出来ずとも理解せざる得ないと認めている。故に、彼はアークエンジェルを確保してみせると、そう思っていた。
後書き
毎日更新、ギリギリアウト。けど執筆自体は当日中だったからセーフって言いたい。いや、アウトなんだけど……。
ギャンは頭を吹っ飛ばされ、設定には出ていたけど出番無いかなと思われていたゲルググG型が初登場したけど一瞬で撃墜されました。もっと頑張ってくれよ……名無しパイロット達のゲルググよ。
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