ゲルググSEED DESTINY
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第三十二話 決別
「あれは、ミネルバ!?」
「回避ィッ――!!」
突如現れたミネルバを前にアークエンジェルは騒然とする。真正面からぶつかりそうになりつつも何とか避けきる。
「どうやら、ザフトは全力で私達を落としにきたようね」
先日の戦いでもミネルバは獅子奮迅の働きをしていた。そのザフトのエースともいえるミネルバをロゴスを討つ為に出撃させるのではなく、先にアークエンジェルを討つ為に行動させることから、ザフトは本気でこちらを落としにかかっているのだろう。
そう思ったところで国際救難チャンネルから通信が来る。
『ザフト艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。アークエンジェル、聞こえますか?本艦は現在、貴艦の撃墜命令を受けて行動しています。ですが、現時点で貴艦が搭載機を含めた総ての戦闘を停止し投降するならば、本艦も攻撃を停止します。乗員の生命の安全は保障します。警告は一度です。貴艦の懸命な判断を望みます』
マリューはミネルバの艦長に対して尊敬の念を抱く。この通信は下手すればここまで整えられた布陣を不意にする可能性すらあるのだ。先程の正面から攻撃を仕掛けなかった行為を含めて、彼女は本気で申し出をしている。
「こちらも国際救難チャンネルを開いて頂戴。返答をするわ」
クルーは信頼を寄せた目でこちらを向いている。無論、彼女はそれを裏切るような行為をしない。彼等は例えテロリストだと言われようともオーブの為に動く事を決めたのだから。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。貴艦の申し入れに感謝します。ですが、残念ながらそれを受け入れる事は出来ません。本艦にはまだ仕事があります。連合か、プラントか、今また二色になろうとしている世界に、私達はただ邪魔な色なのかもしれません。ですが、だからこそ今ここで消える訳にはいかないのです。守るべきものの為に―――
私達はザフトとの戦闘を望みません。願わくば、脱出を許されん事を―――」
◇
「クッ、ラミアス艦長……貴女は―――」
戦闘を止める事が出来たであろう最後の警告。これを受け入れずに彼女は、彼女達は戦う道を選んだ。それは傲慢だ。キラ一人では、アークエンジェル一隻では、この布陣は余程の事が無い限り突破など不可能だ。
命の保障よりも、信念を貫き通す事を選ぶだなんて――――――
「止めないと、俺が―――俺自身の手で止めるべきなんだ」
キラ達が間違っていると思いたくは無い。彼等だって、誰よりも平和を望んでいたんだ。それは今だって変わらない筈だ。だったら、俺が止めるしかない。
「アスラン・ザラ―――セイバー、発進する!」
インパルスとゲルググも同時に発進していく。
『アスラン、俺達は艦の牽制に回る。お前はフリーダムを止めろ』
「マーレ、すまない―――」
マーレはシンと共に時間を稼いでやると暗に言っている。その気遣いが今はありがたかった。
『礼なんぞ言うな。無理だと判断したら討つからな』
「覚悟はしておけと、そう言いたいのだろう。わかっているさ」
◇
『クゥッ、やるな、フリーダム!ならば、これで決めさせて貰う』
「来るッ!」
ビームサーベルを持ってアレックのガルバルディαは勝負を賭ける。交差したのは一瞬だった。
『無念ッ!』
装甲の薄さが仇となり、牽制程度の攻撃によって崩れた体勢からフリーダムはカウンターを繰り出した。
辛くもラー・カイラムの部隊から勝利したキラ。しかし、彼の前に更に敵が立ちふさがる。
「アスラン!?」
ミネルバが現れた時点で彼が来る事は予想していた。しかし、今だけは、この戦いにだけは来て欲しくなかった相手だ。
『キラ、お前達が平和の為に、オーブの為に戦っている事はわかっている!だからこそ、投降してくれ!』
セイバーとフリーダムが交差する。サーベルの勢いは明らかにセイバーの方が上だ。しかし、それも当然だといえる。互いの勝利条件が違うのだ。キラはこの戦いはアークエンジェルを守りきって逃げる事だ。敵を倒す事が勝利に繋がるとはいえ、直接的に関係しているわけではない。
一方でアスラン達は逃げられる前に倒す事が条件だ(アスランに関しては確保を望んでいるが)。逃げられないように果敢に攻めなければならないのも当然といえる。
『キラ!俺達はすれ違っているが平和を望み、守りたいと願いあっている事は変わらない筈だ!なのに、そう思っている者同士が争いあって何になるって言うんだ!』
「でも、その君の望んだ平和と僕達の望んだ平和は本当に同じ景色なのかい?」
ボタンの掛け違えだったなら、確かにこの戦いは不毛としかいえない。だが、デュランダル議長の望んでいる平和はキラ達が望んでいる平和の様には思えないのだ。自分にとって都合の悪いものは消す。
今まさに自分達が討たれようとしているのも同じではないか?確かに、キラ達の望む平和は理想論だろう。思い描いている絵は何処までも遠い。でもデュランダル議長の平和はロゴスを討つという、すぐ側にある代替案による平和で世界を終わらせようとしているとしかキラは思えなかった。或いは、それを土台にして自らの野望の為に平和という言葉を利用しているのではないかと……。
「勝手な理屈なんだろうけど、僕等の望む平和とあのデュランダル議長の考える平和は違うんじゃないのか!」
『あってもいない相手に対して、どうしてそう思えるんだ!歩み寄ろうという気は無いのか!?』
レール砲でセイバーを吹き飛ばすが、セイバーはその瞬間ビームライフルによってフリーダムのビームライフルを撃ち抜く。
「先に手を出してきたのはデュランダル議長の方だ!」
『何の確信があってそう言える!疑える相手は皆敵だって言うのか!』
主兵装の一つを失ったフリーダムは距離を詰める事を選択する。しかし、その選択は悪手だ。近接戦ではアスランの方が僅差ではあるものの実力は上である。フリーダムの猛攻をシールドで受け流し、或いは回避して次々と攻撃を捌いていく。
「君は知らないだけかもしれないだろ!僕達は、僕たちのやり方で平和を掴んでみせる!」
『そうやって、出来もしないことを言うな!』
突くように放つサーベルをシールドで受け止め、そのままシールドごとフリーダムに突っ込む。体当たりするようにぶつかるセイバー。フリーダムもその攻撃によって吹き飛ばされる。
「何でわかってくれないんだ!?君だって、こんな風に戦うのは間違っているって気付いてるんだろ!」
『要求を撥ね退けたのはキラ、お前達の方だ!そうやって自分達の都合だけで、大人と子供を使い分けるな!』
セイバーのサーベルがフリーダムのシールドによって防がれる。だが、もう一方の腕からサーベルを抜き出し、そのままフリーダムのシールドを持った腕を断ち切った。
「そんなッ!?」
『投降しろ、キラ!これが最後だ!』
「そんなの、認めない!僕は、僕達はッ―――!!」
キラはマルチロックオンシステムを起動させ、その総てをセイバーに向けて構える。至近距離での一斉砲撃。一歩間違えれば自滅するであろうその攻撃を放つ。
「当たれェッ―――!!」
『クソッ、キラ!?』
寸での所で回避に成功するが、その行動は完全に決別を示したものだった。
『アスラン、こっちで様子は見てた。もう無理だ―――加勢するぞ!』
「待ってくれ!キラは―――」
再度、説得を試みようとするアスラン。しかしマーレは首を横に振る。
『もういいだろ?お前は全力を尽くした……だが、これ以上は無意味だ』
ヒート・ランスを右手に、ビームバズーカを左手に構え、フリーダムに攻撃を仕掛ける。
「もう止めてくれッ!僕達はッ―――」
フリーダムは収束ビーム砲を構えるが、横から突然来たブーメランによって断たれる。
『アンタは、いっつもそうやって―――自分だけが特別だって思うなァ―――!!』
ソードシルエットのインパルスが高く飛び上がり、エクスカリバーを振り下ろす。バックステップで咄嗟に避けるが、その先にはマーレが待ち構えていた。
『これで、終わりだ―――』
「クッ――――――!?」
ヒート・ランスがフリーダムを貫く。如何にPS装甲であろうとも、高出力のヒート・ランスを前に容易く装甲は抉られる。しかし、上へと飛び上がったフリーダムをヒート・ランスが捉えたのは脚部である。まだ、戦える。アークエンジェルを守ってみせる。そう思い、前を向いたその先にいたのは―――
「あッ……」
赤の機体、セイバーに嘗てのイージスが重なって映る。勿論幻影だ。しかし、今のキラにはアスランがまるであの時の様に見えて、そして―――
『キラッ……遊びでやってるんじゃないんだよッ、俺達は!』
フリーダムを切り裂き、そのまま海へと落ちていくフリーダム。海面に衝突したとき、爆発が起こった。
◇
「このままアークエンジェルを海に逃がすわけにはいかん。ラー・カイラムを前面に押し出せ!ミネルバと共に前後を塞ぐぞ!」
「しかし、艦長!それではラー・カイラムの横腹を相手の正面に晒す事になりますよ!?」
「構わん、やれ!」
グラスゴーの命令に副官は顔面蒼白になるが、艦長の指示に逆らうわけにもいかず、艦を海へと続く道の壁となる。
『不味いわ!?』
ゴットフリートを放つがラー・カイラムは避けようともしない。明らかにアークエンジェルの狙いを理解している行動だった。アークエンジェルは艦に対して直撃を当てようとしない。攻撃を命中させる事自体はするが艦橋を狙ったりとあからさまな場所を攻撃する事が無いのだ。
ミネルバも同じ事をしていた以上、ラー・カイラムも知っている可能性はあると思っていた。しかし、実際にされてしまえばこれほど厄介な事はない。このままではアークエンジェルは挟み撃ちにあう。そして、ラー・カイラムも主砲を構え、砲撃準備を整えている。
『突破するわ!全員、衝撃に備えて!!』
選んだ選択は強行突破。浮いているラー・カイラムの下を潜り抜ける。うまくいけば、そのまま下の海にもぐりこむことも出来るだろう。問題は果たして敵の攻撃を受ける前に潜り込む事が出来るか、そしてラー・カイラムが待ち受ける下の海面には氷山と思わしき氷があるという事。
『ローエングリン照準!あの氷の山を撃つわ!』
ならばその二つの障害は一度に取り除く。氷山を破壊し、その衝撃でラー・カイラムには退いてもらう。そういう意図がグラスゴーにも理解できた。
「連装主砲を急がせろ!このままでは奴に無理矢理立ち退かされる事になるぞ!ミサイルランチャーで動きを止めるんだ!そうすればミネルバが追いつく!!」
『アーサー、タンホイザーでアークエンジェルを討つわよ!』
『ええッ!?そんなことしたらラー・カイラムにも当たりますよ!?』
『その位、射角を調整しなさい!』
勝負は一瞬のタイミングに委ねられる。アークエンジェルのローエングリンが先か?ラー・カイラムの主砲が先か?ミネルバの後ろからのタンホイザーが先か?
『『「撃てェェェ――――――!!」』』
水飛沫が、そして爆発が巻き起こる。
◇
「やれやれ、一足先に宇宙に上がることになるとはね……」
ネオは受けた指令を思い出しながら宇宙へと上がる。ファントムペインの部隊はその戦力を減らし続け、既に部隊は少数となっていると聞かされた。DSSDを攻めた部隊は母艦共々全滅。イタリア方面で新型艦に対し待ち伏せをしていた部隊も壊滅的な被害を受けたようだ。そして自分達もステラやスティングを失い、既にいるのはアウルとネオ自身、残りはごく少数の生き残りだけだ。
そうなると任せれる仕事も少なかったのだろう。宇宙へとあがり、極秘任務として廃棄コロニー改造を行う部隊の護衛らしい。
「ネオ、何で宇宙なんかに上がらないといけないんだよ。俺は、あの艦の奴等を!」
「すまないな、アウル。仕方ないことなんだよ―――だが、機会は巡ってくるはずだ。アイツ等だってプラントの危機となれば宇宙に上がってくることになるだろうからな……」
レクイエム―――その兵器の名だ。確かにこんな兵器が動き出せば終わりへと向かっていくことになるだろう。下手すれば前大戦の二の舞所かもっと悲惨な事となってもおかしくない。
「それに新型機、か……」
受領される予定の機体はその殆どが新型機だ。大型MAユークリッド。東アジア共和国から無理矢理奪い取ったらしいライゴウガンダム。その為に用意されたスペキュラムパックとカオスのデータを元にして用意されたドラグーンパック。他にも機体は用意されているらしく、この作戦に賭ける意地というものが見られた。
「ジブリールも必死なんだろうね~」
今や世界はロゴスが敵と謳われている。勿論、彼等が死の商人である事には変わりないが、だからといって討つというのは些か短絡的ではないだろうか。そう思ってしまう部分もあるが、どちらにしても自分に出来る事は連合の人間として命令に従う事である。
そう思い、彼は宇宙へとあがって行った。
◇
「白のナイトは崩れ落ち、新たな力を得る為にクイーンが動き出す――――――フム、クイーンには宇宙の海で溺れてもらうべきかもしれんな」
ジブラルタル基地の格納庫の一室に彼は歩み寄る。暗がりの部屋の中でその様子を窺うことは出来ないが、MSが立っていることは明らかだ。
「ヴォワチュール・リュミエールを機動力としてではなく、武装として改良するデータ、ドラグーンの新たなる可能性―――年甲斐にも無く、はしゃぎたくなるな」
データ画面に映される機体の数々。しかし、これはあくまでも抽象的な事しか書かれていない。実際のデータはクラウ自身が持っている。データには赤い塗装を施されている一つ目の機体もいる。それを見てデュランダルは笑みを深めた。
「早いところ来て欲しいものだよ……」
後書き
ア、アスランがやっただと……如何いうことだ!?作者の予定→アスラン死亡の予定だった(チョット待て!?)プロットが無いとこういう暴走が起こるから面白い。
そして新型強化フラグと議長専用機登場のフラグ……色々とはっちゃけてるぜ(笑)
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