ゲルググSEED DESTINY
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第三十話 ロゴスを討て
クラウはミネルバ内で機体の修理と改造を始める。修理の方はともかく、機体の改造に関しては余り多くの事は出来ない。時間も設備も十分ではないのだ。唯一満足にあるものといったら前から大量に用意してたジャンクパーツ位のものだ。折角用意してたのに使う前にラー・カイラムに乗り換えていた為、使ってないものが多い。
改造は基本的に飛行できない機体にフライトパックを取り付けることだ。ゲルググ三機にギャン一機。正直ギャンに関してはあんな金色に近づきたくもないが仕方がない。仕事だと割り切って行っている。
「さあ、クラウよ。私の、このギャンをもっと美しく輝かせてくれたまえ。その為にフライトユニットのパーツにも金色の塗装を施したのだからな」
自前で持ってきた改造パーツは痛々しいほど金色にコーティングがされている。これが百式のように耐ビーム・コーティング(超強化プラスチックだったような気もするが)されているとか、アカツキのようにビームを反射出来るとか言うならまだ良い。だがしかし、そんな都合の良い機能などついておらず、ただ金色の塗装をしているだけだ。別に性能は上がっていない。
「ルドルフ……本気か?」
「何がだね、アレック?」
「いや、別に構わないと言うならいいんだ……」
アレックも流石に見かねて当事者に声を掛けるが、それだけだ。本気で彼はこの金色にすることを気にしていない。寧ろ喜んでいる。まあ自費で造ってきてる時点でそれは言うまでもないことだろうが……。
「取りあえずだ―――ハイネとショーンの機体はどうしようもないね。元々ハイネとショーンの怪我も治っていないから当然だけど、次の作戦までにフライトユニットまで手が回りそうなのは二機、良くて三機といったところかな?」
「ならば当然、まず美しいこの僕のギャンに施すのだろう?前回の戦闘ではギャンの高い運動性を生かして跳躍したが、いつまでもそのような無粋な戦い方をするわけにはいくまい。僕のような美しい人間には、美しい戦い方こそが似合うのだからね」
別に権限自体はクラウの方が上なので断ることは出来たが、面倒なので一番最初に引き受けることになった。マーレですら同情した視線で文句も言わずに許可したお陰なのだが……。
フライトユニットによる改造を終わらせ、早いところ次の作業に移る。特にマーレ機に関してはカスタムタイプな為に修理が出来ていない。前回の戦闘までに修理が間に合わなかったのも機体が他のゲルググと比べ特徴的だったからだ。
「マーレ、新しい追加装備の使い方はわかるかい?」
「ああ、追加装備って言っても格闘武器だしな。たしかヒート・ランスとかいったか?」
ヒート・ランス―――本来ならガルバルディβに装備する予定だったが、前回の戦闘では出力が安定せず調整中で使われないままであり、そのままガルバルディβが大破した為に急遽ゲルググ用に出力を調節して取り付けることになった。ルドルフが「騎士であるこの僕にこそ、その装備は相応しいに違いない!」などと言って装備を寄越すように要求してきたが既に専用ビームサーベルがある時点でいらないと思ったので当然の様に却下した。
「クラウさん。私達の機体の整備、間に合いそうですか?」
マーレの機体を整備しているとクラウが整備している様子を見たルナマリアが話しかけてくる。
「それはいつまでにと言うのと、どの程度っていう度合いによって変わるよ」
少なくとも次の作戦まではマーレ機は間に合うだろうが他は微妙なところだ。フライトユニットは一から造っているため間に合いそうにない。
「修理だけに関してならどの機体も次の任務までには一応間に合うだろうね。でも、フライトユニットの配備は間に合いそうにないかな?」
苦笑いしながら応える。幾つかの機体には間に合うのに優先順位を決めてレイとルナマリアを後回しにしてしまったのだ。苦笑いして誤魔化したくもなるだろう。
「まあ、それは仕方ないですよ。実際スラスターユニット自体は装備してるんですから問題はないでしょうし」
「悪いね」
クラウの言いたいことは理解していると反応を返すルナマリア。それに対して謝罪するクラウ。
「そうそう、お詫びってわけじゃないけどジブラルタルに着いたらおいしい店でも予約しておくよ。シンと一緒に行って来たらどうかな?」
「ど、どうして、そこでシンが出てくるんですか!?」
ルナマリアは顔を赤くしながら叫ぶ。正直言ってその反応を返してる時点でわかりやすいと思うんだが、残念ながら、そういった方面にはシスコン気味なせいで鈍感なシンは気が付いていない。
「そうやって平和に恋愛が出来る時代だったら良かったのにね?」
「だ、だから恋愛とかそういうのじゃ、別にシンのことは異性として好きってわけではないですよ!?そりゃあどっちかと言えば好きな方ですけど、それは異性としてというより友人関係としてで、確かにふとした仕草がちょっと可愛いなとか思ったりしないわけじゃないですけど、そういうのって可愛い動物を見たりしたときに思ったりしますよね?あ、でもシンって動物で例えるならどっちかと言うと可愛いっていうより獰猛っていうかちょっと凶暴な狼とかそういう感じみたいで時々こっちが噛まれそうなぐらい格好つけてる時あるなって思いません?けど、それが悪いって言うわけじゃないんですよ!やっぱり男の子なんだからその位やんちゃというか男らしい方が格好良いような気がしますし。それに――――――」
話題の振り方を完全に間違えた。ルナマリアがシンに好意を抱いていたのはアカデミーの頃から彼等を知っている人間は殆ど理解している。何度かデートに誘ったりとアプローチをしているがシンはその辺鈍いし、そんな余裕もなかった時期だから全然気付かなかったりしてる。結局、それが延長線上に続いていって未だにシンが彼女の好意に気付いていないだけだ。しかも、ステラという強力なライバルが出来ただろうし。とはいえ、そのことはルナマリア本人は全く知らないだろうが。
『あ~、艦内の全乗員に告ぐ。現在、議長から全世界へ向けての緊急メッセージが放送されている。各員、可能な限り聞くように』
ルナマリアのマシンガントークに辟易していると、艦内放送でアーサーがそんなことを言い出す。議長からの緊急メッセージ、ということでMSの整備を一度取り止めて殆どの人が緊急メッセージを見れる場所まで移動し始める。
「あれ?クラウさんは行かないんですか?」
クラウはそんなこと気にせず整備を進めているのを見て、ルナマリアが尋ねてくる。
「ああ、別に構わないよ。その内容は直接教えてもらってるから」
以前ディオキア基地で話したときに聞かせてもらった話の一つに今回の緊急メッセージの件を聞いている。どうせロゴスのことだろう。死の商人こそが悪の元凶であるという議長の発言によってザフトの正当性を高め、組織を一致団結させる。それによって議長の権力は高まるし、結果的に信頼も上がる。何より絶対的正義と言うものは多くの人間が信じられないものだが、逆に絶対的悪と言うものに関しては信じやすいものなのだ。そんなものありはしないとクラウは思っているのだが。
人が一人もいなくなった格納庫で一人静かに彼はMSの整備を行う。口元には笑みが浮かんでおり、これから始まるであろう壮大な劇に期待しているのだろう。ようやく動き出す。世界の運命がここから狂いだすのだ。誰が勝とうと、世界がどうなろうとも気にしない。ただ、世界は在るがままに動いてく。
◇
その放送を見て、俺―――スウェンは奴が言っていたことが事実だということを理解した。手錠をされていようとも部屋を与えられている俺は部屋の中ではほぼ自由だ。この手錠自体も誰かが部屋に入るときにしか機能しないらしい。普段は外れており、部屋のロックが解除されるときに自動で磁力か何かで取り付けられるようだ。
『私はプラント最高評議会議長。ギルバート・デュランダルです。私は今こそ皆さんに知って頂きたい。こうして未だ戦火が収まらぬ、本当の理由を!』
部屋に取り付けられていた画面を見ている限り、映されている彼は本物だろう。自分の敵の大元だったモノ。しかし今となっては彼を殺す機会があったとしてもする事はないだろう。
『この映像は過日…ユーラシア西部の地域に連合の巨大兵器が侵攻したときの様子です。この兵器は連合から脱退を宣言した三都市に対して何の勧告もなく攻撃を始め――――――』
連合の兵器によって街を焼いていく機体が見える。コーディネーターだけでなく、ナチュラルを殺していく様子を見て顔を顰める。
そんな中、子を庇う親がそのまま子供ごとビーム砲に薙ぎ払われていくのを見る。
「うっ―――!?」
洗面所に駆け込み、思わず吐き気を催す。過去の記憶が思い出される。幼い頃にビルで爆発が起こり俺を庇った母の姿。先程の映像を見てその姿が重なった。
「ハァ、ハァッ……」
席にもたれかかりながらも、彼の演説は続いていく。
『――――――軍需産業複合体、死の商人《ロゴス》!彼等こそが平和を望む私達総ての真の敵です!!果てしない死の連鎖も、ユーラシアの惨劇も、コーディネーターを忌み嫌うあの《ブルーコスモス》でさえ―――総て彼等の手によって作り出されてきたのです!!』
終わりだな……ファントムペインも……ロゴスが母体であるあの組織は、ロゴスが世界の敵となった今、ロゴスの壊滅と共に間違いなく失われる。無論、ロゴスが勝利すれば話は別だろうが、だとしてもファントムペインはていのいい盾として扱われ、おそらく壊滅するだろう。
躊躇いなくそんなことを思えたのは俺にとって最早執着するべきことがないからだろうか?ミューディーもシャムスももう居ないのだ。今更あんな組織に執着など沸くはずもないか……。
『だからこそ、私達の―――いや、世界の真の敵…《ロゴス》こそを滅ぼす為に戦うことを、私はここに宣言します!!』
どうにでもなれ―――そんな思いがよぎって仕方がない。ふと机に置かれたタブレット端末に目がいく。新しい世界を探すのも良いかもしれない。どうせ元居た場所は完全に世界の敵となったのだ。自由を得たとしても構わないだろうと思ってしまう。
「そうだな―――星を目指すのも悪くないのかもしれない……」
戦うことしか自分には出来ないのかもしれない。だけど、始めはそれでも良い。少しずつでも前を目指して上を目指して、いつか星に辿り着く。それが―――夢なのだから。
◇
「で、だ。一番最初にお前に聞こうと思ったわけだが、如何なんだ、実際?」
「何がだい?現実的に可能かどうかについてかな?それともロゴスが真の敵なのか疑問なのかい?」
クラウは未だに整備を続けながらマーレの質問に対して質問で返す。
「どれでもいい。取りあえずお前がどう思っているのかが聞きたい」
「別に、どうも思っていないよ。ロゴスは敵、それで良いと思うならそう思うべきだろうし、違うと思うなら自分にとっての真実を探すべきだよ」
クラウにとって今回のロゴスの話は軽く見ている。いや、正直に言えば興味がないのだ。ロゴスを討ちたいなら討てばいい。経済が破綻しようがアレが多くの人類にとって害悪であることは事実だ。最大多数の最大幸福を目指したいというなら討つのはあながち間違いでもないだろう。尤も、それはザフトからしてみた話かもしれないが。
「自分にとっての真実だと?」
「そうだよ。真実とは常に己の主観が入り混じるべきものだ。何故ならそれは人は己の価値観の総てを他者と共有する事が出来ないのだからね」
それっきり黙りこむクラウとマーレ。己にとっての真実なんて色々ある。コーディネーターもナチュラルも互いを人間だと認めないことだって一種の真実だ。遺伝子的に見ればナチュラルにとっては人類と言えないかも知れないのだし、コーディネーターだってナチュラルは旧人類だとでも思ってるのかもしれない。
だからこそ、自分で考えることは重要だ。
「君はどういう答えを得るんだい?マーレ・ストロード」
僅かではあるが覚醒している彼は人の枠を越える新たな存在となるのかもしれないのだから。
◇
「君が教えてくれなかったら危なかったかもしれないな」
《いえいえ、当然の事をしたまでです。寧ろ、事前に察知しておきながら、止めることが出来なかったことが申し訳ないと思っています》
ブルーノ・アズラエルはデュランダルが放送する前に、既に邸宅から脱出していた。例の諜報部隊から事前の知らせを受けていたからだ。恩を売る為に幾人か関係の深い人物には情報を売り渡したが、一部はそれを受け入れず手遅れになった相手もいたようだ。
「しかし、ますます君の正体が気になるよ。如何に一族を失ったとはいえ、我々ロゴスですら感知できなかった情報を持ってきたのだからね」
《申し訳ないですが、それは企業秘密というものです。ですが、あなた方には勝ってもらわないとこちらとしても困るので》
つまり、有益でなくなればこの情報を送ってきた人物は切り捨てると、密かにそう言っているのだがブルーノはそれに気付かない。彼は企業の人間としては優秀なのだろうが、文字によって感情が読み取れないこの発言の本当の意味を知る事は出来ないのだろう。故に、彼はただの操り人形に成り下がることは明白だということだった。
後書き
ルナマリアの内情暴露回。普段クラウ並に目立たなかったルナマリアにちょっとだけ焦点当ててみた。スウェンも連合脱退は確定のようです。何処に所属するかまでは決まってませんが。
最後のアズラエルのやり取りは特に意味がないような気もする。果たして情報を送っている人物は誰なのか?
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