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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第六十話

 
前書き
……まあ、まずは、宣言していた通りになってしまったことをお詫びします。 

 
「どこだ……ここ……」

 俺がリズと別れてALOに入ってから、始めて放った台詞はありきたりな台詞だった。だがそれも当然で、俺の目の前にあるのは、シルフ領の美しい木々では無かったのだから。

 レコンと共に泊まった船から出た後、伸びをしながらスイルベーンに戻るべく翼を展開しようとしたのだが、前述の通り森は少しも見えなかった。その代わりに見えるのは、鉄に機械に商店街と、美しいスイルベーンとは似ても似つかない光景が広がっていた。

 これはどういうことかとレコンにメールをしようとしたが、そのフレンド一覧の名前はグレー表示だったので、まだALOには入って来ていないらしい。……このグレー表示と言えば、SAOで見たくもない色の一つだったものだ。

「どういう……ことだ……」

 もう一度ついつい呟いてしまったが、ふと見てみるとその船に刻まれていた、ある文字を発見する。昨夜は暗くて見えなかったもので、何が書いてあるか注意深く観察してみると。

『《スイルベーン》発《ミスマルカ》行き』

 ……俺はその表示を見てこの状況を分析してみると、どうやら俺は《スイルベーン》からかけ離れた場所にいるらしい。《ミスマルカ》とは確か、シルフ領とは逆の場所にある首都の名前――すなわち、鍛冶妖精《レプラコーン》の名前であるのだから。

「はぁ……」

 船の受付をやっていたNPCから話を聞いてみると、あの船は真逆に位置しているスイルベーンとミスマルカを繋ぐ船で、一日に何度か高速で移動しているらしい。

 そんなことを知らずに泊まった俺とレコンは、まんまとこちらの都市に招待されたことになる。幸いにも数時間後にはスイルベーン行きの船は出るらしく、キリトとの待ち合わせの時間にはギリギリになりそうだ。

 後は船の発着時間まで待っていれば良いのだが、ただそれだけでは芸もない。どうせ待っていても船が早く出来る訳でもない、せっかくだから楽しめるかも知れないし、鍛冶妖精というぐらいならば武器も売っていることだろう。

 もはやただの棒と化した初期装備の片手剣では、頼りないことこの上ないので、俺はこの船が出来るまで《ミスマルカ》に入ることとにした。

 スイルベーンは自身の種族の色を模した建物や、それと同系色のシルフたちが闊歩する美しい町であったが……ここ《ミスマルカ》は全くの逆と言って良いかもしれない。

 あからさまな人工物や客寄せなどが盛んな商店街に、レプラコーン以外の様々な種族の妖精たちが歩いている。その光景は、俺にかつての《アルゲート》を彷彿とさせた。

 アルゲートは人混みが苦手な俺は嫌な場所だったが、こういう活力が沸いてくる場所は嫌いじゃない。

 スイルベーンは緑色と金色を基調としているため、他の種族が混じればかなり目立つことになっていただろうが、ここ《ミスマルカ》ではそんなことはない。来るもの拒まずということのような、全ての種族が笑い合っていることこそが、このミスマルカというレプラコーンの首都の色なのだろう。

「おい、そこのシルフの坊ちゃん!」

 良い所だな、などと思っていたのも束の間、あまり呼んで欲しくない呼び方で声をかけられた。確かに今の俺の外見は、貴族のお坊ちゃんみたいな感じなのだが、髪の色だけでも変えられないだろうか。

「……ん?」

「よう、坊ちゃん。ちょっとやっていかねーかい?」

 いかにも鍛冶屋という巨漢のレプラコーンが、自分の背後を指差しながらそう言った。そこでは、二人のプレイヤーが俺にも馴染み深い《鍛冶》を行って、武器を造っているようだ。

「なにやってるんだ?」

「コンテストさぁ。前回の優勝者と飛び入り参加のダークホースの決勝戦。一口200コルから、どうだ?」

 鍛冶を使ってコンテストということは、プレイヤーのどちらが良い武器を造れるか、という戦いだろうか。……そしてこのレプラコーンがやっているのは、こういう大会にはお決まりのトトカルチョのようなものだろう。

 通りでコンテストを行っている周りにたむろしている連中に、奇妙な熱気のようなものが漂っているのはこのためだろう。

「……止めとくよ」

 こういう賭けは雰囲気はともかくあまり好きではないし、そもそも俺には一銭もない。そういう訳で丁重にお断りさせて頂くと、レプラコーンは隠す気もなく舌打ちした。

「チッ、見た目通りのお坊ちゃんかよ……おーい!」

 すごすごと引き返したかと思えば、即座に他のプレイヤー達へと賭の勧誘に行くレプラコーンに、俺はなかなかの強かさを感じるのだった。そして前述の通り賭けには興味がないものの、どんな武器が出来るかという、このコンテストの結果には興味がある。

 どうせ行く当ても無し、その場に立ち止まって見ることにしよう。

 二人のレプラコーンの、ハンマーを打ちつける規則正しく懐かしい音がしばらく響いていたが、しばし後に片方の音が止まる。先程優勝候補だと紹介された、無精ひげを生やしたいかにも職人、という出で立ちのプレイヤーである。

 そのレプラコーンがハンマーで叩いていた金属片を持ち上げると、レプラコーンの手の上でその金属が変容していく。変容しているインゴットがその形を成していくと、どのような方法を使ったのかは知る由もないが、奇妙な紋様が刻まれている赤銅色のハンマーが出来上がっていた。

「おお……!」

 その見るからに頑強そうなハンマーを見て、俺を含む観客が息を呑んだが、レプラコーンの職人はそれを片手で制した後、ハンマーを振り上げ……ハンマーを作っていた机に思いっきり叩きつけた。

 ……すると、その机はハンマーが触れた瞬間に中ほどから叩き割られた。その破壊方法は、『ハンマーが一瞬にして机を壊した』か、『ハンマーに耐えきれず机から自壊した』のどちらかである事を示していた。

 レプラコーンの職人のパフォーマンスが終わった直後、隣で作業していたレプラコーンもその作業を終えたようだった。その外見は、巨漢であるレプラコーンの職人とは真逆の……幼女というべきか、子供のような身長のレプラコーン。

 しかし作業用のハンマーは軽々と振り回しているので、どことなくシュールな図ではあるが……それはともかく、作業は終わったようだが、幼女にとっては最悪のタイミングである。何故なら観客は、ほとんど全員赤銅色のハンマーの方を見ていて、彼女はそれ以上のインパクトを観客に与えなくてはいけないのだから。

 幼女が作業していた机の上に置いてあったインゴットが変容していき、ただの金属片などではなく、もちろんハンマーではないれっきとした武器になっていく。そのインゴットは長く延びていたが、槍のような長さには届かず、三尺ほどの長さでその変容は止まる。

 そうして現れた武器は――日本刀。日本の独自の製法で作り上げた刀剣類であり、黒色の柄と銀色の刀身を誇り、芸術品としても名高い美しい武具である。

 その刀身の輝きは余計な装飾をして無かろうと、それだけでもシンプルかつ美しく、一級品の日本刀ではあった。だが、ど迫力のパフォーマンスを見せた赤銅色のハンマー相手には、やはり分が悪く、観客たちの反応はあまり芳しくない様子だった。

 ……そんな観客たちの反応を横目に、俺は少しだけ声を張り上げた。

「なあ、ソレ良い刀みたいだから、ちょっと振らせてもらっても良いか?」

 突如として出された俺の宣言に、会場はしばしざわめいたものの、幼女は頑としてその日本刀を渡さなかった。その姿は作品の制作者として、見ず知らずの者に預けるわけにはいかない、というプライドが感じられた。

 しかしそこに、同じく職人である優勝候補のレプラコーンが割って入った。そして幼女が造った日本刀を、その巨漢を活かして簡単に奪ってしまう。

「良いではないか、幼女よ。私だけパフォーマンスをするのは不公平だ……その矮躯で、日本刀を振れるとは思えん」

「ち……小さいって言わないでよ!」

 幼女からの抗議と攻撃が職人を襲うが、体格的に大人と子供の喧嘩のようなものなので、レプラコーンの職人は何ら堪える様子はない。そして幼女から奪った日本刀を、丁重に俺へと渡すのであった。

「…………」

 ずしりと重い抜き身の日本刀が俺の手に渡され、その漆黒の柄をある種の確信を持って握り締めた。……世界は違ってもあの刀の『兄弟刀』であるならば、その手触りや切れ味は同じであると、再確認しながら。

 そしてそのまま俗に言う『居合い』――俺が最も得意とする技の構えをとって、幼女が作業をしていた机へと狙いをすました。

「抜刀術《十六夜》……!」

 ぼそりと呟いた言葉とともに――柄はないため抜刀術ではないが――斬撃は放たれた。俺は日本刀を元の構えに戻したが、斬られた筈の机は全く何の変化も戻さない。

 自信満々に名乗りを上げた俺と、見かけ倒しだった日本刀に、観客たちから失笑が漏れてしまったその瞬間……机が時間差をもって、斬られたことに気づいたかのように、真っ二つになって大地に落ちた。

 あの日本刀――日本刀《銀ノ月》の兄弟刀を造ることなど、俺が知る限り彼女しかいないし、恐らくは実際にそうだろう。そしてその彼女も、今の斬撃によって俺が誰だか解ったようだった。

「ショ、ショウキ……?」

「リズ、だよな……」

 思っていたよりも遥かに早い再会に、俺は観客たちの歓声が響く中で、少し頭を抱えるのだった。俺が相談すれば何か行動を起こすだろう、とは思っていたが……彼女の行動力と友情の厚さを見くびっていた、と。



「ま、まああんただけに任せるの不安だし……それに、あたしだって少しは力になると思ったから……」

 目の前の幼女のような姿をしたリズは、言い訳がましくそんなことをのたまった。どこか既視感を感じる喫茶店にて、つい数時間前と同じように、お互いで軽食をつまみながら。

 ……喉に詰まらせたりは出来ない。

「それは助かるけどな……リズは、大丈夫なのか?」

 リズが来てくれれば百人力だったが、SAOと同じバーチャル空間であるALOに、やはり彼女には来て欲しくなかった気持ちがある。それはただの俺のエゴである、というのは解っているつもりだが、俺からしてみれば仕方のないことだと思いたい。

「あたしは……大丈夫よ。その、あんたも、いるし」

「……それは嬉しいことを言ってくれるよ」

 正直に言うと照れて顔が赤くなってしまったが、彼女の方も似たような感じではあるので、どちらも触れないのが暗黙の了解である。彼女も裏声や小声になってしまってはいるが、よくもこういうことを言えるものだ。

「しかし、リズ……なんというか、凄い格好だな」

「うっ……」

 リズも新たなアバターを作製しているのだから当然だが、そのアバターは先程から何度も言っているように、何故か幼女である。大事なことなのでもう一度言うが、幼女である。

 現実世界の彼女の面影を残しつつも、あらやる箇所を小さくしたような外見をしているのだ。

「……あんただって、お坊ちゃんみたいな格好じゃない」

「それよりは遙かにマシだ、リズ」

 リズベットならぬロリベットの姿を改めて見てみるが、どうにもその姿のせいで、子供と口げんかをしているようで慣れない。生来子供が苦手なこともあるが、それは誰だって嫌だろう。

 そして何より重要なことだが……男のロマンたる双丘が無くなってしまった。……もう少し具体的に言うと、胸部の肉がだ。

「……なんであんた、落ち込んでるのよ……?」

「気にしないでくれ……」

 俺だって健康的な成人男性であり、アバターシステムがランダム精製だということに、机へと八つ当たりをする権利はある筈だ。悔しさから目の前の机を二回ほど叩いた後、本題へと入るために口を開いた。

「これからキリトがいるシルフの首都、スイルベーン行きの船が出るんだ。……リズも行くか?」

「もっちろん! だけどその前に、この貧相な装備を整えなきゃね」

 そう言いながら、リズは勢い良く立ち上がった。今まで座っていた椅子の上に座って、ようやく俺とほとんど同じ目線であったが。

「リズ、椅子の上に乗るなよ。それに、装備を整える金なんて……」

「ふっふーん。それが……あ、る、の、よ」

 リズは得意げな顔――ドヤ顔とも言うが――を披露しつつメニューを操作し始め、俺にもシステムメニューを開くことを促してきた。確かに記号だらけのアイテムストレージは確認したものの、システムメニューなどは特に確認をしていなかった。

 ……特に、SAOでは確認する必要もなかったステータス画面、などは。

「何だ、コレ……」

 SAOの時には所持金とプレイヤーネーム、そしてHPしか表示されていなかったステータス画面には、新たに『魔法』の欄が追加されていたが、SAO時より特に変化は無かった。しかしこの場合では、変化していないとおかしい筈だ……SAOからALOという、新たな妖精の世界になったのであれば。

 しかし今回はそれが好都合であり、リズが『お金はある』と言ったのはこういうことだろう。キリトアスナ程ではないにしろ、俺やリズだってなかなか稼いでいた部類に入るはずだ。

「それに……ね」

「ああ。武器は、もうあるからな……」

 日本刀《銀ノ月》の兄弟刀、先程の鍛冶コンテストは残念ながら準優勝に終わってしまったが、その切れ味はSAO時の相棒と遜色はない。アイテムストレージ内で、記号の羅列と化してしまった兄とともに、また一緒に戦ってくれる筈だ。

「銘はまあ……やっぱ《銀ノ月》、かな」

「……ああ、そうだな」

 元々この日本刀に設定されていた名前には悪いが、この名前は俺にとってもリズにとっても思い出深い名前であり、譲ることは出来ない名前であった。久しぶりに腰に差すということをやってみたかったが、まだ鞘が出来たわけではないので我慢しておく。

「それじゃあ、一緒に買い物に――」

「御免」

 妙に古くさい口調で俺たちが立っている場に歩いてきたのは、先程のコンテストで赤銅色のハンマーを造り優勝した、職人顔のレプラコーンだった。無精ひげに筋肉隆々な体つきと、レプラコーンよりノームの方が似合っているような気がするが、リズに勝る鍛冶スキルは確かなものだろう。

「先程のコンテスト、そこな幼女の鍛冶スキルには感服した。装備を整えるであれば、私の工房を使わないか?」

「……盗み聞きしてたのか?」

「幼女って呼ばないで!」

 俺とリズから二種類の糾弾が放たれたものの、老練した職人プレイヤーはもう何も言うことはなく、ただ目を伏せて俺たちの返答を待っているようだった。

「お前の工房、っていうのはどこにあるんだ?」

 俺の装備やリズの装備を再現するにしろ、他の装備を新たに作るにしろ、数時間もかかってしまえばスイルベーン行きの船が出航してしまう。なので、リズの作業時間についてはあまり心配はいらないが、工房までの道程を気にする必要が……

「隣だ」

「……そうか」

 全くもって問題なかったようで何よりである。

「それじゃ、ショウキ。悪い人じゃ無さそうだし、あたしは工房を使わせてもらおうと思うんだけど……」

「そうだな。じゃ、俺は買い物して来るから、リズも何か欲しいのがあったらメッセージで連絡してくれ」

 そうして俺は商店街へと赴き、リズは隣にそびえ立っている工房へと入っていった。リズは目に見えてワクワクしながら、俺はリズとの買い物を逃してため息をつきながら、という違いはあったけれど……
 
 

 
後書き
本編は正直説明回でしたね、ロリベット参戦という七文字に尽きます。

そしてある意味本題、lineのSAOの方々に散々いじられたこの企画。

SAO-銀ノ月-~コラボ企画~

……が、始動します。自分がチキンなせいでとんとやらなかった、あの企画が遂に!

……と、言いたいところなのですが、見ての通りまだまだALOが序盤なので、まだまだ後になる可能性もあります。更に言うといつも以上の駄文ですし、そもそもやってくれる心の広い方がいるかも不明です。

時期:不明
人数:不明
ゲーム:不明

……うん。こんなでも必ずやりますので、メッセージでも感想でもお待ちしています! 
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