ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
三十六話:お父さんとドーラちゃん
「モモ!」
私が呼び掛ける前に、もう行動を開始しているモモ。
そして当然、私自身も、認識すると同時に動き始めている。
そうでもしなければこの強敵を、出し抜くことなど出来ない!
素早い動きで敵を撹乱するモモ、モモが作り出してくれた一瞬の隙を突き、ブーメランを投げ放つ私。
ブーメランは目標を過たず切り裂いて、鋭く曲線を描き、私の手元に戻ってくる。
やった!
「モモ!やりました!」
「ニャー!」
達成感を分かち合う、私たち。
遂に、遂に、やった……!
とうとう、パパンを!
出し抜いて、魔物を倒すことに、成功しました!!
いやー、長い道程だった。
妖精の件で少しはレベルアップするだろうとは思ってたけど、パパンクラスからすれば、そんなの誤差範囲なわけで。
私ひとりじゃ、どう転んでももう無理だと思いましてね。
早々に、モモに協力を仰いでたわけですよ。
今でこそ信頼し切ってるモモの賢さだけど、アルカパから帰ってきたばかりの頃は、そこまででも無かったわけで。
わかってるかどうか半信半疑の状態で、できるだけ簡単な言葉で、なんとかパパンを出し抜きたい旨と、そのための作戦を伝えてたわけ。
わかったような感じでフニャフニャ頷いてくれてはいたけれども、いまいち不安なまま、妖精の世界に赴き。
そこで、雑魚戦のついでに練習を重ねていたわけですよ!
ベラなんかは、さっさと倒せばいいのに、あんなにはしゃいじゃって!やっぱりまだまだ、子供ね!とでも言わんばかりの、生も付かない温かい目で見守ってましたね!
そうして完璧なコンビネーションを築き上げて、今日のこの日に臨んだわけですが。
だからと言ってすぐに秘策を繰り出すなんて、詰めの甘いことはしません。
まずは、様子を見ること。
パパンほどの達人を、誤魔化し切ることは不可能でも、実際ほどには成長していないと見せかけ、油断を誘うこと。
戦える場所なんか村内の洞窟程度で、本来なら大幅なレベルアップなど出来ている筈が無いから、パパン認識での誤差範囲の幅を少々誤魔化す程度ならば、私の演技力を以てすれば十分に可能!
目標を達成してバレた後は、アルカパの冒険で既にそんな感じだったとか言って誤魔化せばいい!
現実問題、そうとでも考えなければ説明がつかないんだから!
元々、目の前でまともに戦ったことも無いんだし!
そんな感じで、万全の態勢を整えて挑んだ先程の戦闘で。
遂に、遂にやりました!
成し遂げました!!
あ、ちなみにモモが撹乱してた相手は、パパンです。
ただの魔物相手なら反射的に斬り捨ててしまうパパンも、娘のペットにそれはできまい……!という、計算と信頼のもと。
怒られることくらい、覚悟の上ですよ!
そんなことより、これは大事なことなんです!
パパンが戸惑いとか呆れとか感心とか、なんかいろんなものが混ざった感じの顔で、こっちを見てます。
なんと言うべきか、迷ってる感じですね!
「おとうさん!わたしも、すこしは、つよく、なったんですよ!もう、まものも、たおせます!」
パパンに特定の言葉を言ってもらうことが、目的では無いのでね!
この時点で無理になんか言わせるより、必要なことをアピールしておくほうが先でしょう!
モモが、パパンから離れて私の後ろに隠れます。
うん、ありがとうね、怒られるとしても、全部私にするからね!
そんな気持ちを込めてモモを撫で、パパンに言います。
「モモを、おこらないでくださいね?わたしが、おねがいしたんです」
だから、怒るなら、私に!
私の目的くらいわかってるだろうから、まず怒らないだろうとは思うけど。
普通なら命の危険もある魔物との戦闘で、最大戦力の邪魔をするなんて、正気の沙汰じゃ無い。
親としては怒るべきところなんだろうし、子供として怒られても仕方ないとも思ってる。
だから、大丈夫!
どんと来い!
私、限定で!!
と、一瞬脳裏を掠めたガチロリコンに怒れるパパンの影は振り払い、現実の目の前のパパンの御沙汰を待っていると、パパンが溜め息を吐きます。
「……いや。仕方ないな。父さんが、悪い」
あそこまで、愛娘に対してまさかあそこまでは、恐くしないはず……!
と振り払い切れない影に怯える私にかけられたのは、無罪放免のお言葉。
え?いいの?
半ば以上期待していたとは言え、甘過ぎない?
たまにはビシッと叱ることも、必要じゃね?教育上。
「世話のかかる父さんで済まないな、ドーラ」
困ったように微笑んで言う、パパン。
そこまで言われてしまうと、なんていうか。
反応に困ってしまうんですが。子供として。
大人同士なら、なんとでも言い様があるんですけど。
……アレか?
やり過ぎたのか?今さらながら。
あまりにも、子供らしく無かった?
「親が情け無いと、子供がしっかりすると言うが。本当だな」
……って、ええ!?
違う!
それは違うよ、パパン!
あなたみたいな立派な人が、そんな自虐に走らないで!
「そんなこと、ないです!」
ヤバい困ったどうしよう、パパンをトラウマから救うはずが、逆に追い込んじゃった?
こんなに娘に気を使わせて、なんてダメ親父だ的な?
まさかの、墓穴?
ああああ、あなたは悪く無いんです、私が転生なんかしたのが悪いんです。
ってもそれも私のせいじゃ無いし、私の記憶をしっかり消すなりきっちり無垢な魂を選んで入れるなりしなかった神的ななにかが
「おとうさんは、すごい、ひとです!わたしが、わるいんです!」
つってもそんな説明もできるわけが無いしなに言ったら子供らしいのかわかんないっていうか子供らしくフォローするためになに言ったらいいかもはやわかんないっていうか
「わたしが、おとうさんのいうことを、きかないから!おとなしく、してないから!」
そうだよもうおかしなこと考えないで黙って守られてりゃ良かったんだよそれで丸く収まるならもうそれでも良かったじゃんヤバい涙出てきた泣いちゃう?いっそ泣いて誤魔化しちゃう?いやいやしてどうするよそうじゃなくてフォローが、フォローがががが
と動揺し過ぎて思考が崩壊し始めた私に、パパンがまた困ったように笑って。
「……言い方が悪かったな。喜んでいたんだ。ドーラは、しっかりとした、いい子に育っていると」
え?なんですか?喜んでる?まさかこの人を被虐趣味に目覚めさせるなんて私はそんな罪深いことを
「情け無くても、ドーラの父さんは、父さんしかいないんだからな。つまらないことを言って、悪かった。ドーラが、父さんの娘で、良かった」
……はっ!
危ない!
衝撃のあまり、崩壊を経由しておかしな方向に暴走しかけてた!
えっと、つまり、なんですか?
結果、良かったの?
「もう、大丈夫だ。次からは、邪魔をさせなくてもいい。お前も、ありがとうな」
そう言って歩み寄り、モモを撫でるパパン。
……大丈夫でしたか!
焦った!
マジ、焦った!
取り返しのつかない罪を、犯してしまったかと思った!!
こういう生死に関わらない部分は、チートの書にも書いてないんだよねー……。
いや、わかるよ、私でも、書かないと思うよ?
でも心臓に悪すぎですよ、これは。
などという、今回生まれてから経験した中で最凶の衝撃から回復しようと努めつつ、衝撃の中でうっかり聞き逃しそうになったパパンの言葉を思い返します。
ドーラが、父さんの娘で、良かった。
その言葉に、さっきの強い衝撃とはまた違う、鈍い衝撃を感じて。
あなたの可愛いドーラちゃんの中身は、こんな汚れ切った大人なのに。
良い子で可愛いドーラちゃんを演じると決めたのは私なのに、今さらながら、娘として愛してくれる人を、騙している重みを感じて。
……本当に、今さらだ。
不意打ちの衝撃で、心に隙ができただけだ。
この人が、心からそう思ってくれてるなら。
そこまで、上手くできてたなら。
最後まで、きっちり演じ切ってやる!
私たちが、最初の最後を迎えるその場所、東の大国ラインハットは、すぐそこです。
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