ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
三十五話:桜咲く旅立ちの日
春風のフルートから、流れ出す明るく美しい旋律。
フルートを奏でるポワン様を中心に、周りに向かって吹き出すように拡がっていく、暖かい風。
その風を受けて、瞬く間に融けていく、厚く積もった雪。
雪に包まれていた木々が姿を現し、見る間に芽吹いていきます。
そして芽は膨らみ、蕾となり。
細かに追いかけてはいたけれど、全ては一瞬。
一瞬のうちに、全ての草木に、花が開きます。
そして、満開に咲き誇っているにも係わらず、またポワン様から巻き起こるように、或いは全ての木々から降り注ぐように、舞い踊る花びら。
真っ白だった世界が、淡いピンクに色づきました。
思わず息を飲んで、見惚れてしまう私。
……これは。
桜、ですね。
この世界でも、春は美しかったけど。
桜を、見たことは無かった。
ゲームでもそんな描写はあったけど、もしかしたら無いのかもしれないと思ってた。
もう一度、死ぬまでは。
もしかしたら、その後もずっと。
見られないかと、思ってた。
必要だって、わかってても、辛いことはあったけど。
これだけのことで、大袈裟かもしれないけど。
ここに来て、良かったと、思う。
嬉しいのに、なんだか苦しくなって、自分が息を止めていたことに気付きます。
ちょっと目が湿っぽい気がするのも、きっと息を止めてたせいですね。
舞い散る花びらや、様変わりした村の様子を食い入るように見つめているうちに、フルートが鳴り止んでいることに気付き、ぱちぱちと瞬きをして湿気を飛ばし、振り向いてポワン様に向き直ります。
なにも言わずに、微笑んでいるポワン様。
このひとは、どれだけのことを見通してるんだろう。
なにかを言わないといけない気がして、口を開きます。
「ポワンさま。……ありがとう、ございました。」
でも口を開いたところで、説明のできない私に言えるのは、お礼くらいで。
そんな言葉なんかでは、表しきれないのに。
春の陽射しのような暖かい笑みを絶やさないまま、ポワン様が答えます。
「お礼を言うのは、こちらのほうです。あなたがこれから越えなければならない道行きに、今日のこの日が、少しでも励みになりますように。春の訪れの瞬間を、何度も見ていただくことはできないでしょうけれど。春に包まれたこの村は、いつでもあなたを待っています。よく覚えておいてくださいね。大人になって、困ったときは。きっと、私たちを訪ねなさい。きっと、力になりましょう」
なにを指しているのか、なにを知っているのか。
問いたいけれど、問うのも違う気がして、ただ頷く私。
ベラが、桜のひと枝を差し出します。
「ドーラ。短い間だったけど、楽しかったわ。私、あなたのこと、絶対に忘れない。たいしたことはできないけど、これ。持っていって」
「ありがとう、ございます。わたしも、ベラさんのこと。わすれません」
小さくても桜が見られるこの枝が、たいしたこと無いなんてことは、無いのに。
もっと、明るい感じで別れられると、思ってたのに。
桜が、いけないんですよ。
元日本人には、この花は、特別過ぎる。
……でも、ベラなんだから!
ベラと、私なんだから!
湿っぽいのは、やっぱり似合わないよね!
ポワン様が送る態勢に入ってくれてるのを確認して、思いっきり笑顔を作って、言います。
「つぎにあうときまでには、そそっかしいの。なおってると、いいですね!」
「なっ!?き、昨日は、お姉ちゃんとか、言ってたくせに!」
「おぼえて、ないです!」
「もう!こんな時ばっかり、子供ぶって!」
「だって、こどもですから!」
言い合う私たちにも微笑みを絶やさず、ポワン様が言います。
「さあ、もうお別れの時です。ドーラ、それにモモも。どうか、お元気で」
「ドーラ!モモも、元気でね!」
ポワン様の魔法の光に包まれて、姿のぼやけ始めたふたりに、応えます。
「おふたりも、おげんきで!かならず、また、あいにいきますから!」
言い終わらないうちに視界が真っ白になり、眩しさに目を閉じて。
目を開けたら、地下室でした。
暖かい風が吹く妖精の村とは違う、ひんやりとした、地下室。
それでも、今朝までとは違い、少しだけ春の温もりを感じるような。
妖精の村から少しだけ、風が吹き込んだとでもいうように、花びらが一片、舞い落ちます。
「……かえって、きちゃいましたね」
「……ミャー」
ベラがくれた桜のひと枝を握りしめ、こちらの世界で唯一、この経験を共有できたモモに、声をかけます。
色々あったけど、楽しかったなあ。
途中おかしな展開が、あったような気もしなくも無いが!
最後は、綺麗に終われたし!
これから、ラインハットだけど。
そこではきっと、一番辛いことが、あるけど。
でも、絶望しか無いわけじゃないから。
たぶん、頑張れる、かな。
「モモ!いきましょうか!」
「ニャッ!」
気を取り直して明るく言う私に、同じノリで応えてくれる、モモ。
この子もきっと、辛い目に遭わせてしまうけど。
今、手放したら、それだけじゃなくて。
人間の子供に苛められてたのに、それでも心を許してくれたのだろう、私に。
棄てられたという辛い目にも、遭わせることになる。
どっちがいいかなんて、本当のところはわからないけど。
私は、私がいいと思うように。
今、わかる範囲で、いいと思えるように、するしか無い。
結果を背負うのが私だけでは無いのが、辛いとこだけど。
そういう心苦しさも含めて、この子を引き取った責任なんだよね。
これも、わかってたことなんだから。
「モモ。わたし、がんばりますから」
「フニャー?」
頑張って、強くなって。
早く、迎えに行けるようにするから。
パパンもママンも、最終的には、助けられるようにするから。
最後に助けるために、一度は見捨てる旅に。
今日はきっとその、旅立ちの日。
階段を登って地下室から出ると、サンチョが慌てたように声をかけてきました。
「お嬢様!?地下室にいらしたんですか!?」
「はい。どうしたんですか?」
もうわかってるけど、一応聞いておきます。
「ええ!?そんなはずは……いや、そんなことより!旦那様にラインハットの城から使いが来て、出かけることになったんです!同行してすぐにも来てくれというのを、お嬢様を置いては行けないと、そこは断って。旦那様は今も外で探しておいでですが、あまり遅くなってはいけません。すぐに、追いかけましょう!」
うん、ちょっと違うんですよね。
チートの書に書いてあったから、これも知ってたけど。
男の時ほど、あっさり置いては行かれないらしい。
駄々を捏ねて村に残ることもできなくは無いけど、それはしないと決めたので。
「はい!いってきますね!」
「おや?ちょっとお待ちください、お嬢様!」
急かしといて、呼び止めるってなにさ!?
ハンカチなら持ってるよ?
他にもひと通り、持ってるよ!
「美しい枝をお持ちですね。初めて見るものですが。旅にはお邪魔でしょう、お部屋に飾っておきましょうか?」
そんなのもあったね!
失くしたくないし、今後の展開を考えたら、置いてったほうが安全かな?
書いてなかったから、たぶんどっちでもいいんだろうけど。
「はい。おねがいします」
「では、これはあとで生けておきますから。まずは、旦那様を探しましょう!」
「はい!」
サンチョに連れられて家を出て、通りすがりの村人の証言で、教会にいるパパンをあっさり発見。
マスドラに祈るのがどの程度役に立つのかわからんけど、良い子のドーラちゃんとしてはやはりお祈りのひとつもしておくべきなので、パパンに続いて私もお祈りして。
サンチョに見送られ、パパンに着いてモモを連れて、サンタローズの村を旅立ちます。
「旦那様、お嬢様!どうか、お気を付けて!」
「ああ。留守を、頼む」
「サンチョも、からだに、きをつけてくださいね!」
少なくとも十年は、会えないはずだから。
気を落とさないのは無理だろうけど、せめて少しだけでも。
元気で、いてください!
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