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ローエングリン

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14部分:第二幕その七


第二幕その七

「あの騎士様の御名前を」
「うっ・・・・・・」
「貴女はもう追放になっている」
「下がられよ」
「そうでなければ我々も容赦しないぞ」
 彼等の声が厳しいものになる。
「だから今は」
「見よ、あの方が来られた」
「ブラバントの守護者が」
 ここで騎士がやって来たやはり白銀の鎧に純白のマントを羽織っている。その彼が来ると不穏な空気が残っていた。彼はそれを見て王に対して問うのであった。
「陛下、これは」
「卿の目で確かめるといい」
 王は今はこう言うだけだった。彼は今まであえて沈黙を守って様子を見ることに徹していたのである。これもまた王としての役割でもあるのだ。
「事態をな」
「まさか」
「騎士様」
 ここでエルザがローエングリンに駆け寄り彼の胸にその身を投げ入れた。
「どうか私を御護り下さい」
「貴女を」
「あの女から」
「あの女・・・・・・何故だ」
 彼もまたオルトルートの姿を認めた。そうしてすぐに顔を顰めさせた。
「彼女がどうしてここに」
「私があの女に情をかけここまで導き陛下と貴方から許しを得ようとしましたらここで裏切り」
「むうっ」
「私が貴方を妄信しているなどと言うのです」
「公女から離れられよ」
 騎士は強い目でオルトルートに対して告げた。
「ここは貴女のいる場所ではない」
「そうだ、その通りだ」
「さあ、立ち去るのだ」
「公女よ」
 騎士は周りの者達のオルトルートへの糾弾の声を聞きつつエルザに優しく声をかけた。
「あの女は貴女の心に毒を盛るようなことは言わなかったか」
「はい」
 戸惑いつつも頷く。騎士はその声を聞いてまずは安心したようだった。それで穏やかな声で言うのだった。
「では今夜は喜びの涙を」
「わかりました」
 エルザの心も落ち着いてきた。涙も消えようとしていた。しかしここで一同の前に今度はテルラムントが出て来たのだった。四人もこれには驚いた。
「馬鹿な、どうして」
「何故ここで」
「出るというのか」
 彼等も唖然としている。
「これは大変なことになるぞ」
「最早取り返しがつかない」
「陛下」
 彼は驚く彼等に対して顔を向けることなくまず王の前に片膝をついたうえで述べるのだった。
「そして諸侯よ」
「一体何だ」
「何故ここに出て来た」
 貴族達も騎士達も不快感を隠さない。それは王もまた同じだった。
「御聞き下さい」
「何を聞くというのだ?」
「早く何処かに行ってしまえ」
 彼等は口々にテルラムントに対して言うのだった。
「最早卿に聞くことはない」
「話すこともない」
「私は訴えましょう」
 迫ろうとする貴族や騎士達を制するかのように立ち上がっての言葉だった。
「あの騎士を」
「騎士殿を!?」
「何だというのだ」
 彼は騎士を指差して言っていたのだった。
「また何だというのだ」
「忌まわしき黒魔術の罪で。私の名誉を奪った裁判においてそれを使ったことを」
「!?また何を言うのだ」
「だからいい加減に消え去れというのだ」
「卿は最早」
「では聞きましょう」
 また詰め寄ろうとする彼等を前にしてまた告げた。
「この騎士殿の御名前は」
「むっ!?」
「素性は。天下の前で聞きましょう」
「そういえば我々はまだ」
「先程の伯爵夫人の言葉もそうだが」
「知らないぞ」
「うむ」
 そのことを言い合うのだった。
 
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