ローエングリン
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15部分:第二幕その八
第二幕その八
「野育ちの白鳥に曳かれ姿を現わす。面妖ではありませんか」
「むう・・・・・・」
「騎士殿」
テルラムントは今度は騎士に対して直接声をかけてきていた。
「お答えできますかな。これが」
「既に名誉なぞ忘れ果てている貴殿には答えることもない」
騎士は表情を変えずにテルラムントに返すのだった。
「その邪悪な疑念で私の心が汚されてなるものか」
「では何故答えられぬのか」
「陛下にも諸侯の会議の場でもお断りしてもさしつかえないこの身」
騎士は自分ではこう言う。
「それにここにおられる方々は御覧になられた筈。この様な疑念に惑わされることなきよう」
「確かに」
「それは」
彼等は騎士の言葉に落ち着き出した。騎士はそれを受けてかさらに言う。
「私の答えがなければならないのは」
「それは」
「公女のみ」
こう言ってエルザの方を見る。そのエルザは顔を蒼白にさせていた。
「貴女が思い煩われることはない。邪悪な疑念なぞ忘れ神の御加護を信じられよ」
「成功したわね」
「そうなのか」
オルトルートは含み笑いを浮かべて夫に囁く。見れば騎士の言葉を受けてもエルザの顔は青いままであった。
「これで。後は」
「もう一押しというのだな」
「そうよ。これで」
二人はまずは満足していた。居並ぶ貴族や騎士達も騎士を見て言うのだった。
「この方はどの様な方なのか」
「尊い方なのは間違いないが」
だが誰も知らないのだった。彼のことは。
そしてエルザも。蒼白な顔のままで呟くのだった。
「あの方が隠されていることが今大勢の方がおられるここであの方の御口から漏れたらそれはあの方にとって危険なこと。けれど私がそれを聞いたなら」
騎士を見詰めつつ呟く。
「あの方に救われた私は忘恩の徒になってしまう。けれど私の心はもう」
「騎士よ」
王がここで騎士に対して告げた。
「誠実を知らぬこの者達には強く応じられることだ。気高い卿はこの様な言い掛かりなぞ恐れてはいまい」
「無論です」
恭しく一礼して王の言葉に応える騎士だった。
「それは」
「我々もです」
「そう、我々も」
そして貴族達と騎士達が彼に賛同してきた。
「我々は貴方を信じています」
「その正しさを」
「有り難き御言葉」
騎士は彼等のその心を受けて言葉を返した。
「その御心、決して裏切りませぬ」
「宜しいですか」
「来ないで下さい」
エルザは不気味な笑みを浮かべて囁いてくるオルトルートを拒もうとする。だがそれでもオルトルートは彼女に囁くのであった。その不気味な声で。
「貴女が聞かれれば」
「聞かないで下さい」
「下がるのだ」
騎士がここでオルトルートを強い声で呼び止めエルザの前に出た。
「貴殿等は二度と公女の前に出てはならない」
「くっ・・・・・・」
「だがこれで」
二人は彼の強い言葉と視線の前に下がるしかなかった。だがそれでも感触ははっきりと感じていた。
騎士はエルザを優しく抱く。そのうえでまた告げた。
「貴女の真心にこそ幸福があるのです」
「私の心に」
「そうです。ですからそれを忘れないように」
「わかりました。私を救い幸福をもたらせして下された方」
「はい」
「私は今あらゆる疑いの魔力の上に高く愛を唱えましょう」
「そう、そうあるべきなのです」
「今ここに祝福を」
騎士が言うと周りの者達もそれに続く形で言いだした。
「どうか婚礼の場へ」
「神の導きを受けられよ」
「徳高き方々よ」
「エルザ=フォン=ブラバントに神の御加護を」
人々に祝福されつつ歩きだす二人。エルザは騎士の横に寄り添っていたがふと見るとそこにオルトルートがいた。彼女は勝利を確信したように勝ち誇った笑みを浮かべ右手を彼女の方に出してきた。エルザはまた青い顔になりそれから顔を背ける。だがここでまた騎士がエルザの前に出てオルトルートを牽制する。それを見た彼女は姿を消す。だが彼等はそれでも人々に導かれ婚礼の場である寺院に向かうのであった。
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