ローエングリン
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13部分:第二幕その六
第二幕その六
「公女よ、お下がりなさい」
「むっ!?あの女、まさか」
「あの声は」
「私は召使ではありません」
この言葉と共にヴェールを脱ぐとそこに現われたのは。
「むっ!?あの女は」
「テルラムント伯爵夫人ではないか!」
「何故ここに!?」
「どういうことだ」
「貴女が私より先に行っていいということがありましょうか。貴女は私に対して跪くべきなのです」
「えっ、一体何を」
エルザはオルトルートの豹変が飲み込めずおろおろとしていた。
「仰っているのですか。一体何を」
「私は自分が持とうというものを求めているだけです」
オルトルートはまだ言う。
「ただそれだけなのだから」
「何故今その様なことを」
エルザはまだ狼狽していた。
「どうして。昨夜の御誓いは」
「間違った裁判は我が夫を処罰しました」
「妥当ではないか」
「姫に対してあの様な侮辱」
貴族達も騎士達も顔を顰めてオルトルートを批判する。
「それを今どうして」
「言うのだ?」
「おかしいではないか」
「我が夫はドイツの尊敬を集めていました。高徳の士として、また武勇の持ち主として」
それは事実だ。
「だがあの騎士は何者ですか?公女ですらその名を知らないというのに」
「黙られよ、伯爵夫人」
「そうだ、あの方を疑うなぞ」
「あってはならないことだ」
「奇蹟の方なのだぞ」
「公女よ」
エルザを見据え指差して問う。
「あの騎士様の御名前が言えまして?その氏素姓が、どの家の出なのか」
「それは・・・・・・」
「何処から来たのかさえわかりはしない。そして何処に流れていくのかさえも」
「だから止められよ」
「これ以上御自身を貶められるな」
「さあ、如何ですか?」
周りの声をものともせずまだエルザに対して問う。
「答えられまして?」
「あの方は清らかで気高く」
エルザは蒼ざめた顔で言うのだった。
「徳高く神々しい方。疑うことなぞありません」
「そうだ、その通りだ」
「姫の仰る通りだ」
皆はエルザを支持した。
「その方を疑うなぞ」
「貴女はやはりおかしい」
「皆様」
エルザはその彼等に対して問うた。
「あの方は。清らかですね」
「その通りです」
「疑う余地はありません」
皆自分達に顔を向けて問うてきたエルザに対して答えた。
「どうして疑うことがありましょう」
「あの方を」
これが彼等の答えである。エルザはそれを聞いてほっとした顔になる。しかしオルトルートは不敵な笑みを浮かべまだ言うのである。
「それは魔術のせいです」
「魔術を!?」
「今度はそれか」
「では貴女が御聞きなさい」
またエルザに対して言うのだった。
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