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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第77話

麻生と別れてから上条と土御門は人を突き飛ばすような速さで歩道を走っていた。
土御門の携帯電話はスピーカー機能がオンになっていて、二人は同時にステイルの声を聞きながら道を走っている。
速記原典(ショートハンド)」を麻生が無力化したおかげで、ステイルは魔術を使う事が出来るようになった。
土御門があらかじめ、ステイルの傍に設置していた理派四陣を発動させてオリアナの居場所をナビゲートしてもらっているのだ。

「オリアナの位置を確認した。
 第七学区・地下鉄の二日駅近辺だ。
 もう少し時間があれば、もっと正確な場所を特定できる。」

「二日駅!?通り過ぎちまったぞ!」

上条は慌てて靴底を滑らせるようにブレーキをかけて、今まで走っていた方向へと引き返す。
途中の道を横に曲がって、細い道へと飛び込んだ。

「北上・・・そう、北方向へ動いているみたいだ。
 道は・・・・三本分かれているが、どれかはまだ分からない。
 すぐに特定させる。」

声を聞き終える前に上条と土御門は細い道を抜ける。
歩道の隅に寄り添うように、地下鉄の下り階段入り口が見えた。
彼らはそのまま北の道へと走って行く。

「三本の道は・・・今・・・今・・出た。
 良いか・・・」

「一番右の道だ!
 見つけた!!」

上条が叫ぶと同時、二〇メートルぐらい前方を歩いていた金髪の女がグルリと振り返った。
それから人の山をかき分けて走る二人組の姿を確認すると、慌てて脇道へ逃げていく。
上条と土御門もその後を追う。
脇道は短く、すぐに別の通りに出た。
ただし、こちらの表通りと違って、きらびやかな感じがしない。
小規模のテナントばかりが並ぶ一角で、そもそも客を歓迎している雰囲気すらない。
通り全体に商店街のようなアーチ型のアーケードが備え付けられているが、単に日当たりを悪くして居るようにしか見えなかった。
まだ昼前なのにどの店もシャッターが下りているのは、経営側も最初からこの一角は客の入りが悪い事を自覚しているからだろう。
おそらくもっと人の多い、競技場近くに仮店舗を設けているはずだ。
通りは横一直線に、左右に伸びている。
作業服のオリアナ=トムソンは左の道を走っていた。
上条と土御門は彼女を追い駆ける中、後ろからやってきた自律バスが彼らを追い抜いて行く。
何気なくその行き先を目で追った上条は、そこでギョッとした。
オリアナの行く先に、バス停がある。

「マズイ・・・ッ!!」

オリアナは自律バスを停車させるために、バス停にある信号のボタンのような物を押している。
自律バスは特に疑問も抱かずに、ゆっくりと動きを止めた。
オリアナは開いた自律ドアから車内へと足を踏み入れていく。
流石に走るバスを足で追い駆けるのは難しい。
別のバスに乗った所で「追跡」は難しいだろう。
大覇星祭期間中は一般車の乗り入れは禁止されている為、他の車を用意するのも困難だ。
そもそも、上条には車を運転する技術もない。
自律バスは、あくまで定められたコマンドにしか応じない。
運転手がいるなら、バスの背後から両手を振って後を追えば、乗り遅れたのだと思って停車してくれるかもしれない。
しかし、自律バスにそれを求めるのは荷が重すぎる。
上条は慌てて走り出したが、両者の間には二〇メートルもの距離がある。
上条がバス停に辿り着く前に、自律バスはほとんど音も出さずに発車してしまった。

「くそっ!!」

ようやくバス停に辿り着いた上条は、自律バスを停めるためのボタンを押したが、もう遅い。
走り出した車体は反応せず、ゆっくり速度を上げつつある。
一歩遅れてやってきた土御門は、遠ざかるバスを眺めて言った。

「なぁカミやん。
 こっからじゃ良く見えないんだけど、あのバスの中ってオリアナの他に乗客いたかにゃー?」

「そんなのどうだって良いだろ。
 それよりもどうやってあいつを追い駆けるか・・・」

「良いから、割と重要な事だし。」

「いなかった、気がする。」

「気がする?」

「いなかったよ!言われてみれば他の乗客はいなかった!
 多分、昼前にこの近くでやるリレーの予選A組を観るためにみんな降りたんだ。
 優勝候補が軒並み揃うから一日目の目玉になるとか、パンフレットにも紹介されてたしな。
 それがどうしたって!?」

「それなら安心だ、ステイル。」

土御門は上条ではなく電話越しのステイルに話しかける。

「前に、自律バスの整備場で、バスの壁面にルーンのカードを貼り付けてたな?
 それがまだ生きているのならオーダーを頼む。
 車体番号5154457(・・・・・・・)に貼り付けたカードを吹っ飛ばせ。」

反応は迅速だった。
ゴン!!という爆発音。
ゆっくりと速度を上げる自律バスの車体側面から、勢い良く火が噴いた。
一秒遅れて車体がさらに爆発し、車体後部が横滑りした。
道路に対して真横を向いた自律バスは、勢いを失わずに横転。
火だるまとなった巨大な金属の塊が、地面をゴロゴロと跳ね回った。
真上に噴き上げた炎の塊が、頭上のアーケードにぶつかって横へ広がっていく。
土御門は二つ折りの携帯電話をパチンと片手で畳んで、困ったような苦笑いを浮かべている。

「効果は絶大・・・過ぎたかにゃー。」






バスに乗り込んだ麻生は一番後ろの後頭部座席に寝転んでいた。
どこに行って暇をつぶそうかと、欠伸をしながら呑気に考えていた。
すると、バスが突然停止する。
ドアが開く音がすると、その方に視線を向ける。
バスに乗り込んできたのは金髪で作業服を着た女性だった。
脇には大きな看板を抱えている。
その女性一人だけ乗り込むとドアが閉まり、バスは再び発射する。
麻生はその女性に見覚えがあった。
前に不注意でぶつかった女性で、上条が追いかけていた女性でもあった。
そして、この学園都市に乗り込んだ魔術師でもある。
途端に麻生は嫌な予感がした。
その魔術師がこのバスに乗り込んだという事は、近くに上条達もいる可能性が高い。
さらに、あのステイルがいるのならば何が何でもオリアナを止める筈だ。
麻生は今も寝ころんでいる。
寝転んでいるという事は、外から見ると麻生がバス内にいるとは分からない。
バス内にオリアナ以外に誰もいないと判断したステイルならどうするだろうか?
麻生の疑問に答えるかのように、突然バスに強い衝撃が襲った後、爆発が麻生を襲った。







上条は轟々と燃えるバスを見て絶句する。
確かにオリアナを止める、というのが上条達の目的だったはずだ。
が、これは単純に「止める」の範囲に当てはまるのか。

「いやいや、あれですよ?
 本来ならちょっと火を点けて、自律バスの安全装置を作動させて車体を停めようと思ってたんだぜい。
 ちくしょう、電気カーと思って油断してたにゃー。
 ありゃ電機の他にも天然ガスか何か使っているハイブリットカーだな。」

特に緊張することなく土御門はそう告げた。

「まぁ、あれだ。
 店の人間はみんな出稼ぎ中っぽいし、衛星や無人ヘリの目線はアーケードが上手く塞いでくれてる。
 デカイ騒ぎにゃなんないぜい。」

「な、何で冷静なんだ!
 っつか消火器とかは!?
 早く助けないとアイツ本当に死ぬぞ!!」

「ふうん、そりゃどうかな?」

土御門の言葉と同時。
ギュルン!と、燃え盛る火柱が渦を巻いた。
まるで内側で発生した竜巻に吹き飛ばされるように、膨大な火力が周囲に散って、跡形もなく消えてなくなる。
炎を吹き飛ばしたのは、水分をまとった風、「霧」だ。
ついさっきまで燃え盛っていた自律バスの残骸に、薄い膜が張っていた。
霧の風は、その場にあるあらゆる物体に、うっすらと水分にコーティングを施している。
この水分は並みの炎では蒸発しないものらしい。
火種となる物を全て奪う形で、炎の行く手を阻んで消化してしまっていた。
そして、霧の風の中心点には、一人の女。
自らが生み出した水分によって、髪も、顔も、作業服も、へそも、その全てをうっすらと濡らした、オリアナ=トムソン。
右腕で看板のような物を脇に挟み、左手に単語帳のような物を持ち、口にはその一ページを咥えている。
青色の文字で書かれているのは「Wind Symbol」の文字。
オリアナは咥えた一ページを横へ吐き捨てる。
とろり、と唾液の糸がうっすらと引かれ、彼女はゆったりと笑う。

「うふふ、魔力を使い意思を通した炎ならともかく、ただ物理的な燃焼だけではお姉さんを熱くする事はできないわね。
 もっとも、少々焦って濡らしちゃったけど、見てみる?
 下着までびちゃびちゃだよ。」

この後に及んで、口から出たのは冗談だった。
上条と土御門は全身に力を込めて、いつでも動けるようにする。
それを見た、オリアナは未だに笑みを浮かべながら言う。

「しかし、あなた達はなかなか冷徹よね。
 お姉さんの他にもあのバスには一人だけ乗っていたのにね。」

上条と土御門はオリアナの言葉を聞き逃す事はできなかった。

「何だって・・・お前の他にもう一人あのバスに乗っていたのか。」

唇を振るわせながら上条は呟いた。
土御門は上条の肩を軽く叩いて、言う。

「カミやん、あいつの言葉を信じるな。
 どうせ、オレ達を動揺させるための虚言だ。」

「あら、嘘じゃないわよ。
 何なら、確かめてみる?
 あのバスには真っ黒な死体が転がっている筈だから。
 お姉さんも助けたかったけど、自分の身を守るだけで精一杯だったの。」

「うそ・・・だろ・・・」

上条は自律バスの残骸を見た。
もし、自分がしっかりと見ていればその乗客が死ぬ事はなかった。
上条にとてつもない後悔が襲い掛かる。
土御門は上条は戦意を失いそうな状況を見て舌打ちをする。
だが、彼も上条以上に後悔していた。
自分があんな指示を出さずに、他の方法を取っていればその乗客は死ぬ事はなかった。
一般人を傷つけたくない、と言っておいて結果を見ればこの有様だ。
対するオリアナも一般人を巻き込んだという後悔はあった。
そもそも、彼女がこの計画を手伝っているのはこういう時に一般人が巻き込まれても、助かって欲しいからだ。
極力巻き込まないように、配慮はする。
しかし、それでも巻き込んでしまったのなら割り切るしかない。
せめて、彼女の胸の中で死んでしまった生徒の事を覚えるつもりだ。
オリアナは二人の隙を窺っており、いつでも逃げる準備をしている時だった。
ガン!!ゴン!!、という音が自律バスの残骸から聞こえた。
自律バスの内側から外に向かって強い衝撃を受けているのか、側面の壁面が徐々に変形していく。
そしてゴン!!!という音と共に自律バスの壁面が突き破られる。
そこから出てきたのは麻生恭介だった。
それを見た三人は驚きの表情を浮かべる。
オリアナはあの突発的な爆発を受けて、生きている事に驚き、上条と土御門はその乗客が麻生である事に驚いている。
麻生は自律バスの残骸から降りて、上条と土御門に近づいて、二人の頭を思いっきり殴った。

「お前ら、毎回毎回俺を巻き込みやがって。」

「いや~、それに関しては本当にごめんだにゃ~。
 でも、乗客がキョウやんで本当に良かったぜい。
 他の生徒か父兄なら悔やんでも悔やみきれなかった。」

土御門は麻生であったことに心から安心し、上条に関しては言葉が出ないようだ。
麻生は振り返り、オリアナに言った。

「そして、お前もお前だ。
 そもそもお前達が来たせいで俺がこんな面倒事に巻き込まれたんだ。
 覚悟は出来ているんだろうな?」

「ふう~ん、お姉さんと踊りましょうって訳ね。
 良いわよ、お姉さんの踊りは激しいからついてこれるかしら?」

「それはこっちの台詞だ。
 病み付きになるダンスをその身体に教えてやるよ。」 
 

 
後書き
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