とある星の力を使いし者
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第78話
麻生はオリアナと向き合う。
両者の距離はおよそ一〇メートル。
「おい、土御門。
俺達も手伝った方が良くないか?」
「いや、オレ達が手伝っても大した事はできないにゃ~。
むしろ、キョウやんの足を引っ張ってしまうかもしれないぜい。」
麻生より一歩後ろにいる上条の問いかけに土御門は少し苦笑いを浮かべて答える。
オリアナは手に持っている単語帳の一ページを口に咥えながら言った。
「お姉さん的には万が一あなた達が加わっても面倒くさいから、一応対処させてもらうわね。」
そう言って、一ページを口で破る。
カキン、とグラスとグラスの縁をぶつけたような、澄んだ音が響いた。
その瞬間だった。
「が・・・ッ!!」
という声と共に、土御門元春の身体が、くの字に折れ曲がった。
脇腹を片手で押える彼はガチガチと震えたままオリアナを睨みつける。
「土御門!!」
上条は慌てて駆け寄り、麻生は依然とオリアナから視線を外さず警戒している。
傷口が開いたわけではないが、土御門の顔は青白くなっている。
それを見たオリアナはくすくすと笑って言った。
「あら、てっきり怪我を負っているのはあなたの方だと思ったんだけどね。
使い道を誤ってしまったかしら。」
彼女の唇には、単語帳の一ページがある。
そこには青い筆記体で「Fire Symbol」とあった。
ぎちぎちと、土御門の身体が少しずつ地面へ崩れていく。
オリアナはうっすらと笑って告げた。
「多少は耐性があるようだけど・・・それだけでは、お姉さんの手管には敵わないわよ?」
告げた瞬間、土御門の身体が耐え切れなくなったように、地面に倒れ込んだ。
その手足から、完全に力が失われていた。
「何だ?お前、土御門に何をした!?」
「再生と回復の象徴である火属性の青の字で打ち消しただけ。
音を触媒に耳の穴から体内へ潜り、一定以上の怪我を負った人間を昏倒させる術式よ。
さっきの鈴の音が発動キーなんだけど・・・あなた達はそれほどひどい傷はなかったようね。」
上条は倒れた土御門の身体を右手で撫でたが、何の効果もない。
というより、消しても消しても即座に効果が復活しているようだ。
こちらの術式は先程の迎撃術式と異なり、本体のページを潰さなければ効果が消えないようだ。
上条はオリアナを睨むと、彼女は楽しそうな顔で、昏倒の札を左手で掴んだ。
そしてそれを、風に乗せるように宙へと放り投げる。
あっという間に、軽い単語帳のページは風に流されて、オリアナの後方へと飛び去っていく。
「テメェ!!」
上条は、思わずカッと熱を持つ。
そのまま立ち上がりオリアナに向かって突っ込もうとした時だった。
麻生が突然、右手をアスファルトの地面に向かって拳を軽くぶつけると、そこから凄まじい衝撃波が生まれ、アスファルトの破片などを巻き込みながらオリアナに向かっていく。
「!?」
オリアナは驚いた顔をするが、冷静に単語帳の一枚を口で破る。
そこに記されている文字は赤色の「Wind Symbol」。
直後に爆炎を纏った風がオリアナの前に吹き荒れ、そのまま衝撃波とぶつかる。
轟音が鳴り響き、両者が放った攻撃は相殺されるがオリアナが麻生の方を見ると、既に麻生の姿ない。
オリアナは周囲を見渡して、麻生の姿は見つからなかった。
(周りに居ないとなると・・・上ね!!)
オリアナは空を見上げると麻生が拳を作り、オリアナに向かって急降下しようしている時だった。
素早くバックステップを刻み、後ろに下がり麻生の拳を避ける。
麻生の拳はアスファルトの地面に簡単にめり込む。
「不意打ちとか、お姉さんびっくりだな。
もしかしてお友達があんな風になっちゃっている事に怒っているのかしら?」
「別にそれほど。
あいつがあんな風になってしまったのは自分の責任だ。
それに俺は言った筈だ。
お前達が来なければこんな面倒な出来事に巻き込まれずに済んだんだってな。
俺はいらついてるんだ。
だから、このイライラをあんたの身体で静ませてくれないか?」
「いいわよ、付き合ってあげる。
お姉さんのテクニックであなたのその溜まったモノを外に出してあげるわ。」
そう告げて、オリアナは単語帳の一枚を口で破る。
風の真空波が麻生に襲い掛かる。
それを横に移動する事でかわし、一気に接近する。
そのまま左手をオリアナの顔面に向かって突き出す。
オリアナは紙一重でかわすがそこから右手を隙の出来ている水月に向かって突き出す。
だが、それを読んでいたのか単語帳を持った左手で麻生の右手を受け止め、さらにしっかりと握りしめ麻生の身体を固定する。
そこにオリアナの左足が麻生の腹に向かって突き出すように蹴りを入れる。
両手が防がれていたが、右足を曲げてオリアナの足を受け止める。
空いている左手をオリアナの肩に置いた瞬間、オリアナの視界が一回転した。
気付けば背中に強い衝撃を感じ、アスファルトに仰向けに倒れていた。
麻生の足が自分の顔面に向かって振り下ろされるのを見て慌てて、横に転がり避ける。
「投げ技も出来るなんて、あなた結構多才ね。」
接近戦では不利だと考えたのか、オリアナは単語帳の一枚を口元まで持っていく。
オリアナの戦闘スタイルは基本的にカウンター重視である。
力比べや体力勝負では女であるオリアナが不利である。
だからこそ、相手の動きを読みそれに合わせてカウンターをするといった戦法だ。
しかし、目の前にいる麻生はカウンターなんてモノを狙える人物ではない。
実際に拳を上手く利用して蹴りを入れようとしたが簡単に防がれ、さらに気づけばアスファルトに叩きつけられていた。
あの一回での攻防でオリアナは接近戦が不利だと考え、魔術主体の戦闘スタイルに切り替える。
単語帳の一枚を噛み切ろうとした時だった。
「簡単に魔術を発動させると思ったか?」
その瞬間、オリアナの足元のアスファルトが淡い赤色に光り出した。
一メートルくらいの大きさの魔方陣が描かれていた。
(まさか、お姉さんは此処に誘き寄せられた!?)
魔法陣が一瞬だけ強く光った瞬間、爆発した。
上条はそれをただ呆然と見つめていた。
さっきまでの熱はどこに行ったのか、今ではただ見ているしかできなかった。
煙が晴れると水の球体がオリアナを守るように包み込んでいた。
パチン、という音と共に水の球体は割れて消える。
「驚いたわ。
まさか君も魔術師だったなんて。」
「俺は魔術師じゃない。
ただの通りすがりの一般人Aだ。」
「ただの一般人がこんなに強くないわよ!!」
再び単語帳の一枚を口で破ると、空中に氷の槍が何本も出現すると麻生に向かって飛んでいく。
それを次々と避けていき、最後に飛んできた一本の槍を左手で掴み取る。
「なっ!?」
驚きの声をあげるオリアナ。
掴んだ槍の刃をオリアナの方に向け、お返しとばかりに投げつける。
だが、投げた槍はオリアナに向かっている途中で急降下して、オリアナの一歩前のアスファルトに突き刺さった瞬間、その槍は突然爆ぜて、幾つものアスファルトの破片がオリアナに向かって飛んでくる。
単語帳の一枚を破ると、氷の壁が出現してオリアナを守る。
(何なのあの子!?
法則とか角度とか滅茶苦茶なのに、どうして魔術が発動できるの!?
何より・・・・)
「こっちだ。」
後ろから声がした。
オリアナは飛びつくように前に転がる。
その直後、オリアナの首の辺りに麻生の拳が飛んでくる。
いつの間にオリアナの背後に回ったのか全く分からなかった。
麻生はオリアナが魔術でガードしている時に、既に空間移動していたのだ。
(この子自身が強すぎる。)
オリアナは少しだけ苦笑いを浮かべる。
魔術の仕事で幾つもの魔術師を戦ってきたが今、戦っているこの男は段違いに強い。
オリアナは聖人相手でもきちんと対聖人用の魔術を組み上げ、自分に優位な場所で戦えば勝てる自信がある。
だが、この男には勝てるイメージすら湧いてこないのだ。
「さて、そろそろ終わりにするぞ。」
自分は片手を封じられている状態だ。
この看板を捨てて逃げる事はできるがそれをすれば本末転倒だ。
(後ろの二人はこの距離なら追って来ても充分に撒ける。
後は目の前のこの子をどうやって退けるかね。)
勝てないと分かれば、無理に戦う必要はない。
この男は今の話を聞いた限り、事情は知っていそうだが、上条達と協力しているようには聞こえなかった。
つまり、この状況を脱出する事が出来れば、まだチャンスはある。
頭で色々考えている時だった。
麻生が見た事のない構えをとった。
ボクシングで言うところのデトロイトスタイルのような構えに近い。
麻生は左足を軽く地面を踏みつけた時だった。
ゴン!!、と突然、地震が起こったかのように地面が揺れた。
それに合わせて、麻生は構えを崩さずオリアナに接近する。
地震で一瞬、身動きが取れなかったオリアナは距離を取る事が出来なかった。
麻生の拳が真っ直ぐ飛んでくる。
オリアナはガードしてカウンターを狙おうと準備した時だった。
垂直ともいえる直線的な拳の軌道が突然、鞭のように円弧を描いてオリアナのガードのすり抜けるかのように人体急所である肝臓の部分を強打された。
「がっ!!」
思わず声が洩れる。
それほどの激痛なのだ。
オリアナは後ろに飛ぶが、麻生もそれに合わせて前に接近する。
鞭のように円弧を描いて、拳が接近する。
(そう何度も!!)
それに合わせようとするオリアナだが、その拳はさらにもう一度、鞭のように円弧を描いてまたしてもオリアナのガードとすり抜けるように、今度は水月の部分を強打される。
「がぁ!!」
二度も人体急所を強打され、オリアナは思わずその足を止めてしまう。
その時だった。
麻生の右手がオリアナの首を的確に掴み取る。
さっきまでの左手の拳の軌道が「線」と例えるのなら、右手の拳は「点」。
そのままオリアナの首をアンカーのように突き刺し、引っ掛け、絞めつけていく。
まるで蛇がオリアナの首元に噛み付いているかのように見える。
ギリギリ、とオリアナの首を絞めつけていく。
「がぁ・・・・あぁ・・・」
麻生の右手を徐々に上にあげていくと、オリアナの身体もそれに合わせて浮いていく。
右手で持っている看板を離して、両手で自分の首元を掴んでいる麻生の右手を離そうと努力するが全く離れる気配がない。
単語帳の一枚を破ろうにも、呼吸すら危ういこの状態では無理に等しい。
意識が飛びそうになった時だった。
突然、右手の力が弱まると麻生はそのまま前方にオリアナを投げつけた。
今まで吸えなかった酸素を身体が求めているのか呼吸が荒くなる。
首を押えながらオリアナは麻生を睨みつける。
「どう・・いうつもり・・・お姉さんを殺せたはずでしょ。
それなの・・に・・・」
「充分に俺の鬱憤が解消されたから解放した。
理由はそれだけだ。
何より俺は人を殺すなって、言われているからな。
元からお前を殺す気なんかなかったよ。」
疲れたのか麻生は大きく欠伸をする。
オリアナは呼吸を整えながら、麻生の言葉について考えている。
(あの時に確かにお姉さんを殺せた筈なのに殺せなかった。
全部鵜呑みにするつもりはないけど、これは逃げるチャンス。
あの看板は出来たら回収したいけど、まぁ計画には支障ないでしょう。)
そう考え、単語帳の一枚を破ると、オリアナの中心に風が集まっていく。
集まった風は小さな竜巻になると、オリアナの身体を吹き上げる。
逃げるオリアナを見た上条は慌てて、叫ぶ。
「待て、土御門にかかっている術式はどうなる!!」
オリアナがビルの屋上についた瞬間、屋上からヒラヒラと一枚の単語帳が落ちていく。
「術式の効果は二〇分。
後は自動的に切れるわよ。」
どうやら、空気の伝導率を操っているらしい。
あの術式が時間で解けることを聞いた上条は少しだけ安堵するが一つ疑問が現れたので、問いかける。
「「刺突杭剣」がこっちにあるんだぞ。
なのに、どうして無理にでも取り返そうとしない!!」
「何故かしらね。
それを考えるのも楽しみの一つじゃないかしら。
ただし、このゲームが終わっただなんて思わないように。
それとそこのあなた。」
オリアナに呼ばれた麻生はビルの屋上を見上げる。
「次に会った時は絶対に負けないから。
覚悟しておくのね。」
最後にそう言い残して、全てが消えた。
上条は周囲を見回すが、オリアナの姿も声も、どこにも存在しなかった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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