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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第四十四章 秘めし決意《4》

 
前書き
 強化された仲間による結界破壊攻撃開始。
 ぶち壊せ! その拳で! 

 
 強化系加護を受け、力が湧いてくる感覚がある。
 拳を握ると、何時よりずっしりと重みを感じるが、不思議なことに身体は軽く思えた。
 ルヴォルフは正面。結界へと顔を向ける。
「二方向だけで始めていろ、ということか」
 結界の自壊には時間が掛かる。
 北と西の仲間達を待っていることは、敵が迫るのを黙って見ているのと同じこと。
 だから、せめて二方向だけでも結界の自壊に努めた方がいいということなのだろう。
 数歩歩き、貿易区域と生活区域を分ける貿易区域のコンクリートの地面。
 越えようと手を伸ばせば、丁度境目から壁が現れたように手が止まる。
 見えない壁のようなものに阻まれ、西貿易区域へ入ることが出来無い。
 “日来”が言っていた通り、日来の者は入れないようになっているのだ。
 しかし、それは結界があってのものであり、破壊してしまえば関係無い。
 まずは一撃を放つ。
 鉄を殴ったような、固い感触と鈍い音が鳴る。
「壊すのは困難だな」
 殴り解ったのは、当たり前のことだけだ。
 こんなにも巨大なものを、本当に壊せるのかは分からないがやるしかない。
 思っていると、背後なら勢い良く結界へぶつかりに行った者がいた。
「うーン、壊れないなア」
「一人で攻撃しても意味が無い、お前も疲れが貯まっているのだから無理はするなよ」
「了解ヨ」
 結界に蹴りを入れるが、先程のルヴォルフと同じく防がれる。
 手応えが無いのを感じ、宙で身を翻し着地する。
「むウ……」
 結果が気に食わなかったのか、むすっと頬を膨らました。
 それを見たトオキダニが鼻で笑い、今度は彼に向かって蹴りを入れた。
 仲間二人の絡み合いを見た仲間達は、皆笑い、少しの休憩を挟んだ。
「今騒ぐのはどうかと思うんですけども。やはり自分達みたいに仲がいいのが一番ですな!」
「仲良し一番」
 マッチの肩の上に尻を付く天布は、肩から見下ろす形で騒ぐ二人を見た。
 巨体であるマッチの横には、彼と比較して小さい金髪の兄と妹が言葉を交わしている。
「良くあれ程騒げるものだ。見ていて元気になるね」
「兄ちゃんも交ざればいいじゃん」
「何を言っている、妹よ。兄は前に蹴り飛ばされた痛みでまだ身体が震えている。あまり激しくは動けないのだ」
「いやあ、蹴り飛ばしたことは悪かったって。もう、そんなに痛くなかったでしょ。ははは、兄ちゃんは大げさだなあ!」
 笑いながらテイルは兄であるグレイの背中を、手加減無く思いっきり叩く。
 本人は気付いていないようだが、叩かれているグレイは痛みを必死に堪えていて、身体が震えている。
 仲間達は彼の無事を祈り、目を逸らした。
 無駄に騒いでいる仲間に呆れながら、わざと大きく咳払いをルヴォルフは入れる。
「静かにしろ、お前達」
 言われ、怒られる前に皆は静かになる。
 空気を吸い、肺に送り込む。
 振り返るルヴォルフは声を張り、皆に聞こえるように言う。
「これから結界の自壊誘発行動に移るが、殴れば解るが容易には壊せない。獣人族である俺の打撃も防ぐ強度だ。バラバラに攻撃したところで意味をなさない」
 だから対処が必要だ。
 バラバラに攻撃して駄目なのならば、思い付くことはその逆のこと。
「組をつくり、絶え間無く攻撃を与える。時折間に強烈なのをお見舞いするが、行う前に前もって皆に知らせる。組の人数は五人がいいだろう。さあ、組み始めろ!」
「「了解」」
 返事を返し、皆は出来るだけ迅速に動く。
 五人組となり、一つの塊として集まる。余った者は余った者同士で組み、五人いないところはいる人数で組む。
 ルヴォルフの的確な指示の下、動き、組むのに時間は掛からなかった。
 当のルヴォルフは指揮役でもあるため組まず、組んだ皆を見渡した。
 頷き、後輩はそれを見てほっとする。
 そんな後輩を見て、気が抜けていると思うがここは士気を下げないためにも注意はしない。
 彼らにとっては初めての戦いだ。
 ここは多目に見るのがいいだろう、とルヴォルフは思う。
 確認し、次に攻撃の手順を伝える。
「攻撃方法はいたって簡単。まず一直線に並び、結界に最も近い組が攻撃、数分後合図が出たら一つ後ろの組と交代。攻撃を行っていた組は一番後ろへ行く。
 まずは一直線一本でいくが、状況次第では二本三本と増やしていく。分かったか」
「「了解」」
 皆は返事をする。
「よし、ならば前から順に三年生から並べ。攻撃手段は味方を負傷させないものであればなんでも結構。殴る、蹴る、切る、射つ、放つ、またその他。
 ――日来の意地を見せてみろ!」
「「了解――!!」」
 一本の直線の陣形を取り、まず一組目が行った。
 分刻みで交代し、素早く移動し攻撃に移す。
 攻撃が結界に当たる度に、結界からは鈍い音しか出なかった。
 だが止めはしない。
 ここで諦めてしまえば、自身らの長に顔向け出来無い。
 今、自分達の役目は結界を壊し、自身の長を宇天の長の元へと向かわせること。
 それにこれくらい出来無いとあの長に知られれば、絶対に馬鹿にされる。
 それは御免だ。
 だから皆は、結界へと攻撃を放った。
 雄叫びを上げ、何時壊れるのか分からない結界に向かって。
 この結界は、日来の進行を阻むものとして。



 今、入直の目の前には流魔刀が見える。
 入直の方へと迫り、断つ軌道で。
 弾き返してやるさ。
 何もしないわけではない。
 防御壁の連続展開で威力を削ぎ、外側へ逸らす。
 これならば火炎ノ緋翼の燃料を使わず、相手の攻撃を防ぐことが出来る。
 普通ならば自身の身を守るためにしか使わないが、ことがことなので別だ。
 後で流魔を貯める必要があるのは、まあ、面倒さ。
 思いながら、迫る流魔刀に意識を集中させる。
 まさかの行動に辰ノ大花の騎神の動きに乱れが生じているが、これならばカウンターを狙えるだろう。
「行くよ、緋翼!」
 こちらの考えは伝わっている。
 だから攻撃の準備をしているようにと、そう叫んだ。
 勝機を掴めば勝ちとなる。
 自身を危険に晒す価値はある。
 流魔刀が迫る。
 今ならば見える。
 迫る流魔刀の動きが、しっかりと。
 いける。
 そう感じた。
 両の手を前に出し、防御壁展開の構えを取る。
 来い!
 大気がうっすらと青みがかり、それが防御壁の形を形成するまで数秒も掛からなかった。
 もう軌道は変えられないと悟ったのか、戦竜は握る流魔刀をそのまま降り下ろした。
 しかし、刃を縮めて。
 操縦者を負傷させる気は無い。
 騎神の動きが止まれば、それでいいからだ。
 そしてぶつかり合う。
 金と金がぶつかったような音で、冷たい音が響いた。
 だが、ぶつかったのは防御壁と流魔刀ではない。
 それは、
「なんでなんさ……」
『まさか、こんなことが』
 火炎ノ緋翼の負傷した左腕と、戦竜が降り下ろした流魔刀だ。
 展開した防御壁は火炎ノ緋翼が腕を動かす際に割られ、そのまま腕と流魔刀がぶつかった。
 入直の瞳に映るのは、吹き飛ばされた火炎ノ緋翼の腕だ。
 前腕が切られ、宙に青い燃料を撒き散らす。
 戦闘相手の騎神もそうだが、操縦者である入直も同じく驚いていた。
 何故なら、こんなことはこれまでに一度もなかったからだ。
 確かに操縦者としては認識していたが、こちらを守る動作は何一つしなかった。
 自身の身を守る時のみにしかそのような動作は行わなかったのに、何故今それを行ったのか。
 火炎ノ緋翼にとって先程の光景は、身に危険が迫っていると捉えても不思議では無い。が、こちらはそれを防ぐと考え、それは伝わった筈だ。
 なのに何故。
 それでは防げないと、機械的判断を下したからか。
 頼りないと、そう思ったからか。
 右肩に乗っている入直は、動揺の表情を火炎ノ緋翼に向ける。
 しかし、答えは返ってこなかった。
 返ってくる筈もない。
 相手は騎神だ。
 感情の無い、機械の命。
「どうやら、ここでお仕舞いみたいだねえ」
 落ちていく。
 燃料切れだ。
 戦闘用騎神相手に、良く頑張った方だろう。
 増田との賭け事には負けたが、後で挽回すればいい。
 火炎ノ緋翼の、光を無くした瞳。
 重力に引っ張られ、地に落ちていく。
 負けるのは悔しい。
 もっとやれると思っていた。
 だから思っていた以上に出来無くて、悔しい。
 後悔。
 きっと、自分らの長は、後悔を残さないために宇天の長に会いに行くのだろう。
 たった二回目で、最後の告白となる今日で。
 例えフラれても、やり遂げたことで悔いを残さないように。
 自分は、本当にこれでいいのだろうか。
 もしかしたら、もしかしたらもっとやれるのかもしれない。
 ならば、やってみたい。
 そう思う。
 この緋翼と共に、高く、この空を行きたい。

『マ……マ、マモ、ル』

「今、なんて……?」
 何かを言った。
 空耳だろうか。いや、聞き間違いなどではない。
 確かに聞こえた。すぐ横で。
 落ちるなかで入直は動き、火炎ノ緋翼の顔を正面から見詰める。
 燃料は切れた筈だが、動いている。
 鼓動に似たものが伝わってくるから分かる。
「緋翼! 聞こえてるんだろ!」
 叫ぶ。
 顔の前で、うるさいぐらいに。
『一体何をやってるんだ』
 落ちていくのを、空から見下ろす戦竜は言う。
 騎神に自我など無い。
 同一式の騎神で操縦者が騎神の一部となってしまった場合や、人工的知能を与えられたものは別だが。
 前者は当てはまらないが、後者の人工的知能を持っていたとしても機械的な判断しか出来無い。
 返事を返すぐらいのことは出来るが、それをやってどうしようというのか。
 戦竜は、黙ってそれを見ていた。
 彼女もまた、自分と同じ騎神の操縦者の一人なのだから。



「まさか、自我が形成しつつあるのか」
 呟く入直の顔の横に、一つの映画面|《モニター》が表示された。
 映るのは継叉だ。
 彼の周りにも映画面が表示されており、その全てが騎神関連のものだ。
 真っ直ぐ、こちらに視線を向けたまま継叉は口を開く。
『“マモル”か。緋翼の様子はどうだい、入直』
「燃料が切れてる筈なのに緋翼が動いているんさ。予備燃料かなんか積んだのかい」
『まさか、重量をそれ以上増すようなことはしないよ。合理的じゃないからね』
 ならば何故だ。
 何故、火炎ノ緋翼は動いている。
 訳が分からない。
 落ちていくなかで入直の頭のなかは、糸が絡まったように思考が乱れていた。
 何をどうしたらいいか、分からないからだ。
『緋翼には異常は見られない。とすると――』
 顎に手を着く継叉がその後の言葉を言おうとしたが、
「流魔の作用かい」
 入直が言った。
 理解出来ていたのだろう。継叉と考えが一致したことで、納得し、断言したようにも聞こえた。
『そうだろうね。流魔は全てを形成する祖源体だ。もし緋翼に自我が芽生え始めていたとしたならば、意思を伝える伝子が働いたんだと思うよ』
「なら、さっき何か言っていたのは緋翼自身の言葉なのかい」
『断言は出来無いけど、多分ね。きっと緋翼は他の騎神とは違う何かを持ってる』
『あったりめえだろうがよお』
 と、継叉の前に現れたのは増田だ。
 ついでと言わんばかりに、自身の首に増田の手が回されたジューセンも映った。
『緋翼は恋和の嬢ちゃんが朱鳥天から持ってきた設計図で、機械部総出で造ったもんだ。そして産まれたのが火炎ノ緋翼だ』
 この騎神は、そんじゃそこらの騎神とは違う。
 何故なら、
『オレ達の意思を込めて造ったもんだ、日来のな。そりゃあ、ただの機械にだって影響は出らあ』
 何時かは日来もこんなのが造れたらと、作業中によく語ったものだ。
 夢を語るのは楽しかった。
 それは、火炎ノ緋翼が一番よく解っているだろう。
 自身が形造られるなかで、間近でそれを、ただ深々と黙りながら聞いていたのだから。
『完成したそいつは、そりゃあそりゃあ好みがあって、むさっ苦しい俺達を嫌ったもんだ。そして操縦者として選んだのがお前だ、入直』
 何時もはお前呼ばわりなのに、久し振りに名前を呼ばれた気がする。
 不馴れであったために入直は照れからか頬を微かに上げ、増田の声を聞いた。
『なんでお前を選んだかは本人しか分からねえが、お前は選ばれたんだ。だったらお返しとして、きちっとそいつの面倒を見るのが筋ってもんだろ』
「かっ、言ってくれるよ」
『……入直は、緋翼をどう想っている……』
「なんだいいきなり。ふ、そんなの決まってるじゃないか」
 火炎ノ緋翼の、人でいう頬の部分に触れる。
 そんなのは決まっている。
 それは、

「緋翼は、アタイの“唯一”の家族さ」

 たった二年間足らずの月日しか共にしていないが、それでも緋翼は家族だ。
 何時も側にいてくれた。
 口も開かず、ただ横に。
 だからだろうか、相手が機械なのに情が湧いてくる。
 もし話せたらと思ったこともあるし、これからも共にいたいと思ったこともある。
 緋翼、アンタもそうだろ?
 同じ気持ちであってほしいと、願い思う。
 もう一度、声を聞きたくて。
『カゾク、イリナオ、ハ……カゾク。
 ダカラ――マモル』
 言葉の後に、火炎ノ緋翼を中心に空の一部が赤く染まった。
 否、火炎ノ緋翼から突如として放出された赤の流魔によって空が赤くなったのだ。
 赤の流魔は十字に広がり、一つの大きな鳥に似た姿を形成した。
 そして鳶が一鳴き、その声を響かせた。 
 

 
後書き
 機械に感情が!?
 何やらとんでもない展開になりつつありますね。
 一応、まだ完全な意思を持った騎神は存在していません。
 何時かのタメナシさんは騎神なのに意思を持っていますが、ネタバレになるので詳しくは言いませんが特殊な騎神なのです。
 半ば意思を持っている騎神はいますが、どちらかというと一部の感情が突出しているだけで、他は騎神等に取り付けられる人工知能とそれ程変わりません。
 …………。
 今回は珍しく他に語ることがない。
 まあ、今までの後書きの文字数が多かっただけなのかもしれませんが。
 少し宣伝として前書きも新たに書き起こしてたりしますので、よろしければ前書きを読み返してはいかがでしょうか。
 前書きだけでも千文字は越えている気がします。
 数えたわけではありませんが。
 このままではいけないので、こうなったらあれをやるしかありませんね。

 ま
 た
 見
 て
 ね
 ☆

 これで行だけは稼げたぜ……。 
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