カンピオーネ!5人”の”神殺し
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新生
「く・・・ぁ・・・?」
目に突き刺さる陽の光。本来ならば優しく護堂を包み込んでくれるはずのその光も、寝すぎた彼にとっては強烈だった。
「こ、ここは・・・?」
目を開いた護堂は、自分がまたもや見覚えのない場所にいるのを確認した。自分が眠っているのは、からだが沈み込んでしまいそうなほど柔らかい、キングサイズの高級ベット。天井は高く、シャンデリアが飾ってあり、床には、真紅の絨毯が敷かれている。他にも、テーブル、花瓶、テレビなど、庶民の護堂ですら、そのどれもが最高級品だと一目で分かるような物が配置されていた。しかし、これほど高級品が沢山あるのに、下品に見えない。むしろ、気品すら感じられる部屋であった。
「・・・・・・何だよここ?王様の部屋か何かか?」
「そうよ。ここは王様の部屋。【聖魔王】様が、貴方の為だけに用意してくれた部屋よ。」
「エリカ!」
扉を開けて入ってきたのは、美しい真紅のドレスに身を包んだエリカ・ブランデッリだった。胸元を大きく強調し、見る人を魅了するようなその素晴らしいドレス。しかし、そのドレスに負けず、エリカは栄えていた。彼女の輝くような黄金の髪が、真紅のドレスとマッチしており、彼女の美貌を際立たせる。護堂は、あまりの美しさに見惚れてしまっていた。
「・・・・・・・・・。」
「ご、護堂。着飾った乙女に何も言わないのはマナー違反よ。じっと見つめられると、こっちまで不安になってくるじゃない。」
護堂に見つめられて、顔をほんのり赤くしたエリカ。慌てて護堂は口を開いた。
「あ、スマン。余りに似合ってたんで、つい・・・。」
「それならいいけど・・・。」
『・・・・・・。』
お互い顔を赤くして黙ってしまったのだが、その静寂を切り裂いたのは、新しい声。
「あぁ~、御免ね?イチャイチャに水を差すようで悪いんだけど、コッチも大事な話があるんだよね・・・。」
『!?』
ビクっと体を硬直させた二人。扉から新たに入ってきたのは、メイド服に身を包んだ【聖魔王】名古屋河鈴蘭だった。サングラスは掛けていない為、その真紅の瞳が二人から見える。
「せ、【聖魔王】さま!?い、イチャイチャなんて、そんな・・・!」
「【聖魔王】・・・って、エリカが話してたカンピオーネってやつか!?」
鈴蘭にからかわれて顔を更に赤くするエリカ。普段の彼女なら軽く流すのかもしれないが、今の彼女は色々と精一杯な為、そんな余裕が無かった。護堂のほうは、驚きの余り鈴蘭に指を指して叫ぶ。マナー違反だが、鈴蘭はそれを気にもしなかった。
「そうだよ。私が【伊織魔殺商会】を束ねる神殺し、【聖魔王】名古屋河鈴蘭。気軽に鈴蘭って呼んでいいよ。よろしくね?・・・でも、君も既に同類だってことは理解しているかな?・・・【混沌の王】?」
「・・・は?」
突然告げられた事実に、硬直する護堂だったが、彼女の言葉が切っ掛けで記憶が蘇ってくる。
「・・・そうだ、俺はナイアーラトテップを・・・。」
「そう。君は神を殺した。どうやったのかは私には分からないけど。君は、羅刹の君として新生した。・・・・・・御免ね。」
そう言って、彼女は溜息を吐いた。
「もう少し私たちが早く気がついていれば、一般人の君を巻き込むことも無かったかもしれないのに。コッチもトラブル続きでさ。・・・主にドニの阿呆のせいで。」
落ち込んだように話す鈴蘭だったが、護堂はそれを遮った。
「謝ってもらう必要なんて有りません。」
「ん?何で?」
不思議そうに尋ねる鈴蘭に向かって、護堂は言い放った。
「ナイアーラトテップは俺が殺す。そう決めて行動しました。・・・エリカを無理矢理巻き込んだのは悪いと思ってますけど、それでも。俺は、巻き込まれた訳じゃなく、逃げ出せたのに逃げなかった大馬鹿野郎です。でも俺は、俺の選択を後悔してません。」
キッパリと。あの行動は、自分の意思であると告げた。後悔など微塵もしていないと告げた。それは、少なからずエリカと鈴蘭に衝撃を与えたのだ。
「彼女は、まつろわぬ身である自分を嫌がっていました。俺に、止めて欲しいと願っていました。だから殺した。友達が間違っていたら、止めてあげるものだから。逆に、俺以外に彼女を殺されたくないと思った。・・・今回の戦いは、俺の我が儘です。貴方たちは何も悪くない。」
「・・・ふーん。そっか。分かったよ、もう謝らない。」
護堂の決意は硬かった。鈴蘭は、彼の意思を感じ取った。これ以上の謝罪は、彼に対する侮辱だと悟ったのだ。若くても、やはり魔王。運のいいだけの一般人かと思っていたら、いい意味で予想を大きく外された。
だからこそ、この後の話をすることが出来る。
「じゃぁ、最新のカンピオーネ、【混沌の王】草薙護堂。貴方は、既に次の戦いが決まっているの。」
「・・・何だって?」
突然の鈴蘭の言葉に、首をかしげる護堂。ナイアーラトテップを倒してから今まで、彼はずっと寝ていた筈である。なのに、何故次の相手が決まっているのか?
「実は、あんな大きな騒ぎを起こしたくせに、ドニがまつろわぬクトゥグアを逃がしちゃってね。まぁ、元々アイツの権能って《鋼》の権能がメインだから、《炎》《太陽神》の神格を持つクトゥグアとは致命的に相性悪かったみたいでね。しかも、『剣に狂った』状態だったから、相性の差なんて考えられないような精神状態だったみたいで。結構重体なんだよね。」
問題を起こし、それを悉く大きくするドニに対し、心底嫌そうな顔をして話す鈴蘭。それを見ながら、護堂は内心で『やっぱりあの金髪は信用出来なかったか』と頷いていた。
「ドニが殺されそうになった所で、睡蓮が戦闘に介入したから、最悪の事態だけは免れたんだけど・・・。その時に、君がまつろわぬナイアーラトテップを弑逆したことを感じ取ったみたいでね?君のことをターゲットにしちゃったみたいで、『次に我と戦う相手は、新しいカンピオーネだ!』って言いながら消えちゃって。」
頭を掻きながら『いや~困ったね!』などと笑う鈴蘭に、護堂は頭痛を覚えた。なんで、こんなに大きな問題が次から次へと向かってくるのか?
「それって、鈴蘭さんたちが戦うって訳にはいかないんですか?」
一応聞いてみる護堂だったが、鈴蘭は首を横に振った。
「アメリカに、まつろわぬアフーム=ザーが。そしてインドに、まつろわぬルリム・シャイコースが出現しているの。今は大人しくしているんだけど、どちらもクトゥグアの従属神でね。クトゥルフ神話を読んだ限りでは、恐らく超広範囲への攻撃を得意とする神だね。これは恐らく警告。『私と奴の一体一を邪魔したら、コイツら暴れさせるぞ?』って。流石の私たちでも、超広範囲への攻撃を得意とする神に対して、周囲への被害を全く出さずに勝つのは難しいと思うの。」
アフーム=ザーとは、クトゥグアが旧神によってフォーマルハウトに封印された時に産み落とされた邪神だとされる。
その役目は、生みの親であるクトゥグアを封印した、忌まわしき旧神を倒し、クトゥグアを復活させることだ。
このアフーム=ザーは特殊な邪神である。【生ける炎】の異名を持つクトゥグアから産み落とされたにも関わらず、燐光に似た不浄な青白い光を放つ灰色の炎の存在であり、その炎は極寒の冷気を伴うとされている。その冷気は凄まじく、北極、南極のような極地以上の温度。つまり、《炎》の神格を持つ邪神から、それとは正反対の《氷》、《冷気》の神格を持つ邪神が産まれたということなのだ。
この邪神は恐らく、自身の存在する地点から、かなりの広範囲を北極や南極のような極地と同じく氷河で覆うことが出来る神だ。既にアメリカの気温は、氷点下に達しようとしている。ただ、この神が存在するだけでこれなのだ、権能を使用した場合の被害は、語るまでもないだろう。世界経済の中心地とも呼べるアメリカが氷河に覆われたとなれば、世界は大混乱に陥るだろうし、人的被害も計り知れない。アメリカには、カンピオーネであるジョン・プルートー・スミスが居るが、ここまで周囲に影響を与える神が相手では、倒すまでにどれほどの被害が出るか。何せ、原作からみても、周囲を氷河に覆う為の時間は一瞬あれば十分なのだから。例え鈴蘭たちが出向いて、隔離世に閉じ込めようとしたとしても、その一瞬の内に、周囲を氷河で覆うだろう。
そして、まつろわぬルリム・シャイコースも厄介である。
この神は、性格にはクトゥグアの直接の子供という訳ではなく、クトゥグアの子供であるアフーム=ザーの配下である。
この邪神も、アフーム=ザーと同じく《氷》、《冷気》の神格を持っている。
『ルリム・シャイコースは「イイーキルス」から白い光を放射し、世界を滅ぼそうとしている。姿は太った白蛆に似ていて、その全身はゾウアザラシよりも大きいとされている。尾は胴の体節程の太さで、半ばとぐろを巻く。また、前端は肉厚な白い円盤状で、伸び上がったその前端には顔と見られる部分があり、その中央に口裂が開き、醜い曲線を描く。この口は絶え間なく開閉を繰り返し、その度に舌も歯もない白い口腔があらわになる。浅い鼻孔の上には左右迫った眼窩があるが、眼球らしいものはなく、血のように赤い小球体が次々と生まれてはこぼれ落ちる。ルリム・シャイコースが発する光に照射された者は、白く氷結し、火で焼かれようともその氷は溶けず大理石のように白く輝いたままで、その周囲に北極の氷が発するような冷気を振り撒く。』
この神も、既にインドに致命的な被害を出している。普段は暖かい地域で、急に北極のような気温に変化すれば当然なのだが。降り積もる雪による事故や、急激に変化した気温による病人などが続出しており、既に阿鼻叫喚の地獄絵図なのだという。この状態で権能を開放され、人が決して溶けない氷に覆われたとなれば、更なる混乱は必至だ。なんとしても避けなければならない。
「・・・・・・事情は分かりました。そんなことになっているのなら、俺が戦うしかないんでしょうね。」
そこまで聞いて、覚悟を決めた護堂は頷いた。エリカが何か言いたそうにしているが、鈴蘭はあえてそれを無視した。
「うん。恐らく、クトゥグアが消滅すれば、その二柱も消えるはずなんだよね。従属神の召喚っていうのは、『異界から、縁のある神を無理矢理連れてくる』行為なの。だから、現界するために常にクトゥグアの呪力を消費しているし、その彼女が死ぬと、彼らも現界を保てなくなる。だから今は、クトゥグアをいかに早く倒すかが鍵なんだよね。」
「でも、俺は戦いかたなんて知りませんよ?アイツとの戦いは、相性が良かっただけで・・・それに、切り札も壊れてしまいましたし。」
切り札とは、あの”神墜としの魔道書”のことである。自身の許容量を超えた権能を奪い取ったあの神器は、既に壊れてしまっている。ただ、まだ神器との繋がりが感じられるので修復は不可能ではないかも知れないが、それでもすぐには無理だ。
「大丈夫。君には、既に権能が宿っている筈だから。」
「・・・権能。」
無意識に胸を抑える護堂。
「そう。貴方がナイアーラトテップから奪い取った権能。カンピオーネとして新生した貴方には、既に武器が存在する。・・・だから―――」
そこで彼女が言葉を切って、とてもいい笑顔を見せた。・・・が、その笑顔は、ニッコリというよりはニヤリという感じで、二人に嫌な予感を感じさせるのには十分な威力を持っていた。
「私たちが貴方を鍛えてあげる。命懸けの戦いでね。・・・貴方に、武器の使い方っていうのを見せてあげるよ。」
そしてその予感は、全く間違っていなかったのだった。
後書き
全然関係ないんですけど、パシフィック・リム見てきました。二回。
あまりにも面白かったんで、テンションが上がりまくってしまいまして、別の友達を誘って別の日にもう一度見に行ったんですけど・・・やっぱり、無茶苦茶面白いです。アレを見ない人は損をしているって、自信を持って言えるくらいに。
DVDやブルーレイが出たら、間違いなく買うってくらい面白かったです。
ジプシー・デンジャー格好よすぎる。
で、早く護堂さんを戦わせたい為だけに、ドニには負けてもらいました。一方的に遠距離から嬲られるだけなので、描写はなし。ドニは犠牲になったのだ。護堂さんの戦闘の犠牲にな。
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