カンピオーネ!5人”の”神殺し
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護堂、神殺しとしての覚醒
「・・・なんだコレ?」
言葉も出なかった。護堂は、自分の目の前の超大型豪華客船を見て、その余りの迫力に、ただ見上げることしか出来なかった。
「【SaintSatan号】。現在、世界で二番目に大きい、豪華客船よ。まぁ、噂では、世界一の大きさにしちゃうとマスコミとかが面倒だから二番目にしたとかいう話だけど。・・・でも、その価値は比じゃないわ。【聖魔王】様の権能によって、伝説級の資材を調達し、建築まで全ての工程を【伊織魔殺商会】によって行われたという、あらゆる意味で規格外の船。オリハルコン、ヒヒイロカネ、ホーリーミスリルetc・・・数えるのもバカらしくなるくらいの伝説級素材を惜しみなく使って造られたこの船・・・値段を付けるとしたら、恐らく全世界の国を対価にしても、釣り合わないでしょうね。」
護堂の持つ権能。それを使いこなす・・・とまでは行かずとも、自分がどんな能力を持っているのかくらいは把握してもらう為に鈴蘭が行うと宣言した模擬戦。しかし、いくら耐神構造の【SaintSatan号】と言えども、護堂の権能の正体が不明な状態で戦わせる訳にはいかない。一応、戦闘が出来るようなスペースもあるのだが、耐神構造はあくまでも保険。なので、取り敢えず無人島で戦う事にした一行は、以前沙穂とまつろわぬ阿修羅が戦った場所へとやってきていた(というより、その島でずっと停泊していたこの船に、鈴蘭の空間転移で護堂を運んできただけなのだが)。
そして、諸々の準備が整ったので外に出た護堂は、この船の全容を見たという訳だ。そして、その際にエリカから語られた規格外さに言葉を無くしていた。
「これが、カンピオーネの理不尽さってやつか・・・。世界全部を買えるなんてな・・・。」
実際に世界を買うなんて事をするはずもないが、それ程に規格外のお宝を見たのだから、こういう反応も頷ける。根は庶民な護堂なのだった。
「・・・今や、貴方もその理不尽の一人、なんだけどね・・・。」
エリカが苦笑しながら呟いたその台詞は、誰にも聞かれることなく、宙に消えたのだった。
「よろしくお願いします。」
「礼儀正しいのはいいことです。後輩としての自覚が出来て居るようですね。」
護堂の対戦相手として選ばれたのは、睡蓮だった。
翔輝と睡蓮のどちらが戦うのかという問答の末、メンバーの中では手加減が上手だという理由で選ばれたのだ。鈴蘭はあの性格で、主な武器は重火器なので手加減など出来ない。沙穂は言わずもがな・・・というより、そもそもナイアーラトテップの権能によって錯乱した状態から完全に復活出来ていないので論外。翔輝も手加減は上手いほうなのだが、主な武器が”黒の剣”である。何かの拍子に、護堂の体をスパッと真っ二つにしてしまう可能性もあるので却下になった。その点、睡蓮は徒手空拳も得意だし、相手としては丁度いい。
「お前は、今から私に教わる身。よって、私の事は『ますたー』と呼びなさい。」
「・・・ま、マスター?」
何かがズレたような睡蓮に、護堂は既にタジタジである。
(・・・何でマスター?というか、何で巫女服?神様を殺した人なんだよな?)
色々と納得出来ない護堂だったが、この手の人間は逆らうとロクなことにならないと経験で知っているので(主に母親関係)、何故マスターと呼ばなければならないのかとか、何故マスターの発音が微妙なのかとか、何故神殺しなのに巫女服を着ているのかとかは聞かなかった。そもそも、彼女の姉はメイド服なんて着ている訳だし、そういう趣味の姉妹なんだろう、と納得した。
「それでは、始めましょう。」
護堂の沈黙を、了承の合図だと受け取った睡蓮は、取り敢えず模擬戦を始めるために構えを取った。
「・・・!」
睡蓮から発せられる気迫が、今までと大きく変化したのを感じ取った護堂は、無意識に腰を落とし、足を大きく広げた。何となくだが、そうしなければならないと思った。いかなる変化も見逃さないように、体全体に注目する。
「・・・フム、『ひよっこ』かと思っていましたが、やはり貴方も神殺しなのですね。その気迫は見事です。」
その台詞の直後・・・
「フッ・・・!」
「えっ・・・?」
ズダン!という音と共に、護堂は地面へと叩きつけられた。
「が、ハ・・・!」
あまりの衝撃に肺から空気が抜け、何が起こったのか理解できていない彼は目を白黒させる。
(今!・・・一体、何が起こった・・・!?)
「立ちなさい。お前の戦いは聞いています。何十回と殺されても、心を折らなかったそうではないですか。それに比べれば、この程度の痛みなど取るに足らない物のはず。」
冷たい瞳で、地に伏せた護堂を見つめる睡蓮。だが、一見冷たそうに見えて、内心では護堂のことを高く評価している。奪った権能があったとは言え、何度も何度も殺されて、それでも立ち向かえる人間は稀少だ(そもそも、一回殺されれば普通は死ぬのだが)。
(・・・そうだ、な。殺され続けたあの時に比べれば・・・!)
心臓が突き破られる時の虚無感と喪失感。目の前が暗くなり、からだから力が抜けていくのを自覚したときの恐怖。これを後何回繰り返すのかと、終わりの見えないマラソンのようなあの戦いに、何度も心が折れそうになった。
しかし、彼は生き残った。やり遂げた。絶望的状況でも決して諦めず、奇跡を勝ち取った彼が、たった一度叩きつけられたくらいで何だというのか?
「これは、戦いです。貴方に、カンピオーネの戦いとは、一体どういうものなのかを理解させる為の戦いです。受けているだけでは戦いとは言えません。・・・立ち向かいなさい。」
「お、おおおおおお!!!」
その言葉に答えて、護堂は立ち上がった。
「判断が甘い。行動が遅い。敵はこのように、待ってはくれませんよ。」
「うあぁ!?」
が、その瞬間に足を払われ、地面に叩き伏せられた。
「早く起きなさい。」
バチーン!!!
「ぐ、はっ!?」
そして、やたらといい音がする平手打ちを食らわせる。たかが平手打ちと侮るなかれ。戦う為の存在のカンピオーネである護堂が、痛みに悶絶する程の痛みである。本来、彼らは人食い虎に肉を噛みちぎられても、耐えることが可能なほどに打たれ強いのだ。その彼が、張られた頬を抑えて声にならない叫びを上げている。
『うわぁ・・・』
掛かってこいと言った次の瞬間にこれである。見学していた他の人間も、流石に引いた。何せ、睡蓮は護堂の直ぐそばから動いていないのだ。護堂が立ち上がろうとするたびに、即座に行動を起こせる。何とか平手打ちのダメージを克服した護堂が何かのアクションを起こそうとしたその瞬間、またしても地面に叩きつけられる。
「その程度ですか?」
「が!」
「・・・我が妹ながら、エゲツナイねぇ・・・。」
一応、睡蓮としては、良心的な修行をしているつもりなのだ。何せ、転がっている時には殆ど何もしていない。踏みつけもしていないし、武器で突き刺したりもしていない。唯一したのは、特殊な技術を使用した、痛みが凄い平手打ちだけだ。神殺しとまつろわぬ神との戦いでは、コンマ一秒の判断の差が生死を分ける。それを、命に影響がない範囲で教えようとしているに過ぎない。
(どうすればいい・・・?)
立ち上がろうとしても叩きつけられる。逃げようとしても追いつかれる。防ごうとしても防御の上から叩きのめされる。元々、睡蓮と護堂では戦闘技量に天と地ほどの開きがあるのだから、この状況は必然だ。この差を埋める方法はただ一つ。
権能。
神を殺し、人類最強の存在となった、その最大の証明。人の身では決して起こせない、その神秘の力を行使することでのみ、この絶望的な状況から脱することができる。
権能とは、ただの一般人を、世界最強の戦士にまで格上げするほどに理不尽な存在なのだから。
「貴方は、既に権能を使ったことがあるそうですね。その時の感覚を思い出すのです。・・・もう、貴方にも見え始めているはず。自分の持つ力の形が。」
睡蓮の声も、既に護堂は殆ど聞いてはいなかった。
(・・・何をすれば、この人に勝てる?)
倒れたまま、頭を動かして自分の腕を見た。
(そもそも、この人の動きが全く見えない。いつ動いたのかが分からない。勘で避けようとしても、避けた方向で待ち伏せされてる。)
カンピオーネに備わる超直感で、直前で攻撃を避けたこともあった。しかし、それを見た睡蓮は、『ジャンプ見てから小足余裕でした(ゝω・)テヘペロ』とでも言いたいかのような余裕の表情で蹴り倒した(実際にそんなことは言わないだろうが)。
(・・・まず、目だな。この人の動きを目で追えなきゃ始まらない。・・・・・・そう、目を良くしなきゃならない。後、足だな。この人のスピードに全くついていけない。もっと素早く動けないと。・・・だから、足も早くしないといけないな)
カチリ。
その思考と同時、何かがハマったような感覚がした。まるで、今まで噛み合っていなかった歯車が噛み合ったような。もしくは、スイッチの電源をONにしたような。
「我は無貌なるもの。何者でもなく、全ての闇に潜むもの。」
ぼそり、と。
彼は呟いた。頭の中に浮かんだその言葉を、小さな声なのに、不思議と全員に聞こえるような声で。まるで、世界に宣言するかのように呟いた。
「混乱と恐怖、怒りと絶望。全てを糧として我は嘲笑う。全ての人の子よ我を畏れよ。我は無貌の神。混沌の支配者也!」
これは聖句だ。あの美しい銀髪の少女から奪い取り、引き継いだ力が教える『言霊』だった。
目を閉じると、そこには闇がある。ただの闇ではない。無限の宇宙のように広大で、全てを飲み込むかのような深淵だ。そして、その遥か彼方に、うっすらと、あの銀色の髪の少女が見えた気がした。
(・・・こうやって、使うのか)
彼は、自身の力の使い方を、唐突に理解した。そして、この力は、使いようによってはかなり凶悪な力だということも理解した。全身に力が漲ってくる。今なら、誰にも負けることはないと断言出来る!!!
(使い方が分かったら、後は実践で試すのみ。)
「・・・!来ますか。」
それまでの護堂とは、決定的に違うということに気がついた睡蓮が、始めて彼から距離を取った。彼女にそうさせるほどに、今の彼からは闘気が満ち溢れていたのだ。
「マスター。やっと、使い方が分かってきたぜ。」
ユックリと立ち上がった護堂。体に付着した土を落とすこともせずに、彼は走り出す構えを取った。
「それはいい。ならば、自分の力を存分に試しなさい。」
そう言って、彼女は薙刀を召喚する。どうやら、今の護堂相手に無手は危険だと判断したらしい。
「じゃぁ・・・行くぜ!」
『!?』
その時、そこにいた全員に衝撃が走った。
それは、ゴッ・・・!という音と衝撃をまき散らしながら、護堂がそれまでとは比較にならない程の凄まじい速さで睡蓮に迫ったのが原因・・・ではない。確かにそれも驚きの一つではあったが、その後・・・
「なっ!?」
睡蓮が迎撃の為に放った、薙刀の攻撃を避けることが出来たことに対しての驚きだった。
「貰った!!!」
「甘いと・・・言っています!」
しかし、懐に入った護堂は、またもや彼女に投げられた。懐に入り込まれた瞬間、彼女は薙刀を放棄して、瞬時に投げの体勢に入ったのだ。
しかし、今回は咄嗟に投げたので、先程までのように地面に叩きつける方法ではなく、上空に投げ飛ばす方法を使ってしまった。護堂は、動物のような身のこなしで空中で体勢を立て直し、危なげなく着地した。
いくら手加減していたとはいえ、睡蓮の攻撃を避けることが出来るはずが無かった。護堂が武術の類を習ったことがないのは既に判明している。現に、今までは成すすべもなく、いとも簡単に投げられていたのだ。それが、たったの数分で、マスタークラスの実力者である彼女の攻撃を避けられるとは。
(今の一瞬・・・神速に入った・・・?)
睡蓮には、ほんの一瞬だけだが、護堂の速さが神速の領域に入ったように見えた。当然ながら、睡蓮も『心眼』は会得している。
「今の、神速の権能じゃないな。何というか、身体能力に任せて、力技で空気の壁を突破したように見えた。小さいが、ソニックブームまで起こしたみたいだったぞ。」
同じく『心眼』を習得している翔輝の呟き。そもそも、神速とは時間操作の権能だ。『A地点からB地点までの移動時間をデタラメに縮める』能力。つまり、神速の権能を使用したならば、ソニックブームなど起きるはずがないのだ。それが起こったということは、一瞬とは言え護堂は彼の身体能力のみで、その速度へと至ったということ。今までの動きを見ていた者達からすれば、驚きの強化率だった。そして確信する。これが、世界で十一番目の魔王、【混沌の王】草薙護堂の権能だと。
「・・・今の攻撃・・・貴方の武術の腕前が上がったというよりは、体の『すぺっく』で私を上回り、ゴリ押ししてきたという感じでしたが・・・。身体能力の上昇でしょうか?」
「・・・・・・。」
近いが遠い。彼の権能は、そんな単純なものではない。そして、知られたからといって、対処されるような物でもない。
彼の権能は、この人外たちから見ても、正に『規格外』の権能。それほどまでの神秘を、今の彼は背負っているのだ。
「行くぞ!」
再び護堂が走り出す。そして、それを待ち受ける睡蓮。彼女には、既に油断や手加減など存在しなかった。今の彼に手加減などした瞬間、今度は自分が地に伏せることになるだろうと予感していたからだ。勿論、模擬戦なので殺傷能力の高い攻撃はしないが、命に別状がないところまではやるつもりだった。
「おおお!!!」
「!?」
睡蓮まで残り数メートル。その地点で、護堂が更に加速する。先程よりも速く力強い。
「ですが!」
しかし、護堂が速度を上昇させることなど、既に織り込み済みで攻撃を行っていた睡蓮が外す訳もない。先程はその急激な速度上昇に対応しきれずに外してしまったが、達人である彼女は二度も外さない。
(回避は・・・間に合わないか!・・・なら!!!)
『え!?』
護堂は、迫り来る薙刀の刃に、己の腕を突き出した。そんなことをすれば、彼の腕は引き裂かれ、千切落ちるだろことは明白なのに、だ。
「・・・!!!」
睡蓮でさえ、この行動には焦った。まさか、自分の腕を犠牲にするとは思っていなかったからだ。慌てて薙刀を戻そうとするが、時すでに遅し。無情にも刃は護堂の腕に吸い込まれ・・・
ガキン!!!
という甲高い音を立てて、弾かれた。
「嘘!?」
睡蓮の武術の腕前を知っている鈴蘭が叫ぶ。そして、自身の腕前に絶対の自信を持っていた睡蓮も、言葉には出さなかったが狼狽した。
・・・そして、それが致命的な隙となった。
「今だああああああああああ!!!」
護堂の拳が、睡蓮に振りかぶられた。それは、睡蓮の顔の横を通り・・・
ズガン!!!
鈍く響く音を立てて、彼女の背後の大木に当たり、当たった幹の部分を消滅させたのだ。
ズズ・・・ンと、幹が消失した木が地面に落ちていくのを見ながら、鈴蘭たちは言葉を発する事が出来なかった。権能を一切使わず、武術のみで戦ったとは言え、あの睡蓮が、新人のカンピオーネに一本取られたのである。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「見事です。これなら、無様に負けることも無いでしょう。」
睡蓮に太鼓判を押されて、この模擬戦は終了する。後に、護堂から彼の権能の本当の能力を聞いて、鈴蘭たちが目を輝かせたことを記載しておこう。
こうして、護堂の最初の権能、暫定名【チートコード】はお披露目されたのだ。
後書き
はい、護堂さんの権能の一部分です。っていうか、この権能を書きたいが為に、ドニには負けてもらったんですよね。この権能、実際無茶苦茶強いです。【伊織魔殺商会】の人たちから見ても、かなりチートっぽいです。実際の強さは、見てのお楽しみってことで。
私って、ランキングを見て、新しいのを読み始めるタイプなんですよね。なので、ランキングが十位までしか表示されないのは非常に不便。これは暁の仕様変更なんでしょうか?それとも、知らないうちに設定とかをイジってしまったんでしょうか?誰か教えて下さると嬉しかったり。
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