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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―デッキとは―

 デスデュエルが導入されてからしばし経つと、留学生やプロフェッサー・コブラがいることも慣れ、彼らは特に何事もなく日常に溶け込んだ。ジムが何やら化石を掘っていたり、オブライエンが木に吊されていたりしているが、それを見ても驚かなくなったという点では。

 あの日のマルタンのデッキ構築案はレイとマルタンと三人で考えつき、マルタンが「後は自分でやる」と言った為に、あのグループは解散となった。どんなデッキが出来上がるか、少し楽しみにしている。

 そして俺の場合、人のことばかり気にしてられないのが現状である。機械戦士たちの特色が無くならず、そのサポートに回るようなカテゴリーは、なかなか見つからなかったからだ。

 マルタンのようにデッキを一から作ってみる方がよっぽど楽かもしれないこの作業、手伝ってくれている為に付き合わせている明日香に、かなり申し訳がたたなかったりする。彼女は主軸の《サイバー・ガール》たちをメインに、サポートとして他の戦士族と天使族が入っているという、俺の【機械戦士】の理想型に近いデッキ構成なのだが……

「うーん……」

「難しいわね……」

 オベリスク・ブルー寮の俺の部屋で、二人して頭を抱えていた。幾つかの候補は挙がったものの、そのどれもが『イマイチ』という評価となっている。

「明日香、もう時間も遅いだろ。そろそろ帰った方が――」

「嫌よ。遊矢のデッキをこのままにして帰れないわ」

 相変わらず変なところでプライドが高い女王様を、その居住たる女子寮へと帰そうとしていた時、俺の部屋のドアが勢いよく放たれた。

「え、ルビー、この部屋違うって? もう少し早く言ってくれよ……」

 いきなり他人のドアを開け放ち、いきなり虚空に向かって喋りだす来訪者に、俺は少し身構えた。しかし、あの相手にはそんな警戒は必要ないと、何回か十代から聞いている。

「ヨハン・アンデルセン……」

 留学生の一人であるアークティック校チャンプ、ヨハン・アンデルセン。伝説のデッキ【宝玉獣】を使っており、十代とは早くも意気投合していた。

「悪い悪い、俺方向音痴でさ。君たちの邪魔をするつもりじゃ……うん?」

 邪魔をするつもりじゃないと言ったにもかかわらず、そのままヨハンは部屋に立ち入ってくると、俺と明日香の顔を凝視した。

「もしかして、遊矢と明日香って奴か? いつも一緒にいる強い奴って、十代が言ってたぜ」

「な、なに言ってるのよ十代!」

 こんなところで騒いでても十代には聞こえないぞ、明日香。ヨハンに「そうだ」と答えると、ヨハンははちきれんばかりの笑顔で応えてくれた。

「ああ! それじゃデュエルしないか? ……っと、でも、デッキの調整中みたいだな……」

「いいや、そろそろ終わりにしようと思ってたから大丈夫だよ。明日香、どっちからデュエルする?」

 机に置かれていた【機械戦士】たちをまとめながら、デュエルディスクを引っ張り出し、デッキをデュエルディスクに差し込んだ。本来ならばデッキの調整がてら、明日香とデュエルをする気だったので、明日香もデュエルディスクを持っている。

「そうね……」

「いや、決める必要はないさ。トライアングル・デュエルにしよう!」

 ヨハンが提案したのは、タッグデュエルと並んで変則デュエルの一つである、トライアングル・デュエル。二人が手を組んで一人を倒したり、ルールがはっきりと制定されてないことがあり、タッグデュエルに比べるとマイナー気味である。

「私たち二人が手を組むかも知れないのに、トライアングル・デュエルで良いの?」

「それはそれで面白そうだしな! 俺は問題ないよ」

 そんなつもりは毛頭無いどころか、手の内を知っている俺を先に倒しそうな明日香の悪戯めいた質問。それにヨハンは、流石のアークティック校チャンプといった、何でもないような様子で答えた。

「明日香お前、そんな気は全く無いだろ。……じゃ、トライアングル・デュエルといきますか!」

 通常のデュエルの時とは異なり、まさにトライアングルの形で離れると、三人ともデュエルの準備が完了した。……もちろん、デスベルトも反応してしまっているが。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000
ヨハンLP4000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺からだ、ドロー!」

 デュエルディスクに流れるのは、いつも通り『先攻』という表示ではなく、『1st』という順番を示す文字。

 ライフポイントは全員4000、誰を攻撃しても良いが他人を庇うことは出来ない、『相手プレイヤー』を選択する場合はどちらかを選択する……

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1500

 ……そして、最初のターンは全員攻撃出来ない。これでトライアングル・デュエルのルールは、大体復習出来ただろうか。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「よっしゃ行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのターンとなり、遂に伝説のデッキが始動する。まだ攻撃は出来ないため、あまり手は打ってこないだろうが。

「俺は《宝玉獣 エメラルド・タートル》を守備表示で召喚!」

宝玉獣 エメラルド・タートル
ATK600
DEF2000

 エメラルドがフィールドに輝きを放った後、召喚される宝玉獣 エメラルド・タートル。攻撃したモンスターを守備表示に出来る効果だ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 俺の次のターンがヨハンということは、トライアングル・デュエルの順番は俺→ヨハン→明日香だと確定する。

「私は《エトワール・サイバー》を守備表示で召喚!」

エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1700

 明日香の融合のエースカード《サイバー・ブレイダー》の融合素材が、やはり守備表示で召喚される。明日香も今は、あまり行動を起こさないらしい。

「カードを一枚伏せてターンを終了するわ」


「俺のターン、ドロー!」

 三人とも壁モンスターで守備を固め、リバースカードが一枚という布陣。そしてこのターンから、相手を攻撃することが出来る。

「俺は《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚!」

ミスティック・バイパー
ATK0
DEF0

「なんだ、まだ攻めてこないのか?」

 守備表示で召喚された笛吹の機械戦士を見て、俺にそう挑発して来るヨハンだったが、もちろん俺は攻撃するつもりだ。

「俺のフィールドには守備表示モンスターが二体、よって《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 ガントレット・ウォリアーとミスティック・バイパーの間から、重火器で武装した機械戦士《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。目を輝かせているヨハンには悪いが、攻撃目標はエメラルド・タートルではない。

「バトルだ! バックアップ・ウォリアーで、エトワール・サイバーに攻撃! サポート・アタック!」

 フィールドに宝玉として残るエメラルド・タートルより、融合素材であるエトワール・サイバーを優先して叩く。破壊には成功したものの、明日香のフィールドから一本の光差す道が現れる。

「伏せてあった《奇跡の残照》を発動! 破壊された《エトワール・サイバー》を特殊召喚するわ」

 以前トレードした《奇跡の残照》の効果により、エトワール・サイバーが復活する。……これはなかなかに苦々しい気分だ……

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《宝玉獣 トパーズ・タイガー》を攻撃表示で召喚!」

宝玉獣 トパーズ・タイガー
ATK1600
DEF1000

 ドローするや否や召喚される宝玉獣の切り込み隊長、トパーズ・タイガー。宝玉から黄色の輝きを見せながらの登場だ。

「バトル! 宝玉獣 トパーズ・タイガーで、バックアップ・ウォリアーに攻撃! トパーズ・バイト!」

 確かトパーズ・タイガーの効果は、ダメージステップに400ポイント攻撃力をアップさせる効果。それだけではバックアップ・ウォリアーを倒すには至らないので、まだコンバットトリックがある。

「さらにリバースカード、オープン! 《幻獣の角》! 発動後装備カードとなり、トパーズに装備する! トパーズの効果と併せて、今の攻撃力は2800!」

 獣族専用装備罠カード、《幻獣の角》。その効果で攻撃力を800ポイントアップさせたトパーズ・タイガーにより、バックアップ・ウォリアーは噛み砕かれる。

「バックアップ・ウォリアー……!」

遊矢LP4000→3300

「幻獣の角を装備したモンスターが相手を破壊した時、一枚ドローする。カードを伏せてターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 俺のフィールドのバックアップ・ウォリアーが破壊され、明日香のターンへと移っていく。エトワール・サイバーがフィールドにいる為、明日香ならば絶対に……


「私は魔法カード《融合》を発動! フィールドの《エトワール・サイバー》と手札の《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 予想通り――外れて欲しかったが――現れた融合のエース、《サイバー・ブレイダー》。その厄介な効果は、俺とヨハンのフィールドで別々に数えることになる。

 つまり俺の場合は《ガントレット・ウォリアー》しかいない為、俺はサイバー・ブレイダーは戦闘破壊耐性を持っているとして扱う。だが、ヨハンのフィールドには二体のモンスターがいる為、ヨハンにとっては攻撃力が二倍のモンスターだ。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、トパーズ・タイガーに攻撃!」

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」

 せっかくの攻撃力4200の攻撃も、相手モンスターに届かなくては意味がない。ヨハンのリバースカードによる時空の穴に吸い込まれ、サイバー・ブレイダーの攻撃は止められた。

「……カードをセットして、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのフィールドにはエメラルド・タートルとトパーズ・タイガー。明日香のフィールドにはサイバー・ブレイダー。

 何をしてくるか解らないヨハンも脅威だが、明日香のサイバー・ブレイダーの方が解りやすい脅威だ。

「チューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚し、《下降潮流》を発動! チェンジ・シンクロンのレベルを2に変更する!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 小型のロボットのようなチューナーモンスターが召喚され、そのレベルを2に変更されると、ガントレット・ウォリアーとシンクロ召喚の構えをとった。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》と、レベル2となった《チェンジ・シンクロン》でチューニング!」

「シンクロ召喚か!」

 ヨハンの楽しんでいそうな驚愕の声をバックに、チェンジ・シンクロンは二つの光の輪となった。またもや下降してない《下降潮流》を使ってまで狙うのは、傷だらけの機械戦士のシンクロ召喚。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 シンクロ召喚される傷だらけの機械戦士とともに、シンクロ素材となった《チェンジ・シンクロン》がフィールドに浮かび上がった。

「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材になった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する。サイバー・ブレイダーを守備表示に!」

 厄介な効果を持つサイバー・ブレイダーだが、守備力はたかが800でしかない。スカー・ウォリアーであれば、十二分に破壊が可能である。

「バトル! スカー・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃! ブレイブ・ダガー!」

「サイバー・ブレイダーの効果は……」

 サイバー・ブレイダーの第一の効果は戦闘破壊耐性。そんなことはもちろん解っているので、明日香のセリフが終わる前にリバースカードを発動した。

「伏せてあった《リミット・リバース》の効果を発動! 蘇れ、《ガントレット・ウォリアー》!」

 再び特殊召喚されるガントレット・ウォリアーの登場により、サイバー・ブレイダーは第二の効果となって戦闘破壊耐性を失う。しかも守備表示のため、攻撃力が二倍になっていようと意味がない。

 だが、《ガントレット・ウォリアー》の特殊召喚とともに、明日香のリバースカードも発動していた。

「リバースカード、《重力解除》発動! フィールドのモンスターの表示形式を全て変更する!」

「……チェーンして《ガントレット・ウォリアー》の効果発動! スカー・ウォリアーの攻撃力を500ポイントアップ!」

 明日香の奇策《重力解除》が発動される前に、ガントレット・ウォリアーをリリースさせ、スカー・ウォリアーに装備させる。このままでは《リミット・リバース》のデメリット効果により、破壊されてしまうところだったので、それよりは良いだろう。

 そして《重力解除》は三人のフィールドに効果を及ぼし、サイバー・ブレイダーを攻撃表示に、スカー・ウォリアーは低い守備力を晒す。

「くっ……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 狙っていたこととは真逆の状態になってしまい、歯噛みしながらヨハンのターンへと移る。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動! 三人とも二枚捨てて二枚ドローだ!」

 慣れ親しんだ手札交換カードがヨハンから発動され、伝説のデッキだろうと普通のカードは入ってるんだな、などと思っていると、手札を交換したヨハンが良いカードを引いたようだ。

「よし、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》を発動!」

 フィールドがオベリスク・ブルーの俺の部屋から、ローマ時代の古代都市へと舞台が移っていく。その古代都市の頭上には、美しく輝く虹があった。

「さらに俺は魔法カード《宝玉の恵み》を発動! 墓地の宝玉獣二体を、宝玉化してフィールドに置く! 墓地の《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》と《宝玉獣 コバルト・イーグル》を魔法・罠ゾーンに!」

 これが宝玉獣の最大の特徴である、永続魔法カードのようにフィールドに残り続ける《宝玉化》。そこから様々なコンボに派生していく。

「まだまだ行くぜ! 速攻魔法《G・フォース》! 宝玉化した宝玉獣を特殊召喚する! 《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を守備表示で特殊召喚!」

宝玉獣 ルビー・カーバンクル
ATK300
DEF300

 猫のような生き物の形をした下級モンスター、ルビー・カーバンクルが宝玉から解き放たれ、その効果を発動しようとする。

「ルビー・カーバンクルが特殊召喚に成功した時、宝玉化した宝玉獣を特殊召喚する! ルビー・ハピネス!」

 しかしヨハンの台詞とは裏腹に、いつまで経ってもコバルト・イーグルが特殊召喚される様子はない。

「あ、あれ? コバルト・イーグル?」

 ヨハンは慌てて、宝玉化しているカードの精霊に語りかけていたが、悪いのは宝玉獣ではない。明日香のサイバー・ブレイダーの効果である。

「サイバー・ブレイダー第三の効果。相手モンスターが三体いる時、相手のカードの効果を無効にする。バ・ド・カドル!」

「マジかよ、そんな効果持ってたのかぁ~……」

 頭を抱えてうなだれるその様子は、どことなく十代を連想させる。……似たものどうしなのだろう、二人とも。

「ま、仕方ないか。エメラルド・タートルを守備表示にし、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 結局ヨハンは《重力解除》で攻撃表示になっていた、エメラルド・タートルを守備表示にしただけでターンを終了する。よって、未だにサイバー・ブレイダーは明日香のフィールドに健在だ。

「私は《ブレード・スケーター》を召喚!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 俺のモンスターは《スカー・ウォリアー》一体で、ヨハンのフィールドは三体の宝玉獣がいる。そのどれもが、《重力解除》によって守備表示となっている。

 明日香は二体のモンスターで、果たしてどいつを攻撃するか……?

「バトル! ブレード・スケーターでルビー・カーバンクルを攻撃! アクセル・スライサー!」

 明日香の攻撃目標はヨハンになったようで、ヨハンには悪いが俺は少しばかり安心した。ルビー・カーバンクルは破壊されてしまうが、魔法・罠ゾーンにルビーが宝玉化する。

「破壊されても、ルビー・カーバンクルは宝玉化する!」

「それでも行くわよ! サイバー・ブレイダーで、トパーズ・タイガーを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 ルビー・カーバンクルもトパーズ・タイガーも守備表示のため、ヨハンにはダメージは受けず、宝玉獣は破壊されても宝玉化する。ヨハンの《幻獣の角》が破壊され、代わりにトパーズが宝玉化した。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 スカー・ウォリアーが戦闘破壊耐性を持っているおかげで、明日香に狙われずに済んだことを感謝し、次なるモンスターへと繋ぐ。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 消火器のような形をしたチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》が召喚され、その頭に付いているメーターを加速させた。

「レベル5の《スカー・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 そしてこの二体だけではなく、スカー・ウォリアーの腕に装着された、《ガントレット・ウォリアー》の思いも共にシンクロを行う。二つの光の輪と五つの光が瞬くと、新たなシンクロモンスターがフィールドに現れた。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。シンクロ素材となった、専用チューナー《ニトロ・シンクロン》の効果で、さらにカードを一枚ドローする。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ニトロ・ウォリアーはその拳でサイバー・ブレイダーに殴りかかるが、俺のフィールドのモンスターは一体のため、サイバー・ブレイダーは第一の効果が適応されている。

「サイバー・ブレイダー第一の効果……」

「いや、速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! サイバー・ブレイダーの攻撃力を400ポイントアップさせ、その効果を無効にする!」

 サイバー・ブレイダーの頭上に禁じられた聖杯が掲げられ、その戦闘破壊耐性は無効となる。代わりにサイバー・ブレイダーの攻撃力は上がるが、それよりもさらに、ニトロ・ウォリアーの攻撃力は上がる。

「ニトロ・ウォリアーは魔法カードを使ったターン、攻撃力が1000ポイントアップする!」

 攻撃力3800のラッシュがサイバー・ブレイダーを襲い、今までフィールドを制圧していた、明日香の融合のエースモンスターは破壊される。

「きゃあ!」

明日香LP4000→2700

 しかもニトロ・ウォリアーの行動はそれだけでは終わらず、その拳を回転させてフィールドに旋風を巻き起こし、エメラルド・タートルを攻撃表示に変更した。

「なに!?」

「ニトロ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、他の守備表示モンスターを攻撃表示にして再びバトルを行う! ダイナマイト・インパクト!」

 ニトロ・ウォリアーが攻撃表示になったエメラルド・タートルにも、サイバー・ブレイダーと同じようにラッシュを叩き込む。だがその効き目は、明日香に比べると小さなものだった。

「《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果! 宝玉化した宝玉獣が二体以上いる時、一ターンに一度だけ、戦闘ダメージを半分にすることが出来る!」

ヨハンLP4000→2900

 ライフの半分を失う勢いだった攻撃にもかかわらず、虹色のバリアによってダメージを半減されてしまう。

「エメラルド・タートルは宝玉化する」

 しかも宝玉獣を破壊しても、宝玉化してしまう為に簡単に再利用が可能となってしまう。ほとんど狙い通りにニトロ・ウォリアーは活躍してくれたが、ヨハンには少ししてやられたか。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのフィールドにモンスターはいないが、宝玉化した宝玉獣が四体も魔法・罠ゾーンにいて、専用フィールド魔法《虹の古代都市-レインボー・ルイン》はある。

 明日香のフィールドには《ブレード・スケーター》のみで、俺のフィールドは《ニトロ・ウォリアー》とリバースカードだと考えると、ヨハンがボード・アドバンテージを独占していると考えて良いだろう。

「《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果! 宝玉化した宝玉獣が四体いる時、さらに一枚ドロー出来る! そして、魔法カード《レア・ヴァリュー》を発動!」

 フィールド魔法で一枚ドローした後、さらに魔法カードが発動されると、俺の前に四つの宝玉が浮かび上がった。

「遊矢。このカードは君が選んだ宝玉獣を墓地に送って、俺は二枚カードをドローするカード。さあ、選びな!」

「……俺は《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を選択する」

 先程は《サイバー・ブレイダー》第三の効果により、発動する機会を失ったものの、その効果は宝玉獣の中でも強力なもの。宝玉化したモンスターを、全て特殊召喚するカードをフィールドに残してはおけなかった。

「ルビーを墓地に送って二枚ドロー! ……よし、頼むぜ! 《宝玉獣 サファイア・ペガサス》!」

宝玉獣 サファイア・ペガサス
ATK1800
DEF1200

 サファイアの宝玉から光が発せられ、そこからは天駆ける天馬が飛びだしてくる。……この天馬は走るのがメインのようだが。

「サファイア・ペガサスが召喚に成功した時、デッキから宝玉獣を宝玉化出来る! 《宝玉獣 アメジスト・キャット》を魔法・罠ゾーンに!」

 新たにアメジスト色の宝玉が現れ、これで再び四体の宝玉獣が魔法・罠ゾーンに並ぶ。そしてサファイア・ペガサスが攻撃表示ということは、ニトロ・ウォリアーを倒す手段があるのだろうか……?

「そして《死者蘇生》を発動! 守備表示で蘇れ、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》!」

 宝玉獣 ルビー・カーバンクルが、万能蘇生カードによってフィールドに特殊召喚され、俺は自らの失策を痛感する。ルビー・カーバンクルはどこからでも、特殊召喚に成功すれば、その効果は発動出来るのだ。

「今度こそやらせてもらうぜ、ルビー・カーバンクルの効果発動! 宝玉獣たちを解放する! ルビー・ハピネス!」

 ヨハンのフィールドに宝玉化していたモンスターは四体、よってフィールドが埋まる程に特殊召喚される。

 宝玉獣 ルビー・カーバンクルに導かれ、《宝玉獣 コバルト・イーグル》、《宝玉獣 アメジスト・キャット》、《宝玉獣 トパーズ・タイガー》が次々に宝玉から解放されたのだ。

「悪いけどエメラルドは留守番な。さらに《宝玉の解放》をトパーズ・タイガーに装備する!」

 更に装備魔法カードが装備されると、守備表示であるルビー・カーバンクル以外の、全ての宝玉獣が攻撃の意を示した。この総攻撃を、耐えることは出来るか……!

「行くぜみんな、バトルだ! 宝玉獣 トパーズ・タイガーで、ニトロ・ウォリアーに攻撃! トパーズ・バイト!」

 宝玉獣 トパーズ・タイガー固有の効果は、バトルフェイズに攻撃力が400ポイントアップすること。これだけでは攻撃力は2000程度であるが、トパーズ・タイガーはニトロ・ウォリアーに殴られて破壊されながらも、その強靭な顎でニトロ・ウォリアーを噛み砕いた。

 ……そう、相討ちだ。

「その装備カード……!」

「ああ、宝玉の解放を装備したモンスターの攻撃力は800ポイントアップするから、ニトロ・ウォリアーと同じ攻撃力になったのさ」

 更に破壊されてもトパーズ・タイガーは宝玉化するだけで、こちらのニトロ・ウォリアーは墓地に送られる。しかも今回は、トパーズ・タイガーの他にも、更なるオレンジ色の宝玉が宝玉化した。

「更に《宝玉の解放》は、フィールドから離れた時にデッキの宝玉獣を宝玉化させる。残る《宝玉獣 アンバー・マンモス》を宝玉化させた」

 攻撃力を800ポイント上昇させ、フィールドから離れた時にまで効果を発揮するとは、なかなか羨ましい装備カードだ。俺も一枚欲しいところだが、効果からすると宝玉獣専用カードだろう。

「まだまだ行くぜ! サファイア・ペガサスで、ブレード・スケーターに攻撃! サファイア・トルネード!」

「くうっ……」

明日香LP2700→2300

 宝玉獣たちの一斉攻撃は止まらないが、俺も明日香も自身を守ってくれるモンスターは、既に破壊されてしまって存在しない。

「コバルト・イーグルで遊矢を! アメジスト・キャットで明日香を! それぞれダイレクトアタック!」

 明日香にはペルシャ猫のようなモンスターが襲い、俺には空を飛ぶ鷹が急降下して来て、それぞれにダイレクトアタックを決めた。

「くっ……!」

遊矢LP3300→1900

「……まずいわね……」

明日香LP2300→1100

 俺のライフポイントは半分になり、明日香のライフポイントはそろそろ危険域に入っていく。これが宝玉獣の真骨頂である展開力らしく、一人で防ぎきった十代は何なのだろうか。

「俺はターンを終了するぜ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドには何もなく、三人の中では一番ピンチと言っても良いだろう。かく言う俺も、リバースカードが一枚あるだけなので、明日香のことは言えないけれど。

 だが、俺のフィールドががら空きということは、明日香ならば俺の《速攻のかかし》を警戒するだろう。そもそも、圧倒的に有利なヨハンを何とかしなければ、明日香に勝ち目は薄いので、俺に攻撃することは無いだろう。

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを――」

「ちょっと待った! 《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果を発動! 宝玉化した宝玉獣が三体いる時、宝玉獣を墓地に送ることで、相手の魔法・罠カードを無効にする! ルビー・カーバンクルを墓地に送って、《高等儀式術》を無効にするぜ!」

 ヨハンのフィールドにいるルビー・カーバンクルを代償に、明日香のキーカード《高等儀式術》はその効果を失った。ルビー・カーバンクルは、フィールドにいてもただの下級モンスターなので、墓地か宝玉化している方が都合が良いのだろう。

 しかし厄介なのは、フィールド魔法《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果で、あのカードがあるだけでヨハンはかなりのアドバンテージを誇っている。だが破壊しようにも、魔法・罠カードは一度だけ無効化され、虹の古代都市-レインボー・ルイン自体に破壊耐性もある。

「なら、私はフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動!」

「これ以上宝玉獣を失っちゃ……くそ、レインボー・ルインが……!」

 明日香の発動したフィールド魔法により、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》が破壊されていき、フィールドは純白の教会に彩られていく。

 いくらレインボー・ルインが効果破壊出来なくても、フィールド魔法である以上は、フィールド魔法の張り替えをされれば無力。その為の第三の効果なのだろうが、それは明日香が囮に使った《高等儀式術》に使ってしまった。

 これ以上宝玉獣の数を減らすのは、通常のデュエルならばいざ知らず、このトライアングル・デュエルでは致命傷となる。

「さらに《融合回収》を発動! 墓地から融合素材にした《エトワール・サイバー》と《融合》の魔法カードを手札に加える。そして、フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を発動!」

 その名の通り融合素材を回収する魔法カード《融合回収》を使ったため、またもや《サイバー・ブレイダー》の融合召喚かと思えば、《融合》の魔法カードはリチューアル・チャーチへと吸い込まれていく。

「《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》は、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキから魔法カードを手札に加えることが出来る。私が手札に加えるのは、《高等儀式術》!」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の鐘が鳴ると、吸い込まれた《融合》の魔法カードの代わりに、明日香の手へと《高等儀式術》が戻ってくる。これでもう無効にされずに、儀式召喚が出来る……!

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから《神聖なる球体》を三枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 儀式召喚される明日香の儀式のエースカード、《サイバー・エンジェル-弁天-》だが、その儀式召喚は今はタイミングが良いとは言えない。その攻撃力はヨハンのサファイア・ペガサスと同じで、効果も戦闘破壊できない宝玉獣相手には、発動しないのだから。

「《貪欲な壺》を発動して二枚ドローし、チューナーモンスター《フルール・シンクロン》を召喚!」

フルール・シンクロン
ATK400
DEF200

 汎用ドローカードによって二枚ドローされた後に、機械で出来た花が芽を咲かせて召喚される。いつかに明日香とトレードした、チューナーモンスター《フルール・シンクロン》……!

 チューナーモンスター用のサポートカードが入っていない明日香にとって、チューナーモンスターと非チューナーが並んで、やることなど一つしかない。

「こっちもシンクロか!」

「ええ。レベル6の《サイバー・エンジェル-弁天-》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 明日香は最初の《高等儀式術》から、ずっとこれを狙っていた。《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の中、サイバー・エンジェル-弁天-が光の輪に包まれていった。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2700
DEF2300

 白百合の騎士たる明日香のシンクロのエース、《フルール・ド・シュヴァリエ》がフィールドに降臨し、明日香を守るように剣を構えた。

 その攻撃力はヨハンの宝玉獣たちを遥かに超え、そもそも俺のフィールドにはモンスターがいない。

「バトル! フルール・ド・シュヴァリエで、アメジスト・キャットを攻撃!」

 しかし、がら空きの俺を無視して狙うのは、ヨハンのフィールドのアメジスト・キャット。ライフポイントの少ない明日香にとって、――このデュエルでは使われてはいないが――ダイレクトアタッカーである、アメジスト・キャットを残しておいては危険だと考えたのだろう。

「こっちに来たか! ……うわっ!」

ヨハンLP2900→1400

 《虹の古代都市-レインボー・ルイン》がないヨハンには、もうダメージを半分にする効果はなく、大ダメージを喰らってしまう。これで三人のライフがほとんど並び、誰がいつ脱落してもおかしくなくなった。

「私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香も《虹の古代都市-レインボー・ルイン》を破壊し、更にモンスターを展開させ、《フルール・ド・シュヴァリエ》のシンクロ召喚までこぎつけた。

 そして、ヨハンも以前として宝玉獣を大量展開している中、俺がフィールドががら空きのままでは、全くカッコつきもしない。

「俺はチューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 俺のフィールドががら空きの時、一度きりとはいえ特殊召喚出来る、黒い円盤状のチューナーモンスター。その召喚と共に、更なる展開のために魔法カードを発動する。

「速攻魔法《手札断殺》を発動し、全員二枚捨てて二枚ドロー! そして、墓地に捨てたカードは《リミッター・ブレイク》!」

 墓地へと送った《リミッター・ブレイク》が光輝き、そこから旋風とともに機械戦士が特殊召喚される。その機械戦士とは当然、俺が最も信頼するマイフェイバリットカード!

「このカードが墓地に送られた時、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 雄叫びとともに雄々しくマイフェイバリットカードが現れるが、今のままではアンノウン・シンクロンと併せてもレベル3のため、俺のデッキではシンクロ召喚は不可能だ。

 それはつまり、まだまだ終わらないということ。

「リバースカード、《ロスト・スター・ディセント》! 守備力を0にして、墓地の《ニトロ・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚する!」

 墓地からニトロ・ウォリアーが蘇り、守備の態勢をとるものの、盾代わりにしているその腕はボロボロのままだ。守備力を0にするにもかかわらず、守備表示で特殊召喚する《ロスト・スター・ディセント》は、扱いにくいものの活用法はある。

「ロスト・スター・ディセントで蘇生したシンクロモンスターは、レベルが1下げる! レベル6となった《ニトロ・ウォリアー》と、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 再びシンクロ召喚されるのはレベル7のモンスターであり、その選択肢は幅広い。そしてその中から選ぶのは、シンクロモンスターのラッキーカード!

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色の装甲を装着した機械竜が現れ、その場に羽ばたいてみせた後、威嚇のように大きく鋼鉄の嘶きを上げた。その嘶きはデッキの中の三枚のカードと共鳴し、ヨハンの前に三枚のカードが表示された。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキの装備魔法を三枚選び、裏側で相手が選択したカードを手札に加える! ヨハン、お前が選べ。パワー・サーチ!」

 俺が選んだ装備魔法カードは、《団結の力》・《デーモンの斧》・《メテオ・ストライク》という汎用装備カードばかり。しかし汎用カードということは、それだけ優秀だということだ。

「へぇ、俺が選んで良いのか。右のカードにするぜ!」

 ヨハンが選んだ右のカードを手札に加え、そのままパワー・ツール・ドラゴンに装備……はしない。俺はまだ、このターンに通常召喚を行っていない。

「チューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 チューナーモンスターのラッキーカードが最後に通常召喚され、パワー・ツール・ドラゴンの周りをクルクルと旋回し始めた。

「チューナーモンスターって……またシンクロ召喚!?」

「これで最後さ。レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》に、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 旋回していたエフェクト・ヴェーラーの軌跡が炎になり、パワー・ツール・ドラゴンの装甲が外れていく。全ての装甲が外れ落ちる直前に、フィールドに展開している《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の天井へと飛翔した。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 機械の装甲に身を隠した神話の竜が実体化し、その降臨した証として天井から光を放ち、その光は俺に集まっていく。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

 俺のライフポイントを4000に回復させつつ、ライフ・ストリーム・ドラゴンはフィールドに降り立った。その効果のおかげでヨハンと明日香、二人のライフと大きくリードする。

「まだまだ! 魔法カード《ミニマム・ガッツ》を発動! スピード・ウォリアーをコストに、フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力を0にする!」

「なっ!?」

 スピード・ウォリアーをリリースすることにより、フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力が0となり、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃を受ければ明日香のライフポイントは0となる。

 よしんば戦闘ダメージを防げても、戦闘破壊に成功することが出来れば、《ミニマム・ガッツ》の効果が明日香を襲う。フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力分のダメージを受ければ、明日香のライフポイントはどちらにせよ0。

 ヨハンの宝玉獣を相手に発動しても良かったが、宝玉獣は戦闘破壊出来ないため、《ミニマム・ガッツ》の効果を存分に得られない。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに《メテオ・ストライク》を装備し、バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、フルール・ド・シュヴァリエに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がフルール・ド・シュヴァリエに迫り、そのまま鎧をつけている胸部へと直撃した。その身体を貫いて、明日香へと光弾は届く……筈だった。

 正確には光弾が当たっているのはフルール・ド・シュヴァリエではなく、その直前に現れた戦士がその身を犠牲に防いでいたのだから。

「残念だったわね、《ネクロ・ガードナー》よ」

 明日香が墓地から手に持っていたのは、除外することで攻撃を無効にする戦士、《ネクロ・ガードナー》。ヨハンか俺の《手札断殺》により、墓地に送っていたのだろう。

「くっ、ターンエンドだ……」

 《ミニマム・ガッツ》の効果はエンドフェイズ時までなので、フルール・ド・シュヴァリエは攻撃力が元に戻る。このターンでの俺の攻撃は、確実に失敗だった。

「俺のターン、ドロー!」

 俺も明日香も上級モンスターを揃えたため、宝玉化も併せて展開しているとはいえ、下級モンスターしかないヨハンには苦しい展開だろう。もちろん、ヨハンと宝玉獣は相手が上級モンスターだろうと、関係ないかのように破壊してきたのだが。

「俺は二枚目の《レア・ヴァリュー》を発動! 明日香、俺の宝玉化したモンスターから一人選んでくれ」

「なら……エメラルド・タートルを選ぶわ」

 明日香が選択したエメラルド・タートルが墓地に送られる代償に、ヨハンは二枚ドローすると、ニヤリと笑って新たなカードを発動した。

「遊矢、君のおかげでこいつを発動出来る! 魔法カード《GEMバースト》!」

 ヨハンが魔法カードを発動するとともに、宝玉化していた宝玉獣たちが半透明に実体化していく。そしてヨハンはその間に、墓地から三枚のカードを俺たちに向けて掲げていた。

「このカードは、墓地の《G・フォース》、《E・フォース》、《M・フォース》を除外することで発動出来る魔法カード! 宝玉化している宝玉獣の数×500ポイントのダメージを与えることが出来る!」

 《G・フォース》は自らで発動していたが、残り二枚は恐らく俺の《手札断殺》の効果により、墓地に送っていたのだろう。そしてヨハンの宝玉化している宝玉獣の数は、アンバー・マンモスとアメジスト・キャット、トパーズ・タイガーの三体。

「頼むぜみんな! GEMバースト!」

 半透明で浮かび上がっていた宝玉獣たちが、七色の光線となって発射され、俺ではなく明日香へと直撃した。《GEMバースト》の対象は、ライフ・ストリーム・ドラゴンで回復した俺ではなく、確実にトドメをさせる明日香だったらしい。

「く……私は脱落ね」

明日香LP1100→0

 明日香はライフが0になったことにより脱落し、フィールドを支配していた《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》は消えていく。俺に《GEMバースト》を使っていれば、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果で無効に出来たのだが……

 《GEMバースト》によってレーザーとなっていた宝玉獣は、ヨハンのフィールドに戻ると再び宝玉化して封印された。

「へへ。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香の脱落により、トライアングル・デュエルは俺とヨハンの一騎打ちへと変更される。

 俺のフィールドには《メテオ・ストライク》を装備した《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がおり、ライフポイントはその効果によって4000ポイント。

 対するヨハンは《宝玉獣 サファイア・ペガサス》と《宝玉獣 コバルト・イーグル》が攻撃表示で、ライフポイントは1400。魔法・罠ゾーンにはリバースカードが一枚と、宝玉化した《宝玉獣 トパーズ・タイガー》に《宝玉獣 アンバー・マンモス》、《宝玉獣 アメジスト・キャット》が控えている。

 圧倒的にこちらが有利な気がするが、先程の《GEMバースト》のように、宝玉獣は何をしてくるかが解らない。

「明日香の仇討ちといかせてもらう。バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、コバルト・イーグルに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「私、遊矢の《手札断殺》のせいで負けたところもあるんだけど……」

 明日香の小声を聞こえなかったことにすると、ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がコバルト・イーグルに迫り、その身体を貫いてヨハンへと向かっていく。肝心のプレイヤーへのダメージは、ヨハンの前に現れた無数のカードに阻まれてしまったが。

「リバースカード、《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にして一枚ドローし、コバルト・イーグルは宝玉化する!」

 《ガード・ブロック》に阻まれてトドメはさせず、コバルト・イーグルは宝玉化するという、それだけの結果にバトルは終わる。どうせ防がれるのであれば、サファイア・ペガサスを攻撃すべきだったが……それは後の祭りか。

「ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー! ……よし、魔法カード《翼の元に》発動!」

 ヨハンが発動した魔法カードとともに、サファイア・ペガサスが天に飛び上がり、そこに宝玉化している宝玉獣たちが集まっていく。そして宝玉化から解放され、ヨハンの手札に帰っていった。

「《翼の元に》はサファイア・ペガサスがいる時、サファイア・ペガサス以外の宝玉獣たちを手札に戻す! そして《手札抹殺》を発動!」

 フィールドに宝玉化していた宝玉獣たちを手札に戻し、その後に《手札抹殺》を行うことにより莫大なアドバンテージを得て、ヨハンの手札は潤沢となる。

「さらに《貪欲な壺》で宝玉獣たちを五体デッキに戻し、二枚ドロー! ……よっしゃ、《宝玉獣 アンバー・マンモス》を召喚!」

宝玉獣 アンバー・マンモス
ATK1700
DEF1200

 さらに汎用ドローカードによって二枚ドローし、現れた宝玉獣は初めて現る《宝玉獣 アンバー・マンモス》。初めて現るといっても宝玉化はしていたので、《貪欲な壺》で墓地に戻し、二枚ドローする時にまたアンバー・マンモスを引いたというのか……!

「こいつでそのドラゴンを倒すぜ、《ユニオン・アタック》! アンバー・マンモスの攻撃力を、サファイア・ペガサスに加算する!」

 アンバー・マンモスのエネルギーが、空を飛んでいるサファイア・ペガサスへと補充されていく。自分のポリシーから破壊カードを入れていないヨハンにとって、《ユニオン・アタック》はまさしく宝玉獣たちの力を併せて、相手の上級モンスターを倒すカードなのだろう。

 その意図通りに、サファイア・ペガサスの攻撃力は3500となり、戦闘ダメージは与えられないものの、ライフ・ストリーム・ドラゴンを超えた。

「バトル! サファイア・ペガサスで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! サファイア・トルネード!」

 サファイア・ペガサスが起こしたサファイア色の旋風が、アンバー・マンモスの力を借りてカマイタチとなってライフ・ストリーム・ドラゴンを襲ったが、その前に盾を持った機械戦士が立ちはだかった。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、その戦闘破壊を無効にする!」

 明日香の使った《ネクロ・ガードナー》の相互互換、《シールド・ウォリアー》のおかげで破壊されず、《ユニオン・アタック》のデメリットでダメージも受けない。

「くっそ~防がれたか! カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンに《メテオ・ストライク》が装備されている以上、ヨハンは宝玉獣たちを攻撃表示にする他無い。だがサファイア・ペガサスもアンバー・マンモスも、下級モンスターとしては充分な攻撃力を持っている為、このターンで決着とはいかない。

 そして何より厄介なのは、ヨハンのフィールドの二枚のリバースカード。十中八九、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃を防ぐものだろうが、ここは臆せず攻める!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで、サファイア・ペガサスに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「いいやこっちだ! アンバー・マンモスの効果発動! 他の宝玉獣への攻撃を、このカードが引き受ける!」

 サファイア・ペガサスへ光弾を放ったのだが、それを庇うように前に出たアンバー・マンモスが代わりに受ける。そして、その背後にあったリバースカードがオープンしていた。

「リバースカード、オープン! 《宝玉陣-琥珀》を発動! アンバー・マンモスが攻撃対象になった時、他の宝玉獣の攻撃力だけ、アンバー・マンモスの攻撃力をアップさせる!」

 サファイア・ペガサスの攻撃力を再び借りて、先の《ユニオン・アタック》と同じくアンバー・マンモスの攻撃力は3500となる。だがその程度であれば、ライフ・ストリーム・ドラゴンはその効果で耐えきってみせる……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果――」

「いや、伏せてあった《ブレイクスルー・スキル》を発動! ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を無効にさせてもらうぜ!」

 だがヨハンは更なる罠カードを用意しており、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を封じると、アンバー・マンモスはライフ・ストリーム・ドラゴンを打ち破った。

「なにっ……ライフ・ストリーム・ドラゴンが……!」

遊矢LP4000→3400

 《ユニオン・アタック》の時は戦闘ダメージを受けなかったが、今回の罠カード《宝玉陣-琥珀》にはそんなデメリット効果はない。通常通り俺は戦闘ダメージを受け、ライフ・ストリーム・ドラゴンは大地に沈んで破壊される。

「……《マッシブ・ウォリアー》を守備表示で召喚し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが破壊され、壁モンスターとして召喚したのは要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。いつもならばその効果に自信を持てるが、今はその効果が無駄だということが解ってしまっている。

「確かそいつは……なんだったっけ。まあ良いや、墓地から《ブレイクスルー・スキル》を除外して、《マッシブ・ウォリアー》の効果を無効にする!」

 マッシブ・ウォリアーの効果を知らない、という可能性に賭けていたのだが、アークティック校チャンプには通じなかったようだ。……まあ、野性的なカンのようなものみたいだが。

「バトル! アンバー・マンモスで、マッシブ・ウォリアーに攻撃! アンバー・スタンプ!」

 アンバー・マンモスの強靭な足に踏み潰され、マッシブ・ウォリアーはその戦闘破壊耐性を適応出来ずに破壊された。

「さらに、サファイア・ペガサスでダイレクトアタック! サファイア・トルネード!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3400→1600

 続いて放たれたサファイア色の旋風に翻弄され、4000まで回復したライフは軽々と1600にまで削られる。ただ、追撃の宝玉獣が通常召喚されなかったのは、不幸中の幸いだろうか。

「カードをセットして、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンも破壊され、このまま宝玉獣と消耗戦を繰り返していれば、宝玉化が出来るヨハンが圧倒的に有利。

 ならば、このターンで決めてみせる……!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアッ!』

 二回目の登場となるスピード・ウォリアーが攻撃の構えを取ると、その両手を何かを持つように構えだした。そして構えたその両手に、二対のバスターソードが構えられた。

「装備魔法《ダブル・バスターソード》を発動! スピード・ウォリアーに貫通効果を与え、バトルだ!」

「貫通効果を与えても宝玉獣たちは攻撃表示だし、そもそもスピード・ウォリアーじゃ攻撃力は及ばないぜ!」

 一回目の登場は《ミニマム・ガッツ》のコストになっただけなので、マイフェイバリットカードの真価が解らないのは解る。だが、現にヨハンのフィールドの《宝玉獣 サファイア・ペガサス》は守備表示で、スピード・ウォリアーの攻撃力は1800である。

「墓地の《ADチェンジャー》により、サファイア・ペガサスを守備表示に! そして、スピード・ウォリアーは召喚したターンのバトルフェイズ時、攻撃力は倍になる!」

 スピード・ウォリアーはその攻撃力倍にさせて、二対のバスターソードを構え、サファイア・ペガサスに向かっていく。

「さらに墓地から《スキル・サクセサー》を発動し、サファイア・ペガサスに攻撃! ソニック・エッジ!」

「アンバー・マンモスの効果発動! 攻撃をアンバー・マンモスに誘導する! ……ぐあ!」

ヨハンLP1100→200

 先のターンと同じように、アンバー・マンモスへと攻撃を誘導すると、ライフポイントを200ポイントだけ残した。……しかし、その効果は《ダブル・バスターソード》の前では無力だ……!

「《ダブル・バスターソード》の効果発動! 装備モンスターをバトルフェイズ終了後に破壊することで、二回攻撃を可能とする! サファイア・ペガサスを攻撃だ、ソニック・エッジ!」

 ダブル・バスターソードの二回目の攻撃がサファイア・ペガサスを切り裂き、そのライフポイントを0にする……筈が、サファイア・ペガサスが宝玉化するのみで終わる。

「リバースカード、《宝玉の閃光》を発動していたのさ! 手札から宝玉獣である、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を宝玉化することで、戦闘ダメージを0にする!」

「くっ……!」

 ここでまた戦闘ダメージを0にされてしまい、またもやヨハンへのトドメには至らない。更に、《ダブル・バスターソード》の効果を使ってしまったため、《スピード・ウォリアー》の自壊が決定する。

「俺の手札には、ルビーを特殊召喚出来る《G・フォース》がある。次のターンでみんなを解放して、俺の勝ちだぜ!」

「……それはどうかな。手札から速攻魔法《上級魔術師の呪文詠唱》! 手札の魔法カードを速攻魔法として使用出来る! 俺が発動するのは、《ミラクルシンクロフュージョン》!」

 墓地から《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が一時的に蘇り、フィールドの《スピード・ウォリアー》と時空の穴に吸い込まれていく。ダブル・バスターソードは、カランと音をたててフィールドに降り立ち、消滅するタイミングで時空の穴から新たなモンスターが現れる。

「《スピード・ウォリアー》! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! お前たちの力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 時空の穴から現れる、マイフェイバリットカードとライフ・ストリーム・ドラゴンの融合体である、俺の切り札こと《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。その荘厳たる姿に、ヨハンは子供のように目を輝かせた。

「すげぇ! それが遊矢の切り札か!」

「ああ……そして、このデュエルのフィニッシャーだ!」

 速攻魔法扱いとなった《ミラクルシンクロフュージョン》の効果により融合召喚されたため、ドラゴエクィテスはまだ攻撃が可能。可能な限り天空へと飛翔すると、その槍をヨハンに向けて構えた。

「ヨハンにダイレクトアタックだ、スパイラル・ジャベリン!」

「うわああっ!」

ヨハンLP200→0

 トライアングル・デュエルの特性上、思いの外長くなってしまったが、ドラゴエクィテスの一撃でデュエルは決着する。ヨハンはデュエルの衝撃から立ち上がると、気持ちよさそうに笑いながら近づいて来た。

「十代に聞いてた通り、二人とも強いな! 今日はもう遅いけど、次は1対1でデュエルしたいぜ!」

「ええ、やっぱり1対1でデュエルしたいわね」

 二人して好戦的なことを言ってのけるが、俺も確かにそう思っているので否定は出来ない。たけどそれより今回は、気になることが他にあった。

「……それより、ヨハン。お前のデッキ、モンスターは宝玉獣だけで、効果破壊のカードが入ってないって本当か?」

「正確には、カウンターカード以外の、だけどな。本当だぜ」

 このデュエル中でも《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の第三の効果は使っているし、カウンターカードは入っているのだろうが、やはりそれ以外は本当だったか。

「そんなデッキ構成で良いのか?」

「ああ! 俺の家族たちの力と、相手の力を最大限活かした楽しいデュエルには、このデッキ構成が一番さ! ……今みたいに、負けちまう時もあるけどな」

 デッキの中に入っているモンスターは七枚で、そのどれもが下級モンスターで、効果破壊するカードは入っていない。そんなデッキを使っているのが、自分にとって一番楽しいというのか……

「遊矢もそうだろ? お前も、お前のデッキの精霊たちも、凄い楽しそうにデュエルしてるもんな!」

 ヨハンのその言葉にふと、デュエルディスクに差し込まれたままの、【機械戦士】デッキを見てしまう。精霊たちの声などは聞こえないが、心は通じ合っている筈だと信じて疑わない俺のデッキ。

(俺は……)

 ――デッキの改良は、まだまだ苦戦しそうだった。

 
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