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銀色の魔法少女

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第二十一話 決着 前編

side ALL

 場所は変わって、離れた所にいるアリシアvsなのは組。

 なのはのディバインバスターや刃のインフィニティバスターを受けても、アリシアは向かってくる。

「くっそ、こいつびくともしねえ!」

 刃は思わず愚痴をこぼす。

 これはなのはたちが弱いのではなく、アリシアが異常なのだった。

 ジュエルシードによる無尽蔵のエネルギーが、体やバリアジャケットの損傷を急速に回復する。

 バインドも、その腕力で強引に引きちぎる。

「ああ、これじゃあいくら攻撃しても切りがない」

 クロノはそう言うが、同時に疑問に思っていることがあった。

(現状は三対一、彼が戦ってた時よりも戦力的に有利なはずなのに、彼ほどのダメージが与えられていないのはどういうことだ?)

 そう、アリシアはなのはたちから受けたダメージは回復していたが、遼から受けたダメージの方は完全には回復出来てはいない。

 今も見える部分では彼女の頬の傷や、胸の辺りはまだ負傷したままだ。

 そう、まだ怪我の部分が凍りついていた

(そうか!)

 クロノは気がつく。

 いくら回復力が強くても、細胞や周りごと凍らせれば回復できない。

 それに、手足が凍れば動きは鈍るから、その隙に大出力の魔法をぶち当てることもできる。

 クロノは二人を見る。

 なのはは魔法の素人、となると、

「おい、紅生 刃! 凍結系の魔法は使えるか?」

「え、ああ、一応使えるけど?」

「よし! じゃあ僕がアリシアの動きを少しの間抑えるから、刃はその隙に凍結魔法を! なのははその後に君が思いつく限りで一番威力のある魔法をアリシアにぶつけてくれ!」

「お、なんとなく分かった!」「はい!」

 なのはが後ろに下がり周囲から魔力を集め始める。

「しくじるなよ、刃」

「そっちこそ、クロノ」

 二人はアリシアに突撃していく。



            「いくぞ、全力の! ストラグルバインド!」



 何十もの魔法の鎖がアリシアを縛る。

 先程はあっさり引きちぎられたが、今度はそうはいかない。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 アリシアが一つ、また一つ千切るが、その度にクロノが新しいのを追加する。

 そこに、刃が凍結魔法を叩き込む。



            「詠唱破棄の! エターナルコフィン!」



 これはランクS以上の、極大の凍結魔法。

 アニメを見た刃が密かに練習していた魔法でもあった。

 しかし、まだ完全ではない上に詠唱破棄までしたものだから、効果範囲も狭いし、威力はAAAランクまで落ちている。

 けれど、アリシアの動きを止めるには十分だった。

 皮膚から筋肉まで凍り、その動きを止める。

「なのは!」

 クロノがなのはに合図を送る。

「うん!」

 なのははレイジングハートを高く掲げる。

「いくよ、レイジングハート」

『All Right,My Master』

 彼女は勢いよく、相棒を振り下ろす。



             「スターライト! ブレイカー!」



 暴発寸前の魔力の塊が、アリシアに向けて一気に解放される。

 それはアリシアを包み込むと海水を押しのけ、そのまま海底まで届いた。

「なんつうバカ魔力!」「うわぁ、間近で見るとすげぇ……」

 二人もその威力に目を奪われていた。

 普通なら戦闘不能になる魔力の奔流。

 けれど、アリシアはまだ動いていた。

「―――――――アアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 体のあちこちを凍らされ、なのはの魔法を受けてもなお、まだ動き続ける。

「くっそ、これでもダメか」

「いや、かなり効いてる、あともうひと押しだ!」

 アリシアは目に見えるほど弱っており、あと一回なのはのスターライトブレイカーを当てれば墜ちると容易に推測できる。

 その時だった。

 上空から落ちた強力な雷撃が、アリシアに直撃する。

「アアアアアアアアアアアアアアア、アアアアア、アア、ア、ァ…………」

 蓄積していたダメージが限界に達し、彼女とロストロギアが分離する。

 分離したロストロギアは砕け、海中に消えていく。

 同時に、アリシアも力を失い、落下し始める。

「おっと……」

 それを受け止めたのはクロノだった。

 彼はバリアジャケットも解除されたアリシアに魔力で編んだ即席のマントがかぶせる。

「それより今の雷って「フェイトちゃん!」」

 刃の言葉はなのはの声にかき消される。

 なのはの見上げる先に、目に強い意志を宿し、復活したフェイト・テスタロッサの姿があった。



side フェイト

 誰かが、戦う音が聞こえる。

 意識を取り戻した私は、少し首を動かして画面に映る彼女たちのことを見る。

 なのはがアリシアと戦っていた。

 シグルドさんがレイと戦っていた。

 いくらバインドが砕かれても、なのはたちはあきらめない。

 レイの圧倒的な力を目にしても、彼女は立ち向かう。

 彼女たちは自分と同じくらいの歳のはずだ。

 なのに私は何をしているのだろう?

 母さんが死んでいると知った時、とても悲しかった。

 自分が造られた偽物だと知った時、とても辛かった。

 私が、レイのことを何も知らないと分かった時、情けなく思った。

 いろいろな感情が私を押しつぶし、結果、私はここにいる。

 ――――――それで、いいの?――――――

 心のどこかで誰かの声がする。

 懐かしいけど、初めて聞く声。

 ――――――フェイトは、ここで諦めちゃうの?―――――――

 その声が、私に語りかける。

 母さんがもう笑ってくれないのは、確かに悲しい。

 自分が偽物なのは、確かに辛い。

 レイのことを何も知らなかったのは、本当に情けない。

 こんなに辛いのなら、感情なんて捨ててしまえばいい。

 だけど、それじゃあいけない。

 捨てればいいってわけじゃない。

 逃げればいいってわけじゃ、もっとない。

 母さんのことは、後でいっぱい泣けばいい。

 私のことは、これからゆっくり受け止めていけばいい。

 けど、レイのことは今行かなきゃ間に合わない!

 私は、側にあったバルディッシュを手に取り、展開する。

「ねえ、バルディッシュ……、私はまだ始まってもいなかったのかな?」

『Get Set!』

 バルディッシュが私を励ましてくれる。

「そうだよね、お前もこのまま終わるなんて、嫌だよね」

『Yes Sir』

 私は思わず泣きそうになる。

 けど、そんなのは後。

 今はレイを止めることが先。



 うまくできるかわからないけど、頑張ろう。

 まだ始まってもいない私を始めるために、今までの自分を終わらせよう。



 バリアジャケットをまとい、転移魔法を使う。

 その時、またあの声が聞こえた。

 ――――――頑張って!――――――

 私はその声に、こう返す。

「うん、ありがとう、姉さん」 
 

 
後書き
解説
「エターナルコフィン」
A'sでクロノが使った極大の凍結魔法。
刃がちゃんと使えればそれ以上の威力が出ますが、今回は威力だだ落ちです。

「ストラグルバインド」
拘束した相手の強化魔法を強制的に解除する効果がある。
しかし、アリシアには効果があまりなかった。 
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