銀色の魔法少女
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第二十話 復活 後編
side 遼
氷の盾を砕かれて、胸のあたりで嫌な音がする。
流石はロストロギアというべきか、アリシアの攻撃は予想を大幅に上回った。
ただの殴る蹴るにフザケた量の魔力が注ぎ込まれている。
私も盾を魔法で強化していたが、アリシアの前では全く足りなかった。
結果、私は盾を砕かれてアリシアの攻撃をその身に受ける。
右手のノートゥングは砕かれ、左手も盾を持ち続けたせいで多分どこかイカれてる。
(遼!?)
クリムの声が聞こえる。
彼女が防御魔法を発動しているが、おそらく間に合わない。
(まずったなぁ)
油断しているからこうなる、私は深く反省した。
アリシアが腕を引き抜き、もう一撃を加えようとする。
今からじゃ『鎧』の発動も間に合わないし、海中じゃ『炎』も使えない。
(ああ、嫌だなぁ)
痛みが限界に達し、意識を手放しかけたその時だった。
『シグルドさんはまだ戦ってる! 全部知ってたはずなのに諦めてない!』
その声が、私の意識を呼び戻す。
(ふふ、ふふふふふふ、……そんなこと言われたら、引き下がれないじゃない!)
私は全身に操作魔法をかける。
この前練習して、酷い副作用が出たアレだ。
これなら、アリシアの攻撃を全て防げる。
目の前には既にアリシアの右腕があった。
その腕は私の頭を砕くために、途方もない程の力がこもっている。
(私は、こんな所で死ねないのよ!)
瞬間、私の風景が灰色に染まる。
海も、光も、アリシアも、全てが灰色の世界。
全てが遅くなるその世界に、私はいた。
だが、今の私にそんなことなどどうでもよかった。
私はアリシアの右手を払い、左手で思いっきり殴りつける。
少し嫌な音がしたが、アリシアは吹き飛び、私から離れる。
(残り約四分、だけどそんなに戦ってらんない)
私は剣を収め、右手に魔力を集中させる。
これは虚刀流『鏡花水月』と私の凍結を合わせたミックス技。
普通なら殺してしまうけど、アリシアなら大丈夫だろう。
アリシアはその本能からか、技を出させまいと私に突撃してくる。
だけどもう遅い。
これは構えた時点で完成している。
(一撃必殺の、氷花水月!)
その一撃が、アリシアの胸のあたりにめり込む。
流石に左手ほどじゃなかったが、それでも少しばかり痛い。
だが、相手はそれ以上のはずだ。
アリシアが海面に向けて、凍りながら吹き飛ぶ。いくら兵器と言っても年下の少女の体ではあの技は受け止めきれない。
氷花水月は鏡花水月をぶつけると同時に全身を内と外から凍らせる殺人技。
考えついたはいいものの、使える相手が全くいなかった禁じ手だ。
ついでに私も空に上がる。
これ以上一人でアリシアの相手をするのが辛かったし、何やら嫌な気配も感じたからだ。
それに、なのはにお礼が言いたかったからね。
side ALL
「さあ、第二ラウンドといこうか」
遼がそう告げると、皆が戦う態勢に入る。
「なのはとクロノとバカはアリシアを頼む、正直なところ、あれは我では倒せん」
「うん!」「わかった」「おい! バカって誰のことだ!」
若干一名不満はあったが、それでも三人はアリシアに向き直る。
「ユーノとアルフは我のサポートを頼む」(クリムは引き続き治療お願い)
「あいよ!」「はい!」(全力でやります!)
しかし、アルフは疑問に思う。
『けど、レイのスキルは厄介だよ、バインドも触れた瞬間に消されちまうから役に立たないし』
『なに、アルフは隙を見て直接殴りつけてくれれば良い、ユーノは……、恥ずかしながら我の回復を手伝ってくれ、なのはにはああ言ったが、どうも骨が幾つか折れておるようじゃ』
『ちょっと! それを先に言ってください!』
ユーノは急いで遼に回復魔法をかける。
「は、俺がわざわざ全快するまで待ってると思うか!」
レイは遼に向けてエアを構える。
「させないよ!」
アルフがエアの柄を蹴飛ばす。
その結果、不完全に貯められた攻撃があらぬ方向へ放たれる。
「アルフ、お前も俺の邪魔をするのか?」
「……正直、あいつのことは嫌いだったさ、だけど、あんたはフェイトを傷つけた! これだけでぶちのめすには十分だよ!」
自分が殺されかけたことも忘れ、フェイトの為に戦うことを決めたアルフ。
そんなアルフをゴミのような目で見つめるレイ。
「仕方ない、じゃあアルフも消すことにするよ」
レイはエアを唸らせる。
刀身が高速で回転し、空気を歪め、必殺の一撃を放つ準備に入る。
その異様な光景に、アルフは目を奪われる。
「そう言えば、アルフたちには俺の本気をまだ見せてなかったかな、……じゃあ、目に焼き付けるといい、これが本気の天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)だ」
レイはエアを突き出す。
エアから解き放たれた高圧の風は断層を生み、全てを砕くために遼たちに襲いかかる。
「!? 二人共避けな!」
アルフは全力で射線上から退避する。
「小僧! つかまっておれ!」
「え、うぁあ!」
遼はユーノを抱え、全力で跳ぶ。
その直後、遼がいた場所に全てを砕く嵐が通りすぎる。
それは海に直撃するだけでは止まらず、海底を砕き、その水深を数十メートル深めてようやくおさまった。
「まったく、アレを喰らえば即死じゃな」
ユーノの腰に手を回して抱きかかえたまま、遼が呟く。
「あの、そろそろ離してもらえると――」
「だめじゃ、最低限骨がくっつくまでこのままでおれ」
ユーノが顔を真っ赤にしてうつむく。
遼に抱きつかれた時にユーノは気づいてしまった。
男性には決してない、成長途中の胸の膨らみに。
遼のバリアジャケットは全身黒でわかりづらいが、触ればちゃんと確認できてしまった。
こうして、ユーノは危機的状況の中、とても恥ずかしい思いを経験することになる。
後書き
解説
「乖離剣・エア」
製作者:リニス
ストレージデバイス 強度が高く、貫通力に優れている。
見た目はほとんど槍、というかドリル。
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