| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第39話 ゲームは一日一時間って言うけど、実際守ってる奴って居ないよね?

 夜のかぶき町を彩るのは、何も歓楽街だけじゃない。少し離れた場所には電気製品やキャラクターグッズを取り扱っている町がある。
 呼び名は様々あり、「秋葉原」とか「オタクの聖地」とか「萌え御殿」とかそう呼ばれている。
 だが、呼び名が一杯あると面倒なので此処はとりあえず秋葉原で固定させておく事にする。
 もし、別の呼び名があったとしても、其処は私は知りません。
 そんな秋葉原の一角で、大勢の人の列が並んでいるのが見える。見れば、そのどの人も明らかに「オタク」と呼べる人材ばかりである。
 丸眼鏡を掛けていたり、青髭を生やしていたり、キャラ物の服やグッズを身につけているとか、そう言う辺りのお決まりな服装を身につけているオタクが殆どである。
 そして、そのオタク達の並んでいる店は明らかなゲームショップを思わせる佇まいであった。
 そして、その店先には何本もの旗が立てられている。
 その旗には「本日発売! 弁天堂、3TS」と書かれている。
 そう、今日この日は、待ちに待った最新機種3TSの発売日なのである。
 え? 別に待ってないだって? 其処は突っ込まずに置いて下さい。江戸の常識はこちらの常識とは掛け離れた面があるのですから。
 良く見回していると、並んでいるのはオタクだけじゃない。そのオタクをリポートしているキャスターやカメラマン達も押し掛けている。
 そして、目に付いたオタク達に色々なリポートを行っているようだ。
 どうやら、今回の3TS発売は一種の目玉となっている様子だ。
 そんな訳でそのニュースを是非物にしようとニュース局が動いたのだろう。
 因みにリポートの内容としてはどれ位前から並んでいたか、と言うのが殆どだったりする。
 大概が「3時間前」とか「半日前」とか、と言うのが多かったりする。
 だが、中には「3年前」とか抜かす明らかに金を持ってなさそうな路上生活者も居れば、「娘の為に」とか言って前の客に迷い無く銃口を突きつけるおっさんも居れば、「ゲームになど興味はない。只ネットオークションで高値で売買する」とか抜かすおばんまでもが居る。
 そんな感じで様々な欲望が入り混じった長蛇の列が出来上がっているようである。
 そんな感じでリポートをとりあえず締めようと締めの一言を述べていた丁度正にそんな時の事であった。

「あのぉ……」
「え?」

 誰からがリポーターの裾を引っ張ってきた。見下ろしてみると、其処には一人の少女が居た。
 みすぼらしい格好に身を包み、小さなバスケットの中にはその中一杯にマッチが入れられている。
 服装がみすぼらしいだけに少女の顔にも生気と言うか、元気が感じられなかった。
 
「え? 何、この子……」
「マッチ、要りませんか?」

 少女がそう言い、バスケットの中にあったマッチを一箱手に取り、それをニュースキャスターに見せた。
 そのマッチと言うのが、明らかに何所かのスナックやキャバクラで貰えるような安いマッチであった。
 それを売ろうとしているのだから子供とは言え性質が悪い。

「あの、折角だけど、これは貰えないわ」
「そう、ですか―――」

 ニュースキャスターがマッチの受け取りを断ると、少女は更に元気を失くした顔をして肩を落としてしまった。
 たかがマッチだけで何故こんなに肩を落とすのだろうか。
 ニュースキャスターは少し気になった。仕事柄色々な事に首を突っ込んできた彼女だ。ことの詰まり、ニュースキャスターとは言ってしまえば覗き屋の一種とも言えると思われる。

「えっと、お嬢ちゃん……何で、そんな物を売ってるの?」
「知りたいんですか? お姉さん」

 さっきまで生気がない顔だったままで少女が見上げる。思わず生唾を飲み込むキャスター。
 その時、少女は動いた。

「それじゃ、マイク貸して貰えませんか? 後カメラも回して下さい。あ、ライトは右斜め45度でお願いしますね。そうした方が悲壮感出ますんで」
「え? 何この子。どんだけ図々しいの?」

 先ほどまでの生気の篭ってない声とは裏腹に、結構要求が図々しかったりしている。まぁ、事情を知りたいと言う思いもあるので仕方なく言われた通りにマイクを用意し、カメラを回し、ライトも要求通り右斜め45度から照らして悲壮感を露になるようにした。

「私の家族は、母、姉、父親の三人家族でした。ですが、母と姉が流行り病に係り呆気なく亡くなってしまいました。それから私の父は流行に乗ってDVに目覚めてしまい、そのせいで私は日々父の虐待に耐える毎日を送ってるんです」

 大粒の涙を流しながらさめざめと語る少女。照らされてるライトが更に悲壮感を煽り立てている。気がつけば、回りで並んでいた客達もそれに煽られて涙を流す始末であった。

「今もこうしている間に、私の父は飲んだ暮れの毎日を送り、酔っ払っては私を苛め続けるんです……こんな風に」

 そう言ってこれまた何所から持って来たのか今は古きブラウン管のテレビを其処に置き、リモコンで電源を入れる。
 電源が入る音と同時に映像が映し出される。
 其処に映っていたのは銀髪の父親と思われる人物とその人物に苛められている例の少女の姿が映っていた。

【てめぇクソガキ! 最近稼ぎが全然ねぇじゃねぇか! ちゃんと働いてんのかぁ? あぁ!?】
【御免なさい! でも、私みたいな子供を雇ってくれるところなんてないから、それでも私一生懸命働いてるんだよぉ】
【てめぇの言い分なんざどうでも良いんだよ! こちとらキャバクラの明海ちゃん落とす為に金要るんだよ! 分かったらさっさと其処に余ってるマッチ売り払って来い! 二束三文にはなるだろうが!】

 映像の中で父が部屋の隅に溜まっていた大量のマッチを指差す。そのどれもがスナックやキャバクラで貰えるような安っぽいマッチばかりであった。

【そんなぁ、こんなの絶対に売れないよぉ】
【じゃかぁしぃ! とにかく売って来い! 売れるまで家には絶対に入れないからなぁ!】

 大量のマッチと共に少女を家の外へと蹴り出すDVな父。少女は涙を強引に拭いながらも散らばったマッチを拾い集め、そして一人、夜の町へとマッチを売りに歩くのであった。
 そして、それを最期に映像は終わり、テレビの電源も消え去る。
 用が済むとそのブラウン管テレビを少女は蹴り倒す。蹴られたブラウン管は地面に倒れこみ、黒い煙を上げてその命を散らす。

「以上が、私がこうしてマッチを打っている経緯だったんです」
「そ、そうだったんですね。その幼さでそんな苦労をしてたなんて……」

 影響されてかキャスターもまた涙を流していた。何時の間にかお涙頂戴な展開にスイッチしていた。

「このマッチを売らないと、私は家に帰る事が出来ないんです。そしたら、此処に人がいっぱい居て、もしかしたら売れるかなって思って……」

 再び悲壮感を漂わせる少女。その少女の雰囲気に影響されてしまう客が更に数を増して行く。
 そんな中、少女はその場に蹲りだす。

「はぁ、疲れた……それにお腹も空いたし……でも、一箱も売れてないから帰れない」

 仕舞いには其処で泣き崩れてしまう。空腹と疲労でもう一歩も歩く事もできなくなってしまったようだ。
 そんな少女を見て回りもどよめきだす。

「夜は寒いなぁ……そうだ、マッチで温まろう」

 少女はそう言い、売り物のマッチを一本付けてみた。小さな火が灯り少女の体を温めてくれた。
 するとどうたろうか。小さな火の向こうには温かな電気ストーブが姿を現したのだ。
 そのストーブが見えているのは不思議と少女だけじゃない。何故か回りに居るオタク達は勿論、目の前に居るキャスターにもそれが見えていたのだ。
 だが、マッチの寿命は短い物。すぐに消えてしまい、また電気ストーブもその姿を消してしまった。
 少女は名残惜しさを感じたのかもう一本マッチを擦った。するとどうだろうか。
 今度は温かそうに湯気を上げている鍋が見えた。具材から見てすきやきの類だろう。
 鍋を彩るは豆腐、ネギ、白滝、人参、きのこ、そして肉。
 それらがとても美味しそうに鍋を彩っているのが見えた。不思議とそれを見ていたオタク達も涎を垂らしてしまう。が、やはりマッチが消えてしまえば鍋もまた姿を消してしまった。

「な、何だろう……凄い、せつねぇ」
「お、俺……何だか涙が止まらなくなっちまったよぉ」

 回りではあちこちで涙を流しまくるオタク達が続出している。何時しか少女の回りでオタク達が涙を堪えている映像が映し出されていた。
 そして、報道していたキャスターは勿論、カメラマンもマイク担当もライト担当も皆揃って大粒の涙を流し捲くっている。

「そうだ、死んだお母さんやお姉ちゃんに会えるかなぁ?」

 そう思い、少女は一度に大量のマッチを擦った。するとどうだろうか。光は大きくなり、その光の中で優しそうに微笑む眼鏡を掛けた母親とオレンジ色の髪に青い瞳をした姉が手を振っているのが見えた。
 少女の顔がパッと明るくなり、手を振る二人の元へとフラフラと歩み寄っていく。
 あそこに行けば大好きな母や姉に会える。もう辛い思いをする必要はない。
 すると、不思議と少女の足は止まる事がなかった。

「まてまてまてええええええええええ!」

 だが、それを突如回りに居たオタク達が止めに入る。この手の結末を知っているからだ。
 恐らく、このまま行かせれば少女は息絶え、路上で悲しき骸となる。
 そんな事をさせる訳にはいかない。オタク達の優しき炎が燃え上がったのだ。

「お嬢ちゃん、そのマッチ、俺が買おう!」
「俺も買おう!」

 何時しか、回りに居るオタク達が全員マッチを買うと豪語しだしたのだ。

 俺、10箱売ってくれ! 拙者は20箱! 俺なんて全財産使って買ってやる! 持ってるマッチ全部売ってくれ!

 等など、オタク達の勇気有る行動に少女は口元を手で覆い、一筋の涙を流して喜んでいた。

「うぅ、嬉しい……江戸の人たちって皆優しいんだなぁ」

 喜んでくれている少女にオタク達も皆安堵の表情を浮かべている。俺達は良い事をしたんだ。俺達は間違ってない。
 誰もがそう思っていた。

「それじゃ、皆さんには是非購入して頂きましょう」

 ―――え?
 突然の事だった。さっきまで死にそうな声を出していた筈の少女が突然元気になり、しかもさっきまで涙を流していた目元は銭マークで輝いている。

「はい、退いた退いたアルよ~~」
「は~~い、マッチで~~す」
「おらおらぁ、さっさと買えやてめぇら」

 後方から三人の声が響く。見ればそれは先ほどの回想シーンで出てきたDVな父親であった。それに確かマッチを擦った際に出てきた死んだ筈の母や姉も姿を現している。
 良く見たら、父親は銀時であり、母は新八、そして姉は神楽が変装していた姿であった。

「おう、なのは。上手く行ったか?」
「もうバッチリ! 此処の人たち皆買うってさ」

 少女は突如立ち上がり、身に纏っていた薄汚い服装を取り払った。其処から現れたのはなのはだった。
 オタク達は一斉に青ざめていくのが見えた。
 そう、オタク達は騙されたのだ。物凄く見え透いた詐欺紛いの方法に。

「うっし、そんじゃ回りに居るてめぇら。さっさとマッチ買えやゴラァ!」
「はいは~い、一人最低10箱まで購入して貰いますよぉ~」
「マッチ一箱4千円アルよぉ~」

 ぼったくりであった。一箱4千円。それを10箱買えと言う事は、即ち一人必ず4万円は損失すると言う事になる。
 しかも、そのマッチの全てがスナックやキャバクラで貰えるような100円位しかしない程度のマッチでしかない。

「あ、でもお父さん。さっきの中に20箱買ってくれる人とか全財産で買ってくれる人とか居たよ」
「マジでか? おぉおぉ、豪儀なオタクも居たもんだぜ。そんじゃそのオタクにはお望みどおり全財産ブッ込んで貰うとすっかぁ」

 オタク達の目元が真っ暗になっていた。そして、勿論キャスターや報道関連の人たちも皆、目元を真っ暗にしてその光景を見ていた。
 目の前でカメラに収められている光景。それはオタク達に無理やりマッチを買わせて、法外な金額をぼったくる極悪一家の光景であった。
 その際、オタク達は誰もが心の中でこう叫んでいたと言う。

”ぼ、ぼられた……”と。




     ***




 遥か後方で真っ白になり倒れているオタク達。しかしそんなオタク達など俄然無視して銀時達は列に入り込んでいた。

「いやぁ、大儲けしましたねぇ」
「だから俺の言った通りだろ? オタクってのはガキや幼女が大好きなんだよ。其処へ付け込みゃたちどころに大儲けよ」

 札束を数えながら銀時が自慢げに答える。どうやら今回の詐欺を考えたのは銀時のようだ。相変わらずえげつない事を思いつく父親である。

「キャッホォイ! これで酢昆布買い捲れるネェ! 毎日鮭茶漬け食えるアルゥ!」
「うんうん、それにこれで3TSも買えるしねぇ」

 実行犯であるなのはも今回の詐欺に一切悪びれる様子もなくとても嬉しそうだ。
 すっかり逞しく成長したようで微笑ましい光景と言える。

「でも、この調子だとそう簡単に手に入れられそうにないですねぇ」
「おいおい、折角大金稼いだってのにこれじゃ時間の無駄じゃねぇのか? これならさっさとキャバクラとか行った方が時間を有意義に使えるんじゃねぇの?」
「え~~、私あれずっと前から予約してたんだよぉ! 絶対に買うまで動かないからねぇ」

 どうやらなのはが3TSを欲しいが為に並んでいたらしい。だが、銀時は余りゲームに興味はないらしく、折角大金稼いだのだから、その大金を手にギャンブルをするとかキャバクラで豪遊したい。と言う欲求があったようだ。

「面倒臭ぇなぁ。今度はどうやって前に食い込むかなぁ?」
「マッチ売りの少女はもうやっちゃいましたからねぇ。それじゃ今度はフランダースの犬とかどうですか?」

 新八自身もすっかり頭脳犯に成り果てていた。お前等侍の意地とか誇りは何所行った?
 等とツッコミを入れたくなる光景だったりする。すると、遥か前の辺りでオタク達がざわめいているのが聞こえる。
 只ならぬざわめきであった。一体何があったのだろうか。
 興味本位と、ついでに横入りする為に四人はそのざわめきの中へと入り込む。
 其処にはこれまた悲壮感に支配された光景が見られた。
 其処は、恐らく何所かの教会だとか画家展の様にも見える。そして、一枚の大きな絵の前で一人の少女と一匹の犬が横たわっていた。

「ザフィーラ。ようやく私等此処まで来たんやでぇ。でも、もうあかんわ。私、何だか眠ぅなってきたわ」

 言葉遣いから分かると思うが、少女と言うのははやてであり、無論犬と言うのは名前が出たがザフィーラの事だ。
 そして、これまたお涙頂戴な名場面を再現しているようでもある。

「ザフィーラ。私なんだか、凄い眠いんや……眠っても良いかなぁ?」

 そう言い、はやてとザフィーラは静かに横になる。すると、温かな光が降り注ぎ、天空から美しい天使達が舞い降りてきた。
 その天使達がそっとはやてとザフィーラを担ぎ上げて天空へと連れて行こうとする。

「まてまてええええええええええ!」

 当然そんな場面を見せられてはオタク達も黙っては居られない。即座に待ったを掛けた。

「待ってくれ! 俺達に出来る事があるなら何でもする! だから諦めるな! 死んじゃ駄目だああああああ!」

 その言葉を皮切りにオタク達が豪語する。その言葉を聞き、はやてはそっと目を開ける。

「ほんまかぁ? それじゃ、前の人限定で列を譲ってくれたら、私また歩けそうなんやけど」
「あぁ譲る譲る! だから諦めたら駄目だよお嬢ちゃん!」
「ほな、有り難く前行かせて貰うわ」

 これまた、途端に元気になったはやてとザフィーラが何の迷いもなく前の列へと歩いて行く。その光景を見てオタク達は自分達が良い事をしたなと誇らしげな顔をして満ち足りた思いをしていた。
 だが、オタク達は気付かなかった。その騒ぎに乗じて銀時達もまた横入りした事に。




     ***



「なっはっはっ! ちょろいもんやで! 所詮オタクなんて部屋中ティッシュまみれのロリコンの溜り場みたいなもんや!」
「流石ははやてだな。ちょろっと演技しただけで回りのオタク達コロッと騙されててたしさぁ」

 作戦が上手く行きご満悦なはやてと天使A役だったヴィータ。どうやらはやてと守護騎士達全員で行った一世一代の演技だったようだ。
 そして、その演技に見事にオタク達は騙されたようである。

「にしてもザフィーラ達もよぅ頑張ったでぇ。あぁ言うのを迫真の演技って言うんやろうなぁ」
「お、お褒めの言葉を頂き……光栄です」

 言葉では喜びの意思を見せてはいるが、ザフィーラ、それに天使B役のシグナムや天使C役のシャマルは揃って顔面蒼白な顔をしていた。

「ねぇ、これって明らかに犯罪じゃないの?」
「し、仕方あるまい。主がやろうと言ったのだから、我等は主の命に従うのが定めなのだから」
「だが、その為に我等が犯罪を犯しても良いのだろうか?」

 どうやら、この三人は一応常識を持っているらしく。今回の演技に一抹の不安を持っていたようだ。
 まぁ、今までであれば主の命令であれば何の迷いもなく実行しただろう。だが、今の彼女等は言ってしまえば江戸の法を守る武装警察真選組の一応一員として動いている。
 まぁ、一員と言っても臨時隊士としての役柄なのであり、言ってしまえば本隊の中に組み込まれている控えメンバーと言った役柄だ。
 まぁ、彼女等が加入してくれたお陰で真選組の隊士達の士気が飛躍的に上昇したと言う事実があるのも明白なのだが。

「おうおう、天下の守護騎士様が横入りたぁ、世も末だねぇ」

 後ろから銀時の声がした。その途端三人は一斉に飛び上がり無様に地面に倒れこむ。
 
「き、ききき、貴様銀時! 何時から後ろに居た!」
「お前等がフランダースの演技している間ずっと」

 つまり、一部始終を見られたと言う事になる。

「それにしても、まさかシグナムさん達まで買いに来てたなんて。しかも僕達と同じように横入りする為にあんな手の込んだ芝居を」
「し、仕方あるまい。まさかこんな大通りで刀を振るう訳にはいかんだろう?」

 シグナムなりの言い訳をしてみたが、やはりぎこちなさが目立つ。刀を振る事しかしてなかったが為にこう言った類の事は苦手な様子だ。

「ま、どうでも良いや。此処で会ったのも何かの縁だろう。とりあえず俺達に前譲れや」
「ふざけるな。此処は我等が身命を賭して手に入れた位置だ。おいそれと貴様等に明け渡すつもりなどない!」
「猿芝居で手に入れたの間違いだろ? 良いからとっとと前譲れ。俺としちゃとっととガキの玩具を買ってそのままの足でキャバクラ行きてぇんだからよぉ」

 忽ちシグナムと銀時で睨み会いが勃発した。どうやらこの二人、相当仲が悪いように思える。

「あり? なのはちゃんも3TS買いに来たん?」
「勿論! そう言うはやてちゃんも」

 こちらはこちらで仲が良いのだが、しかしこの二人、会ってまだ間もないと言うのに何故こうも気が合うのだろうか?
 甚だ疑問だったりする。

「それにしても、そちらも何だか大変そうですねぇ」
「えぇ、でも真選組の人達には色々とお世話になってるから、生活に関しては不便はしてませんよ」
「それを聞いて安心しましたよ」

 こちらでは新八とシャマルで苦労人なりの会話をしていたりする。
 お互い苦労しているようだ。

「ザッフィー、お前なんで犬の姿アルかぁ?」
「この方が色々と都合が良いらしくてな。それに今回の芝居にはどうしても犬が必要と言うのでこうして犬の姿をしているのだ」

 神楽の問いに淡々とザフィーラは答えた。まぁ、ザフィーラの外見は犬と言うよりは大型犬、もしくは狼と取った方が妥当なのだが。

「おい、何か前が騒々しいぞ」

 そんな中、ヴィータは自分達よりも前でこれまた騒がしい人だかりが出来ているのを発見する。
 もしかして、また誰かがお涙頂戴の芝居を売って横入りしようと企んでいるのではないだろうか。
 期待と不安を胸に一同が横入りも兼ねてその輪の中へと入る。

「ねぇねぇ、お婆ちゃん。お婆ちゃんのお口は何でそんなに大きいのぉ?」
「あ~、それはですねぃ。お前を一口で食っちまう為でさぁねぃ」
「いやあああああああ! 狼ぃぃぃぃぃ! 助けてポリィィィィス!」

 其処で展開されていたのは今までのお涙頂戴なシーンとは掛け離れた酷い場面であった。
 話的には赤ずきんちゃんをやってるようだが、肝心の赤ずきんを近藤が演じており、そして狼役を何故か沖田が熱演しているようでもある。
 当然そんなクオリティの低い演技にオタク達は感銘など受ける筈もなく、誰もが集まったは良いがどうリアクションしようか困り果てている場面だったりした。

「何やってんだてめぇはぁぁ!」
「貴様それでも警察かぁぁぁ!」

 そんな近藤に向かい銀時とシグナムのダブルキックが炸裂する。それを食らい「ごふぅっ!」と声を挙げて倒れ込む近藤頭巾。

「いたた……む、其処に居るのはシグナム殿達に万事屋! お前等一体何しに来たんだ?」
「その台詞をそっくりそのままバットで打ち返してやるよ。てめぇらこそこんなとこでそんなクオリティの低い芝居やって何してんだよ?」

 流石にあのクオリティの低い赤ずきんを見せられたせいか結構苛立っているらしい。あちこちに青筋を浮かべながら銀時が問いただしてきた。

「なぁに、単に横入りする為に一芝居打ってるだけでさぁ」
「総梧ぉぉぉ! 其処はもう少しソフトに言おうよ! 何か言い方ってのがある筈でしょ?」
「生憎ですが近藤さん。俺としちゃそんな回りくどい言い方は御免でさぁ」

 所詮は沖田であった。

「芝居云々は良いとして。何でてめぇが赤ずきんやってんだよ! てめぇじゃ赤ずきんじゃねぇよ。ゴリラずきんだよ! 寧ろてめぇが狼食う側じゃねぇか!」
「しょうがないでさぁ。何せ近藤さんは幼少の頃演劇で花形とも言われている【やられ役A】を熱演した程の演技派ですからねぃ」
「演技派でも何でもねぇよ! ってかやられ役Aってなんだよ! 殆ど使い捨てキャラじゃねぇか!」

 そんな感じで騒がしく楽しそうにしている。すると、遥か前の列から誰かが歩み寄ってきた。その顔を見るに、それが誰なのか一瞬で判断できた。と言うか、この場所では出来る事なら会いたくなかった人物だ。

「んだお前等。揃いも揃ってこんな所で」
「ひ、土方!」

 騎士達の顔が固まる。よりにもよってこんな所で一番会いたくない人物に会う羽目になってしまったようだ。

「あれあれぇ、何だってまたこんな所にいんだよ」
「そりゃこっちの台詞だ。こちとら近藤さんに言われて仕方なく来たってのによりによって何でまたてめぇと出くわさにゃならねぇんだよ!」

 土方としては折角の休日にわざわざゲームを買いに長蛇の列に入るだけでも大変なのに、その上で一番鉢合わせしたくない人間と出会う羽目になったのだからこれは不機嫌にならざるを得なかったりする。
 無論、それは銀時もまた同じであった。銀時にしては毎日が休日みたいな物なのだが。
 しかし娘であるなのはに頼まれて仕方なく買い物に繰り出した次第である。
 が、こんな長蛇の列を律儀に並んで買うと言うのは正直言って面倒臭い。
 そう言う訳で先ほどの横入りの戦法を用いた、と言う訳である。

「大体江戸の平和を守ってる警察官が揃ってゲーム買いに並ぶってどうよ?」
「俺だって好きで並んでる訳じゃねぇんだよ。只近藤さんに頼まれて仕方なくこうして並んでるだけだよ」

 土方がそういった。その真相を聞きだしたいかの様に皆の視線が一斉に近藤へと向けられる。
 近藤にはその視線の痛さなど微塵も感じている様子がない。
 近藤自身が空気を読まない体質なのか、それとも単に読めないだけなのかは甚だ疑問である。

「ま、どうせあのゴリラの事だろうからお妙絡みのこったろう?」

 銀時の読みは正しかった。その証拠に近藤が冷や汗を流し明後日の方向を向いて口笛を吹く真似をしている。
 何故真似かと言うと、実際に口笛を吹こうとはしているものの口からは一切音声が発せられてないからだ。
 
「べ、別に何だって良いじゃないか坂田君。皆ゲームを買う理由は人それぞれって言うだろう?」
「少なくともお前みたいな薄汚い理由でゲームを買う人間はそうそう居ないと思うんだが」
「う……」

 言葉に詰まってしまった。銀時の言葉に正論を感じてしまったのだろう。
 そうこうしていると、店先のシャッターが開かれる。どうやら発売時間になったのだろう。
 それと同時に順番などガン無視して店の中へと雪崩れ込んでいく万事屋と真選組。
 とっとと3TSを手に入れて帰って休みたいのだろう。その為に社会のルールを無視する事が果たしてやって良い事かどうかは甚だ疑問なのだが。
 だが、店の中になだれ込んだ銀時達の前に、本来ある筈の弁天堂3TSの姿が、1台も見当たらなかったのだ。
 それっぽい包装紙も見当たらないし、本体も見当たらない。

「おいおい、こりゃ一体どうなってんだよ?」

 一体、3TSは何所へ消えてしまったのか?
 そして、彼等は無事に3TSを手に入れられるのだろうか?




     つづく 
 

 
後書き
次回【欲しい物は意地でも手に入れろ!】お楽しみに 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧