駄目親父としっかり娘の珍道中
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第40話 欲しい物は意地でも手に入れろ!
「どうなってんだぁ、こりゃ?」
開店と同時に店内に飛び込んだ銀時達は我が目を疑う光景を目の当たりにしていた。
本来なら、入店と同時にその目に飛び込んでくる筈だった目的の品物が影も形も見当たらないのである。
本日発売する筈だった弁天堂の最新機種。その名も【3TS】。
以前発売していたTSのパワーアップ版なだけでなく、画面が3D対応となっていると言う正に次世代な機種であった。
これを手に入れただけで「やべ、アイツ流行に乗ってやがるぜ!」とか言われて世間からチヤホヤされる事間違い無し。
と思ってる其処の貴方。別にそんな事はなかったりするのであしからず。
何はともあれ、ない物はない。この事実は覆す事の出来ない揺ぎ無い事実でもあった。
「どう言う事だぁこりゃ? 旗まで立てておきながら品物がないってんじゃ話にならねぇだろうが!」
早速土方が怒りを露にしだしている。それもそうだ。
本人は別にゲームを買いに来た訳じゃない。近藤の命令で渋々付いてきただけなのだから。
無論、同じ名目の者達も次々に怒りを露にしだしたのは火を見るよりも明らかな事であった。
”ふざけんじゃねぇよゴラァ! ゲーム買わせろコノヤロー! 詐欺だ、詐欺だぞぉこれって! おい、誰かザラキ使える奴いねぇか、此処の店員全員にザラキかけろ! ってか、何でドラクエネタ? あれだろ、詐欺とザラキをかけたしょうもない洒落だろ!”
ヤイノヤイノ。ギャーギャー。
そんな感じで一番に飛び込んできた万事屋ご一行、並びに真選組、そして守護騎士達の怒り心頭の声を火種とするかの様に、次々と並んでいたオタク達も店の低たらくに怒りをぶつけ始める。
忽ち辺りではぶつけようのない怒りをぶつけ合うかの様に暴動が起こり始めてしまった。
あちこちでは殴る蹴るの暴虐な光景から、プロレス技の劣化版じみたドロドロの取っ組み合いを行うオタク達も居れば、「お前の顔って不細工だよなぁ」とか「お前こそその丸めがねとか似合ってねぇよ馬鹿!」と言った具合で互いの不細工な顔を罵りあうと言う見てて痛々しい喧嘩がそこら中で勃発しだしていた。
このままだと暴動騒ぎに発展しかねない。と、言うか既に発展してるのだが。
とにかく、これ以上騒ぎが拡大すると店に多大な被害が被るのは明白な事であった。
「お客様方、ご静粛にお願いします!」
そんな時、店員と思わしき男性が大声で叫ぶ。その声を聞き、回りは一瞬静まり返る。そして、一斉に冷たく痛々しい視線がその店員に向けられてきた。
その視線を一斉に浴びながらも、店員は顔色一つ変える事はなかった。
この店に勤めてる以上客のクレームなどは慣れっこの筈だ。
だが、今回のはそれの度を超えている代物だ。
それだとしても、その店員は涼やかな顔でオタク達の前に歩み寄った。
「本日はわざわざ当店までお越し頂き誠に恐縮で御座います。本来でしたら先着100名様に弁天堂最新機種3TSをご提供出来る筈だったのですが、運搬中の事故によりおよそ99台が破損してしまい、お売り出来るのはこのたった1台だけとなってしまいました」
そう言って、店員が羽織っていた羽織りの奥から取り出したのは、新品ピカピカの3TSだった。
その輝かしい光沢ボディを目の当たりにしたオタク達の目もまた輝く。
店内のライトの光を浴びて燦然と輝くシルバーライトのボディカラー。表面に思い切り【3TS】と書かれた贅沢なボディ。そしてコンパクトなサイズ。ect……
とにかく、現在この店にあるのは今店員が持っている1台だけと言う事になってるらしい。
だが、店内には無数の客達がそれを求めて押し掛けているのだ。
当然、誰もがそれを欲しがっているのは明白な事だ。さて、どうすると言うのか?
「其処で、今回は集まって貰ったお客様方達にご満足頂けるように、当店がご用意致しましたゲームで競って貰います」
「ゲームだぁ?」
店員の言葉に早速異議を唱え出す銀時。彼自身余りゲームはやらない方だ。やるとしたらパチンコ位なもんである。しかも最近負けっぱなし。
新八も基本やらない方だし、神楽やなのはは外で遊ぶのが好きなアウトドア派である。
真選組と言えば、聞いた話によれば近藤、土方、沖田の三名はそれなりのゲーマーだと聞こえているし、はやても元居た世界ではそれなりにゲームをしていたと聞く。
唯一守護騎士達はゲームの経験は皆無と言う点を除けば若干真選組に軍配がある。
「詳しい話は店長がお話してくれます」
一旦話を区切り、店員は店の奥へと下がり姿を消す。それと入れ替わりに出てきたのは、何所と無くアメリカンか、はたまたアメリカ~ンな色合いのハット坊とスーツを着こなし、ジェントルマンな髭を生やした中年のオッサンが姿を現す。
明らかに服と顔がミスマッチなのは言わないで置くのが人としての優しさと言えるのかは各々の判断にお任せする。
「私が当店の店長です。今回は運送中の事故の為にお売り出来る筈だった3TSがたったの1台しかお売りできなくなってしまった事大変申し訳なく思っております。其処で、今回当店は買う事が出来なかった人達もご満足して帰って頂けるよう配慮致しました。それが今回のゲームと言う事になります」
長々と店長は事情を説明した。要するにゲームが売れない変わりにちょっとした余興をするから許してねぇん♪。と言ってるような物である。
本来だったら即座に怒りを露にするオタク達なのだが、何せ今回は事故と言う不足の事態だったので怒るに怒れない。
なので仕方なく店長の話に乗る事となった。
そして、それは銀時達も同じ事でもあった。
「おいおい、どうすんだよ。ゲームっつったって俺あんまやった事ねぇぞ」
「僕もあんまりゲームはやりませんね。それに、神楽ちゃんやなのはちゃんは外遊びが主だから当然ゲームを触れる機会は殆ど無いみたいな物だし」
苦い顔をし合う万事屋ご一行。事実万事屋にはゲーム機など一切置いてない。
銀時曰く「あんなのは一銭も役に立たない金食い虫だ!」とか言って買わなかったようだ。まぁ、銀時の場合パチンコとかキャバクラに大金を叩いてしまうのだが。
「ふっふっふ、どうやら勝負有ったようだなぁ、万事屋諸君」
そんなご一行の元へ不適な笑みを浮かべながら近藤が近づいてきた。明らかに勝ち誇った顔をしている。
「んだぁゴリラ?」
「生憎、俺やトシ、そして総梧はそれなりにゲームをプレイしている。クリアしたゲームも数知れずだ。そして、家に住んでいるはやてちゃんもまた、かなりのゲーム通だとの事。俺達がタッグを組んだ以上。貴様等に勝ち目は皆無と言う訳よ。悪いなぁ、3TSは俺達が頂きだぜ」
憎らしそうに大声で近藤は笑い飛ばした。余りの憎らしさに覆わず殴り飛ばそうかと思った新八だったが、止める事にした。
そんなの大人気ないからだ。
「ざけんじゃねぇぞこのクソゴリラがぁぁぁ!」
が、それは新八だけの話だ。銀時、神楽、そしてなのはの三名は恥とか世間体とかそんなの一切気にする事なく憎たらしく笑った近藤に対し無慈悲なジャンピングハイキックを決めた。
それも三人同時な為威力も3倍増しの2割引だ。
諸にそれを食らい、地面に倒れこんだ近藤に対し、今度は三人一斉に全く容赦のないストンピングの嵐が吹き荒んだ。
”生意気言ってんじゃねぇよこの腐れゴリラ! ゲームする暇あったら仕事しやがれこの暇人がぁぁ! それでも警察なの?警察なのあんたら? その髭毟り取ってけつ毛も綺麗に剃りとってやろうかゴラァ! ってか、マジで剃っちまうかその顎鬚? 寧ろ髭よりもその髪の毛バッサリ切って丸坊主にしたらぁ!”
「ちょっ、止めて! お願い、それされたら俺一休さんになっちゃうから! とんちとか出来ないから! だからお願いって、ぐわぁぁ……あふぅ」
哀れ、近藤は散々踏み荒らされた挙句偶々その辺にあったバリカンで綺麗にモヒカンヘアーへと刈り上げられてしまった。
「あ~らら、こりゃ見事なモヒカンヘアーですねぃ近藤さん」
「てめぇら、近藤さんになんて事しやがるんだ!」
人ごみの中を掻き分けてようやく近藤と合流出来た沖田と土方が目にしたのと言えば、白目にうっすらと涙を浮かべて気を失っているモヒカンヘアーの近藤の姿であった。
不思議と、その顔は何所か笑みを浮かべてるようで浮かべてなかったりする。そんな感じの顔をしていたのであった。
「てめぇら、警官侮辱罪で今すぐ務所にぶち込んだろうかぁ?」
「上等じゃねぇか。てめぇらこそ職務放棄で務所にぶちこまれろやゴラァ!」
出てきた店長そっちのけで早速バトルをおっぱじめようとしている銀時と土方。このままだとまた乱闘が勃発しかねないので早急になんとかして貰いたい。
「あ~、騒ぎたいのは山々だが、とにかくルールを説明するので聞いて欲しい。まず第1回戦だが、この第1回戦で此処に居る大勢の客の中から約10名を選出させて貰う事にする」
「た、たったの10人!?」
とんでもない話だった。今此処に居るオタク達だけでも結構な数が居る。それこそ下手したら100人や200人じゃ下らないかも知れない。
そんな大勢の中からたったの10人を搾り出すと言うのだからこれは相当大変な事になった。
恐らく、此処に居るオタク達は皆ゲームに精通した面々だ。そのオタク達を出し抜き、たった10席しかない上位の枠に食い入るのは相当な難易度とも言えた。
「それでは、早速始めます。第1回戦は○×クイズです!」
新八達の心配など露ほども気にする様子を見せず、店長は早速第1回戦を始めだした。まずは定番と言える○×クイズである。
「今から私が問題を読み上げます。その問題が○か×か判断し、足元に用意されている枠に移動して下さい。制限時間内に移動出来なかった者や、不正解者は即脱落となります」
やはり定番っちゃぁ定番であった。まぁ、話の都合上とっとと切り上げてしまいたいと言う作者の思惑が出まくっているがそんな事を一々気にしている暇はなさそうなのでさっさと行ってしまおう。
「それでは、まず第1問!」
ペーパーを片手に店長が問題を言い出し始める。回りのオタク達も固唾を飲み始める。どんな問題が来るのか?
そして、どんなゲームの話題が飛び出すのか?
一同の顔に緊張の色が走った。
「料理の【さ、し、す、せ、そ】の略称は【砂糖、塩、酢、醤油、そば粉】である。○か×か?」
………は?
一同の緊張の顔が一瞬にして崩れた。どんな問題が飛び出すかと思えば全くゲームと関係ない話題であった。
当然、回りに居たオタク達は勿論銀時達や近藤達も唖然としだす。
そんな中、無情にもカウントダウンは始まった。制限時間はたったの10秒である。
その間、オタク達は混乱した思考を必死に立て直しつつ、言われた問題の合否を必死に模索していた。
「はい、其処まで!」
無情、無慈悲。そんな言葉が似合う店長の怒号が響いた。会場では綺麗に半分に観客達が分かれている。
そして、店長が答えを述べ始めた。
「正解は………×です! ○の上に居た人達には残念ながら3TS購入権は与えられません。またの機会にお越し下さい!」
あぁ、世知辛いかなこの世は。
無情極まる問題の為におよそ半分のオタク達が削れ落ちてしまった。
まぁ、常識と言えば常識なのだが。
「やれやれ、どんな問題か来るかと思えば大した問題じゃありやせんでしたねぃ」
「まったくだ。こんなもん常識問題じゃねぇか。こんな問題で間違える奴の頭がどうなってんのか見てみたいもんだぜ」
×の上に立っている土方と沖田の二人が余裕綽綽と言った表情で呟いていた。
二人はどうやらこの戦いを何とか切り抜けたのであろう。
「あり? ところで近藤さんは?」
「は? 居ねぇのか?」
てっきり一緒に居るだろうと思っていた近藤が居ない事に土方も気付いた。
急いで辺りを見回すと、案外すぐ其処に居た。
「………」
「こ、近藤さん」
近藤勲は呆然と立ち尽くしていた。その目に生気は宿っておらず、まるでこの世の終わりを目の当たりにしているかの様な目をしていた。
○が描かれた床の上で。
「トシ、総梧………俺は一体何処で間違えたんだ?」
フラリとした足取りで近藤が近づいてきた。まるで何所かの生物災害で誕生したゾンビを思わせる足取りである。かなり気持ち悪かった。
「やっほぉ、三人共正解やったろ?」
そんな三人に向かいはやてと守護騎士達が歩み寄ってきた。どうやらこの5人は無事に乗り切ったらしい。
「それが、近藤さんが脱落した」
「え? マジでぇ!?」
土方にそれを聞き、はやては驚愕した。そのままの表情ではやては近藤を見上げる。
「なぁ、はやてちゃん。料理のさしすせそで、俺は何所を間違えたんだ?」
「ゴリ兄ちゃん。さしすせそってのは、【砂糖、塩、酢、醤油、味噌】やで。そば粉やあらへんよ」
「そ、そうだったの!?」
激しくカルチャーショックを受ける我等が近藤勲。まぁ、どっち道不正解なんだから当然近藤には3TS購入権は与えられないのであり。
「な、なんてこった………折角お妙さんに3TSを買って来てって頼まれたのに。これじゃ、俺はお妙さんとの約束を果たせないじゃねぇか!」
「どうせ貴様のことだから頼まれた、と言うよりは脅迫されたの方が正しいのではないか?」
無情なシグナムの言い分であった。
「さてさて、まさか第1問で此処まで脱落するとは私も予想外でした。それでは、気を取り直して第2問へと行きます!」
敗れた者に与える慈悲など不要。そんな事を地で行くかの様に店長は早速第2問へと移行し始めた。
「第2問! 鰻を捌く向きは江戸では腹から開く。○か×か?」
またしてもゲームとは全く関係ない問題であった。しかも、今回は更に難しい内容であった。
回りでオタク達が必死に試行錯誤している。
っと言うか、こいつらに鰻とか分かるのか甚だ疑問ではあるが。
そして、今回もまた10秒の時間は無情にも過ぎてしまった。
第1問で総勢の半数が脱落してしまった上に、今回はかなり人数が分かれてしまっていた。
そして、正解が告げられる。
「正解は………×です! おぉっと、何と×の床に丁度10名が集まっています!」
店長の言う通り、×床の上には丁度店長が言っていた10人が集まっていたのだ。
其処に集まっていた面々は、【銀時、新八、神楽、なのは、はやて、土方、沖田、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル】の10名であった。
「シグナム………」
「………」
他の騎士達が見る中で、シグナム只一人が○の上に立っていた。そして、顔を真っ赤にして他の騎士達から目を背けていた。
無論、土方や沖田からも。
「何故だ! 何故○じゃないんだ!」
「当然だろうが! 侍が腹から捌いた鰻を食える訳ねぇだろ!」
侍は以外と小心者と言うか、語呂合わせを好むと言うか、とにかく常に死と隣り合わせな場面が多いので、そう言った縁起の悪いのは好まない傾向がある。
特に、鰻を腹から開くのは【切腹】を連想させるので余り好まれてなく、江戸では大抵鰻は腹からではなく背中から開かれるのが通である。
まぁ、鰻は大体背中から捌いた方が若干簡単なのだが。
「申し訳ありません、主よ。烈火の将たる私がこの様な所で朽ち果てるとは………」
「勉強不足やなぁシグナム。女の子にとって料理は必要事項やでぇ」
「はっ、これが終わったら料理に関して猛勉強致します!」
醜態を晒してしまった事に責任を感じているシグナム。だが、そんなシグナムを無視しつつ、丁度10人になったのでこれから決勝戦を開始する事となった。
「決勝戦はバトルロワイヤル方式で行います。これからくじで大戦の順番を決めます。決められた選手は壇上に上がって頂き、私が指定するゲームで対戦をして貰います。見事勝ち抜いた勝者にはこの3TSを賞品として差し上げます!」
高々と3TSを掲げて店長が叫ぶ。回りから大歓声が上がった。
先ほどの○×クイズは散々だったが、今回は面白そうだ。そんな期待が篭っているのだろう。
無論、それは銀時達や真選組(近藤を除く)、そしてはやてや守護騎士達(シグナムを除く)も含まれていた。
「よぉし、絶対に優勝して3TSをゲットするぞぉ!」
「負けへんでぇ!」
昨日の友は今日の敵、そう言わんかの如くなのはとはやてとの間にはとてつもない火花が交差しあっていた。
互いに負けられない戦いが此処にある。そう言いたそうな感じでもある。
また、こちらでも壮絶な火花を散らしている者達が居た。
「こりゃ良いや。対戦と称して土方さんを亡き者に出来る口実が出来やしたねぃ」
「上等じゃねぇか、こっちだってこれ以上付け狙われるなぁうんざりだ。あべこべに叩きのめしてやるよ!」
と、こんな感じで沖田と土方の二人が火花を散らしている。
と、思ったらこちらでも壮絶な火花が―――
「おぅてめぇら、此処からはお互い敵同士だ! 万事屋メンバーだからって容赦しねぇからそのつもりで来いやゴラァ!」
「上等アル。有象無象叩きのめして私が3TSゲットするぞぉゴラァ!」
「はぁ、気が重いや」
こちらも昨日の友は今日の敵ってな感じであった。其処までしてゲーム機が欲しいのか?
と、思っていたらこちらでも―――
「シャマル、ザフィーラ! 幾ら仲間でもこれだけは譲れねぇからな!」
「ヴィータ、お前其処までして3TS欲しかったのか?」
「ま、まぁ………此処は回りのノリで合わせる事にしますか」
一人やる気満々なヴィータに対しザフィーラとシャマルの二人は完全に置いていかれ気味な感じであった。
そんな感じで10名による壮絶なバトルロワイヤルが展開される事となった。
果たして、3TSは誰の手に渡るのか? そして、この後どの様な戦いが展開されるのか?
それは、また次回のお話で。
つづく
後書き
次回【幾ら欲しくても限度は守ろう】お楽しみに
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