駄目親父としっかり娘の珍道中
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第38話 住みたきゃ働け! 働きたきゃ服を着ろ!
警察と聞いて何を連想されますか?
背広で中年の捜査官、取調室で起こるお涙頂戴のドラマの数々、今ではタブーとなってしまった取調べ中に出されるカツ丼。
その他もろもろ・・・
とにかく、そんな感じで警察と聞くとこんな感じで浮かんでくると思われる。で、何故いきなりそんな話題を振ったかと言うと、今回の物語の始まりの舞台がその警察管轄だからである。
***
薄暗い部屋の中、それを照らすのは一台のスタンドライト只一つ。
そのライトを中心にして、土方、沖田の両名は揃って睨みを利かせている。そして、その睨みを利かされているのは無論万事屋ご一行だったりする。
「さっさと白状しろやゴラァ! こちとらてめぇに時間を割いてられる程暇じゃねぇんだよ」
「だったらさっさと俺達を解放しやがれ!」
銀時と土方の睨みあいが火花を散らしている。互いに忌み嫌いあっている仲なだけありこうして面を合わせるだけでも嫌気が差すのだろう。
が、土方自身も職業柄例え嫌いな人間だったとしてもこうして面と向かい合わなければならない。
そう言った仕事をしているのだから。
「分かったからさっさと吐いちまえよ! こちとらてめぇの顔を一秒でも長く見ているだけで胃もたれしそうなんだからよぉ!」
「だぁかぁらぁ、さっきも言っただろう? 俺達は俺達の願いを叶える為にこの本を使ってたんだよ!」
そう言って銀時が叩いて見せたのは先ほど持っていた分厚い書物である。
例にもよって闇の書だか何だか物騒な名前らしいが、それだけでは脅威は毛程も感じられない。
只の分厚い本と言うだけであった。
「何だこりゃ? デスノートか?」
「違ぇよ。何でもこれにリンカーコアってのを注ぎ込めば願いが叶うって言うからよぉ、そんで俺達が江戸中回って探し続けてたんだよ」
椅子にふんぞりかえり、鼻を穿りながら簡潔に銀時は述べる。その言い分に嘘偽りはなさそうだと土方は悟った。まぁ、この男の生き方事態アレなので疑わないと言うのも半ばアレな気もするのだが。
「旦那ぁ、幾ら願いを叶える為とは言え道を歩く浪人達を片っ端から半殺しにするのは些か度が過ぎてますぜぃ」
「しょうがねぇだろぉ、並の人間襲うなんざぁ侍の風上にも置けねぇしな」
「侍だったらその辺で暴力沙汰起こしても良いって法律はありやせんぜぃ」
「と、とにかくですよ!」
銀時と沖田の会話に突如新八が割り込んできた。これ以上この三人で会話を独占させていれば自ずと同じ会話のループになってしまうのは明白だと悟ったのだろう。その為に自分が新たな風を送る役目を担ったのである。
「僕達、これからどうなっちゃうんですか? まさか、務所にぶち込まれちゃうとかですか?」
「キャッホォイ! カツ丼食い放題ネェ! 私特盛りネェ!」
「いや、神楽ちゃん。それドラマだけの話だから。実際にはやらないからね、それ」
どうやら神楽自身はカツ丼食いたさに同行したらしい。食い意地も此処まで張ると流石と言える。
「本来ならてめぇら纏めて実刑付きで務所ん中ぶち込もうと思ったんだが、どうやらお前達が仕留めた浪人達がたまたま攘夷志士の類だったんでなぁ。お陰でそいつらを一斉検挙出来たって事で今回は罪に問わないでおいてやるよ」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「ただし、今度同じ事したら問答無用で即斬首だからな! 覚悟しておけよ」
「は、はい……」
流石は鬼の副長と呼ばれてるだけの事はある。かなりドスの利いた言葉使いと睨みで忽ち新八の肝を握り潰してしまったのだから。
無論、銀時、神楽、沖田の三名は全く意に返さず何所吹く風とばかりに他人行儀な顔をしていたのだが。
そんなこんなで、銀時達は運よく罪に問われる事はなく、晴れて無罪放免となったのである。
しかし本当に運が良かったとしか言いようがない。
まさか、刀を持ってる奴を中心に片っ端からボコボコにしていたら、たまたまそいつ等が攘夷志士の集まりだったとは。
全く以って運が良いとしか言いようが無い話でもある。
「さてと、暴力沙汰の件はこれ位で良いだろう。それじゃ別の話題に移るぞ」
「別の話題?」
「しらばっくれても無駄だぞ。お前等が連れまわしていたガキと薄着の女達の事だよ」
恐らくはやてと守護騎士達の事だろう。土方達から見て、銀時達がはやてや守護騎士達を無理やり連れまわしていた、と言う風に誤解されているようだ。
面倒だがこの誤解を解かないと後々になって「変態主人公」とかそう言ったタグを貼られると恥ずかしい。
なので此処で弁解をする必要があった。
「違ぇよ。あいつ等だったら例のあの装置から出てきた奴等だよ」
「あの装置? あぁ、例の転移装置か。だが、何でまた―――」
「只の装置の誤作動だよ。掃除してたら間違って起動ボタン押しちまって、あれよあれよと言う間にあいつ等が出てきたって訳だよ」
簡潔な部分を更に簡潔に説明する銀時。要所要所を省きまくっているが土方と沖田には充分理解出来た。
「なる程な、つまりあいつ等はあっち側の人間って事になるんだな」
「仮にそうだとしても、あいつ等をこれからどうするつもりなんですかぃ、旦那ぁ?」
「知らねぇよ。俺ん家じゃ狭すぎてあんな大所帯養えねぇし、お前等で匿ってくれねぇか?」
「ふざけんじゃねぇ」
いの一番で土方が反論してきた。
「真選組ってなぁ四六時中江戸の平和を守る為に動いてるんだ。あんな戦力にもなりなさそうな女子供を置かれちゃ隊の士気が下がる。大体此処は男所帯だ。女の居る場所じゃねぇよ」
「んじゃ何所に連れてけば良いんだよ。まさかあいつ等を公園のベンチの上で寝かせようって腹かぁ? 天下の真選組が聞いて呆れるねぇ」
銀時の言葉が土方の心を深く穿った。彼の脳裏にあるビジョンが浮かび上がる。
それは、真夜中の公園である。
時期的に恐らく真冬。木枯らしが吹き荒び、身も凍る程の寒さの中、はやてと四人の守護騎士達は互いにダンボールを羽織り必死に寒さと飢えに耐えながらその日一日を過ごす過酷な生活を強いられていた。
【主、大丈夫ですか?】
【だ、大丈夫や。こんなんへっちゃらや! でも、何だかお花畑が見えてきたわ~】
【い、いけません、主! 其処へ行っては二度と戻ってはこれませんよぉ!】
【はやてちゃん、意識をしっかり持って! 寝ちゃ駄目よ! はやてちゃぁぁぁん!】
騎士達が泣き叫ぶ中、八神はやてはその幼い障害を閉じるのであった。その原因となったのが。無情にも彼女等を押しのけた真選組にあるとは、誰も知らない事であり―――
「うわああああああああああああああ!」
突如雄叫びを上げ、土方は頭の中に浮かんでいたビジョンを払い除けた。イメージすればするほど悲しい結末しか浮かんでこない。こんな結末にしてはいけない。その選択肢は今自分が握っている事を、改めて実感出来た。
「わ、分かった……近藤さんに相談してみる」
「ひ、土方さん、顔色が悪いですけど、何かあったんですか?」
新八の目の前で、突如青ざめる土方の姿があった。さっきまでとは打って変わり、とても弱弱しく、儚げに見えるのであった。
「言っておくが、近藤さんが駄目って言ったら俺でもどうしようもねぇからな! そん時はお前等が自分であいつらの寝床を確保しておいてやれよ! 分かったな! 俺は全然関係ないからな!」
「何念を押してんだ? アイツ」
何故、土方が必死になっているのか。理解に苦しむ万事屋ご一行なのであったりした。
***
「別に良いんじゃないか?」
即OKであった。
その言葉に、土方は半ば複雑な面持ちをしていた。
「いや、近藤さん。せめてもう少し悩む描写も入れてくれないか? 一応少し時間が経った後ってな事で上の方に【***】がついてるけどさぁ」
「まぁ、確かに家は見ての通り男所帯だ。だが別に女人禁制って訳じゃないぞ。寧ろ女でも来る者は拒まずだ」
「あっそう……」
悩みも消え、安心した反面何所か釈然としない気持ちもまた、土方の中で渦巻いていた。
あれだけ必死に自分の中で葛藤を描いていたと言うのに肝心の近藤は二つ返事でOKである。これって良いの? 本当にこれで良いのか?
またしても自分の中で葛藤の描写を入れたくなってしまう土方でもあった。
「ま、そんな訳だから、今日からお前等は此処を自分家だと思って使ってくれて構わねぇ。但し、俺達にも仕事がある。あんま俺達の足を引っ張るような真似はしないでくれよ」
「おおきにな、トシ兄ちゃん」
「と、トシ兄ちゃん……」
はやての屈託のない笑顔から放たれたその一言に、土方は激しく同様を覚えた。
何だ、この高揚感は。今までに感じた事のない感覚だぞ。
そう、この高揚感は今まで感じた事がない。攘夷志士を切った時でさえ、凶悪犯を一斉検挙した時でさえ、大好きなマヨネーズを啜った時でさえ、こんな高揚感を感じた事はなかった。
まさか、この感覚は……。
土方は思いとどまった。
落ち着け、落ち着くんだ土方十四郎。
まさか鬼の副長と呼ばれているこの俺が【ロリコン】な筈がない。さっきのは偶々慣れない呼ばれ方をしたせいでビックリしただけだ。
そうだ、そうに決まっている。
「中々可愛いあだ名じゃねぃですかい。トシ兄ちゃん」
「総梧、お前にだけはそのあだ名で呼ばれたくない」
さっきの高揚感が一気に冷める感じがした。真夏日にも相当する程だった心が今では北極のど真ん中に居る感じだ。
「おいおい、まさか鬼の副長がロリコンですかぁ? 怖いねぇ世の中ってのはさぁ、なぁトシ兄ちゃん」
「マジキモイアル。暫く私や10歳未満の女子に近づかないでよトシ兄ちゃん」
「てめぇ等纏めて切り殺されたいのか?」
さっきのとはまた別の高揚感を感じた。とても熱く、とても憎らしい感じの高揚感だ。そう、これは例えて言うなら怒りだ。
激しい怒りの感覚が土方の中を駆け巡っているのだ。
だが、何時までも怒りに身を任せてはいられない。話を進めなければならない。副長としての威厳もある。
深く深呼吸をし、土方は心境を整えなおした。
「土方、一つ良いか?」
「ん? 何だ」
「我等も貴様等の仕事の手伝いをさせて欲しいんだが」
「はぁ?」
突然、シグナムがそう申し上げてきた。その申し出に対し土方の眉が一気に釣りあがる。
不機嫌度がMAXになった証だ。
「ふざけんな。俺達の仕事は言っちまえば切り合いの殺し合いだ。素人同然のお前等をそんな場所に連れて行ける訳ねぇだろうが」
「我等を見くびってもらっては困る。我等は古代ベルカ時代から戦い抜いてきた騎士。戦いの作法や記憶。礼儀や葬儀の仕方や祝杯の挙げ方まで全て記憶しているぞ」
「いや、後半全く関係ないよね。全然戦いに関係ないのが2,3個混じってたよね」
「気にするな。些細な事だ」
「いや、気にするわああぁぁぁ!」
屯所内に土方の怒号が響き渡る。
だが、その怒号を前にしても、シグナムを筆頭とした騎士達が怯む様子は見られない。四人とも意思は変わらない様子だ。
その姿を見て、土方は深い溜息をついた。
「分かった。それじゃ後で適正試験を受けて貰う。それに受かればお前等を臨時の隊士として認めてやるよ」
「恩に着る」
「だが、その前にやって貰わねぇといけない事がある。何だか分かるか?」
「……分からない。何をすれば良いんだ」
「その格好だよ」
指を指し、土方は四人の服装を指した。
「最低限の服装かも知れねぇが明らかに薄着過ぎだ。此処は見ての通り男所帯だ。そんな格好でうろつかれたら隊士達の目に毒だ。せめて江戸の服装を着て貰わねぇと困るんだよ」
「そうは言っても、私達江戸の知識って殆ど有りませんよ」
困った顔でシャマルが尋ねる。はやて自身も江戸の知識と言えば時代劇で位しか知らない。
まして、古代ベルカ時代とか言う訳の分からない時代を生きてきた騎士達に江戸の服装云々など分かる筈がないのだ。
「その辺はこいつ等に頼めば良い。ってな訳で頼むぞ、万事屋」
「はぁ!?」
投げやりにも似た感覚で頼まれる銀時。それに当然銀時は猛反発しようとしたのだが。
「分かりました。私達万事屋にお任せ下さい」
「お~い、オーナー俺なんだけどぉ」
オーナーを俄然無視し、勝手になのはが話を受けてしまった。その後で何とかして話を断ろうとしたのだが、なのはの無理やり感に遂に根負けしてしまい、止む無くそれを受ける羽目になったのであった。
そうして、万事屋メンバーの四人と騎士達四人、そしてはやてを引き連れて江戸の町を練り歩く事となったのである。
「ったく、何でこんな面倒な事しなくちゃならねぇんだよ」
「ぼやかないぼやかない。これも仕事の内だよ」
「仕事って、一銭も入らないのを仕事とは言わねぇよ。慈善事業、ボランティアって言うんだよそう言うのをよ!」
未だに不機嫌な様子から立ち直れて居ない銀時だったりする。
「それにしても、皆さん住処が決まって良かったですね」
「えぇ、一時はどうしようかとヒヤヒヤしちゃってたわ」
「問題ないネ。いざとなったら家に泊まれば良い話ネ」
「アハハ、そしたら毎日神楽ちゃんやなのはちゃん達と遊べるなぁ」
後ろではすっかり意気投合したメンバーで話し合いが起きていた。
こいつら、順応早すぎやしないか?
そんな疑念を抱きつつも、銀時はとある店の前に立ち止まった。
「うぅっし、そんじゃお前等、今からこれを着ろ」
そう言って銀時が指差した物。それはフリフリのスカートにエプロンが似合い、如何にも世のオタク達が喜びそうな服装。その格好で「ご主人様」と言われると思わず身震いしたくなっちゃう服装。
此処まで言えば分かると思うが、要するにメイド服である。
「おい、何だこのハレンチな服装は」
「あれだよ。お前等のその無駄な色気を更に増幅させる為のキーアイテムだよ」
「そんなステータス要らん!」
「お前等馬鹿だなぁ。読者受けとか考えろ。良いか、はちきれんばかりの魅惑のボディを持った女子がこれを来て【お帰りなさいませ、ご主人様】って言えば、間違いなく人気がうなぎのぼりじゃねぇか。其処を考えて俺は遭えてこれを押したんだよ」
銀時の言い分など分からないが、とりあえずシグナムとシャマルは自分がその格好をした時の姿を連想させる。
フリフリの丈の短いスカート。足には裾の長いストッキングを履き、胸元ばパックリと開いた薄手の服を身に纏い、御盆を片手に笑顔でご主人様の帰りを祝福する。その際に足を密着させ、胸元を強調させるのも忘れずに行うべし。
「無理だ、私にそんな高等技術を出来る筈がない」
「御免なさい。私にそんな事出来ないわ。ちょっと恥ずかしいから」
「んだよだらしねぇなぁ。お色気騎士の二人が揃ってそれでどうすんだよ」
どうやら銀時の中ではこの二人の存在は只のお色気的存在と思われているようだ。
まぁ、江戸では魔法の類が弱体化しているようだし仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「ねぇねぇお父さん。こっち見てみてよ」
「あぁ? 何だなのは。お前がそれを着るのは十年早い……」
突如、銀時の思考が停止した。何故なら、目の前に居たのは筋骨隆々なこれまたある意味魅惑のボディを持つであろうザフィーラが、何故かメイド服を着ている姿であった。
しかも、丈が短すぎる為かその下に履いているスパッツが丸見えと言うこれまた嬉しくないサービス付きだったりする。
「どうかな? 結構良い線行ってると思うんだけど」
「すまんが、足回りがスースーして落ち着かないんだが」
どうやら本人は余り好ましくないようだ。そして、それを見せられている銀時と新八もまた、好ましくは思えなかった。
その証拠に、二人揃ってその場で盛大に嘔吐してしまったのだから。
***
結局、その後なのはとはやての選別により普通の服装の選びがなされた。
まずシグナムの服装は動きやすさを強調とした薄手の着物ではあるが、女性らしさを兼ね備えてか、綺麗な花の模様が描かれた着物を着る事となった。
シャマルのは完全に女性が着ている着物同然である。美しさの中にもちょっとした冒険心が掻き立てられるような感じのチョイスとなった。
ザフィーラの場合は多少ラフな感じとなっている。一枚の羽織りを羽織っておりサイズが若干大きい為か胸元がパックリと見えて少しセクシーに見える。下半身は動きやすさを考慮し袴ではなくズボンタイプで決めてみた。
そして、ヴィータはと言うと……
「何であたしだけこの格好なんだよ?」
何故か南蛮風の服装になっていた。厳密に言うと種子島に来たポルトガル人が着ていたような格好である。
「いやいや、中々似合ってるじゃねぇか。馬鹿っぽさが前面に出てて良いと思うぜ、俺は」
「おい、一辺てめぇの頭かち割って良いか?」
額に青筋を浮かべ始めるヴィータ。このままだととんでもない事態になりかねなかったので急遽服装を選びなおし、どうにか普通の着物姿に落ち着く事が出来たようである。
そんな訳で、今日からはやてと守護騎士達は揃って真選組でお世話になる事が決まった訳である。
めでたいのかはた迷惑なのか分からない話ではあるが、これからの話に是非期待に胸を膨らませていて欲しいと思う。
つづく
後書き
次回【ゲームは一日一時間って言うけど、実際守ってる奴って居ないよね?】お楽しみに
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