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戦国異伝

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第百三十二話 越前攻めその九

「何があろうともな」
「そして我等もですな」
「浅井の臣であるが故に」
「大殿のお言葉に従う」
「それだけですな」
「そうじゃ、それではじゃ」
 長政は馬上で前を見据えて述べた。
「越前に行くぞ」
「そして右大臣殿をですか」
「討ちますか」
「そうする、よいな」
 彼は思うことを押し殺してそのうえで兵を越前に進ませる、だがそこにあるものは決して心地よいものではなかった。
 長政が出陣したと同時にだ、市は織田家から来た侍女の一人にこう言った。
「そなたに一つ頼みたいことがあります」
「といいますと」
「そなたはただの侍女ではありません」
 それ故にだというのだ。
「これを兄上に」
「それをですか」
「はい、渡して下さい」
 侍女にあるものを出しての言葉だった。
「お願い出来ますか」
「ではすぐに」
「兄上は越前におられます」
 その越前の何処かというと。
「おそらく金ヶ崎です」
「あの場所ですか」
「時の流れから察するに」
 これは直感だけでなく読みだ、市は固く締められた部屋の中で顔の右半分を蝋燭の灯りで照らしながら話す、その美麗な顔の右半分を朧な光で照らさせながら言うのだ。
「兄上はそこにおられます」
「では今からすぐにそこに向かい」
「それを渡して下さい」
「わかりました、ですが」
 侍女は市が手渡してくれたそれを見る、そして怪訝な顔になってこう言うのだった。
「これを信長様にですか」
「そうです」
「これは何でしょうか」
「兄上ならすぐに察して頂けます」
「信長様ならですか」
「ですからそれでいいのです」
 こう言うのだった。
「兄上ならです」
「殿はお鋭い方、だからですね」
「その通りです、では宜しいですね」
「わかりました、それでは」
 侍女は市の言葉に頷いた、そしてすぐにその馬から煙の様に消えた。 
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