戦国異伝
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第百三十二話 越前攻めその十
市はそれを見送ってそのうえで言うのだった。
「兄上、是非お逃げ下さい」
勝てとは言わなかった、今言ったのはこの言葉だった。
この言葉を告げてそうして一人強く願うのだった。
市が信長にあるものを送った時闇の中ではまた不気味な者達が話していた、その中で彼等はこう言い合うのだった。
「さて、浅井は動いた」
「やはり主が二人おると仕掛けやすいな」
「しかも仕掛けた術が違うわ」
「あの術だからのう」
「左様、、これよ」
一人が闇の中にあるものを出した、それは正真正銘の闇の中でも輝くものだった。
金に輝くものだった、彼はそれを周りに見せて誇らしげに言うのだ。
「これがあればな」
「どの様な者も操れるな」
「浅井久政には過ぎたものじゃが」
「確かにあの者には過ぎたものじゃ」
それは事実だというのだ。
「これはかなり強い術じゃからな」
「しかしそれをあえて使ったのじゃな」
「ここは」
「そうじゃ、万が一にも術が解けてはならぬ」
それ故にだというのだ。
「だからこそじゃ」
「その術を使ったか」
「術が絶対に解けぬ様に」
「それこそこれの額が割れぬ限りじゃ」
そうでもなければと言う。
「決して術は解けぬ」
「そして息子も家臣達も従うしかない」
「そいいうことじゃな」
「術を仕掛けるのは一人でよい」
その金のものを持つ者が言う。
「頭を仕掛ければ他も動く」
「うむ、そうじゃな」
「仕掛けるのは一人でよい」
「そしてじゃ」
ここでもう一人が声をあげた。
「わしもまた仕掛けよう」
「おお、では鉄砲か」
「御主のそれを使うか」
「うむ、使う」
彼は闇の中で誇らしげに言うのだった。
「いよいよな」
「では万が一金ヶ崎であ奴が生き残ってもか」
「それでも御主がおるな」
「罠は一つではなく二つ三つと仕掛けてこそ罠じゃ」
真のそれだというのだ。
「だからじゃ。わしもな」
「わかった、ではな」
「そこは任せた」
闇の中で次々と手が打たれる、信長に闇からの勢力がまた迫ろうとしていた、彼等はその闇の中で牙と爪を磨いていたのだ。
第百三十二話 完
2013・4・7
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