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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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テイルズオブソーディア・5

 
前書き
3,4年ぶりに温泉に行った。いい湯だったなぁ・・・ 

 
 
ここ数日、なのはちゃんの様子がおかしい。何やら考え事をしながらため息ばかりついている。幸せが逃げるよ、と言おうと思ったけど溜息程度で逃げる幸せならないのと同じかと考えたり。
本人は何でもないと言い張ってるけど何でもあるのがバレバレです。

「という訳で今日も『(オードリー)のお悩み相談室』のご時間がやってまいりました。今日は初の学校内出張開催なのでステキなゲストをお呼びしています」
「アリサよ。親の七光りやってるわ」
「すずかです。親のすねかじりやってます」
「え?え?何?」
「では早速今回の相談者さんをお呼びしましょう。ナノハサ~ン!」
「あ、はい・・・じゃなくてこれ何なの!?」

4つの机を連結させて簡易テーブルを作り至って真面目な顔で司会進行を続ける私。それにあえて突っ込まずあろうことか自虐ネタで対応するお嬢2名。そして状況を飲み込めていない魔砲鬼帝ナノハ・タカマチ。混乱している今のうちに畳みかける!

「それではナノハさん。今日はいったい何の相談があってこのお悩み相談室へ?」
「いや、あの、あれ?別に相談なんて・・・」
「資料によると依頼者さんはここ最近ため息ばかりで授業も上の空、何事にも身が入らなかったそうですからよほど思い悩んでるんでしょ。さあさあ、言ってごらんなさい。というか言えやコラ」
「ナノハさんの友人からも是非お悩みを聞いてほしいというお便りが来てんますよ?ペンネーム『夜の一族(笑)』さんから」
「え!?そんなお便り来てたの!?」
「うん、みんななのはちゃんの悩みが気になって夜しか眠れない日々が続いてるんだって」
「それは大変だ!さぁなのはちゃん、みんなを呪縛から解放するために、何があったのか聞かせてくれるかな?」
「え?あ、え?あれぇ?」
「ほらほら、お便り相談室だっていつでも開いてるわけじゃないんだから今喋ってしまわないとみんな困っちゃうよ?さぁさ、悩める魔王よ、懺悔しなさーい」
「魔王じゃないもんっ!」

無論お便りはすずか嬢の自演ですが何か?
さて、なのはちゃんが混乱しているうちになぜこんな茶番劇が始まったのかを説明しよう!

原因は言うまでもないなのはちゃんの悩み事。アリサちゃんたちがいくら何があったか問いただしても「お家の事だから」の一点張りで答えようとしない。アリサちゃんは元々隠し事や曲がったことが大嫌いなので事情を話そうとしない親友なのはちゃんに激おこ状態。さらに自分がなのはちゃんに頼られていないという思いも相まって自分への不甲斐なさと怒りが激おこぷんぷん丸だった。

で、もうふんじばってでも聞き出してやるとアイドリングを始めた彼女を見かねたすずかちゃんが私に話を振ったのだ。その結果始まったのがこのコーナーである。
なのはちゃんは基本的に押しが弱く一度流れに晒されるとされるがままに流されがちな所がある。今回はそれを利用する、つまり激流に身を任せ全部ゲロッてもらう作戦である。よくわからないノリに晒されて動揺しているうちにそれっぽい雰囲気を作り上げることがキモだったが、見事になのはちゃんは術中に嵌ってくれたようだ。貴様はチェスや将棋でいう『詰み(チェックメイト)』にはまったのだッ!

「お悩み相談室はね、お悩みを相談することにこそその意味もあれ価値もあるんだ。相談者さんが悩みを打ち明けられない相談室・・・そんなのは路肩に転がるプラスチック製のスプーンくらい価値のない存在に成り下がってしまう・・・分かるよね?」
「全然分かんないよ・・・」
「う~ん・・・それじゃあ仕方ない!何が悩みなのかゲストの皆で予想してみようか。アリサちゃんはどう思う?」
「お父さんとお母さんが夜の営みをしてるところをうっかり見ちゃったとか?すずかはどう思う?」
「じゃあ私はねぇ、お兄さんが彼女持ちなのに見知らぬ女の人と仲睦まじげに歩いてたとか!」
「ちなみに私の予想ではお姉さんが見知らぬオッサンと逢引を・・・」
「違う違う全部全然違うのーー!!お家の事っていうのはそういうことじゃなくて・・・」
「「「なくて?」」」
「うっ・・・みんなのイジワルぅ」

ようやく自分が嵌められていたことに気付いたご様子のなのはちゃんは顔を真っ赤にしながら抗議の目線を飛ばす。
ん~?何のことかな・・・フフフ。そしてそんなに睨んでもかわいいだけだぞ次元世紀末覇者(予定)!





で・・・結局なのはちゃんは正直に話してくれた。

「あのね・・・私のお家に、お兄ちゃんが増えたの」
「「「・・・お、おう」」」

想像以上に複雑そうな事情に3人は3人とも生唾を飲み込む。家族が増えるよ!やったねなのはちゃん!なんて軽々しく言えない事情かもしれないので皆の顔は真剣そのものだ。

弟ができたならわかる。なのはは末っ子だし彼女の両親は年齢を偽ってるんじゃないかと疑りたくなるほど若い。もう一人くらい子を授かることもあり得るだろう。また、単に近所の年上で親しい男性をお兄ちゃんと呼ぶのも・・・まぁ、ありえなくはない。だが「お家に」とわざわざつけているのでどうもそうではないらしい。
世間一般の家庭では唐突に兄ができることなどまず起きない。行方不明になっていた家族とか親戚の不幸で一人になった子を引き取ったとか親の再婚で相手方の子供が・・・とかそういうことがない限り、唐突に家族が増えることなどないだろう。

その辺の事を聞くか聞かざるかを迷う3人だったが、幸いにもなのははその辺の事情も話してくれた。

「そのお兄ちゃん・・・クロエ君っていうんだけどね、昔の記憶がないらしくて・・・昔の事を何にも覚えてなくて、それで困ってる所をお父さんが家族にしたの」
「記憶喪失で養子縁組かー・・・そりゃ話しにくいわ」
「それで、そのお兄ちゃんがどうしたの?」
「それは・・・何というか、どう接したらいいかわかんないの」
「・・・はぁ?どういうことよ?」

何でもその新お兄ちゃんはあまり喋らない、ずっとぼうっとしている、無表情の3拍子が揃っており、しかも記憶がないからあれこれ質問もできない状態らしい。何度かお話を試みたが、自分から喋ることがあまりない彼になのはが一方的に話しかけている形になってしまい、意思疎通が取れているかが確認できないそうだ。

「それでね?おとといの朝ご飯のとき、クロエ君が初めて自分からお喋りをしたんだけど・・・」
「ど?」
「お母さんと一緒にお醤油の種類と目玉焼きの食べ方を語り始めちゃって・・・私、もうクロエ君が何考えてるのかさっぱりわかんなくなっちゃったの・・・」
「それはまた・・・コメントに困るね」

確かにさっぱり分からない。圧倒的な情報不足である。しかし、話を聞く限りそんなに焦ることじゃないんじゃないか、とこの鳳苗は考える。

「さて・・・話を纏めようか。そのお兄ちゃん、クロエ君がなのはちゃんの家に来たのはここ数日の事だよね?」
「う、うん。まだ1週間たってないよ」
「じゃあ別に焦ることないじゃん?」
「・・・ふぇ?」

いやきょとんとしなくてもそんなに難しいこと言ってないよ私。

「人間ってさ、ずっと一緒にいても相手の考えてる事がわかんないなんてよくあることじゃん?勘違いもするし受け付けないことだってあると思う。相手の心を完全に理解するなんて無理だけど、それでも相手を理解したいから近づくの。でもなのはちゃんはまず理解して、それからから声をかけようとしてる。これっておかしいんだ。順序が逆なの」
「逆・・・?」
「理解したいって思うなら、まずはその人の事じっと観察して、何度も話しかけて、その人の反応とか好き嫌い、興味のあるものないものを時間をかけてゆっくり見て確かめるべきだよ。声をかけることが先、理解はその結果なんだ。家族ならそれをする時間はたっぷりあるでしょ?・・・そこまでしても、やっぱり完全に理解するのは無理だと思うけど、そっちはあんまり重要じゃない」
「・・・・・・」
「今すぐに相手を理解しようと思うから焦りが募っちゃうんだ。何も腹を割ってお話ししなきゃ分かり合えないなんてことはないんだから、時間をかけてゆっくりクロエ君を知っていけばそれでいいんだよ」
「お話ししなきゃ分かり合えないなんてことは・・・ない?」
「うん、言葉がすべてじゃない。でも見てるだけでも近づけない。だからなのはちゃんはクロエ君のよくわからないところを含めて全部、ゆっくり見ながら声をかけていけばいいんじゃないかな」

なのはちゃんは寝耳に水だといわんばかりに目を見開いている。自身のアイデンティティであるOHANASIを否定したともとれるこの意見は彼女にとってのコロンブスの卵だったようだ。
・・・なお、卵の表面部分は小さな凹凸が無数にあるため平らなテーブルで頑張れば殻を傷つけずに卵を立たせることが可能である。頑張れば1分そこらで出来てしまうため、OHANASIもゴリ押しすれば案外いけるかもしれない。まぁなのはちゃん本人は私の答えに思うところがあったようで、しきりに頷いているが。

「そっか・・・うん、ありがとう苗ちゃん!そうだよね、焦ることなんてないよね!家族なんだから・・・うん」
「・・・結局このあたしが何の力にもなれてないのが癪だけど、これにて一件落着ね!なのは、次に隠し事したら承知しないわよ!」
「それにしても苗ちゃんすごいね。正直この作戦を聞いたとき上手くいくか心配だったんだけど・・・ちゃんとお悩み相談して解決しちゃったね」
「それほどでもない」
「謙虚ね。憧れないけど」

何はともあれこれにて『(オードリー)のお悩み相談室』は無事終了したのだが・・・私はこの時まだ知らなかった。この相談室を近くで聞いていた同級生や先生が、私の小学生にしてはあまりにもしっかりした回答に『悩みがあるなら苗ちゃんに相談してみよう』という思いを抱いてしまったことに。そしてこのお悩み相談室がまさかの続投になることを知った未来の私は、本気で四宝剣を使って相談室を無かったことにするかどうか迷うことになるのだった。



なお、実際のところなのはが悩んでいた内容はクロエへの接し方意外にも「ユーノから聞いた苗の正体を本人にどう切り出すか」「クロエのデバイスについて触れるべきかどうか」「魔法の事とジュエルシード集めについてずっと隠している自分は正しいのか」などがあったのだが・・・

「苗ちゃんは私のために真剣に相談してくれた。そんな苗ちゃんが悪い魔法使いには思えないの・・・だから、まずは”知る”事から始めよう!」

後日からなのはは苗に急接近してべったりくっつくようになった。これが二人の明確な友好関係の始まりとなったとかなってないとか。 
 

 
後書き
今回は悩める悪魔の心境を語るついでに苗っちとなのはの距離が急接近する回。
チート能力は使わずに済めば無事太平・・・
ところで、最近無印編のオチを真剣に考え始めてます。どっかしらでオチをつけて終わらせないと無意味にグダグダ続いちゃいますし。 
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