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万華鏡

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第三十四話 トラックその二

「それでトラックだけれどね」
「何でそんなにトラック好きなんですか?」
「車がお好きなのはわかりますけれど」
「旦那がトラックの運転手さんなのよ」
 その旦那さんの話だった、人生の伴侶の。
「それでトラックマニアのね」
「ご主人の影響ですか」
「そうだったんですか」
「結婚する前からトラックのことを熱く語ったのよ」 
 そして今もだというのだ。
「雑誌も見せてくれて、それで聞いて読んでいるうちに」
「先生もですか」
「トラック好きになったんですね」
「戦前の日本にはトラックは殆どなかったわ」
 そうだったというのだ。
「今みたいにはね」
「軍隊でも歩いてたんですよね、確か」
 男子生徒の一人が問う。
「そうですよね」
「そうよ、馬とかね」
「トラックはなかったんですね」
「馬も高価でね」
 騎兵が特殊な兵種だった程だ、二次大戦の頃まではそうだったのだ。
「トラックどころか車がね」
「なかったんでしたね」
「そうよ、とてもね」
 なかったというのだ。
「乗用車もね」
「そうした時代だったんですね」
「ドイツでもトラックは少なかったわ」
 機械化部隊で欧州を席巻したこの国ですら、というのだ。
「一万四千程だったわ」
「ドイツ軍全体で、ですか」
「そう、それ位だったのよ。五百万いてもね」
「確かに少ないですね」
 今の自衛隊の方が多い、軍の規模を比較すれば。
「そんなのだったんですね」
「それがこれよ」
 先生は今もトラックを見てうっとりとなっている。
「どんどん作ってね」
「これだけの数になったんですね」
「そうよ」
 その通りだというのだ。
「一万や二万どころじゃなくて」
「何百万台とですか」
「日本全体でトラックってどれだけあるかしらね」
 先生は実に嬉しそうに話していく。
「本当に何百万台とあるわよね」
「ですよね、何千万はないですよね」
「どうかしらね、車の数が大体一億らしいから」
 日本全体でそこまであるというのだ。
「それならね」
「流石に何千万はですか」
「ないんじゃないかしら」
 幾ら何でもだというのだ、先生はこのことは残念な感じで語っていた。
「そこまではね。けれどトラックが多いとね」
「嬉しいんですね」
「トラックは力よ、国の」
 その中の一つだというのだ。
「それに格好いいでしょ」
「ええ、まあ」
「この武骨な感じが」
 主に男子生徒が先生の言葉に答える、乗用車には乗用車の魅力がありトラックにはトラックの魅力があるのだ。彼等はそれがわかっているのだ。
「いいですよね」
「力強い感じで」
「そうよ、プレスリーだってデビュー前はトラックの運転手だったのよ」
「エルビス=プレスリーもですか」
「最初はトラック運転手だったんですか」
「それでうちの旦那もね」
 先生は自分の夫の話に戻してきた、彼はどうだというと。 
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