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万華鏡

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第三十四話 トラックその一

               第三十四話  トラック
 生徒達はバスから降りてトラックを近くで見ることになった、バスが停まりそれから降りてだった。
 工場の建物の中に入りトラックを見る、トラックは何台も並んでいる。
 やっと塗装が終わったばかりだ、先生は生徒達に目を輝かせて言う。
「いいでしょ、トラックは」
「あの、先生ひょっとして」
 男子生徒の一人が少し苦笑いになってその先生に尋ねた。
「トラックお好きですか」
「わかる?」
「かなり具体的に」
 その目でわかるというのだ。
「何かマニアックな感じですよ」
「昔から車は好きだったのよ」
 先生は生徒にこのことから話した。
「だから十八で免許取ってすぐにね」
「車買ったんですか?」
「家の車乗ってたのよ、最初は」 
 まだ買えなかったというのだ、免許を取ってすぐは。
「大学受験が終わってすぐに教習所に行ってね」
「それで免許取ってですから」
「家の車に乗っておられたんですか」
「それで大学を卒業してすぐにガソリンスタンドでアルバイトをはじめてね」 
 アルバイト先も車関係だった、徹底している。
「自分で車買ったのよ」
「じゃあ今の先生の車は」
「ええ、あの車ね」
 先生はにこりとして語る。
「ブルーパンサーね」
「あれ八条自動車のパンサーですよね」
「青のね」 
「カラーリングが青だからブルーパンサーなんですね」
「そうよ」 
 その通りだというのだ。
「私が旦那と子供の次に愛するパートナーよ」
「パートナーですか」
「ええ、そうよ」
 こう言うのだ。
「洗車もワックスも中のお掃除も欠かしていないわ」
「そうなんですね」
「高かったけれどそれだけの価値はあるわよ」 
 カーマニアの目と顔だった、完全に。
 先生はカーマニアの誇りで胸を張ってそのうえで生徒達に語る、自慢話だがそれ故に熱く語るのだった。
「ブルーパンサー、何時でも見ていいわよ」
「あの、ブルーパンサーって」
「いい名前でしょ」
「昔何かの特撮番組でそんな名前の悪役いましたよ」
 最初に問うた男子生徒は先生にこう突っ込みを入れた。
「大鉄人何とかっていう番組で」
「ワンセブンね」
 先生も生徒にすぐに返した。
「あれね」
「あっ、御存知なんですか」
「名作よ」 
 先生はこの番組についても語る。
「素晴らしい作品だったわ」
「僕観たことないんですけれどね」
「一度観たらいいわ」
「そうですか」
「特撮を観るのも勉強のうちよ」
 学校の勉強だけが勉強ではない、世の中の全てのことが勉強なのだ。
 それで特撮番組を観ることも勉強だ、それで言うのだ。
「だから観るといいわ」
「わかりました」
「最後は素晴らしかったわ」
 先生の目は変わった、今度は名作を観た者の目だった。
「いいわね、観るわよ」
「じゃあ時間がある時に」
 こうした話もした、そうしてだった。
 先生は幸せな目でまたトラックを見た、そして生徒達に言うのだ。 
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