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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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狂気による光

 もう自分では何も出来ないならせめて少しでも抗おうとした結果、自分の中にある狂気に任せることにした。

 自分の普段では考えない、破壊や消すこと、殺すことが思い浮かぶがこれは全て、プレイヤーに対するものでウィルス相手にはたぶん意味がないだろう。

 本当にもう駄目かと思った矢先に、シードやジュンに寄生するウィルスの言葉を思い出した。

「なんでって顔だな。どうせお前もあとで俺らのお仲間になるんだからあの方たちも許してくれるだろうし教えてやるよ。俺の入ってるこのプレイヤーを倒すには俺らと同じ奴でしか倒せない」

「たとえ試したところで無駄だ。普通のプレイヤーじゃ俺らは倒せないんだからな」

 同じ奴、普通のプレイヤーじゃ倒せない。それならあいつらと同じ存在ならどうだろう?感染者はウィルスの同じ能力を持ち、普通のプレイヤーでもなくなる。それならあいつらに勝てる可能性があるかもしれない。

 その言葉からやるべきことを一つ思いつき、腕をノイズから引き出し始める。そして、そこからは自分の意思とは本当に関係なく体が動いたように感じた。いや、破壊や消すことを優先して本能が動かしているのだろう。

 腕を抜け出させると、腕をポケットに伸ばした。

 そしてその中からポケットに今まで入れていた、シードを取り出すとそのまま口元に持っていき咥え、砕いた。

 そして不審に思って近づいてきたのかウィルスが視界の端でけらけらと笑っていた。

「こいつ、自分から感染者になりやがった!!」

 そして、自分の体に僅かなノイズが走る。これで自分も感染者となったわけだ。これでようやくこいつらに攻撃を食らわせることが出来る。だが早くしなければシードに乗っ取られてしまうだろう。

 一瞬で腕や足をノイズから引き出すと立ち上がり、ウィルスに向けて拳を叩き落した。けらけらと笑っていたウィルスはそのまま地面に叩きつけられてからウィルスのHPゲージを見る。

 HPゲージは先ほどの状態では一ドットも減らなかったのに今の攻撃で目に見えて減ってるのを確認できた。それを見て口を吊り上げた。

(ようやく、壊せる……)

 自我はあるが全てが快楽に飲み込まれていきそうになる。しかし、自分の意思をしっかりと持ち、飲み込まれないように何とか堪える。

 そして叩きつけられた上体のウィルスを見ると腕を掴んで持ち上げようとしていた。

「シードを取り込んで感染者になって俺に勝とうってことか……だがな、お前はすぐにシードが意識を隔離してお前はもう二度と自分の意思ではアバターに戻れなくなる」

「……」

 そんなのは関係ない。今はただ目の前にいるものを破壊するという欲求を満たせればそれでいい。

 ただ自分の狂気のままに目の前にいるウィルスを破壊するために動く。一瞬で距離を詰めると足を払う。しかし、それを避けられるとウィルスは空中から踵落としを繰り出してくる。それを逆に接近して、腿あたりに肘を入れる。その勢いで踵落としに失敗したウィルスは後ろに倒れこむ。

 倒れこむ場所に自分も倒れこむように腹の上に肘を出す。倒れた瞬間に自分の肘が見事に腹に当たる。そして更に追撃とばかりに拳を叩き込もうとするが体を回転させて避けられた。しかし、先ほどの一撃が効いているのか先ほどまでの余裕だった表情は険しくなっている。

「はあ、はあ、はあ。どうなってんだよ、こいつ……さっきまでの動きと違うじゃねえか……そろそろ、シードがもう中枢まで到達して意識を隔離してもいいはずなのに何してるんだよ、シードの野郎は……」

 そんなの知るか、そんなことを考えてる暇があったら自分の心配をしたらどうだ?俺はお前をぶち壊すまでたぶん止まらないぞ。

 徐々に自分の思考が狂気に飲まれていく感じがする。口には出ていないがどんどんと自分の思っていることが狂ったほうに行っている。

 早く、早くこいつを壊さなければ本当に自分でもどうなるかがわからない。

「めんどくせー、一気に決めるぞ」

 ウィルスはそう呟くように言うと腕をかざした。そして、そこから大きなノイズが発生してウィルスの姿を隠した。次の瞬間にはノイズが消えてウィルスがいた場所も何もいなくなっていた。

 たぶんこれは、シードの使っていたものと同じ移動方法だろう。だが、感染した今となってはその移動ルートが手に取るようにわかるようになっていた。

 すぐ後ろの何もない空間に手を伸ばす。するとそこからいきなりノイズが発生して腕が伸びてくる。それを掴み取ってそのまま引っ張り、ノイズからウィルスを引きずりだした。

「なっ!?何でばれた!?」

 自分の場所がばれたことに驚いていた。

 そして、その驚いた表情をぐしゃぐしゃにしたいという欲求が襲い来る。その欲求に耐えることもできず、ウィルスの顔面に拳を叩きこんだ。

「ぶふぉ!!」

 そのまま振りぬいてウィルスを木まで殴り飛ばした。そして、その距離を一気に縮めるとその後ろの木にウィルスを叩きつけた。

「ごはっ!」

 そしてそのまま木からずるずると崩れ落ちていく。そして尻を地面につけたところで顔面に膝蹴りを叩き込む。そのとき、顔面からぐしゃりとなにかがひん曲がったような音がする。しかし、それを無視して何度も膝蹴りを入れた。

 だが、急に後ろから何かに掴まれて動けなくなる。後ろを向くとナナミが必死になって止めていた。そして、今度はシュートが頬を思いっきり殴ってくる。

「いい加減、正気に戻ってよ!ゲツガ君!これ以上はもういいよ!」

「ゲツガさん!いい加減にしてください!これ以上はもうさすがにやりすぎです!動かなくなってるならやるべきことがあるでしょう!」

 二人の叫びにウィルスのほうを向く。ウィルスは先ほどの攻撃を何度も受けたせいか、ほとんど動かなくなっている。

「ご……が……」

 それを再び壊したいという欲求がまたでてくる。そして再び殴ろうとすると今度は二人係で止められ、前のめりに倒れる。

「さすがにもうやりすぎです、ゲツガさん!もう、これぐらいにして動かない今のうちにウィルスを取り除く方法を考えて試しましょう!!」

「もういいから!もういいから!!」

 ナナミは泣きじゃくるように叫び、シュートは必死に説得する。そのおかげで何とか衝動が少しずつ収まってきて、ようやく普通の状態に戻ったような気がする。

「……シュート、ナナミ……少し狂いすぎてたみたいだ。すまん……」

「心配させないでよ……馬鹿……」

「そうですよ。それよりも何で急に攻撃が効くようになったんですか?」

「……それは俺が感染者になったからだ。あいつらの言ってた言葉を思い出してな、もしかしたらと思ってシードを潰して感染者になったんだ。たぶん、それでこいつらにダメージを食らわせたんだと思う」

「感染者ってことはゲツガさんも早く取り出さないと!!」

 シュートは慌ててゲツガに詰め寄るがそれを抑える。

「まずは意識を完全に乗っ取られてるジュンが先だ。俺は後からでいい。それと、ナナミも見ちまったんなら説明しなきゃなんないから後でジュンと一緒に教える。ただし、誰にも喋るなよ。それよりもお前等どうやってノイズから抜け出したんだ?」

「……あれは、ゲツガ君の脱出方法を見てから自分たちもやってでたの。あとこのことは説明するまでどんなことが起きてるかよく分からないけど、とりあえず話しちゃ駄目なの?」

「ああ。それじゃあ、とりあえず取り出し方なんてわかんねえし、口の中に手を突っ込んでみるか」

「そうですね。僕の時はそれで取り出したんですし、でも、その時は口の中にあいつら本体がある時じゃ無かったですか?」

「まあ、試してみるしかないだろ?」

 そしてジュンの口の中に手を突っ込んだ。しかし、特に何もない。あるのは歯と舌ぐらいだ。手を抜き取り、唾液を払い、シュートの持っていた布で拭く。

「特に口の中には何もないな」

「じゃあ、どうしますか?」

「もうアバターだから問題ないと思うから体内から無理やり引っこ抜くしかないだろうな」

 そしてジュンの体の中にいるウィルスの存在を探る。自分も感染者のおかげなのだろうか、ウィルスの感覚が感染していないときよりもよく分かる。そして、心臓辺りにあるのを感じるとそこに向けて拳を握り、拳でアバターを貫いた。

「ちょっと何してるのゲツガ君!?」

 今まで黙っていたナナミはいきなりの行動に戸惑っている。

「心配するなって。これは摘出しないといけないんだから。この方法しかまだ思いついてないだけでたぶん大丈夫だから」

 そう言ってから何か蠢くものが手に当たるとそれを掴んでジュンの体内から引きずり出した。手にはノイズが走っている長い蛇のような物体があった。

「おご……」

「こいつが、ジュンに入ってた奴だろうな。たぶん」

「そうですね。感覚的にさっきの話してたやつの似てますし」

「何なの……これ……?」

「こいつがさっきまでジュンを動かしていた本体。それで俺らが追っていたもん」

 そして、そのままその蛇のような物体を握りつぶすとジジッと空間が歪んでいき、消えていった。そしてあたりのノイズも消えて、普通のエリアに戻った。

「これで終わりか」

「後はゲツガさんの中のウィルスを取り出すだけなんですが……その……自分で貫くんですか?」

「それしかない……だろうな。でも、一つ疑問があるんだが、俺の侵食がまったく進んでいないんだが、時間的にウィルスに感染して結構時間が経ってるのに……ジュンみたいに個人差があるのか?」

「そうかもしれません。それなら早く取り出しましょう」

 そして自分の体内にいるシードの位置を探る。しかし、なぜかシードの気配をまったく感じない。自分の中にいるものは感じられないということか?

「すまん、自分じゃどこにいるかわからん。シュート、お前は分かるか?」

「僕にはわからないですよ。ウィルスの存在を感知することは出来ますがそこまでは出来ないと思います」

「そうか~、それなら無理に弄りたくないな~。もしもの時はお前らに任せる」

「そんなの無理ですよ。ダメージも与えられないのに」

「ジュンに任せとけば何とかなる」

「何でお兄ちゃんに任せるんですか……」

 二人はあきれたように息を吐いた。

「とにかく、ウィルスがまだ大丈夫ならログアウトしたほうがいいだろう。一応、あっちで話すことになるからな~、シュートお前、携帯とか持ってる?」

「一応、ゲツガさんそういう系のアプリ入れてるならその番号を教えますけど」

「確か入れてる」

 そして、シュートの言った番号を暗記して、ジュンをたたき起こした。

「おい、ジュン起きろ」

「……っう~、あれ、ゲツガ……確か俺……あの時何かに……」

「その説明は現実でしてやるからとりあえずログアウトするために街に戻るぞ」

 四人は急いで街に戻り、宿でログアウトした。 
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