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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第21話

観客の大声援を背に、二つのISが激しい戦いを繰り広げる。

片や企業のアピールで、片や己のISが進化したか確かめるために。

しかし、戦う二人にそんな外部のしがらみはない。

少女は想いを伝えるため、少年はもう一度歩き出すために、ISを駆る。

目まぐるしく攻守が入れ替わり、ステージ中央上空で互いに互いの拳を掌底で防ぎ、背中のスラスターから真紅と濃紺のエネルギーが、翼のように噴出する。

押し合いになるが、どちらも一歩も引かない。

より一層の大声援が、二人に降り注いだ。

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「こうしている間も気持ちが溢れてくる。好きだ、君が大好きだ!」

押し合いでは埒があかず、同時に手を振り払い、 互いの攻撃が飛び交う中、葵は想いを余すことなく言葉に出してくる。

「だから勝ちたい!勝って、君と添い遂げたい!」

右手に長身の銃を展開し、大出力の荷電粒子砲が放たれる。

迫り来るそれを、左手を出してエネルギーの幕を展開し、反らす。

新しいヴァンガードの幕は全身をカバーする球体となり、その出力も以前とは段違い。

代償に、エネルギー弾の拡散、連射は不可能となった。攻撃が右、防御が左と、完全に役割が分かれてしまった。

だが、それが不利にならないことは、俺とヴァンガードが証明している。

荷電粒子砲を反らした勢いのまま、葵のISに体当たり。左は防御と言ったが、攻撃に使えないとは言っていない。

左手から生じるエネルギーの幕、今は球体、スフィアだが、それは攻撃を『打ち消す、相殺する』のではなく、『後方に流れる高密度エネルギー波に乗せて反らす』ものだ。

そんなエネルギー波が当たればどうなるかなど、子供でも簡単に分かる。

何とかブロックした葵が苦悶の表情を浮かべる。まだだ!一発で終わらせはしない!

身を翻し、繰り返し激突。守りを抉じ開けんと、攻め続ける。

十数回目で遂にブロックを破り、葵にスフィアを『当てた』。

が、決まった感触が無い。センサーも、何も言わない。

「危ない危ない。見とれてやられてしまう所だった」

然程焦った様子の無い葵が、激突の際生じた煙から現れる。

分かれていた装甲が元に戻り、俺の突撃を防いでいた。

「意思一つで、形態が変わる…!」

葵から離れ、予想外の能力に驚く。難航する訳だ。実質、二機の特性を持っているのだから。

右手で指さしエネルギー弾を発射。これも以前とは段違いの威力の筈だが、外套の様な装甲に傷一つつけられない。

武装は少ないが圧倒的な防御能力の形態と、守りを下げて戦闘能力を高めた形態、発想からして今までとは一線を越えている。

しかしそれがワクワクしてくる。他にどんなものがあるのか、楽しみでならない。

「インペリアル・ダンサー…、その二つの顔、貫かせてもらう!」
「なら私は、空を制するヴァンガードの羽根に触れて見せる!」

俺が翡翠色の刀剣を、葵が大振りのメイスを展開し、二つの得物が火花を散らす。

再度互いの背から、エネルギーが噴出した。

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「ほわぁ~…。織斑君も凄いと思いましたが、丹下君はそれ以上ですね…、織斑先生」
「私からすればまだまだだ。だが、楽しみであるな、山田先生」

智春を見届けた後、別室で待っていた山田先生と合流した千冬は、モニターの戦闘に目を微かに細めていた。

「そうですね。前代未聞のIS同士の対決、どう転ぶか…」
「ああ、それに木之本の直球公開告白に丹下が耐えられるかも、な」
「織斑先生?ご、ご冗談ですよ、ね?」
「…以前私は冗談が嫌い、と言ったはずですが山田先生?」

笑顔がひきつる山田先生と至極真顔な織斑先生。モニターの向こうには、更に愛を伝える葵と、凄く困った顔の智春が映っている。

冷やかしを大いに含んだ歓声が響くなか、二人の教師は教え子の『晴れ舞台』を見守るのであった。

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「身持ちが固いな、葵!」
「触るのは色事の時にして欲しいな!」
「言うじゃないか!」

刀剣とメイスが幾度も衝突し、鈍い音を立てる。

侮っていた訳ではないが、手強い。油断すれば、あっという間に持っていかれてしまう。

「やるしかない、か。ならばっ!」

メイスを弾き、大きく後ろに跳躍。『奥の手』、切らせてもらう!

俺の意思にヴァンガードが反応し、背後のウイングが『射出』され、残った部分から濃紺のエネルギーがウイングの形に噴出される。

「撃ち抜け!」

俺が葵を指差すと、ウイングが各々別の角度から葵に襲い掛かる。

六基の独立したウイングの複数の方向からの攻撃、受けてみろ!

「左右も、後ろも逃げ場はない…、流石は私が好きになった人だ」

葵は不敵に笑うと、身を屈めた。マズイ!
「だが…、退きはしない!」

ウイングが当たるより一瞬速く葵は動き、装甲を開いた。反応はした。だが、行動が間に合わない!

「グッ!」

葵が展開した真紅の槍が、俺のシールドを削った。お返しと指のエネルギー弾を放ち、ウイングで攻めるが、当たらない。

「どうした!?君の力、そんなものなのか!?」

葵が愉快そうに挑発してくる。彼女は、俺の訓練をずっと見てきた。見てきた上で、全部出せと要求している。

「楽は許されないか…。…行くぞ!」

角と、各部装甲の一部が開く。開いた装甲の間に、翡翠色の輝きが発生する。

「『オープンモード』起動!貫け、ヴァンガード!」
装甲から翡翠色の輝きを放ちながら、空を駆ける。

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教師が眺めるモニターの向こうで、智春が攻勢に出た。

刀剣で葵の槍に数度打ち勝ち、一度距離を取った葵に指のエネルギー弾が直撃。先制の分を返した。

『素敵すぎるな、君は!これ以上私を好きにさせてどうするつもりだ?』
『どうもしない!』

素直に気持ちを言葉に乗せる葵と、にべもない智春。

益々激しくなる攻防と相反するような恋の駆け引きに、ある教師は笑い、またある教師は反応に困るのであった。

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葵の荷電粒子砲をスフィアで反らす。返す刀で、エネルギー弾を発射、メイスで叩き潰され、小規模な爆発が起きる。

飛び道具の性能は互角、武装の種類、手の豊富さは葵が、攻撃力は俺が上。

但し、どちらもそれ以上の防御能力を有するため、戦況は膠着している。

空を地をと縦横無尽に駆け回る俺と、山のごとく待ち構える葵という構図は、一見派手な攻防に見えるが、実際は大変地味な戦闘になっている。

「私はこのままこの時間が続いても良いが…、観客を飽きさせては忍びない。受け止められるかな!?」

葵が槍とメイスを『合体』させた。一つになり、『杖』になった得物を俺にかざす。杖の先から真紅の複雑な模様の円が出現し、雨のような光線が、襲い掛かる。

「杖に『陣』に大量のビームに…、いつからISはファンタジー要素を採用したんだっ!」

縦に横に刀剣を振るい光線を防ぎながら、葵に近付く。リスクは高いが、飛び道具が有効でない以上、接近戦に持ち込むしかない!

そう決意した俺の攻撃が届く目前まで辿り着いた瞬間、光線が止んだ。

「君は実に現実的だ。己の現状に最も適した選択をとる」

静かな葵の声が響く。誘い込まれた…!?

「大技で決めに来たと見て、ハイリスクハイリターンの近接戦闘を選んだ。だが、それこそ私の狙い!」

突き付けられた杖から眩く真紅の輝きが溢れる。

「これがっ!私の本命だ!」

杖から発射された特大光線を、間一髪スフィアで防ぐ。が、出力に負け、反らしきれない威力がシールドを削る。

ステージ全体を震わせるほどの光線は、俺を大きく後退させて収まった。

どうだ、と笑う葵に、こちらも笑いを返す。ピンチだからこそ、追い詰められたからこそ、ふてぶてしく。

「システム起動、ヴァンガード!」

俺のコールにヴァンガードが応える。ハイパーモード、ここまで来たら、それしかない!

全身から黄金の輝きを発し、ステージが白光に包まれた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

白光が消えると、閉じていたウイングが広がり、刀剣を眼前に掲げると、刀身の色が変わる。翡翠色から、黄金に。

同時に、身体の装甲も翡翠色に変化し、装甲に微弱な電流が走る。

開いた角が傾き、新たに一対の双角が出現する。

「二重強化(ダブルブースト)、だと!?」

葵の目が驚愕に見開かれる。そりゃそうさ。今初めてやったからな!

「行くぞ!」

黄金の刀剣を構え、葵に突撃する。

葵が驚いたのも一瞬で、すぐさまあの特大光線が飛んでくる。その一撃、断たせてもらう!

刀剣が輝く。刀剣を降り下ろすと、半月状の衝撃波が飛び、光線を両断した。

光線を打ち破った勢いそのままに、衝撃波が葵に命中する。

「まだだっ!」

一気に飛び込み、素早く反応した葵の杖を刀剣で受け止め、空中で鍔迫り合いになる。

「君の力、見せてもらった。だが、この態勢では君は他の武器は使えない、私の勝ちだ」
「これで終わりだと思うな!」

杖を振り払い、葵を思い切り突き飛ばす。

電流が走るウイングを射出し、刀剣を投げ捨てた右手から、最大出力のエネルギー波を放つ。

突き飛ばされ地面に着地した葵が体勢を整えるのを阻止するようにウイングが地面に突き刺さり、エネルギー波は防がれることなく直撃。

「…これで終わりだ、葵!」
「見事だ。また君に夢中になったよ」

俺の攻撃で対抗策を失った葵が微笑む。

「この戦い、葵と出来たことを、俺は誇りに思う。これで決める!」
「来い!私の全身で、心で受け止める!」

エネルギーを纏った拳が、葵の胸に決まる。

ブザーが鳴った後、葵は俺に笑いかけた。 
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